雷電VSウルフナイト
「ひーらちゃん強えええ!!」
別にひーらちゃんを侮っていたわけじゃない。
でもさ、こんなに強いなら、なんでヒーローにならなかったんだろう?
そんな思いから、オレはつい叫んでしまった。
オレ、雷電はウルフナイト(偽)と。
ウルフナイトはひーらちゃん(偽)と戦闘の真っ最中だ。
最初はさ、オレ絶好調だと思ったんだよ。
ウルフナイト(偽)に剣も抜かせず、オレがリードしてたから。ついに特訓の成果が!なんて浮かれちまってたんだ。
ところがどっこい、それは間違いだったんだな。 現実を突きつけたのは、本物のウルフナイトだ。
隣で戦ってるんだから、その戦闘ぶりが、嫌でも目に入って来たんだよ。
ウルフナイトが何かの奥義っぽい技を繰り出せば、ひーらちゃん(偽)は同じ技で相殺する。
そして次の瞬間には、ひーらちゃんのモデルは、そういえばうさぎだったと思い知らされる、超絶ジャンプからの鋭い連続攻撃がウルフナイトを容赦なく襲った。
蝶のように舞い、蜂のように刺すってこの事か……。でもウルフナイトだって負けてない。泰然自若と、全て受け流してる。
目まぐるしく移り変わる二人の攻防は、美しくすらあった。
そしてオレは悟ったね。完全にウルフナイトの実力を見誤ってたって。
ウルフナイト(偽)を圧倒出来たのは、たんにオレの中のウルフナイト像が、本物より劣ってただけだったんだ……くそ、修行がまだまだ足りなかったぜ。
内心歯噛みしていたオレは、本当にウルフナイトを侮り過ぎてた。
偽物は、ただ押されていたわけじゃなくて、虎視眈々と反撃の機会を狙ってたんだ!
戦闘中に対戦相手を疎かにしちゃいかんよな?
油断していたオレに、ウルフナイト(偽)が牙を剥く!!
ついに解禁された居合い斬り。
オレは後ろに跳んでかわした……ハズだった。
ザシュッ!!
以前見た技のままだったら、回避出来ていたのに……。
耐刃繊維のハズのスーツを、刃の切っ先が貫いて、腹筋で止まる。
さらに追い討ちで、ビリッと電気が傷口で弾けた!!(滅茶苦茶痛い!!)
ヤバい、もしあと数センチ深かったら、筋肉が盾にならなかったら、内臓がやられてたんじゃね!?
ウルフナイト(偽)が握っているのは、前使ってた細剣じゃなくて、現在ひーらちゃん(偽)との戦いに使用してる肉厚な長剣だ。
知らなかった武器に、上方修正された技量。
きっと、わずかな間にウルフナイトの情報が更新されたからだな……。最悪のタイミングだぜ。
「なにやってんだ雷電!!しっかりしろ!!」
先輩ヒーローの叱責が飛ぶ。うん、本当なにやってんだろ、オレ。
戦闘中に余所見して、手傷を負って、おまけに敵を強化しちまったよ……。
でもな、腹のうちから沸々と熱いものがこみ上げてくるんだ!
オレは腹から溢れる血を両手で拭った。
気のせいか、傷口の熱が両の拳に移った気がするぜ。これ以上、情報が増える前に倒してやる!
「オレは、ウルフナイトよりも弱い!!」
我ながら弱気宣言だな、と苦笑する。
「でもな、オレはもっともっと強くなる!偽物にも、やがては本物のウルフナイトにだって、打ち勝ってやるぜぇぇぇ!!」
さっきはお株を奪われたけどよ、オレは王道熱血ヒーローなんだ!
敵が強ければ強いほど、燃え上がるぜ!
「食らえ!稲妻だぁ!」
両の掌から迸る赤い電光に、ウルフナイト(偽)は黒雷で対抗してきた!
バチバチ、バチッ!!
さっき一緒に雷を打ち出して分かったが、ウルフナイトに勢いは劣るものの、持続力はオレのが上だ。
向こうも、それは分かっているようだ。最初から出力全開で、短期決戦に持ち込む気らしい。
負けるかよっ!
オレは、両手にこびり付いた血液を燃料にして、雷の威力を底上げする。これが、オレの切り札ってヤツ。“血液”こそが、オレの魔力の源で、血流と電流は深い関係にあるんだ。リンクしていると言ってもいい。
黒雷を打ち消すと、オレは勢いに乗ってウルフナイト(偽)の懐に飛びこんだ。
今のオレは拳と言わず、全身が雷で覆われている。剣を突き立てようもんなら、あっという間に感電するぜ?
これからが、オレのターンだ!
基本にして王道のジャブ!相手の反撃を許さず、とにかくジャブ!
たまにローキックを織り交ぜて、ウルフナイト(偽)の動きを鈍らせることも忘れない。
地味な攻撃だけど、理にかなった戦法なんだ。
着実に、ダメージは蓄積されてるハズ。
全身を雷でカバーすることで、攻撃に雷撃を付随できる。おまけにバリアー効果にもなって、まさに攻守一体!今度は油断しねーぞ!!
「……見た目の割に地味な攻撃~」
誰かが漏らした一言。べ、別に、傷付いてないから。地味で、なにが悪いんだって話しだ。
オレの長所、それはスピード。そして、地道にコツコツ積み重ねることだ。
特に目立たなくても、手堅く堅実。でもそれが一番厄介なんだぜ?
お前みたいな、なにもかも派手なヤツにはわからないだろ!!
「!?」
百数発目かの拳で、ウルフナイト(偽)の体が崩れ出した。殴った感触はちゃんと人のものなのに、どうやらキャラクターを構成する物質は砂っぽいなにかのようだ。
亀裂が入り、サラサラと砕けて行く。
「これで終わりだぁ!」
ローキックによるダメージでウルフナイト(偽)の脚が崩れたのを見計らって、オレは後ろに跳んだ。思いっきり地面を蹴って、必殺技を食らわせる。
「真・必殺!!赤き閃光のロケットキィィック!!」
オレの勢いをつけた跳び蹴りはウルフナイト(偽)の、胸から腹にかけてを吹き飛ばした!!
ウルフナイト(偽)は声もなく、ただの灰色の砂になって爆散。怪人の最後よりも、呆気なく消えた。
……打倒ウルフナイトを掲げ、アイツの小技を越えるために、この数ヶ月で練り上げた全てを出し尽くした。
本物じゃないけれど、劣化版だけど、練習台にはちょうど良かったな。うん、満足したぜ!
そうそう、忘れてた。
「例えどんな強敵でも、オレの雷は全てを打ち砕く!!」
ーーーーーヒーローたるもの、最後は決め台詞で締めなきゃな。