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ヒーロー協会のゆるキャラ。  作者: 銘水
祭り編
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ロボット出動の裏側

「な、な、な、なんじゃそりゃぁーーーーー!?」

 眼下には、結構な大男と白服の集団。どいつもこいつも、目を丸くしてロボを見上げてる。

 オレ、雷電は今まさに巨大(というには小ぶりか?)ロボットに乗り込み、操縦している……なんつーか、ヒーロー冥利に尽きるぜ!


 リアム所長製作、協会の切り札ファイブ・クローバーは、言ってみれば大きな鎧だ。いわゆる操縦席コクピットはなくて、頭部のヘルメットと、全身に取り付けられたコードに電流を流して操作している。

 こんな風にしたいと想像イメージし、身体を動かすだけで、外装も連動するんだ。


 細やかな指先の動作も完璧。優雅なワルツだって踊れちゃうぜ!(ダンスなんてしたことないけど)

 即興で仕上げた決めポーズも中々サマになった。

 決め台詞も言えたら良かったんだが……音声はまだまだ調整中で、パターンが限られてる(残念!)。


……で、なんでそんな凄いロボにオレが搭乗してるかって?これには深い……いや、浅い?とにかく、事情があるんだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 治療という名目で仲間ヒーローの元を離れたオレ達は、第二会場のコロシアムにいた。

 これはリアム所長の指示だ。誰もいないコロシアムなら、オレの愛車で乗り入れられるだろ?

 大変な状況だからこそ、足は確保しとかないと。


 到着して早々に、テキパキ治療を進めるリアム所長は、次々と特殊な治療器具を取り出していく。

 オレはさ、小さい頃に怪人に浚われて、身体を弄られたんだよ。幸い、洗脳される前にヒーローに助けられたけどな。


 そのせいでオレの肉体は人とは違う。赤い稲妻を発生する能力は、改造の副産物なんだ。

 身体の作りが違うから、オレら改造人間型のヒーローは、治療も調整も研究所に頼るしかないわけ。

 中でもリアム所長の施術は早いし上手い。

 さすが若くして研究所所長を務めるだけあるぜ!


 治療中で身動き取れないオレは、リアム所長に疑問をぶつける事にした。

「しかしさ、今回に限ってなんで予知・予言課は動かなかったんだ?こんな大規模な襲撃を、まさか見逃すハズないよな?」


「予知・予言課も万能じゃないんだよ~?正しい意味での予知能力者は超希少だし、常に視えてるわけじゃない。予知・予言課が打ち出す予測は~、彼らが独自で収集した膨大な情報データに支えられてる。悪の組織及び怪人なら、蓄積した豊富な情報があるけど~、神族は降臨自体が数百年ぶりだからね~。例えて言うと、悪の組織はしょっちゅう発生する台風。神族は、百年に一度の大地震……いや、どっちかって言うと隕石衝突かな~?突発的な大災害は、避けるのが難しいでしょ~?」


 そういうもんか。例えがあると、わかりやすいな。

「来ちゃったもんは仕方ないから、今からどうリカバリーするかで、ヒーロー協会の真価が問われるね~。幸い、第一会場の招待客は避難済みで~、一般人に被害がないのが救いだよね。……さ、で~きた☆」

 話している間に治療が終わる。あちこち動かしてみたけど、不具合はなし。よし、完全復活だ!


「所長、感謝するぜ!」

「どういたしまして~☆雷電くんには、頑張って貰わないといけないから、ぼくも張り切っちゃったよ~」

 リアム所長はにっこり笑うと、白衣の懐、両ポケット、いたる所から大小様々な黒い端末を取り出し始めた。……一体、何する気だ?


黒い箱(ブラックボックス)オープン!」

 端末は一斉に開き出すと、光の魔法陣を空中に展開する。金色の魔法陣は複雑な構成ながら、全て0と1で構築されていて、魔法と科学が融合した今の文明の象徴のようだ。


『ファイブ・クローバー頭部起動100%です』

『両手起動率85%……間もなく、完成します』

『両足完成まで10、9、8、7、6……』

『操縦士の準備はよろしいですか?』


「なんだこれー!!?か、格好いい……!」


 想像してほしい。さながらアニメのワンシーンのように、目の前でロボットが一から構築されていくんだぞ?……男なら、皆興奮するハズだ!!


「ぼくもね、実はヒーローと兼業なんだ~。H・Nファイブ・クローバーって知らない?」

「知ってる!協会の最終兵器だろ。お目見えしたのは、過去数件だけなのに、スッゲー人気のロボット戦士だよな?……噂じゃなかったのか」


 人類の夢、戦うロボットを実現した、唯一のヒーロー。え、リアム所長がそうなの?

「凄いでしょ~?ぼくの最高傑作なんだよ☆有人ロボットの開発に成功したから、ぼくって23才の若さで研究所所長なんだよ~」


 えっへんと胸を張るリアム所長。

……童顔のせいで年齢不詳だったけど、想像より若かった。オレの、たった三つ上じゃん。


「で、本題なんだけどね~。雷電くん、ぼくの替わりにコレに乗って戦ってくれないかな~?」

「えっ、いいの!?ロボットだよ?オレ乗っていいの!?」

 嬉しくて、ついはしゃいじまった……。うん、落ち着こうかオレ。


「もちろん☆ていうかさ~、ファイブ・クローバーは魔力も電力もバカスカ消費するんだ。今までは充電してから出動してたけど、緊急事態でしょ~?その点、雷電くんなら電気系能力者で一石二鳥じゃん☆」

「でも……ウルフナイトじゃなくて、いいのか?」


 さっきの戦闘でわかった。悔しいけど、能力としてはあっちが上だ。オレよりも、ウルフナイトの方が上手く操作出来るんじゃないか……?

「自信を持ちなよ!キミには、ウルフナイトにないものがある。それは、何だと思う~?」


 ウルフナイトになくて、オレにあるもの?

「わかった!正義に燃える熱い心だなっ!!」

「ぶ~、ハズレ☆正解は、電気を安定供給できる、でした~。ウルフナイトは、強力だけど能力の振れ幅が大きいんだよ。ロボット操作に関しては、雷電くんの、ムラがなく持続力のある雷が無難なんだ~」


 オレは頭を抱えた。安定、無難……ヒーローとしてどうかと思う要素が評価されるって……。

「あ、それだけじゃないよ~?このロボットは、いずれは戦隊ヒーローの最終決戦用として、もっと大きく、かつ、合体にも対応する予定なんだ~。やっぱりロボットの主導権を握るのは、ブラックじゃなくてレッドだよね☆」


「色かよ!?つーかオレ、戦隊ものじゃなくて、仮面系の乗り手(ライダー)だぞ!?ありなのか……?」

「う~ん、そこはぼくも迷ったけど……最近の乗り手は何でもありだから、いいかな~って。車や電車に乗るのもいるんだから、ロボットに乗ったっていいじゃない」

 いいのかよ……。(色んな意味で)


「気を取り直していくよ~。雷電くん、こんなこともあろうかと、キミの疾風迅雷号には変形合体機能を搭載してたんだ~。さあ、乗って!」

「計画的だな!いつから企んでやがった!?」

 試作機に選ばれた時には、すでに乗せる気満々だったのか?


「雷電くん……。キミにとっても悪い話しじゃないよね~?キミの悩み、没個性解消のチャンスじゃないか」

「!?」

「派手にパワーアップしたいってぼくに相談してきたよね~。王道中の王道でありながら、ロボットはインパクトが大きい。キミの望みに添うと思うけど~?」


 今、確信した。穏やかな笑顔に騙されて来たけど、コイツ腹黒だな!?

「うぅ……。わかった、乗らせてくれ……」

 リスクとか、プライドとか天秤に乗せたけどさ、やっぱり、ロボットを操縦してみたいが勝った。

 オレは促されるまま、疾風迅雷号に跨がる。


「そうこなくっちゃ☆じゃあコレ、ヘルメットね~。コレをかぶりながら、ファイブ・クローバー・イン!!って叫んでね~」

「わかった。……ファイブ・クローバー・イン!!」


 キーワードを叫ぶと、疾風迅雷号が変形を始め、空中で遊んでいた巨体に吸い寄せられる。

 どうやら、オレの愛車が胴体の中心に相当するらしい。オレが内部に組み込まれると、コードがあちこちから纏わりついてきた。拘束されてるみたいだが、案外乗り心地は悪くないぜ。


『雷電くん、聞こえる~?』

 視界が開けて、リアム所長の顔が大きく映し出された。ヘルメットに、モニターと音声機能が搭載されてるらしい。じゃないと前見えないもんな!


『初心者に全部操作させるのは酷だから、ぼくオペレーターやるね~。大まかな動きとか、脱出装置とか、自爆装置はぼくが担当するから☆』

「さらっと命を握られた!?あと、気持ちはわかるけど自爆装置はつけんなよ!?」


『何言ってんの~?むしろ、命を守るためだから。窮地に追い込まれても、オレは逃げねーって燃えるタイプでしょ?それ、迷惑だからね~?危なくなったらとっとと逃げて、自爆装置でロボットごと敵を撃破が合理的なの。キミにその判断が出来る~?』

 うぅっ!正論だ……。


『じゃ、つべこべ言わず、発進~』

 ゴゴゴゴゴゴゴゴコ………!!


「すげー!!飛べるの!?」

『一見、ファイブ・クローバーは内部スカスカだけどね~?構成する魔法陣に、ありとあらゆる特殊能力を応用したデータを入力してるんだよ~。とある憑依型能力者の謎物質を研究する過程で生まれた反重力ユニットとか、発火能力者由来の推進機関とかね。これだけ高機能ハイスペックなわりにはコンパクトで、結構すごいことなんだよ~?』そのせいで魔力食うんだけどね!


 チンプンカンプンだけど、とにかく凄いことだけはわかったぜ!

『ぼくの研究テーマ、特殊能力の解明は、全て巨大ロボット開発のためなんだ~。多種多様な能力者の可能性の追求とも言えるね。全ての能力に、意味があるんだよ~?……さあ、雷電くん!人間の能力を、進化を、見せつけに行くんだ~☆』


 リアム所長の号令と共に、機体は夜空を駆け抜けた。

「まず、どこに向かえばいい?」

『待って~。今第一会場の地図を表示するから』

 モニターからリアム所長が消えて、かわりに第一会場の全体図が表示される。ご丁寧に、戦闘中の箇所には赤丸がしてあった。


『反応からすると……こっちの大きい丸からは相反する莫大なエネルギーのせめぎ合いを感知~。黄婦人が言ってた、降臨した神と、誰かが戦闘中かな~。こっちの丸は、ヒーローの反応が弱い。おまけにシェルターに近いから、下手したら一般人に被害が出るかも~。急を要するのは、二番目だね』

「わかった!人命優先で行くぜ!!」


『じゃあぼく、ちょっとやることがあるから先行ってて~?ちゃんと誘導しとくから~』

「了解!!行っけぇぇぇ!ファイブ・クローバー!!」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


……という流れがあって、今に至る。

 でも、やっぱりこっちを優先して良かったぜ。

 大量の白服に、ゆるキャラもヒーローも囲まれて、絶対絶命だったんだ。

 仲間のピンチに駆けつけるのがヒーローだよな!


 いつまでも決めポーズを取っていたら、なんかでかい斧が飛んできたから、装備のランスで弾く。

 

 ガァンッ!!


 なんて重い一撃だ!?

 弾かれた斧を掴み取り、大男がにたりと笑った。

「面白ぇぇぇぇぇ!!こんな戦い甲斐のある敵は初めてだぜぇっ!!」


 大男を筆頭に、白服達は戦闘態勢に入る。

 怯んだのは、ほんの一瞬か……。こんなロボットが相手なのに、ビビりもせず全力で突っ込んでくるって……コイツら、なんかヤバいぞ!


 しかも、相手は一応人間だ。怪人じゃないんだから、踏み潰さないようにしないとな。

『大勢の敵を無力化する方法~!!』

「うわ!びっくりした!?もう到着したのか?」

『ううん、まだだけど、ファイブ・クローバーはぼくの端末で観察してるから~。いいから、ぼくの指示に従ってね?』


「わ、わかった」

『まず武器を構えて……そうだね、相手の真ん中に狙いを定める~』

 言われた通りに操作して切っ先を向ける。目標は、人間は怖いから地面に設定しとこう。

『右手のコードに雷を集中して~。画面にエネルギー充填率が表示されるから、100%になったら、放出するんだ』


 あ、本当に赤いメーターが出てる。分かりやすいな。

「よし……今だ!!」

『ファイブ・クローバー・光線ビーム発射』

 淡々とした機械音声が告げたのと同じくして、何倍にも増幅された赤い稲妻が、ランスの先から本当にビームのように一直線にほとばしった。


 プピィィィィィィィィ!!!!


 間抜けな音が響く。地面に着弾した途端、稲妻は幾重にも別れて蛇のように白服達を襲った。赤い色と相まって、結構な大惨事だった……。

 あちこちで断末魔上がってるんだけど、まさか死んでないよな!?


 これじゃあ、正義のロボットじゃなくて、悪の博士とその手先みたいじゃないか!?

 オレは、自分のやったことに戦慄する……。

『大丈夫だよ~☆計算上では分散する分、一人当たりにかかる電圧は致死レベルにならないから~』

「本当に!?倒れた白服ピクリとも動かねえよ!?」


「この野郎がぁぁ!?許さねーぞ!!」

 大男は倒れた白服の一人を抱え、こっちを睨みつけている。なんか、斧から吹き出した炎がアイツを包みこんで守ってるみたいだ。

 

 炎の塊みたいになった大男は弾丸のごとき勢いで、ランスを切り裂いた!!

 どんな熱量なのか、ランスの切断面は溶けちまってる。……コイツ、有象無象の白服とは、格が違うぜ!!


『くくく、雷電よ~。身の程知らずを殲滅するのだ~☆』

「キャラ変わってるぞ所長!あんた遊んでるだろ!?」

 とにかく、オレは炎の大男と1対1(タイマン)で決着をつけるぜ!!


 大男とオレは、モニター越しに睨みあった。

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