「Balancer」より
前日談と形容される話がこれから始まるわけだが、語り手は僕だけではなく、僕が話せる内容には限りが存在するが、僕はその1人として最初の話をするが、正確にはこの話は後日談の話と前日談の中間に位置する話だ。
後日談の中に入れるべき要素が強いが、前日談としての要素も色濃く持ち、話すとしては中途半端だと思っていたが、これから話すにおいて一番妥当な話だと思った。
読み手には理解されない話かもしれないが、僕にとっては理路整然として筋が通り、順序的にも問題ない話だとも考えている。
日の出が近い時間であり、日の出前からのぞく太陽の光とまだ空高くに存在している月や星灯りが写し出された大地の光景は正確にはいつのどこかもまったく知れないが、ここには数えきれないほどのたくさんの廃墟が並んでいた。
人間の肉眼で見える範囲での正確な規模を測定すると1つか2つの大きな都市、小さければ国ほどの規模で、都市としての機能は確実に喪失していることは確かで、建物は壊れて崩れ、ガラスも割れ、照明の類の人工的な光は見受けることはできなかった。
簡単に言うとかつては先進的で便利な都市だったが、現在では朽ち果てて命すら危うい場所へと変わり果てていた。
幅も計り知れないほど広く、どこかの誰かが口を開けば夢や幻、果てには地球ではない惑星ではないかと言うほどの退廃ぶりで、気温の類は計り知れないが、周囲を吹き抜ける風の音は残酷かとも思えるほどに寒そうな音を出していた。
観光など誰もしないというような雰囲気だが、自然災害のいたずらのたまものか、都市の中央の一番高い建物が途中で崩落し、少し離れた場所の建物に倒れて止まっていた。
冗談とも言えない話だが遠くから見ると大きな入口のようにも見え、人を半場強引にでも戻そうと、招き入れようともしているようにも見えた。
事情も知らない人間が不意にここに運ばれれば不満と疑問は必然的に発生すると言えるが、誰かが運ばれてくることもなく、人の気配もないに等しいが、不意にこの廃墟の中で銃声らしき音がどこかから勢い良く響き渡った。
少ししてすぐに数発ほどの銃声が再び響き渡り、銃声の元である銃の持ち主の手には暗闇では解り難いがどうやら2人組のようで、片方の手には大型の突撃小銃が握られており、もう片方の手にはセミオート式だと思われるショットガンが握られていた。
人がいること自体が奇妙なことだが、さらに奇妙な現象だが、2人の眼は目の近くに照明機器を装着しているのか、人型の機械なのかは正確には計り知れないが、照明機器が周囲を照らすかのように青白く発光していた。
奇妙な光源で時間的に薄暗いが、光は電子的で継続的な発光音を出し続け、2人の姿のおおよその輪郭を映し出していたが、これも場不相応の格好だった。
銃を所持しているが軍服のような武装した服ではなく、スーツ姿で、中折れ帽を被り、突撃小銃を持った男はトレンチコート、もう一人は両肩に首にかけて白い色のシェルホルダースリングをかけていた。
一瞬だが銃口から強烈なマズルフラッシュが排出され、硝煙の匂いと煙が周囲に舞い、役に立たない高温で真鍮の塊となった薬莢が排出され、銃独自のメカニズム音と排莢され薬莢が地面に落下して乾いた音が響き渡った。
銃声が一度おさまると、銃口は先ほど銃弾が飛んだと思われる方向に向いていたが、銃口の少し下で何かが大きな音を出して落ち、強烈な赤い光を放つ何かが動いていた。
2人こそ、後日談に登場する人物で、1人は僕の代理人で、もう1人はその相棒のリード ファイヤーだ。
「―――やはりソー(トカゲ)か。」
突撃小銃を持っていた男、山中が銃口の下で動いている物体の苦しそうな声を聴きながら不意に言葉を発った。
若い男の声だったが、この声は奇妙な声で、例えると無線機のような機械越しのような、機械で加工された人工音声のような声で、独特のエコー、反響が起こっていた。
声と行動に合わせてか、物体に突撃小銃のフォアグリップ付近に装着されていたタクティカルライトか何かの光で物体を照らした。
光は光源にレーザーサイトも装着されているのか、光の中心よりも少々右寄りに青い点が写し出されていた。
戦闘用機器特融とも言える奇妙な光源に照らされた動く物体は一言簡単に言えば恐竜のような外見だった。
体長は1.5mほど、爬虫類特有の固くひび割れたような皮膚に覆われ大きく長い口には鋭利な犬歯が歪な長さで大量に並んでいたが、最大の相違点か特徴か解らないが、両方の眼が赤く発光していることだった。
「―――」
銃口と照らされた光の前でソーと呼ばれた怪物は地面に腹這いに倒れ、苦しそうに動き回り、銃で撃たれたのか地面には血液か、赤い液体が流れ出し、最後の力を振り絞ったのか最後に声にもならない小さい断末魔をあげて地面に倒れた。
「―――相変わらず油断も隙も無いな?」
片方の男、リードがソーの断末魔を見届ける中でもう一人のほう同じ年齢ほどの若い男のような声で背中越しに言いながら、銃弾を再装填しているのか、金属の小刻み良い音が背後から聞こえた。
もう一人の男、リードの声も山中と比較すると、似たような奇妙な声を出し、双方自然なものなのか気にする様子もないようだった。
「―――知能も人間並みに近い種も存在している、そして―――」
山中が言葉を発する中で、先ほどまで動いていて一匹か一頭かと定義できる光に照らされている一体の死体と言う物体へと変化する中で、不意に身体の輪郭が崩れ出し、形を失い、水に比べると遅いが、地面に吸収されるように溶け出していた。
「―――自然の摂理にも反している。」
土にかえったと言えば聞こえはいいが、あまりにも異常で高速で血液の跡も消え失せたが、リードは当然だと言うように言い、山中はもう一人に合わせるように手に持っていた突撃小銃の弾奏を交換した。
「―――祈りは済ませたか? せめてもの慈悲だ。それだけはさせてやる。」
突撃小銃を持っていた山中が弾奏を捨てず、服の中に収納し、新しい弾丸を装填し、薬室内に弾丸が装てんされているか確認する動作、『チャンバーチェック』を行い、銃を構え直した後リードが銃を構え直しがら冷たく言い放った。
「―――」
先ほど地面に姿を消した怪物は一体だけではなく、いつの間にかと表現すべきか、2人はいつの間にか同じような姿の怪物たちに包囲されていた。
リードが軽口をたたいたが、怪物たちの数は少なく見積もっても5、6匹以上でどちらかと言えば不利に近い状況とも言えた。
実際の恐竜がどうかは解らないが、屈強そうな身体や口元の犬歯も含め、前後ろの両足に鋭利な爪を持ち、獣や猛獣にみられるような唸り声や食欲に餓えた口から荒い呼吸と唾液を垂れ流していた。
どのような戦いでも、日々の日常でも言えることだが、一瞬の油断が命取りとも言え、2人が背中合わせに銃を構える中で怪物たちは威嚇するためか勢いよく低く大きな鳴き声を上げると攻撃を仕掛け突撃し始めた。
恐怖と言うべき光景だが反面2人は怖がる様子など微塵もなく、ショットガンを持っていたリードは目の前に迫り大口を上げていた一体の口に銃弾を平然と叩き込んだ。
銃声が先か、悲鳴が先か一切わからないが、怪物の頭部は銃のストッピングパワーで大きな音を上げて砕け散り、そのさなかに突撃小銃を持っていた山中は銃弾を少し離れた一匹の頭に撃ち込み、顔の上部が砕け散った。
「―――」
たくさんの怪物対銃を持った2人の人間らしき存在の激闘は続くが、数量では怪物が有利で、質量では2人が有利なようで、暗闇の中で本気で一歩も譲らない戦闘が展開し始めた。
「―――?!」
突撃小銃を持っていた男の山中は現在では一般的な5mm口径ではなかった。
正確には7mm口径の大型ライフルの部品をRISやフォアグリップ、伸縮性ストックなどで近代換装および、改修した銃で、銃に対して少々大型の高倍率のスコープ越しに先ほどから獲物を一匹ずつ狙っていたが、不意に左側の赤い光に視線が回った。
正確には少し先の割れた窓ガラス越しに一瞬だったが、山中は確かに確認し、一瞬だけ背後を確認するともう一人は背中合わせに立って反対方向に銃を連射し、手は回らないというような様子だった。
目の前を走ってくるのはおとりか、隠れて近寄るのが別行動かは解らないが、何にしても銃撃のさなかに怪物は山中の立っていた場所の左横側、廃墟の入口から赤い目の光と、獰猛な声を上げて飛び出した。
時間の流れは決して止まることはなく、いつの間にか時間が経過し周囲は太陽が昇り始めたためか、周囲の輪郭が正確に映し出され始め、飛び出してきた怪物も少々薄暗くて解り難いが、その姿を山中の目の前に確かに表した。
「―――サイドアームが1つだけだと―――?」
怪物が姿を現したと同時に山中の銃を添えていた片手は後ろに回り、腰の後ろからライトとレーザーサイトの装着された大口径の45口径の拳銃を勢いよく抜き放ち、放たれた弾丸は怪物の頭部に直撃して勢いよく肉片と血液を周囲に四散させた。
山中の一言は拳銃を発砲し怪物が勢いよく腹這いに倒れた時に出た言葉で、ほかの怪物たちはおとりだったのか、単独の不意打ちだったのか解らないが、思わぬ事態だったのか動くのを2人の前でやめていた。
長いとも短い、正確には現実その場にいれば精神的には長く実際は短かい時間だったが怪物が止まっているさなかに再び銃声が響き渡り、怪物のうちの一体が撃たれたと言うよりも銃弾によって破壊された。
「―――失せろ、恐ろしいトカゲども。」
銃を撃ったのはもうリードで、手に持っていたショットガンを怪物たちに対して向け、怪物たちは再び合わせるかのように2人に向かって走り出していた。
「―――貴様らにこの世界を生きる権利は存在しない!」
走り出したうちの一体を山中は狙撃すると、片目はスコープの先の方向へ向けてもうリードの言葉を補うように言い放ち、片手には拳銃を持ち、半場強引にその手で銃を添え、再び銃の引き金を引いた。
五分五分の戦いとも言えるほど良い勝負だったが、周囲の光景が、空の色が変わり明るくなり始め、怪物たちと2人の輪郭が本格的に明瞭になり始める中で、不意に怪物たちは足を止めた。
多くが空の様子をうかがうように見始め、アイコンタクトを行うかのように顔を合わせていたが、数秒ほどで2人に対して背を向けて走り出し、引き上げだと言うかのように2人から逃げて行った。
「―――ヴァニーか? 光を恐れるとは?」
「―――違う、夜のほうが襲いやすいからだ。」
山中が逃げ出す怪物たちの様子を見て少々小声で不思議だと言うように言う中で、もう一人が、怪物の行動に対して冷静に分析して言葉を発した。
「―――厄介だな?」
「―――解りきったことを言うな。」
2人は何にしても話しながら構えていた銃を下したが、暗闇の中でも光続けていた目の青白い光は発行を続け、2人は銃弾の再装填を再び始めていた。
リードはショットガンを装備し、弾奏は銃と一体化し、一発ずつ弾丸を再装填すると安全装置をかけ、肩に背負う中で、山中は拳銃の弾丸を再装填していた。
拳銃に装填されていた弾奏を取り外すと手で受けとめると服の中に入れ、ほかの場所から予備の弾奏を取り出して装填し、安全装置をかけると腰の後ろのほうへと戻し、突撃小銃も同じような動作を行い肩に背負った。
「―――」
「―――」
肩に背負ったがうまく背負えた感覚がないのか、リードも背負うと同時に2人は肩に背負っていた銃を背負い直すためか数回ほど動かし、整えるようなそぶりを見せた。
「―――調査は、意味があると思うか?」
「―――意義を求めるだけ無駄だ。俺たちは命令に従うだけだ。」
方に背負い直すのを終えると山中が質問を行い、リードが質問に対して当然だと言うような少々機械的な返事を返した。
「―――」
太陽の光の上り具合は季節により変化して日の出と日の入りが時間が変化するために明確な時間は計り知れないが日の出が訪れ、2人の姿は太陽光の下で確かに鮮明に映し出され始めていた。
廃墟とスーツ姿の男2人と言う情景は現実であればどれほど不相応かと言うことは言うまでもない事実であるが、何にしても男2人は武装こそしているが、不相応な格好をしていることは確かだった。
周囲に吹き抜ける風は時折勢いが強いものがあり、被っていた帽子を飛ばされかけたか男が手で押さえ、リードの首にかけていたシェルホルダースリングは激しく揺れていた。
「―――」
何にしても一陣の風をやり過ごした2人は収まったことを顔を合わせて確認すると、合わせるように歩き始めた。
「―――?」
「―――やはり来るか?」
歩き始めて10秒とかかる間もなくリードが口を開き、周囲から先ほどの怪物たちとも、男たちとも違うたくさんの乾いた足音が聞こえ、どこに隠れていたのか解らないがたくさんの人間たちが2人の前に姿を現した。
各々の動向はさながらアフリカに生息するハイエナやハゲタカのような死肉をあさる野生動物、果ては害虫のイナゴなどのような餓えた身体を見たそうとするような様子で、2人を一瞬で囲んだ。
顔や身体は痩せこけ肌の色も悪く、誰の目から見ても不健康で、彼らの眼は自らの事実を気にすることもなく本能に餓えているのか鋭く狂ったような眼光をしていた。
彼らの服装は状況的に整えられ、少々華美に見える2人とは対照的に汚れていたり、破れているものが多く、中にはきれいでも布がほつれていたり、汚れた何かが付いていたりと、最悪なものには下着一枚を着ているが原形をとどめない者たちまでいた。
「―――」
「た、たすけてくれぇ!?」
2人は囲まれ、周囲の人間たちは目の前の汚れて破れてはいるが何とか原形はとどめている紺のスーツ姿の男が言った言葉と似たような言葉を男たちに投げかけていた。
「政府の人間なんでしょう?」
「助けに来たんでしょう?」
「なんでもいい! 助けて! 子供だけでもいいから何か食べさせて!」
気の強そうな女性、反対に弱そうな女性、歩くこともできない子を抱え、涙ながらに訴える女性など、ほかにも数多くの人間がいるが、2人はその場で動かず、何も言わずに周囲の光景を傍観していた。
「あの怪物は何なんだ? 何が起きたんだ? あんたたちの眼もどうなっているんだ? 仲間なのか?」
「生物兵器?神話の怪物?」
2人を囲む人間たちは2人が応えることはないが、一方的に質問を浴びせかけ、少しずつだが距離を縮め始めていた。
「なんでもいい、助けてくれ!」
「食べ物をくれ!」
いずれは起きる事態とも言えるが、2人を囲んでいた中で前にいた男が勢いよく男の前に近づき、助けを求めるように勢い良くしがみついた。
「―――」
「うわぁあっ?!」
男は触れてきた男に対して何も言わず、触れるなと言うばかりに勢いよく男を押し返し、押し返された男は安定感を崩し、勢いよく地面に倒れた。
「ちょっと!?酷い―――」
男が倒れる中で近くにいた女性が山中のほうに顔を向けて注意するが、そのさなか、突き飛ばした山中は腰の後ろの手を回し、銃を取り出し、安全装置を外して勢い良く発砲した。
「―――じゃない―――」
銃から発射された銃弾は銃声ののちに地面に倒れた男の頭部に勢い良く命中して男の頭部の一部を破壊し、男だったものが一体の死体に変わり、死体は力が抜けたかのように地面に大きな音を立てて倒れた。
注意した女性は銃を引き抜く直前に出かかった言葉を口にするが、突き飛ばしたことよりもひどいことが起きる中で言葉を失った。
「―――?!」
全員が意味不明の事態で身体的にも精神的にも疲労しているとも言えるが、不意に人が1人殺されると言う事態の中で、山中は不意に先ほど注意をした女性に対して先ほど男を撃った銃の銃口を女性に向けた。
「―――ここと地獄なら地獄のほうがまだましだぞ?」
「―――」
「―――運が良ければ極楽浄土いきだが、試してみるか?」
山中の目線と向けた銃口は冷酷の一文字でおどろいている女性に向かい、一瞬でも油断すれば引き金が引かれると言う状況とも言えた。
「―――」
銃声ののちの山中の言葉のあと周囲は一瞬で静寂に包まれていたが、時が止まることがないことを証明するかのように男に撃たれた男の死体は頭から血を垂れ流し、銃弾が破壊された醜態な姿を周囲に見逃すことなく見せていた。
「―――どうする、オレ達は政府の人間では無い、敵でも味方でも無い、正義でも―――」
山中が再び声をかけるさなかに不意に遠くで見ていて状況が解らなかったのか、人を押しのけて前に来たと思われる男が勢いよく悲鳴を上げ、周囲の人間たちは合わせる可能用に悲鳴を上げて2人から逃げ始めた。
蜘蛛の子を散らす、一目散に逃げると言う表現あがるが、この2つの言葉が最も妥当な表現で、数十秒度立たない間に2人を除いて周囲に人影はいなくなった。
「―――試す価値はあると思うが、案の定逃げるか?」
「―――当然だ。極限環境に置いての生存本能だ。」
阿鼻叫喚や走る足音がなくなる中で山中は銃をおろし、腰の後ろに戻しながら非常に落ち着き、まるで簡単なことをするかのように言い、リードは、同じような反応で答えを返した。
リードが何気なしにと言うような感覚で後ろを見ると、逃げ遅れた人間たちがいたのか、近くで人の声や逃げ去るような足音が聞こえた。
原状回復だと言えばある意味聞こえはいいとも言えるが、脅迫を用いて追い払ったことは明確な事実で、周囲には先ほどとは異なる空気が漂い始めていた。
2人の発した言葉と行動には人間として非常な程に問題が存在していると言えるが、2人は人間ではないのかもしれないが、意に介するような様子もなく、2人は行動を合わせるかのように頭の帽子を被りなおした。
「―――」
リードは帽子を被りなおすと両手をズボンの中に入れ、軽く休むような姿勢となり、山中は同じような姿勢をしたが面倒だと言うかのように口から勢い良く大きなため息を吐き出した。
「―――」
「―――」
山中はこの後が肝心なんだがどうすると言うような表情でもう一人に顔を向けるが、リードはと言うとオレに聞かれても困ると言うような顔をし、ズボンから手を取り出し、両腕を駄目だと言うように動かした。
「―――」
「―――」
2人の足元には言うまでもなく先ほど射殺した男の死体が落ちているが、2人は全く気にする様子もなくこれからどうするかと言うかのような様子で、少しの間行動を停止していた。
「―――?」
「―――どうした?」
2人は話をすることもなくその場で停止していたが、頭を軽くだが下のほうに向き始めている中で不意に山中が何かに気づいたような反応を見せて後ろを向き、リードは何かというよう声をかけつつも同じ方向に目を向けた。
「誰だ!?」
「―――動くな!」
先ほど逃げ出した人間たちの姿は影も形もないが、何かがいるのか山中は一気に振り返り、先ほど腰の後ろにしまった拳銃を取出し、もう一人も合わせるように懐から銃を取出して山中と同じ方向に向けた。
リードの持っていた銃は山中と同じ45口径の拳銃だったが、山中がフレームの下部にレーザーサイトとタクティカルライトを装着しているタクティカルユース仕様に対し、スライドが延長されたレースメーカーモデルだった。
スコープマウントベースをフレームに装着し、銃の上部に大型で細長いレーザーサイトを装着していた。
暗闇や先ほどまで一瞬しか出さなかったが、良く見れば2人の銃はフレームなどの部品のカラーリングが通常のものと異なり、ある程度だが本格的な改良が施されているようだった。
「―――」
2人の勢い良く抜き放たれた拳銃は気配こそないが左側の廃墟人が通れそうな隙間のような場所と言う同じ方向に向けられ、勢いで出した銃は両手で握られ、山中は安全装置を外し、レーザーサイトを起動し、リードはレーザーサイトを起動し、弾丸を装填した。
「―――」
「―――」
山中の銃からは緑、リードの銃からは青、レーザーサイトから放たれた2つの特有の無機質な強い光の点が廃墟を照らし、2人の人とも思えない目の青白い光は同調するかのごとく光り輝いていた。
「―――安心してください。わたしたちです。」
良く言えば見えない敵を狙っていたが、悪く言えば気のせいで空を狙っていた2人に対して不意にどこかからか落ち着いた女性の声が聞こえ、2人は声に反応し、山中のほうが銃を下せと言うように合図して銃をおろし、リードも銃を下した。
女性の声は2人の仲間なのか同じような人工的に加工されたような声をしていた。
銃をおろし、銃の安全装置がかけられる中で、廃墟の中から不意に声の主か乾いた足音が聞こえ、2人の女性が姿を現した。
「―――」
2人は先ほどの人間たちと違いきれいな服装で、山中たち2人とは違いある程度釣り合いのとれた格好で、都市迷彩の服を着込み、予備の弾奏や先頭に必要な装備を携帯していると思われるケースが服に装着され、身体中を十二分に武装していた。
武装していた服の片方の胸と背中には組織名か部隊名か解らないが4つの単語が書かれていた。
Weapons
And
Rescues
Professional
2人の女性は同じ格好をしているが、1人が2、30代ほどの落ち着いた雰囲気のアジア系の女性で髪は黒で後ろにまとめたポニーテールで、片耳には通信機の類と接続されているのかイヤホンのようなものを装着していた。
一方でもう一人は20代ほどの少々気が強く見え、女性よりも背が高く髪を肩よりも少し長く伸ばした白人の女性で、口を開かなかったが、目は山中たちと同様に青白く光っていた。
「―――」
「―――?!」
山中のほうは女性の姿を見て納得したように見ていたが、リードのほうは女性の片方を、正確には白人の女性のほうを見ると少しおどろいたような表情を見せた。
お互いに敵意はないと言うような反応で、山中と女性のほうは足を進め始めていた。
「―――」
足を進め始めていたが、不意に山中は足元のほうに目を向け、先ほど自分が射殺した男の死体に目を向け、女性は気にする様子もなく男に近づき、死体の前で止まり、もう一人の女性は女性の後ろをついてきて同じように立ち止まった。
「―――久しぶり、と言うべきですね?」
「―――そうですね。」
女性が口を開くと山中のほうは合わせるように返事を返し、リードも合わせるように歩き出し、山中の後ろで止まるともう一人の女性に対してか不意に敬礼し、もう一人の女性も合わせるように敬礼した。
「―――真実の語りべ、か―――」
リードは敬礼した手を下すと女性のほうへと目を向ける中で、女性は死体の前で膝をついた。
「―――」
女性は少しの間死体を見ていた、衝撃のためか見開かれたままになっていた死体の眼を閉じ、顔を上げて山中の顔を見た。
女性の顔は文句を言う様子ではなく、少しして山中に視線を向けたまま体を起こした。
「―――殺す必要が?」
再び女性は死体のほうを見下ろすとそう言い、山中に対して少々不満だと言うような様子で、質問した。
「―――」
「―――」
「―――無かったかもしれないな、だが例外も特例も、保護も捕獲も、救助の以来の類は機構や本社からは受けていない。」
女性の言葉に対して山中は少しの間を置いたが質問に対して機械的に答えた。
「―――目的は調査だ。邪魔をする負因子の排除だ。」
「―――相変わらず、あなたも変わらないんですね?」
「―――ああ―――」
先ほどの言葉に対してか山中は付け加えるように言い、女性が解ってはいるが仕方ないと言うような物言いで返し、山中は女性の言葉を気にしているのか何にしても言われたくないことのようで、ごまかすためか、目を反らすためか帽子を被りなおすそぶりを見せた。
「―――そうやって一見すると何気ないしぐさで目を反らそうとする―――?!」
「!?」
指摘か注意か、どちらにしても女性は山中に対して言う中で不意に勢い良く振り返り後のほうを向き、もう一人の女性と山中も反応し同じ方向へと目を勢いよく向けた。
「―――」
青白い光を放つ6つの瞳と2つ人間の瞳が視線を向けた方向からは女性が最初に目を向けた時に廃墟の壁か何かが崩れたり、何かが落ちたような音が聞こえていたが、特に気になるようなものはなかった。
「あ」
「!」
気になるものは見られないように見えたが、先に反応した女性と、山中は視線を変えず何かあると言うように見ていると、不意に岩陰、正確にはがれきでできた小山に隠れていたのか背の小さい人間が逃げ出した。
古く汚れた大きい暗褐色の布で身体の大半を隠して解り難いが、身の軽さや布の動き具合で少しだけ見えた身体は10代前半ほどの、幼さが残る少女で、見つめられ耐えられずに姿を現し、背を向けて逃げ出したようだった。
脱兎のごとくが妥当な表現と言うべきか、山中たちと目を合わせないように、殺されないようにとか必死で走り、数秒と経たない間に姿は見えなくなっていた。
「―――あれは―――?」
「―――俺たちは、やはり、導かれているのか?」
逃げていった少女の見える方向に目を向けたまま不意に山中が奇妙だと言うような物言いで口を開き、リードも同じような何かを考えているのか、誰に問いかけているか解らないがそう言った。
「―――神も知りませんよ、彼も知らない、彼女は選ばれなかった。」
「―――」
「幸運か、不運かは、知りもしないこの状況では、理解できないかもしれませんけどね。」
山中の質問に対してか女性は言葉を返し、2人が言葉を返さない中で女性は再び言葉を少し強めにして返した。
「―――ここは、いったいどこ何だ?」
「?」
「どこが始点でどこが終点だ?」
リードが少しして悩んでいると言うかのように言い、3人が顔を向ける中で、リードが本格的に質問するためか、3人と目線を合わせて再度言葉を口にした。
「―――両方だろうな。」
「―――そうか―――」
「―――どこかの誰かが選ばれるのは確かだ。垣根なんて狭すぎる表現だ。俺と言い、いい代表例だ。」
山中はつぶやくようにか、少し間を置いたが静かに答え、リードが答えを返し、山中は加えるように言葉を放った。
「―――これから何が起きるか、神も知らない領域だ。違うか?」
「―――そうですね?」
少し間を置いたが、リードは少しして言うと、女性のほうへとその独特な眼を向け質問するが、女性は一切物怖じする様子も見せず、平素な様子で答えた。
「―――だけど、その希望とも絶望とも言えない状態に、わたしたちは賭けてみた。違いますか?」
「―――」
「わたしたちは、彼女を信じたんですよ?」
女性の言葉を聞いた山中は顔を反らして下に向け、どう言えばいいか、どうすればいいかと言う様子だった。
「―――相変わらず、かないませんね?」
少しして山中は女性のほうへと眼を向けるが、女性はと言うと、何も言わず、山中に対して笑顔を向けているだけだった。
リードも同じように顔を向けるが、少々機嫌が、具合が悪そうな様子だったが、もう一人の女性が顔を向け、少し似たような表情を向けると、帽子を被り直し、目を反らした。
何も言わずと言う硬直している状態だったが、少しして4人は姿はもう見えないが、顔を少女が走り去った方向へと向けた。
少女は姿の見えなくなった位置から本当に見えない位置まですでに走り終えていたが、決して後ろを振り返る様子もなく走り続けていた。
逃げ遅れたとも言える状況だったが、追いかけられることもなく、銃で撃たれると言う様子もなく銃声も聞こえなかったが、何にしても走り続けていた。
青白く発光している眼にこの場に不相応なスーツ姿に銃火器を所持と言う言葉通りの普通ではないことに加え異常なほどの不気味さに何事にも代えられない恐怖心が彼女の足を無意識に本気で走らせていた。
限界と言う文字がだれの眼から見ても解る状態で、息が激しく乱れ、身体の走る姿勢も乱れ、逃走本能に従い走っている状態と言えた。
殺される心配がないことに気づくのはいつかは解らず、死ぬまで走り続けそうな状態で、元気と言えば表現がいいが、周囲の状況は少女以上に緊迫した酷い状況だった。
少女の走っている近くには時折、死んでいるのか生きているのかわからないほどにやせ細り、骨と少量の肉だけとなって小さくなり人間としての原形を失いかけている人間が地面に倒れていた。
近くにいるほかの人間も生きて地面に座って震えているように少し動いている場合もあるが、あまり変わらない状況だった。
壊れた建物の中は血液か、臓物だったものか、場所によって赤黒い染みや肉片のようなものが見られ、人間が生きているような場所とは到底思えなかった。
死ぬまで走り続けそうな状態の少女だったが、走りに走り抜け、薄暗い建物の中や道を走り抜け、ある程度開け明るい場所に出て少しして足が止まった。
正確には止められたと言う表現が正解で、無我夢中と言う状態で走り続け注意力が散漫になっていたようで、普通ならあたることはないが、少し大きめの石に足が当たり、勢いがついていたために制御が聞かず、勢い良く転倒した状況だった。
「―――――」
早く起き上がらないといけないと言うかのように身体を起こそうとするが、走りに走り続け、身体が限界に来ていたようで、言葉にもならない声を上げ、立ち上がろうと地面に触れた手に力が入らず、二度目の転倒をした。
「―――」
誰も追いかけてきていない、大丈夫、君は助かった。
どこの誰もこの言葉をかけることもなく、少女は身体の限界に気づいたのか、倒れた地面で息を整え始めたのか、呼吸以外は身体を動かすのを止めている状態だった。
「―――ん、ぅ―――」
まだ走り続けることができる。
誰かに言うわけではないが、心の奥底でそう叫ぶかのように手を前にだし、少女は地面を這い始めた。
地面を這う乾いた音と、少女が整え始め、少しだけ荒い呼吸音が周囲に聞こえていた。
「ぅ?!」
少し強い風が正面から勢い良く吹いた。
「―――ぁ?」
誰かが起こしたわけでもないが、少女が不運かどうか考えたかわからないが、風は勢い良く吹き、少女の顔を隠していた布を勢い良く吹き飛ばした。
「―――」
風向きの加減か、布は勢い良く飛んで行ったあと少女の頭上の前のほうへと勢い良く飛んで行った。
飛んで行く布を見ていた少女の容姿は背丈もだが非常に幼く、10代前半とも言えるが、15歳にも達しておらず、誰から見ても子供と言う顔だった。
誰から見ても子供だが、状況的なものか健康とはどう見ても無縁そうな顔で、顔色も悪く身体もやせ細り、肌も荒れ、走っている最中とは違う治りかけだと思われる傷が顔にはたくさん見えた。
「―――」
生気を失いかけている両方の眼から涙が流れた。
死による恐怖感か、追いかけてきていないと言う安心感か、何にしても心の奥底にある抑えきれない感情が彼女の意志を代返したであろう、眼から涙が流れ始めていた。
空には夜明けの太陽が見え、少女と廃墟を明るく照らし出しているが、本当の希望の光とは到底ほど遠く、残酷にしても非常にしても真実厳しい現実を隠すことなく照らす光のようだと言えた。
少女は何も言わず、何も言えないとも言えるが、太陽の方向へ眼を向け、顔が太陽に照らされていた。