Vol:22 転生魔導師の日常
登場人物
リーゼリット - 主人公。天才的な魔導師の転生した姿。スイーツにハマる。
アイリーン - ヒュレスの街で魔道具屋を営む女性。ほぼリーゼリットの保護者的立ち位置。
ウル - アイリーンの召喚獣。アイリーンはグレーターウルフという魔物だと思っていたが、実はフェンリルという高位の魔物だった。
ニック - 冒険者の男性。アイリーンとは友人。たまにアホをしでかす。
最近、立ち寄る場所が限られてきた。
宿、ギルド、近くの山、そしてアイリーンの店。
「助かるわぁ、ポーションの作成まで出来たのね。」
「魔法薬学は基本だからね。」
そう言いながらアイリーンと二人で薬を作っていく。
たまたまギルドの掲示板で見かけた仕事に、アイリーンが貼ったポーション作成の補助募集があった。
そういうことなら私に言えばいいのに!
と言ったら、まさか私がポーションまで作れるとは思わなかったのか、先ほどの言葉を述べたのだ。
オーガ討伐作戦から数日。私の情報に関してはロジャースの指示によって口外禁止が伝えられ、今回の作戦に参加した面々とギルドの上層部以外に知られることはなかった。大の大人が10歳の少女に助けられたと広まってはギルドの面目は丸潰れだ。
ということで私は最近、比較的平穏に暮らしている。
アイリーンの店での手伝いを終えたが、ついでにウルのお散歩をお願いされた。
ギルドの許可はアイリーンが取っているので、ウルは我が物顔で街中を散歩できる。
流石に排泄は森とかでするけど。しかも教えたら土を被せるようになった。猫みたい。
オーガ討伐作戦の後、すぐに私はウルとの契約を解除した。なので今の私にはウルとのつながりはない。それなのにウルは私に懐いている。まあ、召喚獣とはいえ動物なので、ウル自身が私のことを気に入ってくれたのだろう。
しかし、フェンリルという存在を前世含めてこうマジマジと近くで見ることは無かった。
見た目や生態は狼に近いが、膨大な魔力量と魔法を行使するという点では、大きな違いがある。
魔法に関してはクラスで言うと4-5あたりの風魔法を使う。
あれ?アイリーンって召喚獣よりクラスが低いってことになる?
そして何よりモフモフだ。
普通の狼などと違い魔法で起こした風を用いて体温調節を行うため、暑い日でも快適らしい。
らしいと言うのはこないだ見たからであって、少し暑い日に風を浴びて体を冷やしていた。なんとも俗っぽいというか、種族の長所をうまく扱っている。
モッフモフのウルを連れてのお散歩中、見知った顔が前方から歩いてきた。
「うぉっ。」
アホみたいな声を出してこちらを見ているのはニックだ。
「いい加減慣れたら?」
「バカ言うな、街の中をフェンリルが歩いてるなんて状況に慣れてたまるか。」
それは確かにそう。
「つかなにしてんだお前。散歩か?」
「そー。」
「そうか。じゃ、これはアイリーンの店に置いときゃいいな。」
と言うニックの手には、紙袋が握られていた。
「お前ら二人に奢ることになってたスイーツ二つ。これでチャラでいいな?」
「おー!やるじゃん!」
「ったく、毎日のように強請りやがって。俺の財布事情も考えろよ。」
ぶつくさ文句を言っているが、元はと言えばニックが私とアイリーンを引っ張り出して任務に連れて行ったのが原因だ。文句を言われる筋合いはないし、その財布事情も結果的に私がいたおかげで収入が入ったわけなんだけど。
反論の余地しかないが、10歳の女の子に論破されるおじさんの図は余りにもかわいそうなので、アイリーンにチクるぐらいでとどめておこう。
ニックと別れ、ウルの散歩を再開する。
ふらふらと歩いていると、街の衛兵さんたちの詰め所近くに来た。
彼らと目が合う。
若干引いたような感情と、後ろめたさの感じる視線だ。
街に入る時、いろいろあったもんね…
当たり前だ。彼らは衛兵、こっちはなんかやばそうなでっかい狼に乗った奴。というか、あの状況ではウルしか目に入らないだろう。
ウルがかなりの速度で走ってきたものだから、衛兵さんたちは上を下への大騒ぎ。
詳細は省くけど、アイリーンはその日のうちに召喚獣の登録手続きを済ませるハメになった。ウルの移動速度は凄まじく、それでいて乗り心地は最高だったとはいえ、休憩を挟んではいたので街に着いたのは日が暮れた後だ。
彼女は極度の疲労から来る睡魔を押し殺して書類を書いたそうだが、ミミズがのたくったような字だったので翌日普通に書き直すことになった。
そんなこんなでアイリーンは無事ウルを召喚獣として登録できたけど、それでもやっぱりウルはだいぶアレなわけで。
知ってる人が見たらフェンリルだし、知らない人が見てもでっかい狼だ。未だに軽い騒ぎになったりして、衛兵さんたちが出張ってはなんだお前かと帰っていく。
色んな意味でいつもご苦労様ですと言う念を込めて会釈をし、そそくさとその場を立ち去った。
その後も色んなところを巡って色んな視線を浴び、もう日も暮れるからと私とウルとアイリーンの分夕食を買って帰路に着いた。
今日は何も無く、平和な1日だったなー。
アイリーンの店に戻ると、彼女はニックから貰ったスイーツを食べていた。
2つとも。
いつぞやに使った熱湯という形で内に滾る感情を表現した辺り、まだ冷静な部分があって良かったと思う。
面白い、応援したいと思っていただけたら星5評価をお願いします
ブックマーク等もお待ちしております。




