Vol:2 転生魔導師と魔法
7歳の誕生日から少し経った頃、私は魔法の勉強をし始める
フリをした。
来年から狩猟依頼を受けられるからだ。
おあつらえ向きにも魔法入門書が教会に置かれていたので、シスターに手解きを受けた。
「──なので、リーゼリットは今日からクラス1の魔法を練習していきましょうね。」
曰く、治療魔法は神の奇跡とのことだ。キレそう。
私は教会の裏で魔法の練習をした。というよりも、この身体でどの程度のことができるのか調べている。
魔法は体内魔力の操作で発動させる物だ。
まず初めに体内魔力を誰かに励起してもらい、その魔力の流れを感じる必要がある。が、実は強引に引き出す方法があったりする。
私はそもそも魔力を使っていた経験があるので、体内の微弱な魔力の流れを増幅させた。感覚を覚えていると意外と出来る。
これは3歳くらいの時に終わらせ、そこからは身体と魔力の相性の良さを確認して、身体中に魔力を巡らせていた。
なので基礎はまるまるすっ飛ばして、魔法の発動を練習する。
魔力を手の先から放出するイメージ、熱を持たせて、燃え上がるように。
基本的に魔法とは想像力だ。それのみとは言えないが、火、水、風、土、雷の属性魔法は魔力をどう存在させるかをイメージすることで属性を固定する。
故にその人によっては扱いにくい属性が少なからず存在する。
故に魔法には詠唱が存在する。魔力操作のイメージがしやすいようにだ。
しかし私は基本的にほとんどの魔法を無詠唱で発動できる。
鍛えたからな!
まあクラスが上がると厳しいところがある。
そして属性魔法には形状がある。
クラス1 放射、矢
クラス2 槍、球、壁
クラス3 圧縮
クラス4 範囲制御
クラス5 複数制御
クラス6 混成
といった形で、階級ごとに形状や状態を変化させる魔法を覚えていく。クラス7を超えたあたりから大規模や高火力、禁術等々とちょっと変わってくる。
ということで、私はクラス1【放射系魔法】を使う。
「フレイム」
広げた手の先から火炎がボっと発生する。
それだけ。
それだけ。
次に、魔力の流れるイメージはそのまま、今度は冷たく、つまりは水をイメージする。
「スプラッシュ」
パシャッ
それだけ。
いやそれだけとはいえ重要な基礎なのだ。
それにこれでも攻撃魔法になる。魔力の量を増やせば射程が伸びるので、歴とした攻撃魔法だ。
その後も別の属性を試してみる。
ウィンド
スパーク
ダート
正直土系の放射魔法は土木用だと思っている節がある。手の先からボトボト土が出てくる。シュールだ。
この身体も特にクセがないな。顔も知らないパパ、ママ。魔法の使いやすい身体に産んでくれてありがとう。
次に行うのは矢の形状変化だ。
放射の時は手の先で霧散させた魔力を、伸ばして、尖らせる。
「ウォーターアロー」
正直フレアアローでも良かったが、火事になったら大ごとだからな。目の前の木に向けて放った。
パシャン
飛びは上々。圧を加えて破壊力を上げもう一発。
「ウォーターアロー」
バキッ!
木がえぐれた。問題なさそうだ。
圧というのは魔力圧のことで、魔力の濃度とでも言おうか、それを上げると魔法の性能が上がる。ただ、圧が上がると制御が難しくなり、消費する魔力も増える。ただ上げればいいってモノではないのだ。
正直に言うと形状変化は水、火、雷の三つで十分だと思っている。
土塊や風なぞ形変えて飛ばしたところで何になるんだ。
さて、どうしたものか…正直この先、少なくともクラス6くらいの魔法を使いたいが、この体じゃ魔力が持たないだろうし、何より目立つ。
次回にするかな。
しかしまあ今日は一段と暑い。この時期は暑い上に雨季な為、非常に蒸すのだ。
私はさっき抉った木の下に、土魔法で椅子とタライを作り、水魔法で水と氷を入れた。
圧縮魔法である。
圧縮によって土は岩石に、水は氷になる。
魔力には余裕があったので、これを作ってみた。前世で暑い日によくやってた事だ。
私はおもむろに足を入れる。
「うひゃあー冷ったぁ!」
軽く刺すような冷感とともに、背筋がゾクゾクとする。とても気持ちが良い。身体が冷える感じがする。
今日はどうしようか…薬草採集の続きでもいいが、なにぶん暑くて動きたくない。一応魔法の練習とは言ってあるから、別に採集に行かなくても問題ないだろうし…このまま魔法で遊んで時間を潰すか。よし。
魔法の形状変化を学ぶ上で使われる魔法が一つある。
ダンシングフレアという魔法だ。
ダンシングフレアは魔法というよりも一種の技術のようなもので、火の魔法で作り出した火炎を形状変化を用いて自由自在に操り、小動物や花などの形を取らせるという、形状変化と魔法の展開位置の練習をするための技術である。
故に、熟練した魔法使いは複雑な動かし方をすることができるのだ。
ぐにぐに
しかし芸としての一面が強く、まともにやらない者が多い。基礎こそ大事なんだけどなぁ。
ぐにぐに
私も例に漏れず、複雑かつ自由自在に動かせる。
水もいける。
ぐにぐに
「蝶…鳥…花…ウサギ…鉢…蛇…」
私はそこまで形にこだわらないが、魔法学校の同級生にすごい凝る奴がいて、その練習に付き合ったからかそこそこのディテールで作り出すことができる。
「リズ…。」
「どひゃいぃ!!」
振り返るとニアがいた。心臓が飛び出るかと…。
「ど、どうしたの…?」
「今日リズは魔法の練習するって言ってたから、どこでやってるんだろうと思って…。」
「なるほど。」
「で、さっき飛ばしてたのは何…?魔法の鳥…?」
「あぁ、ダンシングフレアっていうんだって。魔法の練習に向いてるんだってよー」
「あの本の隅に書いてあった芸のこと?というかこんな椅子あったっけ…木も抉れてるし」
あ、やばい。完全に失念していたわ…
私は口封じのために、ニアにも椅子を用意した。
「これ圧縮魔法…?しかもこんなにしっかり作れるなんて…。」
ニアも7歳になったあたりから魔法の勉強を始めていた。そりゃ魔法使える人間からしたら魔法初心者がこんな事してたら異常だよね…。
仕方がないので、ニアには魔法を教える代わりに他言無用を要求した。うまくいくとは思っていなかったが、どうやら行き詰っていたみたいで快諾してくれた。
こうして私たちは、表向きは私がニアに魔法を「教わる」という形で、その実私がに魔法を「教える」ことになったのだった。