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ヒーロー協会のゆるキャラ。  作者: 銘水
奮闘編
31/68

弱音と本音

死に関する描写あり。

 ぐらぐらと、煮えたぎるような怒りが腹の底から湧き出して、止められない。

「やっていいことと、悪いことがあるよね?」

 リアムもハイドも、何を考えてるのかわからない!!


 あたしたちをからかった?ネルスに何を命令したの!?あんな……ビリビリを通り越して、バチバチするネルスを初めて見た。

 走り去る後ろ姿を思い出すと、なんでかな、胸が痛い。


「その、悪気はないっていうか、善意のつもりというか、たわいないイタズラじゃ……」

 言い訳は聞きたくないと、睨みつけたらハイドは黙った。ハイドはネルスと面識がなかったから、主犯はリアムに違いない。

 

 何でこんなことを!!と、詰め寄りたくなるのを抑えるので精一杯だ。

 あぁ、今ここにリアムがいなくて良かった。もしいたら、締め上げてしまいそう。

 あたしの、持て余すほどの怒りそのまま、が荒れ狂って止まらないの。


 あたしの髪は、義手よりも操作し易い。正真正銘体の一部だからね。月色砂子によく馴染み、自在に動くひーらちゃんの耳の正体。あたしの意思をダイレクトに反映するから、ハイドの携帯コンパクトを奪い、破壊してしまいかねず、動けない。


……落ち着こうとするが、気付けばめきゃっと音を立て、玄関に設置していた鉄の靴ベラがひしゃげていた。

 いけない。怒りに突き動かされるまま、やってしまったらしい。

 誰だろうか、息を飲む気配を感じた。

 あの自信家のハイドも顔色が悪い。違うのに。怯えさせたいわけじゃない!頭がグルグル回って、冷静になれないよ!


 パンッ。


 張り詰めていた空気が壊れた。なぜかサレナが、ハイドの頬をひっぱたいてる。どうしたんだろう?

「ハイド、それにリアム……。あなたたち、無神経過ぎよ。反省なさい」

「えぇ、そうね……悪かったわ、アリア」

『さすがにぼくも反省したよ、ごめんね~』


 ハイドは頬を抑え、蚊の鳴くような声で謝っている。携帯から、リアムの謝罪も聞こえるけど、ひどく遠く感じた。


「……アリア」

 サレナは、今度はあたしに目を向ける。

 うぅ……今のやり取りで少し冷静になれたよ。

 居たたまれず、あたしは裸足のまま、ネルスが開け放した玄関から飛び出していた。

 穴があったら入りたい!


「アリア!?」「お姉ちゃーん!!」


 呼び止める声を振り切って、あたしはただ感情のままに、走る!






……元道場の裏手で、あたしは途方に暮れていた。

 イベント用の衣装に裸足のままではどこにも行けないけど、このまま戻るのはバツが悪く、足が向かった先がここだったのだ。

 元道場は木で囲まれているので、身を隠すのにも最適。少しだけ、頭を冷やさせてほしい。


……ネルスも今頃こんな気持ちなのだろうか?


「こんな所にいたのね……」

 予期しない声にあたしは驚いた。人のこと言えないけど、サレナ気配なさすぎだよ。

「よくここがわかったね。見つけるなら、セトかと思ってた」

 我が家の敷地面積はなかなかに広い。かくれんぼでは、身内以外に見つかったことないのに。


「霊に片っ端から捜させたから……」

 サレナの十八番、人(霊)海戦術か。かくれんぼや缶蹴りやらせたら、無敵だね。

「心配かけてごめんね。ちょっと気まずくなっちゃって。落ち着いたら戻るから」戻っていいよ、と続けようとしたんだけど、サレナは最後まで言わせてくれなかった。


 なんというか、本日二度目の抱擁が来た。

 サレナはどこもかしこも柔らかくて、いい匂いがして、抱かれていると心が落ち着いてくる。さっきと全然違うや……。

 ネルスの抱擁と、つい比べてしまい、また胸が騒いだ。あたしはサレナの手をやんわり外す。じゃないと、早まる鼓動に気付かれそう。


「ハイドを責めないでね?何も考えてないだけなのよ……」

「あたしと、同じくらい単純そうだもんね。もう気にしてないから」

「……ハイドは憑依型に目覚めた時、まだ生まれたばかりの赤ん坊だったそうなの。……だからわかってないのだと思うわ」


 えっ?それは、どういう意味?もしかして、サレナは勘付いている?

「今まで黙ってたけど……ワタシも、憑依型なのよ。だから、あなたの悩みもわかるつもりよ」

 衝撃に、あたしの体が強張った。同時に、納得もする。


 同じ憑依型だけど、ハイドはあたしと全然違う。表情だってクルクルかわる。単に、覚醒の仕方が違うからだと思っていたけど……サレナの口振りだと、ハイドは自覚・・がなかっただけ。でも、サレナはわかってるんだ。


「憑依型ってレアケースらしくて、他に同じ人に出会ったことなかったから、確認できなかったし、聞きづらいことだけど……ねぇサレナ、貴女も一度死んでるの?(・・・・・)


「えぇ。ワタシの場合は毒だったわ……。致死量だけど長々と苦しむよう調節された毒を盛られて、死んだの。そのせいかしら?『死』そのものの能力に目覚めたのは」


 当時の事を思い出したのか、サレナは嫌そうに眉をひそめた。 結構ヘビーな過去だけど、終わったことだと達観してるみたい。今更だけど、そういえばサレナも感情出すの苦手だし、嫌なことを引き摺らない性質たちだ。共通点、結構あったのに気付かなかったんだ。


「あたしは即死だったからなぁ。鉄骨に両腕が挟まれて逃げられなくてさ、その後すぐコンクリート片が頭に直撃したの。痛みを感じる暇もなくて……。あたしの能力が物を浮かせるのは、瓦礫に埋もれたからかな?」

 

 月色砂子と融合して目覚めた時、流れた血は軽く致死量を超えてた。あ、これ死んでたと痛感したっけ。瓦礫は払いのけたけど、両腕は鉄骨が貫通していて、満足に体も動かせず、また(・・)死ぬかなっていう時にヒーローに救われたんだ。

 

 生と死の狭間で月色砂子を取り込んだから、かろうじて蘇った。

 では月色砂子はなんなのか?それはわからない。

 なんで生き返れたかも、サッパリだ。

 それはサレナも一緒なんだって。わからないって……怖いよね。


「一度死んだ経験があるから……?アリアがいつも強がっているのは?」

 唐突にそんな事を言われた。……なにを馬鹿なことを言ってるのかな。

「そんな風に見えた?あたしはね、今生き直しをしてるんだよ。今度は悔いのないように生きたいだけ。家族や友達と思い出をたくさん作りたいし、新しい人生は夢が目一杯あるんだよ!幻のヒーローを見つけるって目標もあるし、楽しくて仕方ないのに!」


 全力でアピールするあたしを、サレナは静かな目で見返してくる。

 サレナのライトグリーンの瞳は、少しネルスに似ている。目つめていると、何もかも見透かされそうだ。


「悩みがわかるって言ったでしょ……?ワタシだって通った道だもの。……なぜ思い出をたくさん作りたいの?二度目の生がいつまで続くか、わからないから?」

 ドクンと心臓が跳ねた。嫌だ、やめて。


「今回のお饅頭の件も、早急に進めて……まるで生き急いでるみたいだと思ってたわ。ワタシ、ひーらちゃんもよく観察していたのよ……。迷いがない生き方は、いつ死んでも後悔しないように?」


 あたしの心に踏みこまないで!言葉で切り込まないで!!やめて、やめて!


「いつ死ぬかわからない脅迫観念がついて回る……。余裕がないと、人は笑えないのよ……。あなた、上手く笑えないこと、気にしてたわね」

「そんなこと……ない」

 

「じゃあ極めつけ。さっき……なんで怒ったの?……彼のこと、好きだからでしょう?」

「やめて!認めさせないで!あたし、あたし、恋にうつつを抜かす暇はないの!……立ち止まったら、終わっちゃう気がするんだ。 セトだって、まだ13歳なんだよ。なのにお母さんもお兄ちゃんも、お婆ちゃんも次々いなくなって、お父さんはセトが物心つかない内に死んじゃったから、もうあたしとお爺ちゃんしかいないんだ!だから、あの子の成長をもっと見てたい。他に心を裂く余裕なんてないのに……」


 今日のあたし、どうしちゃったんだろう?堅く抑えてた気持ちがボロボロ零れて、止まらない。

 ううん、本当は、もうわかってた。


「ネルスは……ネルスの寄せる好意は、すごくささやかなんだ。だから拒めない。心に、しっかりガードを張ったつもりでも、ちょっとずつ、ちょっとずつ想いが募ってきて……。

些細なきっかけで爆発しそうになるから、わざと気付かないふりして、心を鈍らせて耐えてたのに。ハイドの洗脳だってわかってても、あんなに強く抱き締められたら、抑えきれなくなっちゃうよ!!」


 さっきの怒りは、色んな想いが爆発したからもある。最低な、八つ当たりだ……。

 ネルスはいつもあたしのために怒ってくれる。

 一緒にいると楽しい。……幼なじみは厄介だ。

 苦しい時、悲しい時、嬉しい時を分かち合ってきた。リアムとネルスで異なる想いに、せっかく蓋をしてたのに。


 こんな不安定な状態で、恋に気付かせないで!!


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