Vol:16 転生魔導師と仕事話
ゴブリン退治って作業になりやすいんだよね。
現在進行形で襲いかかってくるゴブリンを氷で串刺しにしながら私は思う。
基本的に私くらいの年齢のか弱い少女ならば油断して襲ってくる。それを処理するだけの簡単な作業だ。
というのも、近場で薬草類の採取依頼が出ていたのでそれを受けてちまちま採取していたところ、ゴブリンが5体出てきたので絶賛応戦中というわけだ。
確かゴブリンのものとわかる遺留品や部位を持って帰れば討伐報酬をくれるんだったかな?
死体を持っていくのは骨が折れるなぁ。
ん?
骨?
骨、いいんじゃないかな?特にその生物に一個しかない骨。なおかつかさ張らないヤツ。
下あごの骨でも持って帰るかな。
肉を魔法で焼き尽くしてしまえば骨は残るし。
ということで私は簡易的な窯を作り、ゴブリンの死体を一気に焼き上げた。途中すごい臭いが発生して吐きそうになったが、何とか骨を回収した。
その後、規定数の薬草を集め終え、帰路に就く。
さて、ゴブリン一体いくらくらいだったかな?
「うーん、これだと臨時報酬はお支払い出来ませんね…。」
受付のお姉さんにゴブリンの下顎の骨を渡したら、そんなことを言われた。
「え!なんで!?」
「えーっとですね。必要なのはゴブリンの物とわかる遺留品、もしくは部位になりますが、この骨はゴブリンの物であると断定できません。」
「では聞いておきたいのですが、何を持って来れば認定されますか?」
「そうですね…ゴブリンは特徴的な部位が無いので、皆さん基本的に死体を持って来られますね。あとは頭とか。」
無理に決まってんじゃん。死体なんか重すぎてまず話にならないし、頭とかキモ過ぎるわ。
とりあえず今日は薬草採取の報酬だけを受け取り、アイリーンの所へ向かった。
今日は頼んでいたローブの受取日。
どんな仕上がりになってるか楽しだ。
店の扉を開け、中に入るとすぐそこにウルが座っていた。すっかり番犬として箔が付いている。
お前もう野生は失われたな。
「あら、いらっしゃいリーゼリット。ローブ、完成してるわよ。」
「待ってました‼︎」
私はアイリーンからローブを受け取ると、試着室を借りた。
ローブを広げると、そこには以前まで無かった新たな刺繍が施されていた。
まず元々ある首元の刺繍。そこから下、背骨に沿って裾まで伸びている全体を制御するための刺繍。
そして背中に施された、羽のようなデザインの刺繍が2対。これは、それぞれ二つが防御用の結界として働く。上二つが物理防御、下二つが魔法防御だ。
大きな刺繍はそれだけだが、あと数ヵ所にも刺繍を施してもらった。正直ぶっ壊れ性能である。
私は着替えると、試着室を出てくるりと回った。
「どうよ?」
「似合ってるわよ。」
アイリーンはにこりと笑いながら答えてくれた。
嬉しいね。
「アイリーン、ありがとう。とても良い出来よ。」
「お褒めに預かり光栄だわ。それに、お礼を言いたいのはこっちの方よ。あんな魔法陣今まで見たことないもの、見識が深まった気分だわ。」
その後も私は嬉しくなってしまって年甲斐もなくくるくる回ってしまった。
年甲斐?落ち着け私は10歳だ。年相応だろう。
ただこのローブ、本来は大気魔力を用いていたのだが、今回の魔改造で着用者からも魔力を吸うようになっている。私は外部タンクやらで問題ない上、そもそもそこまで持ってかれることはないのだが、その辺の魔法使いがこれを着て戦闘行動をしたら2-3戦したあたりで魔力枯渇を起こしてぶっ倒れるだろう。
ほぼ私専用装備だ。
その分もう鎧とか必要なくなったんだけどね。
それはそうと、これの性能を試したくなってきた。
何か依頼はないだろうか?
そんなことを考えていたら、店の扉がバターンと乱暴に開かれ、男が入ってきた。
「アイリーン!いるか!」
私は間髪を入れずに風魔法で男を吹き飛ばした。
「リーゼリット…やりすぎじゃない…?」
「だからってウルに任せたら死んでたかもよ?」
まさに今侵入者を血祭りに上げようと唸るウルをアイリーンが止め、私たちは外に出た。
「ぐっ!クソ!何だってんだ!」
男は外で仰向けに倒れていた。見たことある格好だな…?
「乱暴な開け方は感心しないわね。」
「だからって吹き飛ばすことはないだろ⁉︎」
「私じゃないわ。この子よ。」
「あぁ…?」
と起き上がったのは、ニックだった。
「おじさんじゃん。」
「リーゼリットてめぇ!」
ニックは手元にあった石を投げてきたが、私は難なくそれを水で撃ち落とす。
「あら、知り合いだったのね?」
「あぁ、こないだ一緒の馬車に乗っててな。ってそんなことはどうでもいい。アイリーン、依頼だ。一緒に来てくれ。リーゼリット、ちょうどいい。お前も一緒に来い。」
急な話だな?
「あら?女性二人をデートに誘うには性急過ぎないかしら?」
「おじさんはレディの扱いがなってないよね。」
アイリーンの悪ノリに乗った。しかし
「そんなこと言ってる場合じゃねぇ、リーゼリット、オーガの拠点がわかった。一気に叩き潰すんだ。」
なんともお誂え向きだが、諸手をあげて喜べる内容じゃない仕事がやって来た。




