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転生魔導師奇譚  作者: Hardly working
第一章
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Vol:15 転生魔導師と報酬

 買い物を終えて帰ってくると、お姉さんは木陰に横たわっていた。だいぶ落ち着いてきたようで、穏やかな表情だ。

 隣であの狼が座して待機している。


「わふ!」

「うぉぅ!」


 少女らしからぬ声が出たじゃないか!!やめろお前!


「ああ、ありがとう。買ってきてくれたのね、あとで払うわ。そうだ、自己紹介がまだだったわね。私はアイリーン。アイリーン・ネベラルよ。あなたも知っての通り、魔道具屋の店主をしていて、冒険者もやっているわ。」

「リーゼリットです。孤児なので姓はありません。アイリーンさん冒険者だったんですね。」


 ゆっくりと起き上がったアイリーンに買ってきたパンを渡すと、私はその隣に座った。


「ありがとう。そう、こう見えてそろそろBクラスに上がれそうなのよ。」


 へぇBクラス、どっかの誰かと同じだな。

 私はパンにかじりついた。


「それで、あなたは何者なのかしら?」

「もぐもぐ、何者でもないですよ。」

「馬鹿言わないで。ぱっと見で魔法陣の構成を看破して省略を思いつく子供がいるわけがないわ。」

「言ってるじゃないですか、ゴクン。経験はあるんですよ。」

「その歳でどんな経験をしているのよ…。」

「目に見えることが全てではないってことですよ~。あむ。」


 そこまで言ったところでアイリーンが馬鹿でかいため息を吐いた。


「“目で見えることが全てではない”ね…。そう、わかったわ。」

「ご理解いただけたようで。」

「ええ。あなたとは仲良くしておいた方が良さそうだし、これ以上は聞かないわ。」


 そのあとはこの街の話や他愛もない雑談をしながら食事をし、帰ることになった。


「そうだリズ、一緒にウチに来て。」

「問題ないですけど、どうしました?」


 アイリーンはふふっと笑った。


「報酬を渡さないと。お仕事で来たんですもの、渡すものは渡さないとね。」


 こうして私は再びあの店にお邪魔することになった。





「報酬は小金貨3枚で出していたわね。」

「そうですね。」

「そうねぇ、そしたらお店から小金貨5枚分まで好きなもの持って行っていいわよ。」

「は!?」

「ああ、もの+現金って渡し方でも、現金のみでも問題ないわ。」

「いやそうじゃなくて。」

「足りなかったかしら?」


 いやそうでもなくて。


「多くなってませんか?」

「今日は本来の依頼よりももっといい仕事をしてくれたわ。ならばその分の報酬を払うのは当然よ。あのままじゃ成功はしなかっただろうし。」


 アイリーンは狼の方を見た。どうやら外の薬臭さが気に入らないようで早々に店内に入ってどっかりと腰を落ち着け、今はさながら番犬のようにしている。あの巨体でよく入れたな?


「はぁ、まあ良いならいいんですが…。」

「あと、敬語もしなくていいわ。むしろこっちが使ったほうが良いんじゃないかしら、先生?」

「うう、わかった…。」


 まあご厚意には甘えるとしよう。しかし小金貨5枚か…昨日見せてもらったローブ以外にも良いものはあるだろうか?

 そのことをアイリーンに伝えると、彼女は少し考えてから1着の衣類を手に取った。


「コレかしらね。」


 それは見ただけでわかるほど高品質の材料が使われた漆黒と言って良いほどの深い色をしたコートだった。


「ブラックワイバーンの革を(なめ)して作られたものよ。耐火性能がしっかりしていて、火だるまになっても着用者を守ってくれるわ。防御面もしっかりしているの。」

「何でそんな珍品がこんなところに…。」

「ここ、元々は師匠のお店でね。師匠が売っていたものがそのまま置いてあるのよ。」

「なるほど?」


 それにしてもである。ブラックワイバーンの革って一枚小金貨いくらかって代物なのに、街とはいえこんな田舎で腐ってるとは…その師匠とやらがとても気になる。


「ていうか私じゃそれ着れないじゃん!」

「そうね、大きいわ。やっぱり私は昨日のやつがいいと思う。アレ、本当に似合うと思っておすすめしたのよ?」

「うーん…。」


 防汚処理ぐらいしか目立った機能が無いからなぁ、

 あのローブ。


「なんだったら私が刺繍を追加してあげましょうか?」

「できるの!?」


 おっと、凄い勢いで食いついてしまった。

 でもお願いできるのであればしてもらいたい。それならあのローブが一番良さそうだ。


「そうしたら、必要な魔法陣を描いてもらえるかしら?それを元につけていくから。」


 まあ確かにアイリーンの構築技術だと心許ないもんね…

 しかしそうなると、あのローブに合うデザインにしないといけないな…。

 だが私にデザインセンスはほぼ無いだろう。

 そこはアイリーンと相談にするか。


 その後アイリーンの店の裏を借りて魔法陣としても機能するデザインの制作に取り掛からせてもらった。

 私がうんうんと唸りながら考えていると、アイリーンは頻繁にアドバイスをくれた。


 そんなにこっちばかり気にかけていて大丈夫なのかと思ったが、そもそも客はあまり来ないらしい。来たとしても馴染みの客だったり。冷やかしはほとんど無いそうだ。まああの外見ならね…


「しかも今はウルもいるから大丈夫よ。」

「ウルって…まさか!」


 白い大きな狼改め、ウルはお座りしながら嬉しそうに尻尾を振っている。図体がデカいから尻尾の振り幅もデカい!


「安直すぎない?」

「あら、愛があればいいのよ。ね、ウル。」


 ウルはわっふと答えた。まあ当人…人?当犬?がいいならいいだろう。


 そんなことがありながらも、私は何とかデザインを描き上げた。既に空が真っ赤に染まった頃だった。


 後の作業はアイリーンに任せて、宿に戻ることにした。あれだけやっても小金貨3枚で良いとは。太っ腹だ。

 受け取りは三日後。楽しみに待つとしよう。


 夕飯の時間に少し遅れてしまったが、ご飯をいただいて眠りについた。


 明日は何をしようかな。

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