考え事
「お帰りなさいませ、奏太様」
そう言って出迎えてくれたのは斬谷さんだった。毎度毎度出迎えてくれなくてもいいのにと内心思っていた。
「ただいま…」
俺は元気のない声で返事をした。
「どうかなさいましたか?」
斬谷さんは俺を心配したように聞いて来た。
「ああ、ちょっといろいろあって…」
俺は一応内容は伏せておいた。知られたらまずい事かもしれないし、何より自分で言うのが嫌だった。
「そうでございましたか。今日は早くお休みになられると良いですよ」
斬谷さんは内容を聞こうとはしなかった。俺はとてもありがたいと思った。自分の気持ちを汲んでくれて、それ以上は聞いてこなかったからだ。
「ありがとうございます」
俺はお礼を言って、自分の部屋に戻った。部屋に戻ってからはベットで寝っ転がって考え事をしていた。もちろん、その考え事とは表と裏の世界の狭間についてだ。俺がそこに行くという確率は理論上あり得ないらしが、やっぱり不安はある。なぜなら、俺がやる実験は俺が試験台、つまり最初の人になるからだ。安全が理論上確立されていても、他にやったことがある人がいないと不安になる。それに狭間に行ってしまったら、もう二度と戻ることはできないからだ。やっぱりあの交換条件はやらなかった方が良かったかもしれないと俺は思った。
「そーくん、ご飯できてるよだって〜」
愛姫が部屋の前で言っているのが聞こえた。だが、今は何も食べる気にもならなかったし、食べれないと思った。
「悪い、今日は夕飯要らないって言っておいてくれ。それと今日はもう寝るから静かにしておいてくれよ」
俺は愛姫に頼んでおいた。そうでもしないとたぶん宿題のことでまた呼ばれると思ったからだ。
「わかった〜」
愛姫は返事をした後、ドタドタと走って行った。たぶん、夕飯は要らないと伝えに行ったのだろう。こき使って悪いと俺は内心思っていた。
あれからどのくらい時間が過ぎただろう。俺は寝付くことができなかった。寝ようとして、目を閉じるとあの事が頭に浮かんでくる。考えたくもないが、どうしても意識がそっちに行ってしまうのだ。それほど俺にとってインパクトがあったのだろう。そうだと思って俺はノートを取り出した。ノートというのは、昨日まででわかった事をまとめたノートだ。俺はそこに新しく
・表と裏の世界の狭間に行くと自分の存在がなくなる
と付け加えた。何をどう見ても、危ないだろう。心配だ、そう思っているとさらに寝る事ができなくなってしまった。時計を見ると、午前二時となっていた。普段俺はこんなに遅くまで起きていない。というより、起きていられない。体は疲れているのに、頭がほぼフル回転しているおかげで、全く眠気がなかった。このままいくと明日の朝、正確には今日の朝までに寝る事はできないだろう。だが、幸い明日は学校がない。だから少しは起きるのが遅くても良いだろう。俺が気を抜けてやっと寝れたのは、午前五時過ぎだった。




