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転生魔導師奇譚  作者: Hardly working
第一章
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Vol18 転生魔導師と移動地獄

 最悪だ。私は今、討伐隊の馬車に揺られている。お尻の肉は2時間ほど前に死んだ。


 もう間も無く、馬車を降りて山に入るポイントだ。

 すぐに山へ入るわけではなく一度そこでキャンプをし、翌朝出発という行程になっている。

 ただ、山を登らなきゃいけないという部分と、帰りも同じ時間馬車に乗る必要があるというのがツラい。

 しかもブリーフィングで見た通りここからメノーとヒュレスは同じ距離。


 つまりちょうど中間地点なわけで。


 こことヒュレスを往復するということは、メノーからヒュレスを一本行くようなものなのだ。数日前の出来事とはいえ一週間経つか経たないかで同じ疲労感を味わうというのは、なんとも言えない脱力感がある。あとお尻の痛みも。


 そうして私が苦悶している間に、一行は目的地に到着。キャンプの用意を始めた。


 こういう時、子供は良い。やったことはご飯の手伝いくらいで、夜の番も無かった。まあやらされても困るけど。



 夜が明け、早朝。私たちは早々に準備を済ませ、山に入った。






「ツラい…。」


 私も教会の裏山などに入っていろいろ遊んでいた身ではある。ゆえに油断というか、今日の山歩きを甘く見ていた。


 と言うか山歩きなんて緩いもんじゃない。普通に山中行軍だ。

 私に目立った武器や所持品がないとはいえ、万全ではない状態で山の整備されていない中を歩くのはやはりきびしい。足は痛むし、息もだいぶ上がっている。

 それに私は今、ディテクトという探知魔法を使っている。周りの大人が警戒はしているらしいが、オーガは山でも気にせずズカズカ来る種族だ。アイリーンが同じく探知魔法で周辺を確認しているが、念には念を入れておきたかった。


 おそらく範囲と精度は私の方が上だし。


 そうして探知魔法を発動したまま山登りをしたところ、見事にヤラレてしまった。

 頭痛と吐き気と疲労の三重苦だ、今ベッドに入ったら二日は寝れる。


「お嬢が音を上げたぞ。」


 近くを進んでいたケインに聞かれたようだ。


「ケインうるさい…。」


 私は残り体力を無駄に消費しないように文句を言った。


「文句を言う余裕があるなら大丈夫だろ。まだ行けるな?」「まだねニック…まだ大丈夫なだけ…。」

「帰りは背負ってやるから。」


 うーんそれはなんか嫌だ。だって戦った後で汗まみれでしょそれ。

 仕方ない、諦めて探知を切ろう。いたずらに消耗するだけだ。

 探知魔法は魔力の消費量自体大したことないのだが、情報量が多すぎてツラい。広ければいいってもんじゃない…。



 そうして探知魔法を切ったが、何が起こるでもなく目的地であるオーガの拠点に着いた。本当に何も起こらなかった。びっくりするくらいに。取り越し苦労と言うやつだ。


 拠点にはこの辺じゃあり得ない数のオークがいた。というかこの辺どころか魔族領でもなきゃ見ないレベルの数だ。


「この規模だ。アルファがいると考えていいだろう。」


 ケインのいうアルファとは、本来狼の群れの中の統率個体のことを指す。そこから転じて群れの統率個体、特に力の強いものをそう呼ぶようになったものだ。大規模になればなるほど統率個体の重要度は上がる。つまり大規模になればなるほど統率個体がいる可能性は高まる。

 ケインの言葉で場の空気が締まった。元々その可能性があるという話は出ていた。しかし現場で直に規模を見、さらに言葉で聞いたことで重さが増す。


「こちらは全部で20名。約1名伸びていることを考慮すると、少し休んだ方がいいと思うが。どうする?」

「もう大丈夫。走り回ったりするわけじゃないからこのまま行けるわ。」


 約1名(わたし)が反論したことで、すぐに行動することとなった。


 私のポジションはサブサポーター。メインサポーターであるアイリーン他2名の補助をする役割だ。

 まあ子供の、それも体調が芳しくない者の立ち位置としては妥当なものだろう。

 今回は上位冒険者が団体様でいらっしゃっているんだ。危険ではあるが、阿鼻叫喚の地獄絵図、なんてことにはならないだろう。


 こうして、オーガ討滅部隊の作戦行動が始まった。

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