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ヒーロー協会のゆるキャラ。  作者: 銘水
祭り編
39/68

降臨するもの

途中で視点変更あり。

 会場に鳴り響く警報。アナウンスが、第三会場の爆破を淡々と、説明している。


「嘘でしょ!?大英雄祭の会場には全て結界が張ってあるはずよ!怪人は入れないのに何故?」

「大丈夫だよな?ここにはヒーローがいるんだ……我々の安全は保障されているよ、な?」

「怖いよぅ……パパ、ママァ!」


 爆撃音は離れた第一会場ここにも届いていて、早くもパニックが起ころうとしているのを、警備のヒーローやあたし達ゆるキャラが必死に宥めた。

 この状況は、十年前を思い出す。……でも、あんな悲惨なことは、繰り返させないよ。

 万一のため、三つの会場には緊急用のシェルターが設置されているから、そこに皆を避難誘導するんだ。


「こんな時こそ冷静にならなくては!助かりたいと思うなら、サクサク着いて行きなさい」

「もちろん大丈夫に決まってる!それより、不安そうな隣の夫人の手を取ろうではないか!」

 こんな時、くーらちゃんとしーらちゃんは大活躍だ。


 冷静な意見で皆を落ち着かせ、テキパキ列を進めるのに一役買ってる男性は、くーらちゃんが使役する幽霊(要はサクラ)。

 それでも恐慌状態に陥りそうな人は、しーらちゃんの紺繰糸で強制的に落ち着かせる。さすがは誘導係、手慣れてるよね。


『みんなー、こっちに着いて来てください!ヒーローや私たちゆるキャラがみんなを守ります。安心してくださいね?』

 子ども心を掴むのは、ぴーらちゃんが得意とするところ。

 きーらちゃんの能力を使って、子ども達に一斉に呼びかける声は優しく穏やかで、しかもテレパシーだから周囲の喧騒にかき消されることもない。


 避難時に手こずる子どもたちの誘導も、彼女のおかげで滞りなく進む。あたしも、あたしに出来る事に専念しよう。


「ありがとうねぇ……体が、思うように動かんで困っとったとよ」

 ひーらちゃんの役割は、杖をついてたり車椅子だったり、思うように移動出来ない人を片っ端から運んで行くこと。

 もしもの時のため、避難経路を頭に叩き込んどいて良かったよ。


 ひーらちゃんの移動術が、その速度に反して滑らかなのは、ぴーらちゃんで実証済み。

 最初は怯えてた人も、すぐ安心して身を任せてくれるから、こちらもスムーズに避難が進む。


 皆が得意分野で力を発揮して、あともう一息で全員収容が終わるという頃、あたしは一人の女性に泣きつかれたの。その人は、マリーちゃんのお母さんだった。

「娘とはぐれてしまって……シェルターに、いないんです!!」

 マリーちゃんのお母さんは顔面蒼白で、今にも倒れそうだよ。

「あの子……マリーは、よくトラブルに巻き込まれるんです!協会主催のお祭りなら大丈夫だと思ったのに……!お願いします、探しに行かせてください!!」


 マリーちゃんのお父さんは、奥さんを宥めながらも今にも飛び出したそうに外を見ている。

 早く、見つけてあげないと。まだ外にいるぴーらちゃんに事の次第を伝え、あたしは二人の代わりにマリーちゃん捜索に行くことにした。


 ヒーローやくーらちゃん達に後を任せて飛び出そうとしたら、くーらちゃんに呼び止められた。

『……霊たちにマリーちゃんを探してもらおうとしたら、なぜか怯えて言うことを聞いてくれないの。何かわからないけど、危ないかもしれないわ……。気をつけてね』


 あたしは、くーらちゃんにサムズアップで応える。

『外にはまだヒーローもいるし、大丈夫だよ。ぴーらちゃん達も心配だし、気をつけて行ってくるよ!』

『もしもの時は駆けつけるから、わたくしを呼びなさいよ!!』

『うん!ありがとう!』


ーーーそうして、あたしは渦中に自ら飛びこんで行ったの。



 逃げ遅れた子を見つけました。

 一人は招待された児童擁護施設の子で、早々に保護して今は私の背中にいます。

 そして、連絡のあったマリーちゃん。見知らぬ、とても綺麗な金髪の少年と一緒にいました。見たところ、マリーちゃんと同年代のようです。


「もう安心デスよ!ぴーらちゃんと一緒に行きましょう」

 広範囲にテレパシーを伝達してもらうため、ポポはアリアではなく私と行動しています。

 ポポの若干空気読めない明るさは、子ども達を安心させるのに向いていますね。

 ポポに声をかけてもらい、二人の方へ近寄ろうとしたのですが……。


「……違う」

 ところが、金髪少年は私達を酷く醒めた目で見るのです。違うとは、どういう意味でしょうか?

 私が内心首を傾げていると、少年にある異変が起こりました。唐突に急成長が始まったのです!!


 目を疑うような光景です。若木のようにしなやかに伸びる、少年の四肢。

 驚くことに、衣服も共に変化していくため肌が晒されることはありません。

 しかし、服越しでも均整の取れた肉体美はよくわかります。紛れもない、青年の身体です……。


 太陽の光を浴びたような、眩い金髪にも変化が訪れます。肩くらいだった髪が、うねりながら四方に長くたなびき、色も金から朱金、深紅へと移り変わって行ったのです。紅葉を早回しで見るような、神秘的な変身でした。


 一瞬で進化を遂げた彼のあまりの美しさに、私もポポも、マリーちゃんも見惚れて硬直していたのですが……。

「何者だ!」

 異変に気付き、駆けつけたヒーローの誰何の声に、私は正気を取り戻しました。

 

 ふ、不覚を取りましたね。私は背中の子どもを庇い、ヒーローの背後に避難します。

 でも、青年の近くにいたマリーちゃんには手が回りません。呼びかけても、聞こえていないようです。困りました……。


「変身したぞ!!新手の怪人か?」

「どこの組織の者だ!」

 ヒーロー達は次々と質問しますが、青年は不快気に、整った眉をひそめます。


の者と僕を一緒くたにするな。下郎め」


 美しくも、酷薄な印象の声です。

 その声に反応して、長い髪が渦を巻き……刹那、ピンポン玉ほどの輝く球体が出現。青年を包囲するヒーロー達に襲いかかったのです!


「ぐわっ……」「くっ!!」「ばか、な……」

 つぶてが放たれる瞬間が、速すぎて見えませんでした……。気づいた時には、ヒーロー達が全員地べたに転がっていました。嘘みたいです。

 誰も、なす術がありませんでした。


 名だたるヒーローばかりなのに、瞬殺なんて……彼は一体何者なのでしょうか?

 私の疑問に答えるように、無言で見守っていたポポが、言葉をこぼします。


「……神族?」


 意味を理解するのに、時間がかかりました。

 神族とは、怪人ら魔族の対極にいながら、より恐ろしい存在。

 強大な力を行使するのに、人を虫けらのようにしか思っていません。

 なので一度現れると、大虐殺を起こしたりします。まれに気に入った人間に身の丈に合わぬ加護を与えたり、神界に連れ去ったりもしますが……どちらにしろ、迷惑なことには変わりありません。


 ここ百年は目撃例もなかったのに、なぜ今現れたのでしょうか?


「ひ、うぇぇ……」

 ようやく脅威を実感したのでしょうか?

 マリーちゃんが、恐怖から泣き出してしまいました。

 そこで初めて気付いたように、青年がマリーちゃんを見て、不愉快そうに目を細めたのです!!

 

 背筋がゾッとしました。

 私とマリーちゃんは離れた位置にいる上、私の背中には怯える子が。ぴーらちゃんスーツを掴んで、離しません。そもそも、私もポポも非戦闘員です。

 ヒーロー達を瞬殺する相手に太刀打ちできません。


 助けを求めようにも、ヒーローは虫の息です。

 ポポは誰かと交信してるようですが、間に合わないでしょう。

 

……その時です!緑の風が、吹き抜けました。

「ひーらちゃん!!」

 アリアが文字通り飛んで来てくれたのです。

 アリアは私にマリーちゃんを託すと、青年から私達を守るように、耳を広げて立ちはだかります。


「なんだこれ?不細工な……」

 理不尽です!人を見た目で判断しないでください!

 先ほどよりも、青年は怒っているようでした。

 苛立つ彼の周りの空気が、陽炎のように揺らめきます。

 ああ、先ほどの礫がまた形成されていく……一触即発の空気です!


「ポ、ぼくらは協会のゆるキャラデス!戦う意志はありません!」

 私の手から離れたポポが、アリアの元へ駆けつけます。

 ポポは尚も言い募り、助命嘆願していますが……通じるでしょうか?


『ユーリ。ここはあたしとポポに任せて。なんとか時間を稼ぐから、今の内に子ども達を連れて逃げて』

 アリアがこそっと交信してきます。切羽詰まった声に、私も残ると返したかったのですが、子ども達を巻き込むわけにはいきません。

 ここは、子ども達を早く安全な場所に連れて行き、救援を呼ぶのが正解でしょうね。


 私は子ども達を連れ、青年に不審がられないようそーっと後退します。しかし、私達の考えなど青年にはお見通しだったのでしょう。

 青年は口の端を吊り上げ、嗤いました。

……猫が獲物をいたぶる時の表情に似ています。

 無邪気で、残酷で……。愉快そうに、無数の礫を解き放つのです。


 ズガガガガガガガガガッ!!!!


「……………!!!!」

 散弾銃のような音に、子ども達の悲鳴はかき消されました。ヒーローを一撃で仕留めた礫が、アリアを蹂躙します。……むごい!!

 アリアの速さなら、月色砂子なら、あるいは回避は可能だったかもしれません。しかし、アリアは私達を守るために盾になったのです。

 

………アリアの思いを踏みにじるわけには行きません。私は子ども達を抱え、走りました!

「ヒーロー気取りが呆気ないなぁ」

 走る私の耳に届いた声。思わず振り返ると、アリアが倒れていました……。


 一発でヒーローを沈める礫を連続で、無数に食らったのです!当たり前でしょう!?

 なんて、なんて残酷な……!!

 憤慨する私の気配を察知したのでしょうか?

 青年がこちらを向きました……しまった!


 無意識に、ぎゅっと子ども達を抱きしめ、身構える私。しかし青年の意識はすぐ逸れました……。

 最後の力を振り絞ったのでしょう、アリアが耳を伸ばして青年の足首を掴んでいます。


 彼の、虚を衝かれた顔を尻目に、私はまた駆け出します。今度は、振り返りません!!


 全速力で走りながら、私は祈らずにはいられません。誰か、アリアを、ポポを助けてください!

 アリアは……魔力が浸透し辛い体質なんです。

 そのせいで癒やしの力も効果がなくて……。もうすぐ、結婚するんですよ?


 怪我が残ったらどうしよう!それに、考えたくないけど、もし……もし死んでしまったら?

 結婚の話しなんかしたからフラグが立った?

 そんなの、嫌です!!


 ウルフナイトでも、誰でもいいから……どうかあの二人を、私の友達を助けて!!



ーーーーー任せろ!



……私の声なき祈り、血を吐くような懇願に答えたのは、予知・予言課のヒーロー、クリアクリスタルでした。


『祭』とは感謝や祈り、慰霊のために神仏及び祖先をまつる行為(儀式)である。(wikiより一部抜粋)

 祭り編は神との戦いということで。

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