ヒーローの告白
ヒーロー視点。
俺の名前はネルスレイ。H・Nはウルフナイト。
ヒーロー協会公式ゆるキャラ、ひーらちゃん(一号)を愛してやまない一介のヒーローだ。
今もこうして、研究所へ向かったひーらちゃんを見送っている所である。
「趣味悪一!」とか、「他に可愛いうさぎがいるだろっ!?」と同僚から散々に言われるが、俺は別にひーらちゃんのキモ……失礼、独特な造型に惹かれたわけではなく、ぶっちゃけ、中身が片思い中の幼なじみだから追っかけているんだ。
自分で言うのも何だけど、俺は素直じゃない。なんというか、幼なじみに対して上手く愛情を表現できないのだ。しかし、ひーらちゃんになら素直になれる。
中身がアリアだと思えば、あの外観さえ愛しく見えるのだから、大概だと思う。
なにしろ、ひーらちゃんを一目見た瞬間、これはアリアだと確信できるくらい、俺は幼なじみに惚れている。
3つ年下の幼なじみ、アリアティスは俺が昔通っていた道場の娘で、大のヒーローマニアだった。
何でも、幼い頃に怪人の破壊活動に巻き込まれ、家族を失い、死にかけていた所をヒーローに救われたとかで、出会った頃には命の恩人のヒーローを崇拝していた。
それこそ、自分もヒーローになりたいと夢見るほど、熱烈に憧れていた。
…………あまり知られていないが、ヒーローの特殊能力は、女にも発現することがある。
アリアは、その稀有な例。
あいつの能力は、重い物を浮かべたり、滑るように移動出来たり、空さえ飛べる汎用性の高い便利な力。
そして、とても綺麗な力…………。
ひーらちゃん状態では隠れているが、初めて能力を行使するアリアを見た時、あっさり恋に落ちてしまうくらい、美しかった(陶酔)。
うっとりしてる場合じゃないな。話を戻そう。
どんなに素晴らしい能力を持ち、ヒーローに憧れていても、あいつの目標には障害が多い。
まず、女はヒーローにはなれない。例外もあるようだが、ヒーローになるための条件は、五体満足で特殊能力を持つ、健全な男子であること、と明記されている。
それにアリアの能力は、日常生活に差し障るような過激な力ではないし、幼い頃の事件で両腕を無くし、義手で生活しているんだ。
おまけに華奢で小柄な体は、体質のせいかちっとも筋肉がつかず、贔屓目に見ても弱っちい。
ひーらちゃんの被り物なしだと、むしろ守ってやりたくなるタイプ。特に、上層部の頭でっかちには、あいつがひーらちゃんをやることにも反対の奴がいたらしい。
…………でも、俺はアリアがどんなにヒーローに感謝してるか、知ってる。
報われないとわかっていて、努力しているのを見守ってきた。
ひたむきで、真っ直ぐで、きっと今夢の近くにいられるだけで、喜んでいると思う。
例え、子供に泣かれるような不気味キャラでも。
体のいい雑用係扱いでも、ちっとも僻んでいないのだから。
俺にできるのは、ひーらちゃんに仕事を押し付ける馬鹿をしめたり、少しのサポートくらいだが。
アリアの幼なじみとして、ひーらちゃんファンとして、俺はずっと応援している。
…………あいつの邪魔をする気も、止める気もないが、それでも、研究所通いはどうかと思う。
研究所の所長は、俺らのもう一人の幼なじみ。だが、幼なじみだからこそ、断言する。
あいつ……リアムは好青年の皮を被った鬼畜だ。
童顔で幼く見えるが俺より年上で、ひーらちゃんと同系色の緑髪緑瞳、見た目は癒やし系なのに、人権?なにそれ美味しいの?と言って憚らないヤバい奴なのだ。
たまに、俺とアリアのことを妙な目で見ている。生暖かいというか、実験動物を見る目だ。
日中だし、法に抵触するような真似はしないと思うが……俺は開け放したままの扉の奥を、キツく睨みすえる。
なんかあったら、すぐに殴りこもう。