喧嘩
「ふぅ、今日はもう終わりにしましょ」
仕事を終えた瑛子が言った。
「やったー!終わったー!」
いや、お前途中から死んでたし…。仕事もほとんどやってなかったじゃないか…。
「そうですね。片付けをしましょう」
任原さんがもう既に片付けながら言った。俺も何か手伝おうとしたが、いると逆に迷惑だと瑛子に言われて生徒会室から追い出された。ついでに愛姫も追い出された。役員なのに追い出されるってお前どんだけ信頼されてないんだよ…。ここは笑えるというよりも、可哀想だなという気持ちの方が大きかった。
「可哀想だな、お前…」
「うん、しょうがないよ…。全然学校に来てなかったんだから…」
こいつはなぜか突然真面目になる。いつもとの差があり過ぎて、俺が焦ってしまう。
「いつものテンションはどうした?」
「うちだって真面目な時くらいあるよ。いつもはあんな感じだけど」
いつもと違い過ぎる…。こんな時はどうすれば良い?………わからん。と、とにかく励ませば良いのか?
「大丈夫だ、どんな奴でもミスはある。だから気にすんな」
何言ってんだ俺〜!ミスって何だよ、ミスって。学校を休んだことか?しかもベタ過ぎるだろ。こんなので元気が出るわけがない…。
「ありがとね、そーくん…」
ほらぁ。ごもっともな反応じゃないか。もっといいもの、こいつが喜びそうな言葉を…
「面白い話してやるから元気だせよ…」
これが効かなかったら、俺はもうなす術なしだ。
「え、面白い話?」
おしっ、食いついた。
「俺が表の世界にいた頃な、ダジャレってのがあったんだ」
「ダジャレって何?」
ダジャレって何と来たか…。あれは何と言えばいいのだろう…?
「うーん、ある言葉を文の中で二回言うってことかな」
これで合ってるのかわからないが、一応質問には答えておいた。
「うん、わかった。それ見してよ」
「おーい、いくぞ。布団が吹っ飛んだ!」
…………………、あれ?
「ね〜、早く見してよ〜」
まさか…、通じなかったのか…?俺は最もベタなダジャレを言ったのだが…。ならばこれなら
「アルミ缶の上にあるミカン!」
今回はどうだ!メジャーなダジャレを言ってやったぞ。
「…………。」
「あれ?通じなかった?」
「つまんない!」
愛姫は突然大声を出した。俺はびっくりしたが、すぐに平常心になった。あー、こいつに言われてしまった…。どうすればいい、この状況…?
「あの…、すみませんでした…」
なぜか謝ってしまった。いや、人間はこういう状況になるとつい謝ってしまう習性があると俺は思う。
「まさかこれだけってことはないよね?」
愛姫のいつものバカっぽい笑顔がなかった…。面白いものにしか興味を示さない愛姫。その愛姫に俺は面白い話があると言って、とても派手にスベってしまった。食べ物の恨みは恐ろしいというが、こいつの場合は面白い話の恨みは恐ろしいだ。やばい、さらに状況が悪化した。どうすればいい…。
「終わったわよ」
「遅くなって申し訳ございません」
そこに瑛子と任原さんが生徒会室から出て来た。
「お疲れ様」
俺は二人に言った。二人には感謝している。この最悪の空気を変えてくれたからな。
「愛姫、どうかしたの?」
瑛子が愛姫の顔を覗き込むように言った。
「いや、何でもない…」
そう言って愛姫はどこかに歩いて行った。
「あなた、愛姫に何かしたの?」
「いや、面白い話をしてやろうとして、俺はダジャレを言ったんだが、見事にスベってな…」
俺が最後まで言い終わると、瑛子に頭を叩かれた。
「痛ってぇな!何すんだよいきなり!」
「あなたはバカなの?愛姫は面白いことにしか興味がないのよ?それをあなたは踏みにじったのよ」
「瑛子様が言っている通りですございますよ」
俺はそこまで悪いことをしたのか?この二人に言われるなんて…。ただスベっただけだろ?
「愛姫はああ見えて、結構繊細なのよ」
そうなのか?言ったこともすぐ忘れそうな気がするが…。
「だからこれからはもっと気をつけて接しなさい」
「わ、わかったよ…」
とても厳しいように感じた。俺はただ面白い話をしてスベっただけなんだが…。
「今から探して謝ってくるよ」
「その必要はないと思います。今行ったら逆効果だと思いますよ」
……。それもそうだな。何かわからないが、俺は愛姫にとても悪いことをしたと思った。それから俺は瑛子と任原さんと一緒に家に帰って行った…。




