ゆるキャラの日常②
建物と建物の隙間を通り抜け、たどり着いた地下研究所入り口には、先客がいた。頑丈な鉄の扉をオープンにして、あたしを待ってくれているみたい。
「よう、ひーらちゃん。また雷電あたりに仕事押し付けられたんだろ?大変だな」
気さくに声をかけてくれるのは、強面というか、狼顔のワイルドなヒーロー。
さっきの雷電さんみたいな正統派ではないけど、ニヒルな雰囲気のあるダークヒーロー、その名もウルフナイト!
艶々の黒い毛並み、子供が泣くくらい鋭い眼光。凶悪なデザインの装備でも、格好良いからひーらちゃんと違って、人気があるの。
いわゆる、ライバルからスピンオフして主役になるタイプ。
そして、彼は数少ないひーらちゃんのファンなんだ!
いつもこんな風に、先回りしたかのように現れて、ちょっとした手助けをしてくれたり、飴やチョコをくれたり、頭撫でてくれたり、ツーショット写真を携帯の待ち受けにしてたり、私室をちっとも売れないひーらちゃんグッズで埋め尽くしてたりと、かなりディープなファンぶり。
ちなみに、なんでプライベートまで知っているかというと、彼、実は幼なじみなんだ……。
ヒーローもゆるキャラも正体は極秘だから、あたしが一方的に気付いてるだけなんだけど。
でも間違いないと思う。
髪(毛)や瞳の色合い同じだし、変化系の能力で変身してるっぽい。
そもそも、ひーらちゃんファンという、有り得ない共通点があるからね!
こんな悪趣……個性的な趣味が一致するなんて、普通ないし。
いや、中のあたしが言うのもなんだけど、ひーらちゃん、本当に可愛いくないし。目死んでるし……。 愛着はあるんだけどねぇ。
「しかし、雷電。あいつ、どうしてくれようか……」
ぐぐっと彼の牙が剥き出しになり、低い唸り声が響き渡る。
本気で怒ってない!?
いやいやいや、あたし元々研究所に用はあったんだよ!?ヒーローのサポートをするためにひーらちゃんはいるんだし。
何より、ヒーローに恩返しをしたいっていうあたしの望みにも合致するというか、あぁ、喋れないってもどかしい!耳も塞がってるから上手く伝えられない……。
布の手を振って伝えようと、努力するけど無理だろうな。
「ひーらちゃんがあいつを庇いたいのはわかった」
通じた!すごいなネルス!(←彼の本名)
「だが、下積みはヒーローに必要なことだ。甘やかしは堕落に繋がりかねん。仕事はちゃんとさせろ、いいな?」
幼なじみの欲目かもしれないけど、雷電さんと違ってしっかりしてるな~と感心する。
でも、あたしのせいで雷電さんが怒られるのはちょっとね……。
そんな迷いも、彼は的確に読み取っていく。
「今度から気を付けると約束できるか?それで、今度また写真を撮らせてくれるなら、今回はうるさく言わんでおく」
裂けた口の端が上がる。ずい分と獰猛だけど、きっと笑ってるつもりなんだね。
あたしは大袈裟に首肯して同意を示す。
「じゃあ、仕事頑張れよ」
彼はポンっと優しくあたしの頭を撫でた。スーツ越しだけど、なんかあったかい。
今、あたしは夢に、“望み”に一番近い所にいるんだ!
言われなくても頑張るよ!
そんな思いをこめて会釈すると、あたしは研究所へと下って行った。