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転生魔導師奇譚  作者: Hardly working
第一章
33/47

Vol:31 転生魔導師と遠征②

登場人物紹介

リズ(リーゼリット) - 主人公。天才的な魔導師が自ら転生した、金髪黒眼の美少女。


ニア - パーティメンバーでリズの義姉。火の魔法が扱いやすい性質らしく、使う魔法が火に偏ったため爆焔姫と呼ばれている。派手な魔法が好き。


セナ - パーティメンバー。たまに考えなしな行動に出ることがある。


ナーシャ - パーティメンバー。パーティのストッパー。リズの加入で戦闘面も生活面も負担が減ったので、実はかなり感謝している


カイル - 商人の男性。以前リズと同じ馬車に乗っていた人。ここぞという時に出資を渋らないタイプのやり手

ヒュレスを出て一度東に向かい、街道に合流する。

途中いくつかの街を経由し、現在は街道を目的地であるクーデンに向かって南下中。

今まで馬車移動が苦でしかなかったが、この馬車はサスペンションが効いているおかげでお尻へのダメージが少ない。それにそもそも街道が整備されているのもあって、快適な旅を満喫中だ。

まあ快適なだけというわけじゃないけど


「ふんへんへーんほほーん。お?魔物だ!アルミラージが3!」


御者席のセナが、変な鼻歌をやめて声を上げた。

見れば道路上にアルミラージがいる。向こうもこちらに気付いているようで、威嚇なのか強く地面を蹴っている。

この通り、街道は整備されているけど、それでも魔物は出る。

カイルさんに馬車を止めてもらい、セナが降りた。


アルミラージは一本角の生えたウサギだ。

野ウサギの脚力に加えて鋭い角。これのせいで農作物被害と家畜被害が出ることがある。

アルミラージ自体は草食だが、身を守るために突進をかましてくるからだ。

ジャイアントワイルドボアほどではないが危険な突進を。


「適度な運動を兼ねてあたしがやる。」


ただまあ適度な運動ぐらいの強さでしかない。


「はいはい、補助はお任せを。」


セナは剣を抜いて駆け出した。

先には一匹のアルミラージ。

すでにこちらに気づいていたアルミラージは、そのままセナに向かって飛び、角を突き刺そうとする。

しかしセナは踏み込んだ右足を軸に体をひねって一回転。正中線を狙って飛び込むアルミラージの角は空を切り、振り向きざまで斬られて地面に落ちる。


仲間が斬られるのを見た他のアルミラージは一目散に逃げ出した。

が、アルミラージの角は意外と有用なので逃がすつもりはない。残りは私の風魔法で仕留めた。


「なんかスッキリしないな。」

「次からアルミラージは私かナーシャでやるから。」


ちなみにニアは、初日にウルフの群れへ向けてファイヤボールをぶち込み、数匹まとめて消し炭にしたことでしこたま怒られ、今は馬車の上でおとなしくしている。

毛皮とか全部燃えたからね。





そんなこんなで日が沈み、この旅何度目かの野宿になった。

みんな慣れた手つきで準備に入る。

その中私も慣れた動きで石造りのシェルターを作る。


「この数日で何回か見たけど、やっぱおかしい。少なくとも野宿って感じじゃない。」


隣で作業を見ていたナーシャが呟いた。


「そう?私からすると最低限の感じなんだけど。」

「いや、依頼主ならまだしも、護衛の私たちすら屋根の下で寝れるって普通じゃないよ?」

「そうかな?」

「だってカイルさんもテントをやめて仕切りだけで寝てるじゃん。」


ナーシャの言うようにカイルさんは野宿二回目で既にテントをやめ、仕切りを建てただけの場所で寝るようになった。まあテントを入れても余裕があるくらいのスペースを確保しているので、設営するだけ無駄ではある。


「まあまあ、快適に越したことはないでしょ?」

「度を越してるって言って――「ぎゃああああああああああああああああああ!!!!!!」


軽口を叩きながら作業を進めていたら、森の方から叫び声が聞こえてきた。


「ッ!ナーシャ!!」

「暗い上に木が多くてよく見えない!」


森へはセナが「なんか取ってくる」とか言って入っていった。何かあったのだろうか?

食事の準備をしていたニアがカイルさんを保護する位置についているのを確認し、索敵をかけた。

こちらに向かっている反応が2。

うち一つは、森から出てきた。


「やばい!やばい!!」


何がヤバいのかわからないけどセナが飛び出したのだ。


ただそのヤバいのも、既に見える位置に来ていた。

いいや、()()()()位置に来ていた。


「リーパーホーネット!?」


大きな羽音を響かせながら現れたのは、羽音に見合うほど大きなスズメバチ。Cランクの討伐対象であるリーパーホーネットだった。数は10匹以上。さすがに剣で対処するのは分が悪い。


「セナ!!刺されてないよね!!」

「ハァ…ハァ…ッ!大丈夫…!」


リーパーホーネットの毒は致死性が高く、回復系魔法で対処できるけど非常に危険なことに変わりない。


「カイルさんの所に集合!ニアはフレアの詠唱!!」


私は指示を出しながらシェルターの一部を崩し、そこから壁を作成して全員を囲った。



「多少残っても大丈夫!あいつらの戦力を削ってるだけでいい!!」

「わかった!!『フレア』!!」


ニアは意図的に開けられた穴からフレアを放つ。

ここ最近訓練を行っていたお陰か、ニアの発動したフレアは素早く広がり、敵の大部分を焼き焦がした。


「撃ち漏らした!」

「大丈夫って言ったでしょ!『ヘッジホッグ』!!」


発動した魔法によって私たちを囲う壁の外側に棘が伸び、次々と射出されて残りのリーパーホーネットをすべて撃ち落とした。





「し、死ぬかと思った…。」

「こっちのセリフよこの馬鹿!!あんた何したの!?」

「いや、なんか食べ物無いかなって探してたら、投げた石が巣に当たったらしくて…」

「もう森に入るな!!」


ナーシャがセナに説教をしている中、ニアと私でリーパーホーネットを解体していた。


「単体ならCランクだけど、群れたらBランクだって。」

「へー、そうっだったんだ。あ、キレイに胴体残ってたから毒針採れた。」


リーパーホーネットの毒針は大した素材ではないけれど、ポーションを作成するときに使う注入器として役に立つ。毒袋に入っている毒もいろいろと使えるものだったりする。


「いや、もうそろそろ目的地に到着だというのに災難でしたね。皆さんがいてくれて本当に良かった。」


カイルさんにはそう言われたけど、原因は主にうちの馬鹿がやらかしたからなんですよね。





予期せぬ襲撃はあったものの、ついでに巣も制圧して回収してしまい、そのあとは何事もなく一日が終わった。

今は不寝番が回って来たので、魔法の修練をしつつ火を見ている。

パキッという音を立てて焚火が崩れた。少し均して薪を焚べる。

恐らく明日にはクーデンの街に着く。

火を眺めながらクーデンで何を食べようかと考えつつ、私は不寝番を続けるのだった。

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