千客万来②
二話投稿してみました。
「……会いたかったよ、ポポ」
誰にも聞こえないよう、小さな声で呟く。
久しぶりに見たポポは、随分と様変わりしていた。以前はストイックというか、何者も寄せ付けない空気があったのに、今は明るい黄色の民族衣装を着て、笑っている。
ま、まあ、今の姿も悪くないんじゃない?
名乗るのが遅くなったけど、私……いや、ぼくの名前は水彩。名前の由来は水彩画の空のように美しい、この澄んだ水色の羽根や髪から。
主人が付けてくれた名前は、ぼくの誇り。
ぼくらの一族にとって、名前は重要だ。一人前と認められたものだけが、名を名乗ることを許されるから。それまではコードNo.が与えられる。
すなわち、名前を持つ物は成人とみなされ、その、結婚だって出来るんだ!
ポポは、わかっているのかな?
ポポの相方であるひーらの方を始め、店の方々が
裏の一画に席を用意してくれたから、そこで向かい合って座る。
……山盛りの饅頭は丁重にお断りした。ポポの食欲が異常なだけで、妖精は基本小食だからね?
「久しぶりだね。その、元気そうだ。い、言っておくが、お前に会いに来たんじゃなくて、仕事のついでに立ち寄っただけだぞ!」
しまった、また憎まれ口を叩いてしまった……。
なんで、ポポにはこうなってしまうんだろう?
この口は、心にもないことを言ってしまう。だから傷つき、去っていくあいつに、声もかけられなかった。
すごく後悔してるのに……。
ポポは無言。視線だけが真っ直ぐにぼくを貫く。 しばらくの沈黙の後、ようやくポポは口を開いた。
「率直に、言います……ごめんなさい、誰でしたっけ?」
…………こいつ、忘れてやがった!こてんと可愛らしく小首を傾げてるのが、また憎たらしいな!
「信じられない!共に育った仲間を忘れるか普通!ぼくはコードNo.427だ!」
「あぁ、427デスかー。名前変わったし、口調違ったから、わからなかったのデス」
「この、自慢の水色は変わってないだろ!あと、変貌ぶりはお前の方がヒドい!自分のこと名前呼びしたり、変な口調のキャラじゃなかったのに……あざとい女子か!」
「ポポなりに可愛いを追求した結果デス。自分らしさを特徴的な語尾にこめてみたのデスが……あと、性別は特に意識してないのデス」
「自分らしさってなに?」
「“です”をdeathに変換しました」
「可愛くねーよ!?」
そうだよ、こういう奴だった……。
「てっきりお前が性別を女にするのかと思って、ぼくも男っぽくしたのに……」
なんて言っても、多分伝わらない。
「……どういうことなの……?」
「前聞いたんだけど、ポポの種族は繁殖期に役割分担して男女に別れるんだって」
「あぁ、そういうこと……」
……部外者には正確に伝わってる。性別が変わるのは繁殖期だけだけど、どちらに変わるかは自由だ。
相手に合わせますってアピールするのは、ぼくらにとって求愛行動に等しい。見事スルーされたけどな!
「で、何の用で来たのデスっけ?」
本当にマイペースな奴……。気のせいか、後ろから哀れみの視線を感じる。筒抜けだと、話し難いな。
「言ったろ、仕事のついでに立ち寄ったんだ。ポポ、ちょっと手を出せ」
「はいどうぞー」
手と手を合わせ、ポポが一族を出奔した時に断ち切られていたテレパシーのパスを繋げる。
『ぼくの声は聞こえる?』
『ばっちりデスよ。こうして来たのは、当主の使いデスか?』
『大体そんな所だ……』
ポポに会うためもあるけど、ぼくらの一族は当主の命令が最優先される。
特にポポなんか、役割のためならぼくだって切り捨てるハズだ。こいつ、ワーカホリックだから。
命令のために、自分のキャラを激変させることも厭わないわけだし。
『ぼくが来たのは警告。もしかしたら、奴らが動くかもしれない』
どうやら、それだけでわかったらしい。繋いだ手に痛いほど力がこめられる。
『白猫教団……』
かつてポポの羽根を奪い、当主の宝物を盗んだ賊どもだ。
世間では謎とされているが、諜報に長けたぼくらの一族は、あいつらが何なのか知っている。
ヒントは、白い猫。古来白い動物は神の使いとされてきた。盗まれた宝石は力を秘めた特別なもので、恐らくは献上品にされている。
怪人ーーー魔族と対をなす種族、『神』とその眷属が動き出そうとしているのだ。
『ないとは思うけど、羽根を奪った奴らが現れても取り乱すなよ?』
『当たり前デス。今のポポは、コードNo.564じゃなくて、ゆるキャラのきーらちゃんデスよ?任務が大事に決まってるじゃないデスか』
ポポの視線がこちらをうかがう四人の女子に向いた。……彼女たち、堂々と見すぎ。
『かつての仲間に負けないくらい、頼もしい仲間がいるのデス。大丈夫デスよ』
そうか、ポポは居場所を見つけたんだね。良かったな。
『良い顔するようになったね、ポポ』
『そっちは、なんかさっきから渋い顔ばっかりデス。なんか嫌なことでもありました?』
うるさい!お前のせいだよ!もう、台無しだ。
ぼくは、ポポの手を振り払って睨む。
……結局、素直になれなかったな。