もう一人の愛姫
家に帰ってからも俺は愛姫と話すことはなかった。と言うよりも、愛姫と一度も会っていない。いくらこれだけ広い家でも、泊まってる部屋が向かいなら会うと思うんだが…。俺はベットに横たわって、愛姫のことを考えていた。励まそうとしたのが間違いだったのか?それとも、面白くなかったからダメだったのか?いくら考えても答えは見つからなかった…。そして気づいたら十二時を越えようとしていた。
「そーくん、起きてる?」
ドアをコンコンと叩きながら愛姫が言った。
「ああ、起きてる」
「お部屋にいれてもらって良いかな?」
こんな夜にどうしたのだろう?今日のことで何かまた言われるのかもしれない…。俺ももう一度しっかり謝っておきたい。だから俺は部屋の鍵を開けた。
「どうした?」
ドアの前に立っていたのはもちろん愛姫だった。愛姫だったが、いつもはポニーテールにしている髪をおろしていたので、一瞬誰かわからなかった。
「ごめんね」
愛姫が部屋に入って来るなり、いきなり謝ってきた。
「いや、俺も悪かったよ。面白くもない話をして…」
「いや、そーくんは悪くないよ…。うちがそーくんの気持ちをわかろうとしなかったからいけなかったんだよ…」
まったく…、今日は愛姫の普段とは全く違う一面を見せられてばっかりだ。いつもなら軽く流してくれそうなんだが…。
「うちね、面白い話が好きなの」
「?」
どうしたんだ?そんなこともうとっくに知っているのに。
「面白い話って言うのは、表の世界についての話なの」
「そ、そうなのか…。でも、ダジャレも表の世界のものだぞ?」
彼女は首を横に振った。
「違うの。面白くしようとしなくていいの。ただ、普通に表の世界で起こってることや、起こったことがうちにとって面白い話なの…」
「そ、そうだったんだ…。だから俺と初めて会ったとき、俺は普通の話をしただけだったのにお前は面白いって言ったんだな」
彼女は首を縦に振ってそうだよと答えた。
「でも、うちが謝りたいのはそのことじゃないの。そーくんがうちを励まそうとしたのに面白くないって言ってそーくんを傷つけたことなんだ…」
そこまで考えていたのか…。俺はとても意外だと思った。考えはとても単純で、考えるより行動を先にしそうだったからだ。
「いや、俺も悪かったし…」
「そんなことないよ。そーくんは悪くない」
「いや、俺の気持ち的に良くないんだ、ごめんな愛姫」
「こっちこそ、ごめん…」
俺たちはお互いのミスを謝った。そして和解することができた。俺としては和解することができて良かった。俺が一方的に悪いわけではないが、瑛子と任原さんが言った言葉が引っかかっていたからだ…。俺は話し終えたあと、すぐに寝てしまった…。




