Vol:11 転生魔導師の旅立ち
出発の日。
何だろうか、この引っかかる感じは。
後悔…ではない。やはり私は寂しいのだろうか。
そんなことを考えながら身支度を整えていたら、ジャックに呼び出された。
なんだなんだと思いながら、言われるがままについて行くとそこには木剣を持ったデカい方のジャックとロナルドが立っていた。
いや私今日出発なんですけど。
「仕上げだ。」
ロナルドが木剣をこちらに差し出しながら言う。
いや私今日出発なんですけど。
ロナルドが構えた。否応なしか。
「今日は魔法の使用を許可する。」
は?
意味がわからん。
「行くぞ。」
と言うなりロナルドは一気に距離を詰めてきた。
「いいいい‼︎」
右から迫る木剣をなんとか防ぎ、後ろに退いて距離を取る。ロナルドは剣を地面と平行に構えている。突きだ。
ロナルドが体重を前に傾ける。私は咄嗟にフレイムを放つも、ロナルドは後ろに下がるのと同時に迫りくる火を剣で払った。
ロナルドの目的は何だ?仕上げだ。って言ってたよな…これはアイツなりの最終試験なのか?
たった2、3日で何が仕上げだよ!
いいだろう…。私の新しい戦術を幾つか試す、被検体になってもらうからな…!
戦術といっても攻撃魔法の応用を試すんだけどね。
私は周囲に石の剣を6本生成した。私を中心として鋒を外側に向けて回転している。
「おいおい何だよその魔法は…」
ロナルドが狼狽える。
うん、私が最近始めた魔法だからね。誰も知らないはずだよ。
クラス1の石矢に剣の形状を与えているだけだ。まあ剣としてしっかり使える様にかなり圧縮しているが。
そこそこに熟練の魔法使いは杖を使ったり腕を前に出さなくても魔法の出現位置を自由に移動させることができる。
私もここまでのは初めてやってみたが、かなり自由に動く。しかしまあ戦闘時に制御するにはだいぶ練習が必要そうだ。
ま、実験にはもってこいの状況でしょ。
ロナルド目掛けて2本を射出した。
「危ねぇ‼︎」
ロナルドはすんでのところで避けた。
それなりの熟練者相手でも牽制ぐらいにはなるか。
私は前に踏み出してロナルドに右下から振り上げる形で切りかかった。間髪入れず前方で石剣を1本振り下ろす。
振り下ろすって表現合ってるのかな?
4本の剣を操り、敵に反撃する隙を与えない。
「待て!リーゼリット待て!死ぬ!これ以上は死ぬ!」
「知りませんわぁ〜?私に喧嘩を売った事、後悔させて差し上げます!」
ロナルドを翻弄しながら最初に飛ばした剣まで近づくと、魔力を流して再び扱えるようにした。ふむ、仮説は間違っていなかったようだ。
「馬鹿な!射出した魔法を操るだと⁉︎いやそもそもなぜあの剣は大気魔力に還元されない⁉︎」」
黙って見ていたデカい方のジャックが驚愕の表情でこちらを見ている。
普通に考えたらわかりそうだけどな。
そもそもなんで手の先とかに魔法が浮いて固定されるんだよって話である。
自分の魔力を用いて制御しているからだ。
であれば、射出した後の魔法も魔力を流せば再び制御下に置くことができる。
そう考えた。
まあこうやって物質として残るような魔法じゃなきゃ無理というのはあるけど。強いて言えば土や石か氷ぐらいだろうし、かなり圧縮して存在を保てるようにしておかないと、大気魔力として霧散してしまう。
だからこの魔法、魔力をそこそこ食う。
普通にそこそこ食う。
剣を出すだけで外部タンクからちょっと引っ張ってきたくらいには食っている。
余裕で動かしているけど、外部タンクなしの状態で使ったら他に余計な魔力は割けないだろうなというレベルの魔法だ。
でも楽しーコレ。なんか変な笑みが生まれるよね、こういう仮説が立証されたり、実験が成功しちゃうと。
しかもここまで自由に動かせるとなると、色々な作業が楽になる。気がする。
わからん。
あーもう満足したわ。
あと数個やりたかったけどこれだけで十分楽s試せたし。実用性も十分ありそうだから、今後も使ってみよう。
「それでどうなの?終わり?」
私はぐったりしているロナルドに話しかけた。
「はぁ…へぇ…ッはぁ、もっ、もういい…あ゛ぁ゛っは、あー…はーッ十分だ。オエッ。剣術もクソもあったもんじゃないな…はぁ…。」
くたばるロナルドを尻目に、私は教会に戻った。
魔法を使ったおかげでそこまで動いていないとは言え、汗はかいている。水浴びしないと…。
「リーゼリット、貴女なんでそんなに汗だくなのよ…?」
私を見たシスターの言葉だ。
経緯を説明すると、「うーん、いいけど貴女今日出発なのよ?しっかりと身支度してきなさい。」と言われた。釈然としない。あの馬鹿どもに言ってくれ。
念入りに水浴びをして、服も変えた。
そして昼。昼食を済ませた後、私は荷物を持って外に出た。荷物といっても大したものはない。私物なんかは強いて言えば私の異空間に繋がる石板や、スイーツのレシピメモくらいだ。あとは数日分の食料。
そして仕事で貯めたお金。まあ足掛かりとしては問題ないだろう。足りなければどうとでも稼げる。
「私たちから渡せるものなんてほとんどないわね…。」
シスター達だ。
「最初はローブがいいかと思ったのだけれど、意外とアグレッシブに動くし、ちょっと邪魔になりそうだからやめたのよね、杖もいらないみたいだし…渡せるものがないわ。」
「いいんですよ、食料がもらえただけでもありがたいです。」
「貴女は昔から聡い子でしたし、今では魔法の使い手ですから大丈夫でしょうが、何かあったら帰ってきなさい。貴女がどう思っていてもここは家で、わたしたちは家族なのです。」
「ありがとうございます。神父。たまには顔を見せられるよう、努力します。」
あの事件の後で、もはや異端の子と言ってもいいような私に良くしてくれた。神父の言う通り、ここは家で、彼らは家族だ。
やっぱり寂しいんだろうな。涙が出そうだ。
しかし別れじゃない。ニアに言った通り、生きていれば必ず会える日は来るのだ。
「では、行ってきます。」
そう言って、わたしは旅立った。




