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転生魔導師奇譚  作者: Hardly working
第一章
36/47

Vol:34 転生魔導師パーティと腕慣らし

登場人物紹介

リズ(リーゼリット) - 主人公。天才的な魔導師が自ら転生した、金髪黒眼の美少女。


ニア - リズの義姉でパーティメンバー。赤髪の魔法使い。火炎系の魔法を使う様から爆焔姫と呼ばれている。


セナ - パーティメンバーの前衛職。ブロードソードを用いて野生的な動きの攻撃をする


ナーシャ - パーティメンバーの弓使い。魔法矢の練習を始めたため、オールラウンダーっぷりに磨きがかかってきている。


「セナー!そっち行ったよ!」

「よっしゃー!まかせろー!」


 私たちは、一新した装備の性能を確かめる為、そして装備になれるためにクーデンの街を出て少し離れた場所で、コーストリザード狩りをしている。


 コーストリザードは1エンクほどの大きさを持つ巨大トカゲ。港や海岸付近に出現することからコーストと名付けられたが、河辺にも出る。まあ、昔の人が付けた名前だから、その辺は仕方ないとして。

 肉食で、基本的に魚を食べるものの家畜や人間が襲われたりもする。

 故に、Dランク討伐対象に指定されていて、今回はその依頼を受けてやってきたというわけ。


「重心が違くて振りにくい!!」

「慣れるまでがんばれー!」


 目の前まで走り寄ったコーストリザードを空振りし、セナが地団駄を踏んでる。

 なんで買うとき気付かなかったかな?とは思ったけど、あの時セナは見た目で決定していた。

 なんで近接担当が自分の獲物を性能より見た目で決めるかなー?とは思ったけど、見た目でやる気の度合いは変わったりする。しかし見た目でやる気を出すのに買った剣が身体に合わなくて全力を出せないとは本末転倒だ。



「おおー!よく見える!当てやすい!動きやすい!」


 セナが思ったように剣を振れず、怒りを募らせていく一方、ニアは帽子に振り回されることがなくなり、魔法の命中精度が上がった。

 魔術師は精度が命なのにそんな致命的なものを被るな。


「リズ…ッ!これ…疲れる!」

「頑張ってナーシャ。魔法矢を使うなら魔力制御はできるようにしないと」


 魔法矢を扱える弓に切り替えたナーシャは、私の指導の下で魔力制御に励んでいた。


 魔方陣を矢に刻み込めば、魔力を流すだけで陣に応じた魔法矢を放つことができる。

 しかし、敵に合わせて魔法を変えたり、必要のないときは普通の矢を使う。といった運用をするのであれば、その方法は却って足枷となり得る。加えて、矢に陣を書き込むのはかなり面倒な作業。そりゃ私の人差し指より太いか細いかという矢に何か書くなんて作業、目が痛くなるわ。


 というわけで、ナーシャの魔力を励起させた後は、ニアにもやらせたダンシングフレアをひたすらやってもらっている。


 しばらくナーシャがぐにぐにしているのを見ていたら、セナがプリプリ怒りながら戻ってきた。


「ダメだ!疲れた!全然慣れない!」


 自分で選んだ剣にご立腹である。

 ナーシャも疲労困憊なので、休憩することになった。




「まあ、あきらめて素振りとかで慣らしていくしかないよね」


 ここに来る道中で購入したクッキーを齧りながら、私がつぶやいた。


「そうだよなー…嫌なんだよなー朝から素振り、汗かくし早起きだし」

「昼とか夜とかでもいいんじゃない?」

「やだ。夜は疲れてるし」

「わがままの権化か?」

「聞くまでもないでしょ」

「自分で買った剣に怒るくらいだからね」

「そこ、うっさいぞ」


 セナにせよナーシャにせよ、これから大変そうだ。



 結局、セナはその日のうちに感覚をつかむことができず、翌朝から渋々と素振りを始めた。

 そして何故か私が乱取りの相手をさせられた。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 港都クーデンにある冒険者ギルド支部。その一室で、一組の男女が話し合っていた。


「教国のギルド支部から連絡があったそうね?」

「ああ、これだ」


 女の質問に、男は持っていた書を手渡した。


「…ロジャース君か。これは…」


 彼女は座ったままそれを受け取り、内容を確認すると表情を若干曇らせた。


「どうかしたか?」

「貴方、これ読んだ?」

「いいや?」

「そう…」


 そこには、非常に簡潔に、こう書かれていた。




 貴国で行われている事業に、下記の者の採用を強く推薦する


 Cランク ナンバー3160124684

 リーゼリット


 冒険者ギルド グレーティス教国ヒュレス副支部長 ロジャース・バーネルン




「彼ね、厄介事を押し付ける時ってこういう事をするのよ」

「陰湿だな」


 女は「ええ、まったくね…」と言いながら、陰湿男のやりそうなことを考えた。


(この国で行われている事業は、まあ間違いなくアレでしょうね。推薦状として送ってくるぐらいだから、相当に腕は立つんでしょう。そして彼の事だから、もうこの街に送り込んでるはず。そこはいいとして、問題があるとすれば、ロジャース君が厄介事を押し付けてきたという点ね。性格か、素行か、はたまたその両方か。当人を見てみないことにはわからないでしょうけど)


 実際の話としては、ロジャースが送り込んだわけではなく、リズたちがクーデンへ向かったからついでとばかりに推薦しただけの話なのだが、普段の行いが悪いのか妙な勘違いをされていた。

 まあそんな裏背景をこちら側がわかるはずもない。


「とりあえず会ってみましょうか。ハンス、手配をお願い」

「わかった。準備しよう」


 ハンスと呼ばれた男はそう返事をすると、部屋を出て行った。


「面倒なことにならなければいいけどね…」


 一人になった部屋で、女はそう呟いた。

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