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転生魔導師奇譚  作者: Hardly working
第一章
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Vol:10 転生魔導師と猶予

 夕方。

 レノとアン、ローの三人が、訓練を終えて戻ってきたジャックと共に、私がここを出るという事を聞いたらしく質問攻めにあった。

 年少組はどうにでもなったが、ジャックは一筋縄ではいかなかった。

 なんでも12歳で出て行った後に、私と組もうとしていたらしい。

 確かに前衛後衛分けて動けるが、私の負担が多過ぎるだろ。戦闘でも普段の生活でも、ジャックがバカしたのをカバーしてたら私過労で死ぬぞ?


 ま、ジャックは自分に合うパートナーが見つかるよ。私はまず無理だが。


 あまりにもしつこいので、クラス1の魔法を教えると言ったら渋々引き下がった。

 意外だ、聞き分けがいい。

 しかし一日二日で覚えられるとは到底思えない。やれるだけやってあげるけど、どうなる事やら。

 ついでに年下組にも教えようかと思ったが、7~8歳の子には難しいか。やめておこう。




「お、覚えられねぇ…。」


 案の定である。

 夕食を食べ終わった後に、食堂に残ってジャックに魔法を教えていた。

 室内なのでもちろん水魔法。


「まあ難しいよね。詠唱は暗記する必要があるから。でもここで躓くようじゃ魔法はあきらめた方がいいと思うわ。」

「いや、諦めない。」

「なんでそこまで?」


 私は率直に聞いてみた。純粋にとても気になる。


「あの二人に負けた時に、『もっと強くならないと』って思ったんだ。そうじゃなきゃ、リズや弟たちを守れない。」

「なるほどね。」

「まあ、リズは守らなくても大丈夫なくらい強かったんだが。」


 流石は男の子といったところか。ニアがいなくなってそういった意識が大きくなったのだろう。


「でも、それならなおさら私とは組めないね。」

「そうだな。今だと守られる側になる。」


 ジャックは自嘲するかのようにハッと笑った。


「それに、俺が今習ってる剣術は魔法との相性がいいらしいからな。覚えればさらに強くなれるだろ。」

「二年間がんばりなよ~?魔法も練習すればするだけ使いやすくなるから。」

「ああ、わかった。」


 翌日からジャックは午前中に魔法、午後に剣術というスケジュールで勉強をし始めた。


 そんな中でわかったのは、ジャックは感覚派だという事だ。

 うん、そんな気はしてたが。


 天才肌なのか、詠唱魔法を複数回使った後、突然「おぉ!」とか言い始めて無詠唱で魔法を出した。

 バカと天才は何とやらと言ったところか。


 しかし詠唱魔法は苦手なようだ。覚えられないというのもあるが、言葉からのイメージがしにくいらしい。

 まあ成長率が偏ってるのだろう。とりあえずクラス1の攻撃、補助魔法は覚えさせた。あとはダンシングフレアを教え、魔力制御のために毎日やるように伝えた。

 これより上のクラスは本人のやる気次第だろう。





 しかしあれだ。技術漏洩が激しいな。


「これ大丈夫なんですか?」


 私はジャックの剣術訓練を見ながら、隣に立つロナルドに聞いた。


「何がだ?」

「あの特殊な剣術、ジャックに教えちゃって。」


 ジャックの様子を見ていたロナルドがこちらを向いた。


「なぜあの剣術が特殊だと?」


 墓穴!


「いや…あんな剣術見た事ないなーって…。」

「へぇ、ではその歳で他にどんな剣術を見たことが?」


 墓穴、更に倍!!

 ヤバい。口を開く度にボロが出る。

 こいつもこいつだ。探る事を隠す気がない。


「へ、変な構えだなぁと思って…。」

「ふっ、確かにあれはヴィエナス騎士独特のものだ。だが良い。俺たちはやってもいない罪で団から追い出されたんだ。コレぐらいの事やったって、バチは当たらねぇだろう。」


 冤罪か…。ヴィエナスもやはり腐るところは腐っているものだな。私は研究室から全く出ないせいでそう言った情勢には疎かった。

 出ないってか出られなかったんだけどね!ほぼ缶詰めで仕事してましたよ!研究資材とか言って馬ッ鹿みたいに魔物の素材送り付けやがってあのジジイども!2度と顔を合わせるか!!


「くッ!!!!」

「なんだ、どうした?」


 ロナルドの声で我に返る。


「失礼しました。ジャック、少し疲れてきたみたいですねぇ。動きのキレが悪くなってませんか?」

「ん、ああ…そうだな…。おいジャック!」

「「どっちですか!?」」


 二人して声を上げた。仲良いなお前ら。


「どっちもだ!少し休憩!」





 私は汗を拭く用の布をジャックに渡した。


「精が出るね。」

「あ?どういう意味だ?」

「頑張ってるね。って意味。」

「けっ!どうせ屁っ放(へっぴ)り腰を笑いにきたんだろ。」

「私あんたのこと馬鹿だと思ってるけど、馬鹿なりに頑張るところ嫌いじゃないよ。」

「馬鹿馬鹿ウッセーな!」

「でもそんな調子じゃ私と組むなんて万が一にも無理ねオホホホホ!」


 キレたジャックが布を投げてきたが、私は華麗に避けた。てか汚いな!汗拭いたものを女子に投げんな!




 そして何の経緯か全くわからないが、私も剣術の指導を受けた。


 何で?


 いや昔からジャックが枝を振り回すのに付き合っていたから、ある程度はアレだけども…。


 結局二日間木剣を振ったぐらいじゃあまり意味を成さなかった。気がする。

 何がしたかったんだか。


 しかし大ジャックとロナルドは満足気だった。意味わからん。女児の運動見るのが好きなのか?そういう趣味?




 そして二日目の夜。明日はいよいよここを出ることになる。

 そう考えると感慨深いなぁ。10年もここにいたんだ。


 ニアもこんな気持ちだったのだろうか?


 いや、前世の記憶を完全に持ってきた私とは、感じ方が全く違うだろう。

 感慨深い、程度にとどまるのは、私にアルベルトとしての感情が残っているからだ。私にとっては家も同然なのに。




 神父の言った通り、今日の夕飯は少し豪華だった。


 ジャックの目がやばい。ここの所訓練続きで食欲が増しているのか、文字通り飢えた獣のような目つきになっている。

 あいつは早々にここを出て傭兵団のところにいた方が今後のためにもなるんじゃないかな。


 お祈りもいつも通りに済ませて、ささやかな送別会は始まった。

執筆中BGM 核P-MODEL: Гипноза(アルバム)

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