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「Beginning」より

 どこかの病院の屋上に奇妙な格好の男2人が屋上の鉄格子越しに反対側の病棟の中央あたりの病室を見下ろしていた。

 2人は一言で言うと違法性組織、言わばギャングのリーダー格のような恰好だった。

 純白のシャツ以外はネクタイまで黒いスーツ姿で黒い中折れ帽を被り、手には皮手袋を装着し、服は靴と言い少々高級そうな雰囲気が漂っていた。

 2人の差は1頭身ほどの背丈と服の隙間から除く肌の色と服装だった。

一人は海外の白人のようで肌はもう一人と比べるとかなり白く、片方はもう一人と比べると日本人のようで肌は黄色人種相応の色だが、日本人と比べると少々白い肌色だった。

肌の色程度は区別は難しいとも言え、遠目では身長での判断しかできないが、服装が明確な違いと言え、日本人らしいのがトレンチコート、もう一人は首にマフラーのように銃弾を収納した白い色のガンベルトを身に着けていた。

 恰好は何にしても2人は正確には病室のある一室にいる患者を見ているようで、2人の視線は病室には患者なのか病院のベッドで寝ている10代前半ほどの少女と、看病していた友達なのか姉妹なのか、同年代ほどの少女がベッドに上半身を預け眠っていた。

 少女2人の顔は非常に近く、どちらかが起きれば寝息が聞こえるほどの距離なのは少々離れた男たちから見ても明らかだった。

「……終わった。な。」

 仲睦まじいことはいいことだと言うかのように首にガンベルトを身に着けていた男の片方は両手をズボンのポケットに入れ、煙草を吸って周囲に勢いよく紫煙をまき散らしながら軽く笑ってそう言った。

 男の笑い方はからかうような物言いではなく、人としての慈愛に満ちたような物言いだった。

「……とりあえずは、な……」

 コートを着ているほうの男は片方の男と同じようにズボンのポケットに手を入れていたが、屋上の柵に港の波止場のように片足を乗せ片方の男の言葉に対し対象的に何かを心配し、懸念するような口調で目を向けた。

「……とりあえず、か?」

 コートを着た男の言葉に対しもう一人の男は言葉を返す中で男は片足を柵から下し、身体の向きを反対方向に向け、鉄格子に背中を預け、鉄格子に腕を乗せ、男のほうに目を向けた。

「……これは、『始まり』にしか過ぎない。(It is still 『beginning』)」

「……」

「……俺たちがそれを一番解っているんじゃないのか?」

 コートを着ている男はもう一人に対して非常に真剣な物言いと表情で言い、男が煙草を吸い終えて踏み消している中で、コート姿の男は振り払えない何かを思うかのように男から目を反らし、考え込むかのように顔を下に向けた。

 少しの間場に沈黙の時間が流れると思った瞬間に不意にコートを着た男の身体に奇妙な現象が起きた。

 簡単に言うと身体が揺れたと言う表現が正当で、男の身体全体の輪郭が時間にして一瞬で気のせいかと思うかもしれないが、一瞬だが崩れかけた。

「……ウェブロイドの寿命も限界か……」

 もう一人の男はコートの男に対して起きた一瞬の現象を決して見逃したとは言う気はないような様子で言葉を返し、不意に自分も確認するように男は自分の手を見ると同じような現象が男の身体にも起きた。

「……土台無理な話だ。仮想人格を世界平和に貢献させるなどな。」

「……」

「……俺たちは粗悪(デッド)模造品(コピー)だ。」

 2人は発達した科学技術による像の投影、言わば立体映像などの類のような存在のようで、自分も同じことが起きていると男が確認する中でコート姿の男はもう一人のほうに顔もむけずに話を続けた。

「……何が本物なんだろうな?」

「……少なくとも彼女たちは本物だ。」

 コート姿の男はもう一人のほうには目を向けず再び先ほどの病室のほうに目を向け眠っている少女たち2人に目を向け、少々悩んでいると言うように言うと、もう一人は端的に返した。

「……そうだな。」

「……フ……」

「……粗悪(デッド)模造品(コピー)だと批判した、俺らしくもない答え、なのかもしれないな、これは……」

 男の言葉に対してコート姿の男はその通りだと言うように言葉を返し、もう一人は軽く笑って返し、コート姿の男は少々残念だと言うような表情を見せた。

「……事件の事実公表後、行方不明の生死不明の俺たちの本物とは大違いだ。」

「……ここから、俺たちの本物の出番、か……」

 コート姿の男に合わせるようにもう一人は病室内の少女たちに目を向けて言う中で、コート姿の男は辛気臭そうな面持ちな顔で男に言葉を返した。

「……奇妙な表現だが、任せるしか……な、い……?」

「……?」

 もう一人の男がコート姿の男に言葉を返す中で不意に風に乗ってか後ろから小さくて軽いのか白く薄い物体が男の前を飛んで行き、男は思わず手を伸ばし、コート姿の男はその奇妙な反応に気が付いた。

「……お、おい? 山中?」

「……なんだよ? リー……」

 男は手を伸ばしたが手が届くことはなく、立体映像のために届くはずもなかったが、飛んできた方向に、言わば後ろを向き、コート姿の男のほうに声をかけ、コート姿の男は振り返り、合わせるかのように後ろの光景を見て思わず静止した。

「……オオアマナ(ベツレヘムの星)、かと思ったが……」

 言葉を失っていたが最初に口を開いたのは男のほうで、病院の屋上には庭園が造られおり、2人の目の前には屋上という狭い場所には少々大き目な桜の木が植えられ、桜の木の後ろには桜並木が造られていた。

「……桜、ソメイヨシノ、種を継ぐんだ、この花もそうなのか……?」

「……桜、か、始まりの花とも言えるな……」

 目の前を桜の花が舞い散り男が呟くように言う中で、コート姿の、もう一人から山中と呼ばれた男が独り言か、もう一人のリーと呼んだほうに言ったのかそう口を開いた。

「……始まり?」

「……お前ら欧州では学校とかの公共機関の始まりは秋が普通だが、日本では、桜舞う季節に、春に始まる。言わば、俺たちには始まりの花だ……」

「……始まりの、花……」

「……粗悪(デッド)模造品(コピー)とは言えないさ……」

 もう一人の男がコート姿の男に質問する中でコート姿の男は答えを返し、答えを返された男は目の前の光景に対し、言葉通りに見とれていると言うような状態だったが、不意に先ほど起きたように再び2人の身体の輪郭が揺れて崩れ始めた。

「……冥途の……土産に、良い……ものを……見たな?」

「……山中?」

 目の前の光景に対しての感想か、コート姿の男は穏やかな表情でものを言うが、先ほどから再び起き始めた輪郭の崩壊に合わせ、声も途切れ途切れになり始めていた。

「……さぁ、粗悪(デッド)模造品(コピー)の俺たちは本当にここを去ろう。退場だ。再び目覚めさせられ、老兵としても、人間としても、何にしても、長く行き過ぎた。」

「……」

「……ここで再び、永遠の眠りについても、誰も攻めも卑下もしないだろう……」

 コート姿の男が言う中で少しの間だが輪郭が崩れるのが止まり、2人は顔を合わせ、コート姿の男は再び言う中で頭に被っていた帽子を被り直し、もう一人も合わせるように帽子を被りなおした。

「……」

「……」

 帽子を被りなおしたコート姿の男は最後にと言うかのように再び病室の少女たちのほうへと顔を向け、敬礼を行い、もう一人も合わせるように軽く笑ったが合わせるように敬礼した。

「……頼んだぞ……」

「……」

 コート姿の男が言うと、2人の姿は少しずつだが足の先から姿が消え始め、時間にして十数秒ほどで彼ら2人はその場から姿を消した。

 男たちがいた屋上の端の鉄格子は周囲の桜が舞い散る景色は華やかな景色で、風が吹くなどの自然の音がしていたが、人の気配はなく、静かな光景が広がっていた。

「……可能性の一片、か……」

「……そうですね。フフ……」

 静かで壮麗な光景だったが、男たちが姿を消した後、男たちのいた場所の近くで不意に金属か何かが高い場所から落ちたような乾いた音が響き渡った。

音が聞こえた場所を見ると一部の塗装が剥がれて一部が不恰好に銀色だったり銅色だが、黒くて小さい円筒形の物体が2つ落ちており、どこにいたのか解らないが、不意に聞こえた声の主のうち後者が1つを拾い上げた。

「……それだけでいいのか?」

「……ええ……」

 2人とも女性のようで、前者の女性は後者が拾い上げた物体に対してか後者の女性に対して不思議そうに聞き、後者の女性は拾った物体を両手で優しく握りしめ、胸の前で嬉しそうに抱きしめていた。

「……すべて、計画通りに事が運びましたから。」

「狂気的だな?」

「ええ、ですが、この世界の真実と1人の人間に執着する意思と、どちらが狂気的ですか?」

 後者の女性はうれしく明るそうに話ながら落ちていたもう一つは対照的にまるで心底憎いと言うように足で勢い良く踏み潰した。

踏み潰して乾いた音が響く中で、前者の女性はと言うとうれしいのは解るが限度を知れと言うような物言いだったが、後者の女性の質問にたいし、仕方ないと言うように溜息を吐きだした。

「悪かった。……あ……」

「別にいい悪いとは言っていませんよ? 事実ですからね?」

「……」

 前者の女性は後者の女性の言葉に対して先ほど自分が言ったことに対して謝ろうとする中で後者の女性は軽く笑いながら言葉を返し、前者の女性はどうしようもないと言うような反応を見せた。

「お前、あの男に……」

「……とりあえず、帰りましょう。ここではわたしたちが粗悪(デッド)模造品(コピー)、本来存在してはいけないのですから。」

「……」

 後者の女性は前者の女性が言うことも聞かない中で、少々楽しそうな、笑い出しそうな雰囲気で言葉を返して歩き出し、何も言えないというような気難しそうな顔の前者の女性を通り過ぎて行った。

一方で前者の女性は後者の女性が歩き去るのを見てあと、病室の少女2人か男2人か解らないが、屋上の端のほうを軽く見た後、後者の女性を追いかけるように歩き去った方向に小走りに歩き出した。

男たちに完璧と言うまでは言えないが、合わせるかのように2人の気配は本当に消えるかのようにその場からすぐにいなくなった。

咲き誇る桜だけが目撃者だった。

実際には見ているとは到底言えず証言の類ができるわけではないが、この場には少々不釣合いでこそあるが、桜の木が存在し、桜だけが病室の少女2人と、屋上にいた2人の男と、不意に姿を現した2人の女性の姿を見届けていた。


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