契約
「あなたを今から処刑します」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ。この手錠を外してからにしてくれ」
せめてこのくらいは良いだろう。でないと、俺が辛い。
「いや、ダメよ。すぐ始めます」
「な、何で⁈手錠くらいいいじゃないか!」
「うちもそれはダメだと思うよ、伊調瑛子」
赤髪の少女が言った。
「あなたは煌田愛姫⁈何であなたがここにいるの?」
「面白そうなことしてたから、教えてもらってたのよ」
俺としては、生きるために必死だったんだが…。
「その手錠はあなたがやったのね。そのままこっちに引き渡しなさい」
「遠慮しとくわ。もっと面白い話を聞かなきゃならないから」
おおー、助かった。どうぞなんて言ったらハリ倒そうかと思ってた…。
「なあ、良い加減この手錠を外してくれよ」
「あ、ごめん〜」
ガチャガチャっと、手錠を外してくれた。やっと両手が自由になったので、開放感があった。
「ああー、楽になった。おし、で何だっけ?」
「あなたはバカなの?自分のおかれた状況を考えなさい」
おっと、そういえばそうだった。俺は今から殺されるんだ…。どうする?逃げるか?
「さあ、覚悟は良い?」
「逃げて⁉うちが何とかするから⁉」
「ああ、悪りぃ」
俺は後ろを向いて走り出した。女の子に任せるなんてしたくなかったが、不良どもをほぼ一人でやったんだ。今回もやってくれるだろう。確率で考えても、カッコつけるより断然良いだろう。俺はただ、そう信じて走った。
「愛姫はあなたたちで抑えなさい。稔美さんはあいつを」
「承知しました。お嬢様」
お嬢様⁈俺は驚いて振り返った。次の瞬間、腹に強烈なパンチが当たった。
「うっ、くぅぅぅぅぅ」
辺りをみると、男たちは全員倒れている。だが、赤髪の少女も倒れていた。
「お嬢様、捕まえました」
「ご苦労様です。稔美さん」
俺は力が入らず、立つことはできなかった。情けない…。女の子に任せて逃げたのに、すぐに捕まり、抵抗することもできないなんて…。
「ど、どうするつもりだ…?」
「え?殺すって言ったじゃない。契約は絶対よ」
契…約…?そう、契約だ!彼女はうそをつくのが上手い。契約なんてうそだと赤髪の少女が言っていた。もし本当にそうなら、そんな契約はしていないはずだ。
「おい、伊調瑛子。俺は契約なんてしてないぞ?」
「はぁ?何言ってるの?しっかりと契約したじゃない」
当然の反応だろう。俺も契約したのは覚えているし、内容もバッチリ覚えている。だが、ここは生きるためにかける!
「契約は絶対なのよ。あなたが忘れても私は忘れない。だから、契約内容に従って、あなたを殺します」
「ただ、握手しただけなのに?」
「あれが契約って言ったでしょ?」
「はぁ、お嬢様。また、そんなうそをついていらっしゃるのですか?」
ため息交じりに、隣に立っていた女性が言った。見た目からして真面目で、頭も良さそうな人だった。
「契約なんてうそなんだろ?」
「うそじゃないわよ!」
「いや、その契約は成立しませんよ、お嬢様」
2対1だった。なぜこの女性が俺の見方になるかはわからない。だが、今は味方を増やすことは良いことだろう。それで、伊調瑛子を止めれるのなら…。
「もー、何よ!稔美さんまで」
「この方は、表の世界から来た人ですよね?」
「ああ、俺は表の世界から来た。っていうより、来てしまったの方が正しいんだが…」
何回考えても、あの日もう少し早く家を出るか、遅く家を出るかにすればこんなことは起こらなかったはずだ。悔やんでも、悔やみきれない…。
「表の人間はみんな殺すのよ!じゃなきゃ、こっちの人はみんな死んじゃうのよ!」
今すぐにでも泣きそうな声だった。
「いえ、お嬢様。表の人間がここの存在を知ったところで、何か起こるわけではございませんよ」
え?どういうこと?俺がこの世界のことを知ったらやばいから、殺そうとしたんじゃないのか?
「あの、すみません。それはどういうことです?」
「あなたさまはお嬢様に騙されていたのですよ。お嬢様も悪気はなかったのです、どうかお許しを…」
「いや、俺は良いんだけど。赤髪の子は大丈夫?それと、俺が殺される理由は…」
さっきから心配なのは、赤髪の少女がピクリととも動かないことだ。怪我をしているようには見えないが…。
「はい、あの方は気絶しているだけでございます。怪我などは一切しておりません。このわたくしが直接手を下すなんて、とても強い方でした」
「そうなのか、良かった」
「ちょっ、ちょっと何和んでるのよ!稔美さん、こいつを殺しなさい」
「お嬢様、すみません…」
彼女は伊調瑛子の首を後ろから叩き、気絶させた。
「良いんですか、そんなことして」
「大丈夫ですよ、気になさらないで下さい」
「なら良いけど…」
少し心配にもなったが、この女性が大丈夫と言うと、とてつもない安心感があったので、気にしなかった。
「この場ではなんですので、お屋敷に行きましょう」
「ああ、でも倒れてる奴らはどうするんだ?」
「車があるので、全員乗ると思いますよ」
10人くらいいるのだが、大丈夫なのだろうか。車らしきものがこっちに近づいてきた。って、リムジン⁉確かに全員乗るけど、俺なんかが乗って良いのだろうか?
「さあ、早くお屋敷に行きましょう」
「は、はい…」
倒れていた男たちをドカドカ乗せて、赤髪の子と伊調瑛子は優しく乗せていた。
「お屋敷までは数十分なので、それまで我慢して下さいね」
「あ、はい」
とても大きな家が見えてきた。
「あの、もしかしてあれがそうなんですか?」
「はい、あちらが伊調家のお屋敷となります」
「で、でかいですね…」
俺は呆気にとられていた。俺の家とは大違いの大きさだった。家の前には門があり、車がそこに着くと、自動で門が開いた。
「うわっ、すげっ」
思わず口から出てしまった。俺なんかがこんなところに来て良いのだろうかと思ってしまう。庭なんかとても広くて、美しかった。
「庭、綺麗ですね」
「ありがとうございます。そう言ってもらえると、毎日手入れしているかいがあるというものでございます」
車はやっと家の前にはたどり着いた。門から何分かかったことか…。広過ぎるだろ…。車を出迎えたのは、数人のメイド服を着た女性だった。
「おかえりなさいませ」
「瑛子様とその友人を運んどいて下さいます?」
「かしこまりました」
この人はこの家に仕える人の中でトップなのだろうなと俺は自分の中で勝手に決めていた。
「わたくしについて来て下さい」
「あ、はい」
どこかに連れていかれるのだろう。まあ、普通に話を聞くだけだろうから、適当な部屋だろう。