双子の少女
街の外れに来た。ここまでは歩いて30分ほどだろうか。
って、おい!30分で街の外れから外れまで行けるってどんだけちっちゃいねん!
と、思わずツッコミそうになった。
「さあ、着きましたよ。私が通っている学校です。ここの図書館にあるはずですよ」
「おう、ありがとう」
少女は学校へスタスタ入って行った。俺もそれに続いて学校に入った。
「全く、すごい広いな」
「そうですか?この世界にはこの学校しかないので、普通ではないですか?」
まず、裏の世界にも街があったり、学校があるもの不思議だったが、学校が一つしかないのも驚きだった。
「学校って一つしかないのか?」
「はい。表の世界はいっぱいあるんですよね」
少女の目はとてもキラキラしていた。俺がいた世界(表の世界)にとても興味があるらしい。その話になると毎回目を輝かせる。
「まあ、たくさんあるな。でも、楽しいものでもないぞ」
「そうなんですか⁈でもやっぱり生で見てみたいです!」
全く、急に元気になるからこっちの反応が困る。普段はとても弱々しいのに、この話にはがっつり食いついてくる。これは二重人格に近いのだろうか…。
「すみません。少し待っていてくれませんか?」
「ああ、いいよ。どうしたの?」
「それは女の子にしてはいけない質問ですよ」
少女は質問に答えないまま行ってしまった。そしてトイレに入って行った。ああ、トイレね。そりゃあ、聞いちゃいかんわな。一人でで納得するように、うんうんと気づいたらやっていた。
すぐに少女はトイレから出てきた。
「早いね」
「は?何のこと?」
変な返しに俺は少し戸惑ったが、そのまま続けた。
「早く図書館に案内してくれよ」
「図書館?あんた初めて会ったのに何言ってんの?」
とぼけているのだろうか。髪もツインテールからストレートにし、今まで話したことも忘れてしまったのだろうか。
「いやいや、さっきまで一緒にここまで来たじゃないか」
「ここまで一緒に?あたしはあんたのこと知らないんだけど」
どうやら本当にさっきの子ではないらしい。見た目はそっくりだが、話してる内容が全くかみ合わない。じゃあ、この子は誰なのだろうか…。
「すみません。お待たせしました」
トイレからまた一人少女が出てきた。ツインテール、気弱な感じの少女だった。
「あれ?何でお姉ちゃんがここにいるの?」
「何でって言われても…。何かこいつがいきなり話かけてくるから…。」
「はぁ?何で二人いるんだよ。分身でもできるのか?」
俺は目の前にいるそっくりの少女たちに聞いてみた。
「あ、ごめんなさい。驚かせてしまいましたね。こっちはお姉ちゃんですよ。私たち双子なんです」
「何?伶華と一緒にいたの?」
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん失礼だよ。この人は表の人間なの」
「は⁈表の人間⁈」
すごい驚きようだった。こっちの世界には珍しいことなのだろう。裏の世界からは勝手に行き来できるらしいが…。
「そう、俺は表の世界に住んでる。そして妹ちゃんにここからの脱出方法が書いてある本の場所を案内してもらってるわけ」
「何で伶華が表の人間と一緒にいるのよ⁉」
「助けてくれたんだ。困ってるときにな」
はぁ、とため息をついていた。
「あんた、また変なのに絡んだのね」
呆れ顔だった。
「いや、困ってたから…。つい」
「つい、じゃないわよ!危ない人だったらどうするの⁉こんなヘッポコじゃなくて、怖いくて凶暴だった一人で対抗できるの?」
「う、うぅ。ご、ごめんなさい…」
とても妹思いの姉だな、とつい感心してしまった。ついでに、苛立ちも覚えたが…。おっと、こんなことしてる場合じゃない。本題へ戻らなければ。
「とにかく妹ちゃん。図書館に案内してくれ。時間がなくなっちまう」
「はい、わかりました」
「ちょっと待ったぁぁぁぁ!」
後ろからとても大きな声で言われて、鼓膜が破れるんじゃないかと思った。
「何だよ。こっちは急ぎの用事なんだが…」
「一緒に行かせるわけないでしょ⁈こんなヘッポコと一緒にいたら、伶華が危ないわ」
「大丈夫だよ、お姉ちゃん。そんな悪い人じゃないよ」
「いや、素顔を隠してるかもしれない」
「何でそんなことしないといけないんだよ」
つい飽きれた口調で言ってしまった。こっちは早くこの世界からおさらばしたいのだ。
「そんなに心配するんだったら、お前もついてこれば良いだろ?何もしないけどな」
「そうね。ついて行けばいいのよ。なかなかやるわね、あんた」
少し考えればわかることだろと言いたかったが、何と無くこいつの性格がわかってしまったので、言うのをぐっと堪えた。
「じゃあ、改めて頼むぜ、妹ちゃん」
「はい」
少し後ろからは途轍もない殺気が感じられた。少しでも変な動きをすると、一瞬で殺されそうな勢いだった…。こっちとしては生きて表の世界に帰りたいのだが…。
「いやー、双子だけあって見分けがつかないよ」
「そうですか?結構わかりやすいと思いますよ。身長はお姉ちゃんの方が少し高いし、お姉ちゃんの方が可愛いし。性格なんて、真逆ですよ」
「そ、そんなこと言われても…嬉しくなんかないわよ…。伶華も可愛いし…」
だいたいこいつの扱い方がわかった気がした。わかりやすくてとても良い。
「照れてるな」
小馬鹿にするように言ってみた。
「照れてなんかいないわよ⁉」
俺にはガツンと言ってくる。妹ちゃんの言ったことにしか反応しないらしい。
「ごめんごめん。悪かった」
「そう、わかれば良いのよ。結構わかる人間なのね」
「嫌な言い方だな。お前よりは、わかる人間だわ」
つい喧嘩口調になってしまった。俺が思うに…。喧嘩になる…。
「な、何よ!あたしが馬鹿だとでも言いたいの?」
「ああ、そうだ」
はぁ、思った通りだ。面倒くさい。俺は何であそこで喧嘩口調になってしまったのだろうととても強く思った。
「あたしは勉強は伶華より劣るけど、スポーツなら学年では一番、学校全体でも五本の指には入るのよ!」
「勉強できないって自分で言ってんじゃん…」
いかん!つい口に出てしまった。意識しないとすぐに口に出てしまうタイプなのだ…。
「はぁ⁈伶華ができ過ぎるだけよ。100人中50番にはギリギリ入ってるんだから!」
「お、お姉ちゃん…。それ、自慢にならないよ…」
ここで妹ちゃんがやっと口を挟んでくれた。こいつ(姉)を一人で相手にするのはとても辛い。何とか助かった気がした。
「何言ってるの?こんなヘッポコなんか、学年ドベに決まってるのよ!」
「んなわけあるかぁー⁉上から数えた方が早かったわ!」
学年ドベという言葉に突っかかった。
「嘘⁉あたしがこんなヘッポコに負けた…⁈」
姉の方は膝まで落としていた。相当ショックだったのだろう…。だが、こんな奴に見下されてた俺は何なんだ…。自分で思って悲しくなってきた。その後もギャーギャー喧嘩をしながら、目的地の図書館に向かった。