Vol:13 転生魔導師と街
オーガの襲撃から約20分後、私達はヒュレスの街に到着していた。
ニックは商人に依頼の完了を確認すると、大急ぎで走って行った。だいぶ簡略的だったが、商人の方も事の重大性は理解しているので気にしていないようだ。むしろ「そんなの後で報告して報酬も出すから早く行け。」と言っていた。
私は手持ち無沙汰になったので、商人に挨拶をして別れた後、とりあえず街を見て回る事にした。だってニックがとっとと行っちゃうから私別に動く必要なかったし。
さすが街というだけあってメノーとは大違いだ。ギルバート達に作ったような建物が規則正しく建てらている。
さてと、まずは宿屋でも探そうかな?
宿屋は基本ピンキリだ。この街には素泊まりのクソ宿と、朝夕付きの宿があった。
下は小銀貨5枚、上は銀貨6枚。
選んだのはもちろん後者。数日いるとすっからかんになってしまうかもしれないが、仕事はいくらでもあるから問題ないでしょ。
とりあえず拠点の確保はできたので散策を再開する。
武具屋に来た。
店前の樽に雑に武器が刺してあり、安い値段で叩き売りされていて雰囲気がある。
開け放たれた扉から中に入ると、鉄の重い匂いが漂った。中は長剣や槍、モーニングスターなどの武器や、レザーアーマー、鉄製の胸当てなどの防具類が種類別に置かれている。すごい重厚感だ。
フルプレートまで置いてある。誰が着るんだあんなの。
入り口から店内を見て感銘を受けていると、店奥のカウンターに座る店主と思しきオヤジが、こちらに一瞥をくれると怪訝そうな顔をした。
「ガキの来るところじゃねぇぞ。」
「ナイフが欲しくて。」
「それなら3つ隣の雑貨屋で買うんだな。」
料理用のじゃねぇよ。
いいや、無視しよ。
私は勝手にナイフが置かれている場所に向かった。
今回欲しいのは解体用のナイフなので、刃渡りは30エルエンクくらいの、いわゆるダガーと呼ばれるものだが、さて…。
手に取ったのは銀貨5枚の鋼鉄製ダガー。両刃で刃渡り30エルエンクくらい。ちょうどいい長さだ。
袋から銀貨を取り出して、カウンターへ向かう。
「…ふん。喧嘩とかで使うんじゃねぇぞ。」
誰が使うか。こんなの使わずとも半殺しにできるわ。
「…ちょっと待ってろ。」
オヤジが店の奥に引っ込んだ。なんだ?
少しして戻ってきたオヤジの手に握られていたのは石だった。
「砥石だ。本来なら銀貨2枚だがサービスでつけてやる。研ぎ方はわかるか?」
「冒険者ギルドで聞いてみます。」
「登録してるのか、ならその方がいいだろう。」
軽い触りだけ口頭で教えてもらった。
「また来ます。」
「そうかい。」
素っ気も愛想も無いけど良いおっちゃんだった。
本当は革製の防具が欲しかったが、ちょっと手持ちが心許ない上に大人用でデカすぎた。
ので、次は魔道具屋に行く。ローブくらい売ってるでしょ。
そうして魔道具屋に来たのだが、すごい寂れている。率直に言ってボロ家だ。
おまけにめちゃくちゃ薬臭い。
私が前世で使っていた研究室でもこんな臭くなかったぞ。大丈夫かコレ…?
「こんにちは〜…。」
店の扉を開けると、意外にも軋まなかった。
それどころじゃなく、店内は綺麗に整頓されていておまけに良い匂いがする。
なんだこれは…
私が戸惑っていると奥から声が聞こえてきた。
「いらっしゃい。かわいいお客さんね。」
30行くか行かないかくらいの美人なおねえさんが奥から歩いてくる。
はぁえ〜。店の外観からして、てっきり腰の曲がって白髪で鼻にでっかいデキモノがついた黒いローブのババアが出てくると思っていたから、ひどく拍子抜けしてしまった。
「ご用件は?」
うわおっぱいでか。
お姉さんが少ししゃがんで前屈みになったために、そのはちきれんばかりの双房が目の前に来た。
憧れるわ〜成長止めたけど。
胸だけ少し範囲外に…できなくはなさそうだな…。
おっと気を取られた。用件だったね。
「あ、ローブとかを買いに…。」
「見習い魔女さんって言ったところかしら?ローブならこっちよ。」
おねえさんに案内されると、そこにはいろいろな種類のローブが置かれていた。
その中から一着、見繕ってくれた。
めっちゃ白いんですけど?
「すごい汚れそう…。」
「魔法で防汚処理がされているから、汚れることがないの。背中のところに刺繍されている魔法陣がその役割をしているわ。」
見れば背中の首周りに金色の糸で刺繍されている。しかもただの円形ではなく、一種の紋章のようなデザインだ。
これ…高いなぁ…。
「お嬢ちゃんの金色の髪に合うデザインだと思うのだけれど、どうかしら?」
どうと言われてもね…小金貨3枚は厳しいです。
「お、お金そんなないです…。」
「あら。そうなの?そしたら買えるようになったらまた来てね。」
と、店の外まで案内された。
あれ?体よく諭されて追い出された?
くそう、あのおっぱいのせいだ。頭が回らなかった。
とりあえず、今日はここまでにして宿へと帰った。
ウロウロしていたおかげか宿に着く頃には日もすっかり暮れて、ちょうど夕飯の時間だった。運動したからお腹もだいぶ減っている。
空腹は最高の調味料というだけある。夕飯はとてもおいしかった。いい宿だ。




