Vol:14 転生魔導師と依頼
かなりぐっすり眠れた気がする。
さて、今日は冒険者ギルド支部に出向いて仕事をこなそうと思う。お金ないし。
朝ご飯をいただいた後、必要な荷物をもって宿を出た。必要な荷物って言っても、だいたい全部なんですけどね。
さてさて、昨日はだいぶうろついて目的の店を見つけたが、今回は宿であらかじめ聞いておいたので迷わず行くことができる。
宿をでて右に真っ直ぐ10分ほど歩くと、左手に大きめの建物が見えてきた。コレかな。
見ると、入り口上部にギルドの紋章を象ったレリーフが付いていた。当たりだ。
入り口の重厚な扉(とても子供に優しくない。)をなんとか開けて中に入る。何でこんなに重く作ったんだ。
中はとてもきれいな空間になっている。仕事の掲示板はどこだろう?目の前のカウンターのお姉さんと目が合ったし、聞いてみますか。
「どうされましたか?」
「依頼掲示板はどこにありますか?」
「依頼掲示板は支部内にはございません。隣接している当ギルド直営の飲食店内に設置されておりますので、そちらをご確認ください。」
マジですか。知らなかったなそんなこと。
場所を聞いた後カウンターのお姉さんにお礼を言って外に出た。
外出て左に行くとある…ほんとだ。それにしても飲食店にしてはかなり大きめの建物だな。それに、飲食店って言ってもこういうところって大抵相場が決まってるんだよね。
これまた重い扉をひいひい言いながら開けると、中は飲食店という体の酒場だった。でしょうね。
うわ、酒臭いな…。
臭いだけで酔ってしまいそうな中、目当ての依頼掲示板を見つけた。
うおーすごい量だ。しかも掲示板がデカい。ここら一帯の依頼が集約されてるからそれもそうか。
さて、私が受けられるのは最低ランクのFだったな。どんな仕事があるかな?
採取 採取 採取 討伐 採取 採取 討伐 採取…
びっくりするくらい採取ばかりだ。しかもそのほとんどが出張所のある村まで向かって…という物。しかも大して報酬は芳しくない。
討伐の方は…コレもゴブリンばかりだな…。
一応複数人編成推奨での掃討依頼もある。小金貨1枚か。あとは…。
特別依頼。
特別依頼?
いくつか出てるな…。
魔法実験の助手 小金貨3枚
魔法指導 小金貨3枚
魔物実験の助手 小金貨5枚(危険手当込み)
等々…。
ふぅん?ランク指定がされていない上に報酬もいい。
指導は面倒だけど実験の助手くらいはやっても良いかな…?
募集要件は魔法に関する一定以上の知識を有すること、そして魔法実験の経験。まあ当たり前だよね。
しかしコレは…コレはアウトか?
私の経験は前世の経験であって私自身の経験では無い。
うーん?まいいや。なるようになれ。
私は依頼書を掲示板から取って受注カウンターに持ち込んだ。
なんか言われるかと思ったが、意外に何も言われなかった。カウンターのお姉さん曰く、依頼者本人が判断するらしい。
もらった詳細書に書いてある場所に向かう。
依頼者は街を抜けて少し行った辺り、開けた場所で待っているそう。どんな実験するつもりだ。
しばらく歩くうちに建物も少なくなり、街を抜け、開けた場所に出た。
見れば何者かが木の棒で地面を弄っている。
魔法陣を描いているようだ。しかし何の魔法だろう?もう少し近づかないとわからない…。
「すみませーん!ギルドの依頼を受けてきたんですけど!」
「あー!来たのねー!準備終わったらそっち行くから、ちょっと待っててー!」
女性だったようだ。遠目ではわからなかった。
彼女はこちらを見ずに返事をし、作業を続けている。そんな集中して何を書いているんだ?魔法陣もだいぶ大きいな…だいたい半径2エンクもある。それに魔力制御系の術式が多い。
範囲魔法の実験か?こんなところでやるなよ、そんな危ないもん。
観察をしているうちに彼女がやってきたが、何やらぶつぶつ言っている。わかるよ。その癖。
しかしどこかで見たことがある気がする。気のせいかな?
「始めるわ。少し下がっていなさい。」
「は、はい」
相変わらず集中していてこちらを見ない。
てか、そんなヤベー魔法やるのか。見たところ結界魔法は貼られていないけど大丈夫かなこれ?
彼女が魔法陣に魔力を流し始めると、足元に近い位置から徐々に広がっていく。
なんか効率悪そうだなーこの魔法陣。チラッと見ただけでも省略、効率化のできる部分が複数ある。そこを修正したら現在よりも小さいスケールのもので事足りそうだ。
そんなことを思いながら観察していると、魔力の広がりが消えた。
女性の方を見るとやつれた顔をしている。やっぱりね効率が悪くて魔力が足りなくなったようだ。
ん?
「あれ?魔道具屋のお姉さん?」
どこかで見たことあると思ったらそうだ。昨日寄った魔道具屋の店主さんだ。あのおっぱいのでかい人。
「え?あら?昨日のお嬢ちゃん?」
彼女も気づいたようだ。てかやっとこっち見たな。
「あら、そうなると困ったわね、この仕事は経験者しか募集していないのよ。」
「それなら心配いりません。これでも一応経験者ですから。」
一応はね、一応。
「そうなの?うーんじゃあ今の魔法の問題点がわかるかしら?」
「うーん、強いて言うなら効率が悪いですね。パッと見ただけでも術式の省略と魔力のループが組めます。」
「…どの位置で処理できるの?」
「そうですね…。」
なんだかんだでこっちも魔法指導みたいな感じになってしまった。
しかもこの魔法陣、召喚魔法を使うためのものだ。
召喚魔法は他にも条件はあるが、大抵が召喚の際に代償とした魔力で対象の強さが変わる。ただこの魔法陣の場合、魔法陣を動かすのに無駄な魔力を消費してしまい、召喚の代償として消費する魔力が少なくなるので、たとえ成功したとしても召喚される対象が弱くなってしまう。
魔法陣自体はよくできているが、あまりにも教科書通りすぎる。と、いうことで早速手を加えていこう。
まず元の魔法陣の修正箇所をピックアップ、そこに当て嵌める代替の術式を教え、お姉さんがそれを描き上げる。
結果的に魔法陣は半分ほどの大きさにまで縮小した。
「すごい…ここまで綺麗に収まるなんて…。でもこの魔法陣、大きさに合うかしら?」
「え、お姉さん何を召喚しようとしてるの…?」
「グレーターウルフを一頭召喚したくて。」
グレーターウルフか。成体で体長約3エンク、胴周りは2エンクもないはずだから、問題なく召喚できるはず。
「図鑑とかで一般的に知られている大きさのグレーターウルフなら、問題なく召喚できると思いますよ。」
「わかったわ。じゃあこれでやりましょう。」
一応休憩を挟んだから、ある程度魔力は戻っているだろう。
彼女は新たな魔法陣に再び魔力を注ぎ始めた。様子を見てみると、先ほどに比べて目に見えて余裕そうだ。
見れば既に魔法陣の魔力充填も終わっているので、あとは彼女の想像力、魔力、そして相手の反応次第だ。
少しすると魔法陣の中心が光り始めた。
成功だ。中心の光が収束し、そこに一つの形を作り出した。
召喚されたのは大きな白い狼だった。尻尾をブンブンと振り、デカい口を開けて息をしている。正直言ってめちゃくちゃ怖い。
対するお姉さんの方はかなりぐったりしてしまい、さっきまで魔法陣を描くのに使っていた太い木の枝を杖代わりにしてなんとか立っている。
「お姉さん欲張ったでしょ?」
「あら…バレちゃったかしら…。」
「良い時間なのでお昼にしましょう、何か買ってきます。そこの木陰で休んでてください。パンでいいですか?」
「えぇ…もう…何でも良いわ…。」
今にもぶっ倒れそうなお姉さんを放置して、私はお昼ご飯を買いに行った。




