Vol:12 転生魔導師の遭遇
教会があった村、メノーを出てから、2日が経った。
私はまず自分が所属する冒険者ギルドの支部へ向かう事にした。
冒険者ギルド支部は、メノーから西に離れたヒュレスというそこそこ大きな街にある。
出張所では限定的な範囲の依頼しか無いが、支部に行けばさらに依頼が出されている。
シンプルな話だ。支部に出された仕事のうち、一定地域に割り振れる物を出張所にも出す。つまり支部が統括する出張所、その全ての依頼は支部でも受けることができるのだ。
私達がやっていたような薬草採取などの仕事は出張所が出しているだけの物だが。
そんなこんなで、私は今ヒュレス行きの乗合馬車に揺られ、街道を進んでいる。
料金は銅貨3枚。貯蓄から余裕で出せる額だ。楽はしないとね。
ただもうね、お尻の感覚がない。座り続けだったからそろそろ運動がしたいんだよね…。
そんなことを考えていたら急に馬車が止まった。
どしたどした?
「ま、魔物だ!」
御者のおじさんの声だ。
おお、これで少しは運動できる。
でもなぁ、この辺じゃ魔物って言っても大したものは居ないんだよね。
そう思いながら顔を覗かせて前を見ると、魔物が見えた。人の形をしているが、牙が生えていて、ツノも生えていて、毛も少なく、体色は灰色。
で、高身長で筋肉モリモリ。
オーガさんですね。前方10エンクあたりで突っ立っている。
御者のおじさんさぁ、こういう時は魔物だー!って言うんじゃなくて、オーガだー!って言えよ。
ちなみにオーガさんは既に臨戦態勢で、どっかから持って来た大人の頭より一回り大きい石をこちらに投げつけてきた。これだから野生の筋肉って嫌なんだよね。思いもよらない馬鹿みたいな攻撃してくるから。
そこそこの速度で飛来した石は、馬車に当たる前に私の石壁に阻まれ砕け散った。ナメんな。
馬車に乗っている5人+御者のうち、同乗していた商人の護衛が馬車を降りた。
「嬢ちゃん魔法が使えるんだな。俺が前衛をやるから、援護を頼めないか?」
「わかりました。相手はオーガですが、大丈夫ですか?」
護衛の男が剣を抜いた
「実はな、お兄さんはBクラスへの昇級推薦が出てるんだ。腕前は折り紙付ってところだぜ。」
「わー、じゃあよろしく願いしますねおじさん。」
「お兄さんな。」
こだわんな。おじさんだろうが。
冒険者Bクラスへの推薦ってなると、補助ありでオーガを3体同時に相手できるとかだったかな。
じゃあお言葉に甘えさせていただいて、補助に徹しますか。
「なるべく射線が通るようにしてください。」
「種類は?」
「フレアアローです。」
「最悪丸焦げか。わかった、留意しよう。」
「初手で2発撃つので、少し下がった位置で並行して敵の方へ動いて下さい。」
「了解。」
私はおじさんが走る姿勢になったのを確認する。
「フレアアロー!!」
手の先から燃え上がる火炎の矢が2発発射された。と同時におじさんが地を蹴って走り出す。
オーガはその場から飛び上がった。後ろへ下がるのではなく跳んで回避してしまおうというわけだ。てか、あの筋肉でどういう跳躍力してんだ。いや、あの筋肉だからか?
しかし私は想定済み。飛び上がったオーガの少し上にフレアアローをあらかじめ少し遅れて放っておいた。
オーガは前方から飛来する魔法に気が付き、防御体制を取った。が、当たるはずもない攻撃はオーガの上を掠め、それに気を取られたオーガはおじさんの剣撃を足に食らった。
「ガアアアアアアアア‼︎」
オーガは咆哮を上げながら地面へ崩れ落ちた。
今の一連の動きにしっかりと対応したあたり、Bクラス推薦というのは本当なようだ。
おじさんがオーガにトドメを刺すのを見届けながら、私はそう思った。
オーガを倒した後、一旦休息という事になった。
おじさんが護衛していた商人が「今回の礼だ。」と言って、運んでいる中にあった売れ残りのお菓子を一箱くれた。
そこそこ高そうだが、「他の荷物も命も助けてもらった上、オーガの素材まで寄越してくれたんだ。コレくらいはさせてくれ。」と言っていた。ありがたくもらっておこう。
お菓子の箱を開けるとクッキーが入っていた。
一口食べてみる。
うっっっっま
高いお菓子ってこんな美味しいんだな…。前世なら食べる機会はあったが、興味がなかった故に手をつけなかった。あの時食べとけばよかったな…。
私が味わうように小さく食べていると、ニヤニヤしながらおじさんがこっちに来た。
「あげませんよ?」
「いるかよ、そんなもん。にしてもあれだな、さっきはだいぶベテランな感じがしたが、そうしていると女の子だな。」
「正真正銘の女の子なので。」
「メノーの村で大暴れした少女って、お前さんのことだろ?」
噂というものはどこから漏れるかわからない。あの日襲撃があった後の三日間でも、商人やギルドの連中は来ていた。そういうところから漏れたのだろう。いや、私が口止めしてたわけじゃないっていうのもあるが。ほぼ人の来ない村だとたかを括っていた。
「し、知りませんよそんなの。」
「いや、お前さんのはずだ。人相もあってるしな。金色の長髪で美人、年齢は10歳くらいの女の子。それで魔法を使う。しかも無詠唱ときたら、お前さんくらいしかないだろ」
そんな情報まで出てるのか…噂の速度って恐ろしい。
「だったらどうするんですか?」
「どうもしねぇよ。もしお前さんが本当にそうなら、まず俺は勝てないだろうからな。」
「賢明な判断ですね。おじさん。」
「お兄さんな。あと俺の名前はニックだ。」
「リーゼリットです。そうだ、ここからヒュレスまではあとどのくらいですか?」
「もう2-30分もしたら見えてくるだろうな。」
まだあと2-30分あるのか、いい加減お尻がなくなるぞ。
それにしても、オーガがこんなところに出てくるとは…昔見た分布ではこの辺には出なかったはずだ。
もしかしてギルバート達の元拠点もこの辺にあるのか?
「ニック、この辺はもともとオーガの出る地域なんですか?」
「いや、そんなことはないな。確かに言われてみりゃ、なんでこんなところにオーガが?」
「この辺でオーガに関する依頼って出てるかどうか覚えてますか?」
「この辺でオーガに関する依頼…いや、なかったと思うが。どうした?」
「メノー村を襲った連中、拠点をオーガに襲われたって言っていました。詳しい場所まではわかりませんが、この辺の可能性が高いですね。」
「何っ!?それなら討伐隊を早いとこ編成しないとな。って、やっぱりお前メノーの…。」
「…!まずい!そんなことはいいから、早くヒュレスに向かわないと!!」
ニックはハッとして、御者の元へ駆け寄った。
オーガが街道に出る。つまりある程度の準備が整って、次に襲う場所などを決めようという頃だろう。先刻倒したあいつは斥候に違いない。
何にせよ、この辺りでオーガが出没するのは異常だ。早急に対処しないと手遅れになる。
私たちは大急ぎでヒュレスに向かった。
エンク:長さの単位として出してみました。そのままジャスト1mです




