Mercenaries
聖夜が、12月25日が終わりかけていることをわたしジョセフは肌身で感じ取っていた。
雪は降っておらず、人間としての歳を重ねたと言う部分もあって寒さが骨身にしみ、子供や孫のいないわたしにとって少し物悲しい終わりだが、周囲はと言えばそれほど悪くはないと言う雰囲気だった。
雪がここで降り積もれば待ち焦がれた奇跡とも言えるが、遅すぎる奇跡と言うもので、数多くのだれかが望んでいてもかなえるべき願いではないなとわたしは思った。
「―――?」
「どうされました?」
「―――いや、何でもない。気のせいだよ―――」
酒でも飲んで少し身体を温めてから帰ろうと思い、お気に入りの店で酒を飲んでいる中で、わたしは不穏な気配を感じた。
店が開いていてよかった軽く飲んで帰って休もうと考えている時で、どんなことが起きるにしてもわたしには深く関係することではないと思っていたが、その不穏な気配は決してわたしに無視をするなと言っているかのような感覚だった。
異様なわたしの反応に対し店員が声をかけ、ないと言えば大きなうそになるが
わたしはと言えば本当は言う通りに本当に気のせいで何でもないと言うように平静を装ったが、本気で無視は不可能にほかならない気配を2つ感じた。
普通の人間ならば無視しなかったとしてもこの豪雪の中を目的地の研究所に到着する前によくて引き返すか最悪死ぬ可能性があるとオレリードは思った。
気温はマイナスで強い風が吹き荒れて視界も悪く、仮に目的地に到着しても強固だと言われている警備に門前払いにされることは必然で、オレだからこそ到着できたのだと言えた。
研究所は書類通りの人が寄り付かないロシアの山間部に存在し、オレはと言えばその入り口のドアを勢いよく蹴り破っていた。
厚さ1フィート以上でかなりの重量の金属製の扉だが、ハイブリッダーのオレにとってはゼリーも同然で、蹴り破る途中で砕け散っていた。
ハイブリッダーとは医療で注目されている極小機械こと、ナノマシンの進化形であるオーヴァーマシンを妊娠六カ月以内の胎児へと投与して生まれる人種で正確にはホモ ハイブリッダーと呼ばれる人工的に誕生した人種だ。
オーヴァーマシンの力によって身体の細胞や遺伝子、物質を自由自在に変化、増加減少が可能で、怪力だけでなく身体の一部を銃や剣と言った武器に変え、精密機器などへの変化も可能だ。
無線回線と言った通信も可能となり、オレたちは身体だけでなく普通の人間とは異なる社会や文化、思考を身に着け変化させている。
変化は身体全体を固い金属から硬度のかけらもない気体への変化も可能で、理論上は世界を破壊できるほどの火力と搭載し、半永久的に燃料を支出し、エイズやガン、それに放射能への強い耐性をも持っている。
大量殺戮破壊兵器とも非難されているが、決して不死身や無敵ではなく、寿命も普通の人間よりも短いと言われている。
オーヴァーマシンを使い過ぎれば回復のために固い外皮で身体を覆い冬眠に似た状態になる『リペアスリープ』、回復まで言って時間通常の人間化する『リミッターダウン』、そして怪物化し暴走する『プリミーティブアウト』などと言った問題をも抱えている。
極め付きにオレたち自身にも理解できず、専門家は副作用と言っているが普通の人間と異なり眼に白目の部位が存在しなくなり、感情の変化によるものが多いが眼が青白く発光をすることがあり、オレの眼は現状青白く発光していた。
言葉通りの本当の人でなしの人工の怪物と言え、生殖による繁殖は不可能で、普通の人間にオーヴァーマシンを投与してもハイブリッダーにはなれず、強い毒性が発生する可能性も存在し最悪死に至る危険も存在し、オレたちは案の定人種差別の標的だ。
標的とは言うが人口は増加傾向な上、オーヴァーマシンに耐性を持ち生後6か月以上の人間の中から誕生したハーフハイブリッダーまでもが存在している。
『警告します。ここは私有地です。進入禁止です。』
『警告します。撤退しない場合武力行使によって侵入者と思わしき人物を排除します。』
『警告します。関係者以外は引き返してください。』
鋼鉄の扉を壊して開けたと話したが、何をしているかと言うと正々堂々と不法侵入をしている最中だ。
扉を壊して10秒と経たない間に警報系の設備が耳に不快な嫌な警戒音、人工音声が警告を伝えた上、自動照準式の火器と言う非常に物騒な武器の稼働する乾いた音を室内に勢い良く響かせていた。
死への恐怖も脅えも悲しみも感じず、思わずと言えば失礼で、ハイブリッダー基準だが、この程度の子供だましが警戒態勢かと考え口元が軽くだがゆるんだ。
正確には一部の兵士が、たとえば見捨てられた敗残兵が仲間を皮肉る時に使う、ひきつったような笑顔で、残忍で冷酷な笑みだと言えたが、鏡を見ることもなかったので自分の表情などわかることもなかった。
これからオレが何をしようがオレの勝手だが、不気味な笑顔と言い、話の順序と言い、言うまでもなくオレはここにある目的で、言うまでもなく殺人で、どこのだれに雇われたと聞かれそうだが、だれと言う訳でもなく、個人的な感情からある人間を殺しに来たのだ。
私情による身勝手な殺人かと思われるかもしれないが、人によっては解釈は異なるだろうが、他人の心情や法なども考える気もないし、零下30度以上の雪原を歩いてきた意味が存在しないのだ。
ここがどこかと言えば現在で言うロシアの北部の山岳地帯で、ほぼ人身未踏の地に言葉通りに極秘でたてられ、陽の眼を見ない場所に人目に知られずに立っていた。
人間ならば到達不可能な上仲間でも侵入しない場所だったが、何にしてもここまでの場所に来てまで殺す価値の、必要のある男だった。
アーウェー サテライト
この名前こそ、オレが殺そうとしている男の名前だ。
なぜ殺そうとするかと言う疑問を投げかける人間には殺人を罪悪だと捉えているだろうが、人のことは言えないがこの世界には確実に殺さなければならない人間が存在していると思うし、この男はオレが絶対に殺すと考えている。
アーウェーも反対にオレのことを知っているだろうし、殺しに来るならば確実にオレだと判断し、柵を何重にも巡らせていると思われ、建物内は厳重な警備がされている状態だった。
『高感度映像形態』
人間の肉眼では見ることのできない情報がオーヴァーマシンを使い変化させた眼から伝えられていた。
『警告を解除します。』
『武装を解除します。』
『関係者以外の人間が圏外へと移動しました。』
どこのだれが見ても引き返すような様子などもないが、先ほどまで爆発するのではないかと言うほど大きい音を出していた警報が鳴りやんだ。
『極小機械攻撃』
オーヴァーマシンを散布し、この施設内の警備装置一貫をクラッキングしたのだ。
機密保持が目的だが侵入した敵を消し炭にする自爆装置まで用意され、施設内は用意周到な軽微だったが、施設内を何から何まで監視下に置きことができた。
爆破して施設ごと葬ればと言う考えもあるが、殺すだけでは不十分だし、探し出し、直に殺す必要があった。
簡単に言うと目的は研究を阻止させることだ。
彼方たちが神様になれると言う話になっていたが、オレの目的は神を超える存在を造りだそうとし、違法な人体実験ならぬ神体実験をしているアーウェーの抹殺だ。
長い話になるが神は実在し、オレから見て人類たちの前に姿を表したのは10も越さない時だった。
Generative
Automatic
Transporter
Energy And Entrance
略称「ゲート」とも言われる巨大装置で、これが要因で、これが何かと言うといつの時代の人間がこの話を見たり聞いたり読むか知らないが、オレから見て過去の時代の人間が言う『タイムマシン』の実現だった。
夢物語が実現したと言えば聞こえがいいが、悪用を懸念し自身らの身の保身や保護のために宇宙人をはじめとし、神話のような幻想や空想、言わば科学的に実在が疑問視されていた存在が姿を表し始め、神のそのうちの一種だった。
一種だと言えば時の場合の権力の背景によっては失礼千万、最高殺人系ものだが、オレを含め、未来の人間には神とは科学的に偉大な存在とは到底言えないのだ。
世界創造と言う偉業は変えられない事実だが、神はゲート技術の一方的放棄を地球人類に命令し、拒否したとして世界各国に報復行為として無差別行為を開始した。
交渉も無益に終わり神対人間と言う人類初の人間外生物との本格戦争、第3次世界大戦へと突入した。
ここまでは一部の強い信仰心を持つ人間には人間側が敗北し、相応の天罰だと思えるだろうが、最終的な結果は10年と言う近代的には長い時間が経過したが人間側から見て虐殺とも言えるほどの大勝利を人間は獲得した。
発展し過ぎた科学と魔法は区別がつかないとも言われ人間は神と区別のできない力を持ち、無神論者をはじめとした神の優位性を否定する存在の登場、神を凌駕する性能を持つハイブリッダーの登場など、敗北は時代的に必然的事態だった。
10年と言う長さと、終戦から3年と言う時間が経過するが、神側は非常に疲弊した上に惨敗した上に人口も極度に減少し、不平等条約を締結する醜態をさらす結果となった。
戦争が終わりお役御免かと思われるが、戦争は紛争や内戦は続き、ハイブリッダーには特に立場的に優遇もされ、雇用主こと、PMASCAGSはオレを戦後中佐へと昇進させ、「ライツオブゴースト」のコードネームを与えた。
姿なき場所に光有、存在するとすれば亡霊の光、言わば、ライツオブゴーストだった。
PMASC、説明不要の民間軍事会社であり、オレは傭兵として身を置いている。
第3次世界大戦は神対人類と言う戦争が主題でもあり、国家間と言う境界線を持たない民間組織のPMASCの需要が求められ、正規軍こと一国家の軍隊や国連軍は少数であり不要で経済的経費削減の概念上ほとんどがお払い箱にされた。
PMASCは20世紀末期ごろに全盛的な活躍を始めたと言われている。
大規模で維持費や人件費や装備を含め多大な経費を消費する正規軍よりも一時的、分業的で経費も少なく重宝された。
無論民間なのでストライキ発生などで、業務活動停止などの懸念もあるが、最終的には人間が文句を言うのは金の問題だと言うことの証明だと言える。
発起当時の人間たちの中にはPMASCの代理戦争の時代が到来すると予言する者が存在し、十二分に実現したと考えられる。
AGSはAdvanced Guard Securityの略で、20世紀末期ごろ前進の企業が科学技術研究産業であり、ハイブリッダー研究を医療機関と協力して開始させ実戦へと初実用運用した企業でもある。
結果として働き続けることには変わりなく勤労の権利を含め、十二分に意義が存在し、大戦前人間としての定義が問われ人権は法的には無いに等しかったが、大戦時の功績と人権運動の活発化、経済的需要によっても法的にも十二分な人権を獲得した。
能力の関係上成人未成年と問わずハイブリッダーは戦場で使用され、5歳ほどから戦場に身を置き、母親は娼婦でオレをAGSに売り払ったとも言われ、19歳で第3次世界大戦終結を迎え、戦う意義をなくしかけた身にはうれしい待遇だった。
ハイブリッダーとして、兵士として、殺戮機械として生まれながらに成長し、誰かから見れば悲惨で非難されるようだが、この生き方と仕事と生まれを誇りに持ち、これからも生きていくのだ。
現在22歳となったオレは、現在でも戦い続けているわけだが、この戦いはPMASCの依頼でも命令でもなく、兵士としてではなく、ハイブリッダーとしてではなく、オレとして、オレのためとしてここに来ていた。
大戦時に出合い、師として尊敬している上官、ドレッド アームズ大将の指示を無視してまでだ。
超能力的とも言えるオーヴァーマシンで超低温下でも活動可能だが、ハイブリッダーと言え暑さも寒さも感じ、ここまで来るのは身体に負担がかかると言えた。
誰かがなぜここまで来たのかと、本来金でしか動かない戦場のビジネスマンと言われる傭兵がなぜ動くのかと聞くと、ある意味気まぐれと私情での復讐と私的捜査だと言える。
守るべきはハイブリッダーとして生まれた誇りであり、誇示し畏怖させるものではなく、自らの出自を誇れる存在となることで、他人を無差別に殺すことは目的でもなく、自身の意見を尊重したためだ。
事実は変わらないと言えたが我慢できず、ここに来る前には処分の覚悟は決めてきた。
『緊急警報事態です。無差別攻撃を開始します。』
『職員は職員用ガイドラインに従い、指定された場所へ避難してください。』
『緊急警報事態発動時に起きた死亡事故などの責任は、当施設及び責任者と関係者は一切責任を負いません。』
先ほど機能を停止させた機械どもは2重の仕掛けが施されていたようで、遠まわしに丁寧な物言いだが、よそ者はぶっ殺すし知っているやつもうまく逃げられないなら殺すと言う警告を発した。
警告に合わせて機械の作動する刻みの乾いたいい音が周囲から響く中で、自動式に照準、言わば狙いを定める機関銃や金属製の矢、毒物か硫酸を吐き出しそうなホースが姿を見せ、オレに向けて攻撃を開始した。
「あまい、フォースフィールドの防御力は無限大だ。」
案の定と言うべきで、銃声や矢の風を切る音や液体の吐き出される音が聞こえるが、弾丸や矢は身体の50Cmほど手前で勢い良い音が響かせて跳弾した。
跳弾した部位は緑色の光を放ち花火のようにも見え、本体、言わば身体には決して1発も1滴も命中することはなかった。
『特殊防壁』
言葉度同時に腕を上げ作動したが、一見すると見えないが高密度で透明な物体を目の前に出現させ防具とする方法だ。
身体自体を気体のようにして無効化することや、強固に変え直に跳弾させることや、体感時間を操作し、弾丸の雨や強酸の液体を逃げ回ることもできたが、効率のいい方法選ばないことは、機械にできない芸当であり、ハイブリッダーの人間らしさと言える。
選ぶものが何にしても攻撃と言うものは有限、言わば限りあるもので、発砲開始から30秒以上が経過し、弾丸や液体がなくなったようで周囲には銃声は聞こえず、機械の空回りする音がしていた。
侵入は予期されているはずだし、これは余興段階とも言え、機械が空回りする音が聞こえる中で、オレは再び足を進め始めた。
ここまで来てこれほどの眼に会ってでも殺したいのかと普通の人間は考えるだろうが、人ではないが、人間の意志は時として常識の範疇では計り知れないものだし、オレ自身が現在のオレをいい見本にしているとも言える。
確実に殺す。
だからここまで来たのだ。
経緯は第3次大戦末期ごろのこととなる。
大戦後国際連合が再編成され新たな組織ORG、通称オーグが結成された。
Operation
Restarting
Globalization
オーグが日本語圏で「機構」の略称と勘違いされ、一部の国家では機構とも呼ばれ通称もされ、通用する場合も存在している。
表向きには国際連合を再編した組織だが、裏向きには大戦中に生まれた人工知能統制主義機関、通称セデンに対抗するための大規模組織で、アーウェー サテライトはこのセデン側の科学者だ。
セデンとはsatellite EDENの略であり、人工のエデン、言わばクリスト教の旧約聖書の人類 発祥の地エデンを人工的、擬似的に作り出した物だと意味し、人工(A)知能(I)「ジェホーヴァ」、言わば機械に統制された国家の発祥として皮肉られた名称だ。
機関側は第3次大戦後新たな人類の理想郷を築きあげるとし、人工知能による統制体制が主導となり、機構側は反対に人間の管理を全盛とし、第3次大戦後と言う事情もあり戦闘や衝突はないが、間接的には争っている体制だと言える。
人の思考と機械の統制と、いかにもSFのサイバーパンク的だが、第二次大戦後に発生した米ソ間の冷戦の再来とも言え、裏では金が多量に動き世界を動かし、人間は神を超えても愚息なことは変わりようの無いことが明確な事実だと言える。
冷戦下のソビエト社会主義共和国連邦が安定経済を造りだし発展を遂げ、一方でアメリカ合衆国は資本主義全盛を掲げたように、人工知能による徹底的に安定した管理体制と人間の思考力の優位主義性の証明競争である。
間接的に言うと社会主義社会も立派な資本主義の精神を持ち、本当に人間に必要なのは真正面から意見の対立する存在だと言える。
大戦中機関側のある科学者、言わばアーウェー サテライトがジェホーヴァ命令で捕虜や亡命者、志願者を集め、残虐な研究、略称「プロジェクトヤーウェー」をしていると言う情報が入り、PMASCAGSはアーウェーの逮捕に向かった。
Jehova、Yahweh、クリスト教で両方が神を意味する単語であり、ジェホーヴァはエホバ、ヤーウェーはヤハウェが由来と考えられエホバは一部の言語やアクセント間違いによって継承されたもので一応はどちらでも通用する言語となっている。
人工知能の間違いと言うよりも代行の神が機関を統括している状態で、プロジェクトヤーウェーは大戦後役立たずと分かった神に代わり、知的生命体を統括する神を超える存在を造りだそうとしていたのだ。
造りだす最終的な目標は第2次世界大戦後の米ソ間の資本主義と社会主義の優越性を証明するのと同様だ。
機関がジェホーヴァを超える統治装置や仕組みを創造し、機構に対し優越性を証明し、ほかの同盟や連盟、連合、連邦をも最終的に優越を証明し機関の手中とすることだ。
アーウェーと言う名も、ヤハウェから頭文字のYを取り、Ahwehが元であり、完璧な存在でないことを示し、神を超える完璧以上の存在を造りだすために非人道的な研究をエージェントに代行させるために造りだした存在だ。
公式記録では証拠も見つけられず残っておらず、機関のジェホーヴァもアーウェーも事実を否定し、PMASCAGSは国連の密命を受け、逮捕に向かった兵士の中にオレが存在し、オレがアーウェーを逮捕した。
機構も結成されておらず、PMASCの立場もあり、機関も結成して時も立っておらずと言う立場があいまいな状況で簡単に逮捕できたが、苦労も無視するように証拠もあいまいなため立件言わば裁判が不可能に加え、証拠不十分として釈放されてしまったのだ。
普段ならば仕事が終わった後のことに口出しや手出しなどする気などなかったが、逮捕時と言い、釈放後と言い、オレは何かアーウェーに対し何か納得することができない気がしていた。
機構発起前でもあり機関は当時としてはどこから見ても前衛的な国際組織でもあると言えた。
人工知能統治と言う意外性と閉鎖的な一面も多く、反ハイブリッダー主義的傾向の人種や加入国側も多く権力を持ち、アーウェーもその1人だったと言うこともあり、これも関わっていると思うが、何かが違う気がした。
表向きには人工知能による徹底した安定を持つが半非人道的組織と、不安定な人間による人道的組織の冷戦であり、非人道的組織から非人道的な研究の証拠が見つからないのだからある意味健全平和と言えるが、気になる点があったのだ。
反ハイブリッダー主義を打倒すると言うくだらない正義感があったわけでもなく、一番気になったのは逮捕したこともある上で見た、連行時の笑い方だった。
普通の人間ならば解り難いが、微妙にちがい、失敗して悔しくて開き直った笑いと言うようには聞こえず、反対に勝利を確信し、一矢報いたかと言うような笑い方だった。
証拠は十分でもなし、オレも命令違反で、追われることになるのは必然の状態だったが、なぜかオレは足の方向を変え、アーウェーを追うことに決めた。
ハイブリッダーとは言え、本来は人間で、本来は金でしか動かないが、事実追求と言うべきか、半本能的と言うべきか、気まぐれと言うべきか、普段はあまり持ってないようなものだがくだらない意地だったのか、追っていた。
「―――」
『極小機械攻撃』で施設内のセキュリティーをクラッキングし、監視カメラの映像を脳へと転送し高速演算処理して施設内を肉眼と同時に見ているが、全くどこにも人影と言うものは見受けられず、人の気配もなさすぎる状況だった。
「―――」
人間では理解することができない事態だが、この施設内はハイブリッダーの感覚器官で調べる限りは人の出入りは最低2、3人程度で、少し歩いていると、開けた広い部屋に出ることができた。
「―――――これは―――?」
事実は変わらないと思っていたが、眼の前に見えたのは事実を裏返す、言わば紛れもない明確な証拠品で、この場で逮捕できれば極刑は必然的状況だと言えた。
人間で言う感の良さと言うべきか、第6感と言うものが働き、適中し見事に引き当たった状況だと言えた。
開けた広い部屋とは言ったが、紛れもなく研究室の1つで、床には上下を問わず左右縦一列に縦に長く、人一人が入れそうな円筒形のガラスケースが存在し設置され、中にはサンプルと思われる生物らしき物体が入っていた。
安全のためか照明は薄暗く、ここは保存優先なのか同じ光景が大量に広がり、ガラスケースの中の液体は中身に合わせてか多種多様な色をしていたが、だれがなにをどう見ても、研究の証拠なのは言うまでもなかった。
ケースの中や室内や機械をクラッキングして調べてみたが、実験は行われていることは明確なようで、室内から即座に情報も入手できた。
Experiment Series
Ver.1 Adam[アダム]
特別室で生成中
Ver.2 Zom [ゾン]
実用化成功
Ver.3 Zom V [ゾンV]
実用化成功
Ver.4 Kedy [ケディ]
実戦投入済み
Ver.5 Weber [ウェバー]
実用化成功
Ver.6 Valee V [ヴァリーV]
実用化成功
Ver.7 Valee[ヴァリー]
実用化成功
Ver.8 Eve [イヴ]
特別室で生成中
人型はしているが身体を覆うことができるほどの白く大きい鳥のような羽や鳥のような足を持っていたり、腐敗したように顔や身体の一部が変色したり壊れたりしているサンプルがケースの中で眠っているように見えた。
眠っていると言うべきで時折四肢が少しだけ動いているし、人間ではわからないが、確かに彼らが生きていることを身体が知らせていた。
知らせてはいるが、この状態から判断して通常の人間のように生きているか、動き出しても平常であるかは不明で、暴れそうな可能性が高かった。
「―――?」
普通に話が進めばの話だが、オレがこいつらを全員抹殺しアーウェーを殺ればこの話は絵に描いたようなハッピーエンドで終わるがこれから後が本当に面倒な話だった。
確かなことはこの時に何にしても皆殺しにしようと考えていたのは言うまでもないが、不意にどこかから扉が開いたような音が聞こえた。
「―――」
『不視覚可形態』
足音が聞こえる前に眼の発光を止めディアクティブ形態に移行し、後ろに数歩ほど下がり壁に背を合わせ、肉眼だけではなく、科学的に見つけられないように姿を消した。
光学迷彩とも言え、光の屈折や反射などを利用して姿を見えないようにしたのだ。
「―――」
うわさをすれば影とやらと言う東洋のことわざが存在し、特定の人物の話を話していると特定の人物が姿を表すと言う意味だが、反対側の壁のほうをアーウェーが少し慌てた様子で歩いて来ていた。
「―――クソガキめ―――?」
「―――探し物か?」
「―――?」
何を慌てているのかわからないが好機なのは確かであり、慌てているアーウェーに声をかけることにした。
状況的にアーウェーには声が聞こえ、声の方向を見ると見えるのは青白い2つの光だけだ。
「ぁあっ?!」
気づいたと同時に勢い良く突進し、首を抑え、勢い良く壁に叩き付けた。
不視覚可形態で卑怯千万とも言えるが、眼も見えていたし、お互いに人間外なので遠慮は一切不要だ。
「―――手伝ってやろうか? 地獄の果てまで付き合うぞ?」
「ぅ、ぐ、ぅぅ?」
「ホモ ジェネティカル」、遺伝子改良種とも言われる人種で遺伝子を改良されているのだ。
遺伝子を専門科学者連中がよく「生物の設計図」と言われ、アーウェー本人は否定するだろうが、機関の最高峰の技術で開発、改良されているのだ。
機関側が反ハイブリッダー主義を政治的信念に抱え研究が法的に禁止され、合法化の機構と言うお互い設計概念は異なるが、機構と機関の最良の遺伝子改良の設計図を持ったある意味同志であり、戦いに遠慮などは必要はないのだ。
「―――ひさしぶりだな。ライツオブゴースト、いや、リード、ファイヤー?」
「覚えていたとは光栄だな?」
不視覚形態を解除し姿を表すと同時にアーウェーは命の危機にあるが、一応はと言うように苦笑いと言うよりもひきつらせ余裕そうな物言いで返してきた。
「―――初めて会った時から5年か? よくぞここまで来たな?」
「―――金好きの傭兵が気まぐれを起こしただけだ。」
あの時と同じ不敵な笑み、身勝手な行動だったが、状況的に行動を起こした運もあると言えた。
「―――無駄だよ?」
「―――!?」
何にしても叱責や処分、責任は問われるかもしれないが、オレ1人が処分されるならば安いものだと言う状況の中で、アーウェーが突然消えた。
首を抑え持ち上げた状態で逃げられるとは到底思えなかったが、姿を突然消した。
人間外の生命体や人間の中には超能力者と呼ばれ、物体に触れず自らの意志で動かすなどの念動力を持つ場合が存在し、瞬間移動と言う自分自身の身体を含め物体を自由自在に別の場所へと瞬間的に移動させる能力も存在している。
能力はほかにもあるが、確かにアーウェーは遺伝子改良を受けているが、瞬間移動能力は大戦中と現在を含め、絶対に持っていない能力だが、アーウェーは確かに瞬間移動したように消えた。
「―――ここだよ?」
「―――っ!?」
どこに行ったと言い探し始める前に後ろから声が聞こえると、アーウェーは余裕そうな態度で4、5mほど離れた場所に立っていた。
「―――」
「―――」
恐れることはないのだ。
能力値で言えばハイブリッダーを超す知的生命体はこの世界には存在せず、確実に殺せる。
「―――我々の姿に、我らに似せて人を造ろう、彼らに海の魚、天を飛ぶ生き物、家畜と全地と全地上の動くあらゆる動く生き物を服従させよう。」
「―――聖書か?」
「―――ああ、旧約聖書創世記1章第26節だ。」
突然口を開いたが意味不明な発言だった。
確かに言った言葉はクリスト教の紀元前の歴史を記した旧約聖書の一節で間違いないが、この場でこの架空の物語に一体全体何を意味するかを理解することができなかった。
「―――何が言いたい?」
「―――人が真に神を超える時が来たんだ。僕たちはもう、粗悪な模造品ではないんだ。」
「―――」
余計に意味不明の答えだ。
「―――人間が神になることはできない。反対に神も人間になることはできない。」
「―――ハイブリッダーらしい意見だし、君の行動力には感心するが、僕たちはやはり本気で相容れないようだ。とりあえずここは失礼するよ?」
「―――――?!」
何にしても思わず反射的に言い返したが、アーウェーはあきれたと言うような物言いと反応で言うと、透き通るように消えて行った。
「―――証拠など無意味だよ。最後に勝つのは僕だ。せいぜい生きることを謳歌することだ。」
「―――」
反応もまったくなく、どこにいるか。どこから聞こえるのかわからないがアーウェーの声が聞こえた。
「僕はね、確認がとりたかったんだよ。君と僕は本気で相容れず、戦い、憎み、恨み、殺し合う存在だとね?」
「―――――」
「追ってくるなら、決着をつけるよ? 待っているよ? どこかわかっているだろう?」
絵に描いたような高笑いの後、アーウェーの声と気配はなくなった。
『自爆装置が作動しました。繰り返します。自爆装置が作動しました。』
『職員はガイドラインに従い、避難してください。』
『爆発まであと1時間30分です。』
合わせるかのように周囲が一瞬静寂に包まれたかと思うと、人工音声が緊急事態を警告した。
「―――なるほど、オレもろとも滅菌する気か?」
警報の後ケースの中のサンプルたちが解けるように輪郭をなくしとけだし、証拠は隠滅され、用心のためにここも爆破するようだ。
「―――Scrap!」
相変わらず気配を感じず、どこに行ったのかわからないが、この状況は何にしても最悪の状況だった。
爆発程度で死ぬことはないが、証拠が必要で、証拠を見つけるために勢い良く歩き出し、先ほどアーウェーが姿を表した方向に進み、人間の眼ではわからない足跡などの痕跡を調べどこにいたかを調べ、あるドアを開けた。
「―――」
出た時に慌てた様子であり、何か証拠あると思ったが案の定で、後ろの部屋と違い、豪華な部屋が待っていた。
豪華絢爛と言う装飾されたような部屋ではなく先ほどの部屋よりも物々しい部屋で、眼の前は細長い通路になっており薄暗く、ガラスではないが人が1人入りそうな鉄製の円筒形ケースが左右にたくさん置かれ縦一列にきれいに並んでいた。
「―――――?」
片方は男、片方は女だと思われる2人の子供らしき人影が少し先に見えた。
「―――ま―――?!」
まさかと言う暇もなく、アーウェーの開発した実験体かと思う中で、案の定と言うべきか不意に女、正確には少女のほうが激しく強い白い色の光を発した。
非常に強い光で眼も開けられず、身動きが取れないほどだった。
激しい光は莫大な威力を持ち、周囲を施設ごと吹き飛ばし、あの少女と少年がアーウェーの兵器だと言うことは放置し、爆発程度でハイブリッダーが死ぬこともなく、オレは頭上に見える残った建物の大きな破片を勢いよく吹き飛ばし、姿を表した。
爆発したと言うよりも周囲の環境も関係しているが、火が雪で消えたのかもしれないが、壊れたと言うようにも見えた。
「―――」
逃げられ、落ち着くためにタバコを一服でも吸いたいとも不意に思ったが、風速も非常に強く雪も風も強く吹き、雪崩も起きそうな様子だったので辞めたが、何にしても証拠は隠滅され、オレだけが残っている状態だった。
「―――」
ハイブリッダーだから平気だろとか言われそうだが寒いのは嫌いで身体は冷え始めていたが、心の奥底は燃え上がるような怒りに満ちていた。
証拠も隠滅され、こちら側の損害も大きいが、思い返せばくだらない気もするし、いったいなぜここまでするのか聞かれると自分でもわからない状態で、なぜ怒りがこみ上げるのかわからないが、オレは何にしても無我夢中で追いかけようとしていた。
「―――――?」
必ず殺すと言うようなことを考えている中で、不意に後ろから何か気配と音がした。
「―――ハロウィンは終わったぞ?」
Ver.2ゾン、Ver.7ヴァリー、Ver.4ケディー、加えてVer.5ウェバー、ゾンビに羽の生えた女に原形不明な生物たちと言う、アーウェーが造りだした実験体の人間が造りだした粗悪な模造品の神たちだった。
持ち帰り証拠に価値もなさそうに見え、プログラミングされているのか不明だが、姿を表すとこちらに向かってきた。
「Trick or Treat.じゃないな、Dead or Aliveだな。」
言うと拳を勢いよく後ろへ振り回し、後ろから隙を突こうとしたゾンの頭部を打ち砕いた。
「クリスマスには早いが前祝いだ。盛大な花火を受け取れ。」
足元から大量の手榴弾やC4、言わばプラスティック爆弾などを落とした。
オーヴァーマシンを自由自在に変化増殖、減少させるハイブリッダーにとって半永久的に物資を生み出すことなど簡単なことだ。
時間など数えるまでもなく即爆発したが、爆発にも身体は微塵も答えることもなく、オレはアーウェーを追い、プロジェクトヤーウェーを阻止するために出発した。
ハイブリッダーの能力を駆使すれば高速で移動など簡単なことであり、不可能なこともないと言え、ゲート装置を体内に造りだし、時の壁を超えることも問題なく行える。
アーウェーがプロジェクトヤーウェーの実現を目指して逃亡し、オレが目指す目的の場所は1998年の12月25日のアメリカだ。
普段ならば簡単に追跡可能だが、気配を感じることができず、作戦の本格実行は1999年の12月31日、腹が立つが、クラッキング時にわかったが、最初からオレとの世界存亡を賭けたゲームを精巧に予定していたようだった。
まんまと逃げられ、最初から逃亡は計画し、ここはゲームならば序章のデモムービーで主人公が失敗して悔しがっていると言う状況だと言う訳だ。
この後オレリードは、会った時は事情が事情で粗末に扱うが、後に何にしても奇妙なことだが一緒に戦うこととなり、相棒と呼ばれ、リードと言う名からリーと呼ばれ、オレからも事情や敬意を込め、「兄弟」呼ぶ男と会うことになる。
現実はゲームや架空の物語ではないが、これこそ誰かが読めばその一部だが、現実に英雄なども存在しないし、オレは主人公などでもなかったし、兄弟も同様で運よく生き残りこの場でただ語り手となり書き手となっただけだ。
アーウェーも知らなかったことだが、2人の私的ゲームと言う状態なっていたが、後にあれほどのことになるとは思わなかった。
海外渡航には問題は多いが、飛行機の中でできることはと言えば極端に制限され、迷ったら時差ボケ対策に寝るのが一番で、俺山中はと言えば、眠ろうと考えながらも外の風景を見ていた。
外の風景とは言うが、飛行機の窓から見える外の光景は目的地と空港以外にあまり差異が存在せず、永遠に広がっているように見える空が見えた。
永遠に広がって見えるが、厳密には有限で、科学的な話は割愛するが、永遠に続いているように見えるだけで、空虚なものだと思った。
俺は空を見ながらと言うか、眠って夢でも見ているのか、あの日の射撃場の後の出来事が鮮明に思い出されていた。
一番最初に思い出されたのは投げられて宙を舞い落ちるビールの空き缶だった。
銃を下した俺は近くに置いていて空き缶を不意に勢いよく放り投げていて、その放り投げた空き缶に銃口を向けていた。
銃口を向け、照準を瞬時にあわせ、引き金を撃てば当たるだろうと思ったが、引き金を俺は引くことはなく、床に空き缶が落ちる乾いた音が勢いよく響き渡り、缶は勢いに乗って2、3回ほど飛び跳ねた。
撃って意味があるかないかわからないで、俺は引き金を引けなかったが、それは俺自身の命についても同様だった。
空き缶はと言えば落ちた後転がり、俺の視界の少し遠くに移動し、俺は後で拾い直しゴミ箱に捨てた。
時の歯車は止まらないもので、俺が次に思い出したのは空港でアメリカを発つ前のラッセルたちとの会話だった。
2人も同じ便に乗る予定でラッセルは見送りと言うか、2人もだが俺が逃げ出す可能性を踏まえての監視で、俺はと言えばここから逃げ出してアメリカに亡命でもしたいと言えばいかなくてもいいかと考えていた。
夏川はと言えば俺たち3人の中で一番年配で、ラッセルに俺を任せたぞと言うように言われ、夏川は無論ですと言うように返していた。
周囲を見て見ると出迎えやお迎えをする人間たちの姿が見え、事故や大きな問題が起きているわけでもなく、便の遅れなどもないので俺たちと違い明るい雰囲気だった。
「―――亡命とか考えてない?」
「―――いえ―――」
「もう、そんなに帰りたくないほどのことがあるの?」
入社当時からこの状態と言うか、俺の入社年齢が若すぎたこともあるが、階級が上になっても保護者状態で、何とかならないかと考えていると、牧野が待てと言うように声をかけてきた。
図星ではあったが、平静な反応と言うか、言われることは予期していて、そんなこと考えてませんよと言うように返すが、夏川が絶対に違うでしょうと言うように言いながらこちらに歩いてきた。
「家族でしょ? さしずめ大喧嘩か、だけど縁を切るようなことはされてない。どちらかと言えば―――」
「わかりましたよ!? 姉と大喧嘩して家出したんです。これで満足ですか!?」
「―――」
夏川は言葉を続け、あなたのその反応からしてと言うように言い、俺はと言えば勝手な推測をされて困るで、これ以上詮索もされたくないで、後が面倒で半場怒って正直に話し、奈津佳はそれだったかと言うような表情を見せた。
声に反応し、周囲の人間たちが軽くだが眼を向けたが、少しして関わり合いになりたくないと言うか、自分たちには関係もなく大ごとでもないのならと言うように再び元の状態に戻った。
空港の喧騒の中の一部分で、俺も我ながら大人げないと言うか、声を張り上げて言うものではないなとも思った。
夏川に対して言った喧嘩したと言うのは、厳密に言えば違うと言うか、うそと言うか、知見の違いで、厳密に言えば俺の身勝手と言う方が正解で、俺は家族に何も言わずに自衛隊を辞めて国を飛び出して現在に至っている。
5年以上も音沙汰なしの状態だったが事件のせいで公にも事情を知られた上帰らないといけないで、顔をあわされる可能性も高く、何と言って顔をあわせばいいかもわからないで、俺は何とか逃れる方法はないかと考えていた。
考えていたが、方法が思いあたるわけもなく、俺はと言えば飛行機の中で眠りについていた。
テロリストを撃退したと言えば聞こえはいいが、厳密に言えば殺人や暴行、恐喝と言った過剰防衛や犯罪、非道徳的行為な上、間接的とは言え大使館と言う日本の中で起こしたと言えば大問題なのは代わりようのない事実だ。
厳密に言えば大使館の中の方が余計に複雑で、問題が多いと言うべきで、渦中と言うか、発端ではないが、俺たちは日本と言う国で戦争以上のことをしたと言える。
戦争以上とは言え、俺たちは書類上は多国籍企業の社員で、法的には軍隊としては定義されず、俺たちの行動も軍事行動には適合せず、大使館からの対処など、極めて妥当な判断とも言える。
法律違反とそうでない中間を意味するグレーゾーンと言う言葉が存在するが、俺たちの行為はまさにそれに適合し、厳格な処分が与えられないと言う方が正解だ。
俺たちの見にこの後降りかかると推測されることは、大使館と同様に偉い人間たちに怒られることで、俺は覚悟をしておかないと不味いなと考えてもいる中で眼が覚め日本に到着したことに気付いた。
日本に到着した俺はそのあと降り立ち、手続きをして、書類上日本に入国したことを覚えているが、夢の続きを見ているような感覚だった。
現実逃避と言うべきか、降り立ったのは夢で、まだ日本には到着していないので心の奥深くで覚悟を決めるために見た幻覚かとも思えた。
奇妙な感覚と言うか、夢の中ならば飛行機のイスでまだ寝ている状態だが、俺は飛行機ならばできない奇妙な姿勢と言うか向きで眠っていることに気が付いた。
だからこそ夢でも見て夢の延長かもしれないと思ったのだ。
社内で自殺したか、乗った飛行機か事故に遭遇し不運にも巻き込まれて死んだか、事実はどちらにしても眼が覚める直前に夢か何かわからないが見えたものがあった。
地面に広がっている大量の血と脳や骨、肉と思われる赤く柔らかそうな気味の悪いかけらと、自分の持っていたと思われる拳銃と血まみれの、自分と思われる身体の一部、正確には手だった。
夢は人間の脳の記憶の整理現象とも言われ、メカニズムなども医学的に判明し、脳を直に電気で刺激し、臨死体験に似た体験をしたと言う実験が海外に存在している。
「―――っ?!」
夢だとしてもなんだとしても、いつどこで死んだか、どのような体験をしたかはどうでもよく、次に目覚めた時感じたのは一気に眼が覚めるほどの寒さだった。
「―――なんだ?」
勢いで思わず勢いよく起き上がると、周囲は真夜中のようで非常に暗いが、どこか都市の一角、正確には人気の裏通りで、遠くにネオンや看板が見え、微妙な明るさがあった。
気づいたのは後で何にしても感じたのは寒さで、真冬の寒さだった。
「――――――――――」
身体は凍傷を起こすほどではないと思われるが、いつからここにいたのか一切わからないが、完全にと言うほどに冷え切っていた。
底抜けと言えば大げさだが非情な寒さを体験し身体を冷やすと、人間は冷えた部分を冷えと感じず痛みとして認識し、手足の指の先が言葉通りの状態で、痛みを感じ、動かしづらい状況だった。
「―――どこだここ?」
手足の先から冷え始めるのは胴体や頭部などの身体の本格的に重要な部分を守るためで、状況通りに頭は正常に機能し、口は少し震えているが、思わず思った通りの言葉を口にすることができた。
「―――まさか?」
ここからが本題と言える。
言葉とともに吐き出された息は鮮明な白い色で、季節は真冬だと言うことを知らせていたが、頭の中で一瞬そうだとも考えながらも、周囲の風景に心当たりがあり、思わずと言うように勢い良く走り出してしまった。
「―――」
寒く手足は痛むがこの事態的に判断して止まっているよりも動いて血液の循環を促し、身体を温めるほうが適切で、加減もすることもなく大通りを目指して勢い良く走り出した。
「―――――っく?!」
水たまりを踏んだ。
暗くて解り難かったが、身体を動かし、時間がたって身体が温まり、環境に眼が慣れ、花も慣れてきたか周囲の光景と臭いをある程度確認できるようになってわかったが、地面は雨が降ったのか一部が濡れ、乾き始めている様子で、雨上がり独特の匂いがしていた。
「―――――っ!」
出た。
踏んだ瞬間靴が濡れ、少し不味いと思ったが何にしても走ってすぐにメインストリードだと思われる大通りに飛び出すことができた。
「―――――」
飛び出した瞬間に歩いていた人間をおどろかせ、背後から声が聞こえたが気にすることもなく、勢い良く周囲の様子を確認した。
「なんで、何でアメリカにいるんだ? 俺は? まだ?」
紛れもないアメリカだった。
突然飛び出してきたアジア系の男を見る見ないを問わず、白い眼の多くの瞳は、無論同じアジア系もいるが、青い色などの異なる瞳と肌や髪の色が異なっていた。
「―――何の冗談だ?」
日本とは思えない派手な看板や広告、日本とは思えない雰囲気に、イエローキャブと言われる黄色のタクシーなど、アメリカであることは納得できたが、周囲の気温と言い納得できない事態があった。
「―――」
聞こえてくる音楽だ。
聞こえてくるのは「ジングルベル」や、「きよしこの夜」、「第九」、この曲で連想されるのは言うまでもないがクリスマスだ。
聖夜、生誕祭とも言われている。
日本でも行事として祝われ、悪く言えば商業目的の傾向が強いが、正確にはキリスト教の始祖、言わばジーザス クリストの生誕を祝う西洋やキリスト教徒の布教した国で行われる非常に大切な行事の1つに位置し、イヴは前夜祭を意味している。
季節は桜の見ごろが終わる季節のはずで、クリスマスには最高半年ほどの差と時間があると思われるが、気温と言い、状況と言い、クリスマス恒例の巨大なもみの木、言わばクリスマスツリーも確認でき、誰がどう見てもクリスマスの雰囲気が丸見えだった。
「―――っ?」
走るのを止め思い切り勢い良く走ったために呼吸を整えていた中で、突然誰かが肩を軽くたたいてきた。
「あなた、大丈夫?」
「あ? ああ、大丈夫だ?」
上品そうな格好の初老の白人女性だった。
背は比較すると少し低いが、笑顔と言うべきか、愛想のよさそうな顔で、言葉通りに心配しているのか異常な様子に声をかけてくれたようだった。
実際問題大丈夫とは言えないが、現状を問いただせるほどの精神的な余裕はこの時なく、できても頭を疑われるか心臓発作でも起こしかねず、心配されないようにと言うように勢い良く返事を返した。
「―――あ~っ? マダム?」
「もうおばあちゃんよ?」
大丈夫だと確認すれば行くだろうと思い、何にしてもこれからどうするかと周りを見渡そうとすると、女性は笑顔で首にかけていた白いマフラーをかけてくれた。
「とても寒そうよ? 息まで切らして? 何があったか知らないけど、聖夜なんだから、いいことがないとね?」
「―――」
「クリスマスプレゼントよ? 異教徒だから受け取れない? まぁ、年寄りの気まぐれと思って? じゃあね?」
女性は半塲押し付けるようだが笑いながら言い、何にしても少しは寒さが増しになるのでありがたく握り締めると女性は去って行った。
「―――」
緯度の高い場所などを探せば相応の気温の場所はあると言えるが、場の雰囲気だけは変えることはできないが、女性の反応は演技でもない紛れもなく状況相応の反応だった。
「―――」
楽しそうな雰囲気だ。
サンタの仮想した人間も存在し、偽装とは思えない状況だった。
「―――?」
圏外だった。
何にしても思わず状況を確かめようと携帯を取り出すと、携帯の電波表示が圏外を示していた。
ウェブにも接続可能な多機能型携帯電話、言わばスマートフォンを使用し、グローバルパスポート、言わば国外対応もしているはずだが、携帯電話の電波表示は圏外、言わば通信不可能だと表示し、故障もしているようだった。
「くそ、故障か。」
時刻表示も正しい時刻が表示されておらず、肝心な時に使い物にならないと思いながら操作を始めると、ラッセルからメールが来ていた。
『ラッセル イシカワ(大佐)
日本についたころだろうから連絡する。
日本支社長の折原聖那が君に会いたいと言っている。
会った後は少しの間有給休暇を与えるので故郷にでも帰り、十分に静養とるように求める。
加えて終了後にはありがたいことに君にはプロジェクトカグヤを警備する勅命が来ている。
最後についでだが、変えてないと思うから書いておくが、携帯の表示を早めに少将に書き換えておくように命令する。』
親の苦労子知らずではなく、部下の苦労上司忘れて教えず、同じ思いをさせて楽しんで身体で覚え込ませて通過儀礼にさせる。
嫌なことを他人にするなとか言う以上の問題だが、肝心なのはなぜまだアメリカにいるのかと言うような状況だった。
「―――?!」
大きな看板に1999、という表示が見えた。
「―――」
急な話となるが、後で何にしても自覚すると言うよりも教えられることだが、この時、1998年の12月25日に時間移動していたのだ。
原因を説明するとなるとこれから説明することになるが、ここで最初に起きたと言うよりも遭遇した現実とは思えない出来事を話す必要がある。
「1998年の12月25日? まさか?」
携帯電話をしまいながら偶然見ることができた近くのおもちゃ店らしい店のショーウィンドウの商品だと思われるおもちゃのカレンダーには間違うことのない西暦が刻まれ、隣には小さい子供ほどの、正確には高さ100Cmほどの人口のモミの木が売られていた。
何かの冗談だと思い、どうしてもいいかわからなかったが、戻った。
何が起きているかわからないが、生まれ持った感と言うものかもしれないが、本能的なものかもしれないが、何にしても走ってきた道を戻ってしまったが、反面後でわかることだが、これがある意味これから話すことの幕開けとなり幸運の鍵だと言えた。
明確な理由を理解できない俺は理由を探そうと必死に考え、身体を動かし、疑い、走って来た道を見直し、少しして戻ることを決めて走り出していた。
本気で心の奥底から焦り、動揺し、どうしていいかわからず来た道を戻ることしかできなかったが、どのように道を通ったかわからず、勢いよく走っていて気がつけば違う道を通った気がした。
気がしたと言うよりも本当に違う道を通っていたようで、これが運を制したのか、仕組まれたものなのかはわからないが、奇妙な光景を見た。
「―――――?」
正確には初めて見た時はだれかもわからず、人気の無い道に幼い2人の子供の姿が見え、何事かと思いおどろき見ていることしかできなかった。
不思議な光景に思わず言葉を失ってしまった。
1人が緑色に近い透明の球体に身体を丸めて包まれ宙を舞い上がって行ったのだ。
「―――――」
ナチュラルやケミカルでも、言わば麻薬や覚醒剤でも打ち込まれて幻覚でも見ているのかと思うほどの、アニメやゲームで見るような、現実には到底説明できない神秘的な光景で、見ていると球体に包まれた少女は姿を消した。
「―――」
「また会いましょう。」
「―――おい?!」
もう一人のほうへと眼を向けると眼が合い、双子なのかよく似ていると思い、どこかで見た覚えがあるが思い出せず、見間違いかとかと考えながら見ていると少女は言葉を口にして突然姿を消した。
「どうなっている?」
巻き込まれていた。
もっとも簡単な表現を使うとすればこれで、これが現実だと認識するには時間のかからないことだった。
「――――――――――?」
酒でも飲み過ぎたか、血筋から強い方であって酔うことなどないとも思っていたが、何が起きているかわからず、思わずと言うように走ってきた道を振り返った時だった。
後ろの少し遠くに何かがいた。
「―――だれだ?」
人影のようにも見え、思わず声をかけると歩いてきたのか、足音のようなものが聞こえ、近づいてきたが何か奇妙だった。
「―――?」
足音が素足で歩いているような音で、こんな時期に裸足で歩く人間などいるはずもないしと、思い眼を凝らした時だった。
眼だと思われる部分が光り、低く不気味な叫び声をあげた。
「―――――!?」
何事かと思う間もなく影は走り出し、勢い良く近づいてきて、見えた人影は正式には人影ではなく、恐竜のような怪物だった。
「恐りゅっ?! う?!」
捕まった。
普段の普通の人間ならば回避できたかもしれないが、相手が悪い以上の問題で動きも早く、勢い良く押し倒れた。
「―――う、ぐ―――、ぅう―――?」
アクション映画顔負けの光景だった。
押し倒されこそしたものの、鋭利な犬歯の生えそろった大きな開かれた口が、頭部めがけて押し迫る中で、口の前に手をだし、言葉通りに食い止めることが成功できたのだ。
「ぅぅぅ、ぁぁぁ―――」
頭が噛まれるか、手が先に食いちぎられるか、言葉通りの時間の問題だった。
「―――」
現実とは非情なもので不条理なままで助けも来ることもなく一生を終えると思い、半場諦めての力が限界に近づいた時だった。
「伏せてください!」
「?!」
声が聞こえて合わせるようにして手を離し、怪物の口が勢い良く閉じられ、勢い良く地面へと伏せた瞬間、再び迫るように口を開いた瞬間、銃声だと思われる音と同時に、怪物の頭の上側がなくなった。
「ぅげっ?!」
誰かは解らないが助けられたようで、怪物は死に、死んで重いも何もないと思うが、重力の法則にしたがって落ちてきた。
体長は2~3mほどで、推測される体重は50Kg以上、この身体に50Kg以上の衝撃は正直に言うが笑い話にならないものと言える。
「大丈夫ですか?」
「ぁあ、重たい以外は―――?」
何にしても助けてくれたのは人間のようで、声をかけてくれた。
「おもてぇんだよ、くそトカゲ?!」
「―――日本人ですか?!」
「―――?」
何にしても怒りに任せて蹴るようにして怪物をどかしながら怪物を押しのけると、聞きなれたことがば帰って来た。
質問通りの言葉で、声は男の声で、日本語だった。
「ああ、そうだが―――?」
「そうか、よかっ―――た―――」
「?!」
倒れた状態で失礼だが顔だけを向けると男らしき姿が見え、男がうれしそうな反応をする中で地面に膝をついて倒れ、何事かと思い、勢い良く立ち上がり、走り寄った。
「どうした? 大丈夫―――、うっ?」
出血していた。
正確には倒れた男を近付いてみると、腹部から大量の血を流し、男の後ろを地面に大量の血痕が見え、腹部を抑え、呼吸も荒く、苦しそうにしていた。
「なにが―――、え?」
「―――ぁ?」
「あっ、た?」
時が止まった。
よくある文章表現だが、正確にはおどろいて思わず静止してしまった状態で、何が起きたかと言うと、お互いによく見知った関係であったためだ。
「雷也、望月雷也か?」
「そういうあなたは、山中一輝さん?」
望月雷也は28歳の報道カメラマンで、何度か仕事であったことがある男だが、何にしても何でここに、と言う言葉がお互いに出てきそうな顔だった。
大使館の事件の続きになるが、ニュースでは雷也が大使館にいて死亡し、山中はおらず、一方で山中一輝が大使館にいて望月雷也がおらずと言う状況の中で雷也にあったのだ。
「何でここに? いや、それよりも何があった? 傷を見せろ?」
「―――っぐぅ?!」
「我慢しろ―――っ?!」
おどろきの連続だが、一言で言えば絶望的で絶対に間に合いそうもなかった。
「―――なんだ? この傷? それに?」
突き抜けている。
何が起きたかわからないが、傷は合計3つで、どちらからかわからないが、剣か何かで胴体を勢い良く貫かれ刃を抜き取られた状態で、血痕の量を踏まえ、よくここまで動けたと言える状態だった。
「とんだ、八百長レースだ―――」
「―――――っ」
雷也の言葉をよそに、傷も心配だが、あの怪物と言い、ほかにもまだいるのかと思い、すぐに雷也の背中に背負っていた銃を奪い取り、構えた。
「借りるぞ―――?」
あれこれ言う暇はないが、雷也の改造かわからないが奇妙な銃だった。
おそらくはガンスミス、言わば銃改良の専門家が個人でしたのか改良がされた銃だと思われた。
原形はレミントン社製の口径12番ゲージの競技用セミオートショットガンM1100のチョークを細め、装弾数を増やしたロングチューブ型、装弾数薬室含め7+1と思われるが、グリップにストックがないピストル式にされていた。
フォアグリップ式に改良され、レーザーサイトやライトを装着できそうなレイルシステムの装着など、リコイルショックに少し難があるかもしれないが、近代的なタクティカルユース用の本格改造だった。
「大丈夫、です。もう、近くにはいません。」
「―――」
「―――?」
雷也が言うが、戦争では一瞬の油断が命取りとなり警戒を続ける中で、雷也は勢い良くこちらの服を引っ張って来た。
「これが、センサーの代わりになります。」
こんな時にと言うような顔をしていると、雷也は自分のか携帯電話を見せるとそう言った。
「スマートフォン?」
「ヴァイブレーションが何もないのに起きているはずです。」
「―――」
言われたとおりに確認するしかなく、携帯電話を取り出すと、携帯は紛れもなく振動していたが、すぐに止まった。
「ほら、見てください?」
「?」
溶けていた。
「―――――な?」
「わかんないけど、解けちゃうんです。」
携帯のヴァイブレーションが止まり、雷也が不意に怪物が倒れた方向を指さすと、先ほど襲ってきた怪物は、氷だったのかと言うように輪郭を崩し始めて、溶け、影も形も原形も気配もなくなってしまった。
「―――中さん―――?」
「なんだ? とにかく、病院に行くぞ?」
「ここは、まだ、知らないと、思いますが、―――」
いい情報を聞き後で本当に感謝することになるが、何にしても重傷に見え、幸運か不運かどちらにしても状況的に雷也が十分に助かると思い、目まぐるしいが雷也を肩車して歩き出した。
「1998年の12月25日で―――――」
「話すな! 生きることに集中しろ!」
嘘か本当かわからない事態を納得させようとしているのか、遺言だと言うように話始める雷也を半場強引に制した。
「僕は、もうダメ、です―――」
「あきらめるな! いつかやり返すことだけを考えろ! 敵をぶっ殺すと憎め! 悪魔に魂売ってでも生きたいと思え!」
負の感情は一見すると人間の悪い一面かと思えるが、狂気的な犯行に及ぶ人間と言い、意外と生命に生きる気力を与えることが多いことが心理学的に証明されている。
「治療費なら心配するな! 強盗でもしてでも手に入れてやる!」
「―――」
「う? く? あきらめるな?!」
何にしても雷也を勇気づけようとするが、雷也は体力の限界か地面に膝をつき、血を吐き出した。
「吐くな! その一滴一滴が命の源だぞ? 飲み込んで栄養にしろ!」
実際は栄養になるかはわからないが、半場強引にだが口を押えて言うが、雷也の血は止まらずにで続け、苦しそうな顔で、眼には涙が浮かび地面に落ちた。
「お前は普通の人間だろうが俺は兵士だ! 助けてくれたら仲間だ! 銃で撃とうとしたら敵だしぶっ殺すが、お前は必ず助ける!」
自らの手を血に染めて、偉そうなことを自分でも言っていると思うが、仲間を助け、助け合い、敵と判断した人間を殺すのは兵士としての基本や鉄則であるのだ。
「―――聞いて、山中さん。レース、何です―――」
「レース? 何の話だ?」
膝を倒しているのを必死で起き上がらせようとするが、持ち上がらず、動かない中で雷也は語り出した。
「『イザナギノタタカイ』、そう言われています。」
「伊弉諾の戦い? 神話の話か?」
イザナギ、日本初期や古事記などに登場する神の1人だ。
夫婦の神であり、片割れのイザナギが存在している。
「女神が強い者を、選び―――ぅ」
「くそっ?! しっかりしろ?」
雷也の重たく力の入らない身体をもう引きずることしかできず、対して進まない状態だった。
「女神だか何だか知らんが―――――」
「勝者は山中一輝―――」
「?」
口を開くにしても引っ張るだけでも身体の負担がかかるとは思いながら引きずり、雷也の言葉などどうでもいいと言うように言いかけると、確かに雷也は、『勝者は山中一輝』だと言った。
「あなたは、ルールを知らないのか―――?」
「ルール? どう言う意味だ?」
意味が解らない状態だが、ルールと口にしたことと言い、雷也は何かを知っているような物言いで悔しいと言うか、悲しそうな様子で、言葉に反応し、思わず立ち止まってしまった。
「飛んだ―――――っく―――」
「おい?! 雷也?! っく?」
意味が解らないと言うような顔をしていたと思われるが、雷也はこちらの顔を見ると落ち込んだような顔をした。
時間は残り少なく、話よりも病院に突っ込むことが先決だと後ろを向いたが、人影も助けもなかった。
「聞いて、ください―――」
「後だ!? ぜ―――」
「お願いします!」
絶対に助ける。
言い切る前に雷也は肩を勢いよくつかんできた。
「―――お願いします。お願いします―――」
「―――わかった。わかったから、落ち着くんだ。身体に触る。」
何にしても最善を尽くす必要があると思い、落ち着かせ、再び引きずり始めたが、雷也は倒れた。
「―――っく?」
「選ばれた人間の中から強いものを決める、非常識的な戦いです。」
雷也は何にしても語り出した。
「非常識? だと?」
「何が起きてもおかしくないし、命を賭ける以上のことになる―――」
雷也の身体の血と眼から流れ出す涙、体液と言う体液が流れ出し、命の源がすり減っていくのが眼で見てわかる状況だった。
「事情は分かった。とにかく―――」
「加えて、僕は3つのことを教えられた―――」
「―――3つ?」
何にしても助け起こそうとする中で、まだあるのかと言うような物言いで雷也は言葉を続けた。
「ルールを知らない人間がいる。勝者は山中一輝、女神は、そして、―――勝者を心身ともに、深、く―――」
「しっかりしろ!」
「―――何にしても、とんだ災難だ―――」
血がアルファルトの地面を濡らし、よく見てみると、服も血まみれで職業柄なれているが、普通の人間がいれば吐き気を感じるほどの強く血生臭い匂いがしていた。
「いいことなかった。天涯孤独だったし―――」
「これから作ればいいんだ! あきらめるな!」
重傷を負い死に直面した人間の中で受け入れる状態となった人間ほど他人から見て哀れに見える人間はおらず、元気づけるが、雷也はあきらめている状態だった。
「家族も、まだいるんでしょう? 勝者なら、戦いを終わらせ、て―――」
倒れた。
映画のような光景だが、手を伸ばしたかと思い、手を取ろうとする中で倒すように落ちると眼は閉じられ、意志や筋力と言う力で固定されていた首が力なく地面に落ちた。
「雷也! おい雷也!? 雷也! 雷也ぁあーーーーーっ?!」
死んだ。
声をかけるが、声は二度とこの身体に、加えて実在と言うものが定義されにくい魂と言う物体には届いていなかった。
他人から見ると体制的に苦しんでいる人間を苦しめているようにも見えるかもしれないが、すぐに首の脈を手を使って診てみるが、一見すると少し苦悶しているが、心地よさそうに寝ているように見えるが、雷也は死んでいた。
この時何が起きているかわからなかったが、何にしても彼方たちの話と矛盾が発生している。
理由は後でわかることだが本来ここに存在しないはずの望月雷也と山中一輝が存在し、望月雷也は山中一輝の眼の前で死んだ。
どうすることもできず、首の脈を確認した手は、どうしようもなくこみ上げた怒りに似た感情に合わせてか、近くの地面を勢い良く殴ったが、道路から鈍い音を響かせ、腕に痛みと傷ができただけで、雷也は決して生き返らなかった。
地面を殴った手とは反対の手には、先ほど雷也から奪い取り手にした銃が握られ、これからはお前が戦うのだと強制して言うかのようだった。
詳しい事情は分からないが、時間移動の審議にしろ、怪物にしろ、後でわかる矛盾にしろ、何にしても戦う覚悟だけはこの戦いの前からできていた。
雷也を助けるため、話を続けなくてはいけないが、これから話すことは個人だけでは説明が足りず、彼方たちや、ほかの人間たち、加えて、この後、相棒と呼べる男との話が必要不可欠だ。
天の助けとは到底言えなかった。
どのような事態が起きたにしろ、少しの間動けなかったが、俺は雷也の死体をこのままにしておく気にならなかった。
怪物に襲われる可能性もあるが、人道的な配慮と言うものが頭の中に浮かび、どうすることもできず、何にしても少しして立ち上がると少し遠くだが、革靴の刻みのいい走る音が聞こえた。
だれかが来たようだった。
「This way!」
「Yeah! Are you all rights?」
遠くから聞こえ足音は近づき始めて来ていた。
幸運にもと言うべきか、近くに人がいたようで、俺の声を聞いて幸い人が気づいて来てくれたようだった。
「っう?!」
用意周到なのかわからないが人影のようなものが見えた瞬間、思わず目を覆うほどの強い光、強い光源の懐中電灯で照らされた。
「大丈夫ですか?」
「おい? 血まみれだぞ? 大丈夫か?」
幸か不幸かわからないが、警官だった。
2人組で片方が少し大きい体格で一人は細身の警官で、細身のほうがこちらを警官用の香料の強いライトで照らし、声をかけて近づいてきた。
少しだけ眼を向けてみると服が雷也の血液で汚れ、濡れていた。
「ぁあ、大丈夫だ。だが―――」
殺人事件の犯人と勘違いされて現行犯逮捕されそうだが、現状もあるし、雷也のことを含め、銃を見られたら捨てようとも考えていて、後ろを見て欲しいと合図をしようとした時だった。
「―――!?」
大きい体格の男の背後に突然あの怪物が姿を表し、襲い掛かって瞬時に頭をかみ砕いて殺した。
「―――」
声を出す暇もなく、もう一匹姿を表し、細身の男に襲い掛かり、首にかみついた。
2人は悲鳴も声も上げる暇もなく一瞬で殺されてしまった。
「―――ック?!」
言うまでもなく怪物に対し銃を向けた。
威力は高く、倒せることは確かだが、ショットガンの弾丸に何が込められているかが一切わからず、チャンバーチェックもしている時間もない状態だった。
「―――」
この距離ならば外さないが、残弾数も解らず、改造もされ、リコイルも少し大きいと判断でき、一瞬の勝負になると言え、先ほどのことも踏まえ、背後にも気を配る必要があった。
「―――――」
状況的に考えてないかもしれないがサボット言わば単発式や、ゴム製の弾丸を使用した非致死性の弾丸の可能性も高く、片方に撃ち込むか、散弾だと信じて中間に撃ち込み適当に損害を与えるか思わず手が止まった。
「Just Stop its!」
「―――?!」
職業柄か、クレー射撃などしたこともあるせいか銃に関して下手に知識を持っているために撃ちにくいと考えている中で、女性らしき声が聞こえ、思わず怪物と同時に声の方向の右側に顔を向けた。
「―――」
女性と言うよりも少女だった。
年齢は7、8歳ほどで幼い印象で、長袖長ズボンで上着を着ているが薄手の素材のせいで凍えているこちらよりも寒そうな薄手で、下着とも言えるほどの服装だった。
「!」
好機だった。
何にしても怪物の視線は少女のほうへと向き、怪物の1体に向けて引き金を引いた。
「―――」
近距離で弾丸も散弾であったようで、命中した頭部が勢いよく砕け、気づいたもう一体は反応してこちらを向くが、少し強い反動を強引にと言うように制御し、狙いを定め、疋田根をもう一度引いた。
「―――――」
運がいいようで弾丸は装填されて、地面には頭の砕けた怪物の死体が転がっていた。
「―――」
「―――すべて真実だ。あきらめてはだめだ。あなたは参謀となる。」
「―――?」
意味不明の事態で何が起きているかわからないが、生きながらえることができたが、こんな場所に少女がいることがおかしいと思い声をかけようとする中で、少女が口を開いた。
だれがどう見ても俺に対して言っているようで、ある意味と言うか確かにあきらめることは不味い状況だが、最後の参謀になると言うのは意味不明な言葉だった。
「―――?!」
電気の発電する音と言うべきか、雷と言うべきか、天候はそれほどひどくない気がするが、不意に強い風が吹き雷に似たような音が背後から聞こえ振り返った。
「―――――」
有名な映画のような光景だった。
ジェームズ キャメロンを監督として出世させ、アーノルド シュワルツェネッガーを肉体派ハリウッド俳優としてスターダムへと押し上げたサイバーパンク映画の傑作「ターミネーター」のワンシーンのようだった。
機械の人類が戦争をする未来、機械側は過去の世界へと殺人機械、ターミネーターを派遣する。
目標は1つ、後の指導者となる男を生む女性を殺すことだ。
冒頭の殺人機械が姿を現れた時の映像に酷似し、突然激しい光の輪からが5、6m離れた高さ3、4mほどの壁の近くの場所に現れたかと思うと、球体から男こと、リードが落下して来た。
着地した膝をついた姿勢で静止していたが、少しして立ち上がった。
映画との違いは映画では生き物以外は転送できないのか、映画では全裸となるが、リードが服を着ていることで、この時は異様な事態で気づかなかったが、AGSが幹部用に支給と販売をしている冬服の上着を着ていたことだった。
「―――?」
光った。
怪物の眼が赤く光ったのはとは対照的に男の眼が青白く発光した。
「―――――」
眼が覚めたら20年以上も前で、突然眼の前に魔法のような光景に怪物、人が死ぬと言うどこから何を言えばいいと言うようなもので、少女とリードを交互に見ることになった。
後のことを踏まえると偶然の一致か奇跡の出会いか、運命や必然とも言えるのかもしれないが、数学的に言えば現状はと言えば天文学的数値の領域と言えた。
遭遇した俺自身も例外ではなく、適応した人間と言うか、存在の範囲内だと納得するのは後少ししてからだった。
ゲートアウトは終了し、オレことリードは1999年の12月25日のアメリカへと降り立つことができたが、少し理解できないと言うか、計算外の状況だった。
ゲートを起動させ、爆発寸前にゲートインし、時間を跳躍しゲートアウトした状態で、間違いも何もしていないと思っていたが緊急作動で誤作動でも起きたか問題が起きていた。
時間移動の危険性が大きいことは必然であり、問題の起きないように十二分に警戒して行動することは言うまでもなく人気の無い裏通りへとアウトする場所を選び、ある程度検査もしたが、まずいことになぜか人がいたのだ。
運が悪いのかいいのか、偶然の一致か奇跡の一致か、仕組まれていたのか、何をどう考えるにしても肝心なのはこの人がいたことが重要な事態だと言えた。
2、30代ほどに見える血まみれで銃を持った男と、近くに転がる同じ年齢ほどの3人の男の死体、遠くには幼い少女の姿が見えた。
銃を持った男は無論山中一輝で、この後少ししてだが、思いもしない事態だったが、協力することとなり、後に兄弟と呼べるほどの男となる男だ。
「―――やはり来ましたね?」
「―――!?」
「―――――?」
都合のよすぎる状況とも言えるが、状況を明確に理解できないのはオレと山中のようで、先に口を開いたのは少女で外見とは不相応な不気味なほどに落ち着いた声と物言いでオレに対して言ったようで、山中は何事かと少女のほうへと眼を向けた。
利き手がオレと同様の左利きで構え方こそ逆を向いているが、山中は銃口をこちらにも少女にも向けておらず、人差し指も引き金にかかっておらず、姿勢も低く持っていた散弾銃を正確に保持し、訓練されたプロの兵士特有の動きをしていた。
「―――――?」
高感度映像形態を起動した状態で少女を分析すると奇妙な情報が出た。
Unknown
簡単に言うと正体不明だ。
神を凌駕する性能を持つハイブリッダーに計り知れない存在がいるのかとも思ったが、疑問を持つ暇もなく、山中は両方に視線を送りやすいようにか少し距離を移動させた。
Human
一応と言うように山中を調べてみたが、言うまでもなく普通の人間だった。
普通の人間だったが状況的に調べられる限りの情報であり、細心の注意など、払うこともできることもなく、あとにも思うが、これが後で問題になった。
「―――なにも―――――」
「イヴ!?」
「?」
やはり来たなと言う質問の意味は解らず、質問しようとする中で、突然少女の背後から少女とは異なる声が聞こえた。
「―――」
「―――イヴ?」
「―――イヴ?」
少女が後ろの方へ目を向ける中で、オレと山中はと言うと何事か、少女の名前かと言うような反応を返し、声の方向に眼を向けると少女よりも年上だと思われる13、4歳ほどの少年の姿が見えた。
これがまさかあの施設の爆発を起こしたアーウェーのExperiment Ver.1 アダム、Experiment Ver.8 イヴとは思いもしなかったが、オレの眼には山中と死体以外は計測不能の生命体になっていた。
「くらえっ!」
「―――?」
人間では見えないしわからないが、突然遠くの少年から高熱源反応が確認された。
「―――――Scrap.」
状況的に判断して神が持つ特有で初歩的な攻撃方法1つ、ライトシュートだ。
クリスト教の旧約聖書のような神の最初に言った言葉や世界創造に代表されるように、科学的観上の宇宙誕生と言う視点のビッグバンと代表されるように高熱源の光を銃弾のようにして高速で撃ち出すのだ。
創造と破滅の力こそ神の持つ力の本質であり神はそれ以上の力もそれ以下も力も持たずで、何にしても白い光の線が顔めがけて飛んできたが、首を軽く傾け、紙一重で回避した。
後にも先にもよくオレはScrapと言うが、これはハイブリッダーの独特な物の言い方の1つだ。
悔しい時や腹がたつ時、どうしようもない時に使う言葉で、畜生や最悪、笑いものにならない時に使うのだ。
本来は20世紀末期に製作されたカートゥーンシリーズ「トランスフォーマー」に登場する金属生命体のエイリアン、サイバトロニアンが使っていた言葉の方法だ。
独特な言い回しで人間から見て失礼な言い回しを使わず、外見的にはまるわかりだが、人間に感情をできる限り悟られないための手法の1つだ。
「光の、線? 弾丸? だが銃が?」
「―――」
おどろいている山中に対して眼を向けた時、オレは山中の肝心なことに気が付いた。
山中は気づいているかまだ分からないが、山中が来ていた上着はAGSの幹部に支給及び販売されている上着だった。
オレの着ている冬服と違い薄手の素材で構成され、首元のえりが長くおって使う必要がある冬服と違い短く、二の腕の袖部分に冬服同様にAGSと書かれたワッペンが付けられていた。
「―――」
この時山中をAGSの傭兵で、偶然居合せたならばゲートの干渉や理論的に遭遇したならばなんら不自然はないと判断してしまったことも事実だ。
「―――――やはり止められないんですね?」
イヴはと言えば状況を見てまるで起きることが当然で、どうしようもないと言うような冷静な物言いだったが、少し悲しげな物言いだった。
「―――おい、手伝え?」
「―――?!」
一見すると無茶苦茶な話だが、オレはこの時すぐに山中を同じ未来から来たAGSの傭兵と勘違いして判断してしまい手伝うように声をかけてしまった。
無理もなくAGSは1999年12月31日に創業し、この時はまだ前衛企業であるAdvanced Generational Enterprise、略称AGEの特殊警備13部4係として機能し、書類上は存在していないし、上着など存在するはずもないので当然だった。
「―――」
「オレは仲間だ。手を貸せ。―――信じろ(Beleave me)。」
「―――」
山中から見れば、だれが見てもが奇妙な事態だが、アダムには敵意があり、オレは信じろと言い、山中はオレの上着を見て同じAGSの傭兵と気づいたか、この時オレのほうへと足を進め、銃をイヴたちのほうへ向けた。
悪い表現かもしれないが、だからこそ山中を同じAGSの傭兵として信用してしまったし、後で念入りに調べることもなかったし、これが後で本当に面倒になることになった。
少し考えて常識論で考えればどう見ても山中がおかしいことは確かだった。
当時の英語の理解力が世界最低水準と言われる日本人にしては英語が流暢すぎるし、後で聞いたが、ロシア語、上海のアクセントが強いが中国語、書けないが韓国が読み話せる
しスペイン語とドイツ語は単語なら理解していた。
日本国憲法の憲法9条と言う偽善に満ちた平和の束縛の中で生まれ育ち米国の与えた安全神話の中で生きてきた身にして、身体は小柄な方だが構えと言い訓練された動きをして妙に落ち着いていた。
AGSの職員が都合よくいて、相手は幼い子供で、人道的にはあちらにつくはずだが、こちらの味方についたのは奇妙だった。
日本人かも解らず、英語ができない日本人がいないわけでもないし、自衛隊員は米国軍に並び世界最高峰の訓練を受けていて技能は高いし、AGSの傭兵として存在していてもおかしくはないので仕方ないとも言えた。
「いったい何が起きている? お前の名前は? 階級は?」
「―――リード ファイヤー、階級は中佐だ。」
「俺は山中一輝、階級は大尉、いや、最近少佐になった。」
何にしても山中は銃を少女たちに向けながらオレに質問し、オレも答えながら愛用の拳銃を取り出した。
STI Edge、M1911A1を近代改修した45口径のハイキャパシティフレーム、装弾数14+1、山中の持っているショットガンには負けるが、十二分な殺傷力を持っていることは同様だった。
「OK、リー、何が起きている? あれは―――」
「散開!」
「―――?!」
質問途中でアダムが攻撃に出た。
先ほどの攻撃とは比べ物にならない各段に大きく、威力の高そうな球体を勢いよく撃ち放ち、オレと山中は命中する寸前で回避した。
「「動くな!」」
勢い良く飛びのいたオレと山中は何にしてもすぐに体制を建て直しアダムのほうに銃を向けた。
この時は知らなかったが、アダムにはイヴを守るようにプログラミングがされている。
「なんなんだ? あれは? 姿は子供のようだが?! それにお前も眼が?!」
「わからん。だがオレはハイブリッダーだ。」
「ハイブリッダー? ATの1つか?」
AT、アドヴァンスドツールの略だ。
21世紀に創業したAGSが創業当時から下請けや協力を含め兵器となる武器も開発し、いくつもの種類を造りだし幹部階級の傭兵に支給及び販売しているSFのような武器だ。
「―――まぁ、いい、質問に答えているひまはないようだ。」
「―――なんだ? あれは!?」
一般常識的に考え話を踏まえれば山中は未来から派遣されてきたPMASCAGSの傭兵であり、ゲート技術を知っていることを踏まえハイブリッダーのことを知らないのはありえないが、何にしても事態は一変していた。
アダムが暴走形態へと移行していた。
「―――『のちに主は大地のちりで人を形作り、その鼻孔に命を吹き込まれられた。』」
「―――――『すると、人は生きた魂となった。』聖書、旧約か?」
「―――創世記第2章7節―――」
大地が揺れ地面のアスファルトが粉のように、ちりにかわりアダムへと集まり、全身灰色か黒色の巨大な人型へと変わり始めていた。
「こいつはアダムと言うよりもゴーレムだぞ? と言うか何が起きている? こんなものに銃が聞くのか?!」
普通に人間ならば太刀打ちできない状態で、普通の人間の山中は恐れてこそいるようだが銃を向けている状態でオレに質問した。
「言えてるな? だが安心した。アーウェーの飼い犬なら粉みじんにしてやるし、神の模造品なら十二分に倒せる。」
アダム、プロジェクトヤーウェーの中で開発された人造的な神、正式名称Experiment Ver.1 ADAM、開発当初は実体と精神体の自己制御開発が目的だが、最終的にはVer.8 EVE、言わばイヴを護衛するようにプログラミング変更された。
神話などの多くて神が自らの姿を模して人間を創造したと言うが、科学的に言うと人型をした神と人間のDNAは95%以上の比率で酷似しているが最大の違いは精神体、言わば魂の構成が違っている。
第3次大戦後に判明したが精神体にもDNAに似た設計図が存在し、神と人間の精神体との一致率は実は75%ほどだ。
人間と比べると25%程度の差だが、精神体の質量や構成が異なり、最大の違いは人間と違い、精神体、言わば魂のみで活動できる生命能力を持ち、世界を創造や命を与えられるほどの力量を持っていることだ。
人間のように身体と精神体の両方を必要とする普通の生物とは概念が異なるのだ。
人間でも死ねば時折幽霊、言わばゴーストとして行動できるものがいるが、死者として扱われ、よほどのことがない限りは神の足元にも及ばず、死後の世界へと移送される。
「―――何を―――っう?!」
ハイブリッダーに理論上精神体が存在するかは不明であり、興味はなく、この時代の人間どもが最大の疑問にしている天国や地獄と言った死後の世界の暮らしが、正確にはこのころらしいが問題になっているが、肝心なのはアダムを殺すことだ。
銃をしまうとオレはオーヴァーマシンを使い腕を巨大な武器へと変える中で、山中は銃こそ向けているが、オレの腕を見ておどろいていた。
「―――土に変えれ。」
『対神特殊砲』
対戦車砲並のストッピングパワーと貫通力と小口径小銃並の反動による安定した命中精度と連射速度を持っている怪物砲だ。
最大の特徴はバレットと言うよりも自動追尾式弾頭とも言える遠隔操作可能な弾丸だ。
推進剤を持ち射出された瞬間自らの意志で目標向かって舵を調節する上弾頭部は鋭角的で逆回転式のドリルと強酸性液体射出口も搭載され、内部に到達すると核融合並みの高熱度の爆薬の爆破や、液体窒素のような超低温や、極め付きに超高電圧を与える。
強靭な生命力と精神体を持つ神に物理的な攻撃は皆無に思われるが、質量が存在し、物体として構成され、超高温や超低温と言った極度な環境変化や衝撃は十二分に神に打撃を与えることができるのだ。
科学的に不可能な平気だと思われるが、オーヴァーマシンを埋め込まれたハイブリッダーだからこそできるのだ。
「―――――」
おどろいてこそいるが冷静にアダムのほうに眼を向ける山中の前で勢い良く弾丸をアダムに対して1発だけ撃ち込んだ。
銃声が響き渡り、弾丸は巨大化したアダムへと外すわけもなく正々堂々と本体の頭部だと思われる場所へと命中した。
勝負は一瞬でつくことが多く、生死を賭けた戦いであれば時間もより短く、場合によっては一瞬でたくさんの死体が転がることもある。
命の価値は地球やこの世界よりも重たいなどと言う言葉もあるが、職業柄戦場や治安の悪い国に行き、具体例出せば切も無いが、違法な人身売買や奴隷化、未成年の性的虐待と言ったことも数多く数知れないものだ。
知れば命の価値など重くもないものだと思えてくるし、一般論で言えば給料の支払いも不相応だし人道的に外道の道に落ちていることは言うまでもないことだ。
何が言いたいかと言えば傭兵と言う職業を選び現地でできる事ことはと言えば言われたとおりに仕事をして生きて帰るだけ、程度とも言える。
この世には正義の味方も存在しないし、英雄もいない、仕事以上のことも以下のことも、よほどの事情がなければしないことが最大の道理だ。
仕事として戦場に置く身として一番大切なのは生き残るためにうまく行動し、考え、元は調べれば見ず知らずの赤の他人の人間を無償で信頼し仲間として協力することであり、傭兵間の暗黙の規則と言える。
国家や思想、宗教、人種、個人的偏見や差別を含む判断や行動、指示命令は仲間に不平不満を与え指揮を低下させ、生存率を低下させる根本、最悪元凶であり、卑下されるものだ。
「―――」
仲間ならば前に出るなら援護し後ろならば援護され、苦難に遭遇したならば解決する方法をお互いに提案し、助けたならば助けることが道理であり、何にしても俺、山中は少女へ、言わばイヴへと銃を向けた。
アダムは銃撃後一瞬で周囲を覆っていたちりは姿を消し、弾丸の命中した頭部には直径5Cm以上の大穴が開き、即死状態で、ちりを集めている中で浮びあがっている状態だったが地面に勢い良く落下し、地面に大きな音を響かせた。
腕が変形したリードはと言えば変形し、自分の背よりも少し大きく、いかにも複雑怪奇な仕組みの銃に変形した腕を一瞬して普通の人間の腕に戻した。
一見すると子供に銃を向ける卑怯千万の大人2人組だが、映画やアニメ、架空の物語のように確かに眼の前で起きた事態は異常だと言えるが理由が存在している。
異常な状況の中で、現実的だが信頼できるのはこの時代には存在していないが、雷也の話を含めPMASCAGSと言う傭兵仲間としての兵士の接点であり、非人道的だがAGSの冬服を着た、仲間と言えるリードに協力するのは必然だと言えた。
米国合理主義的思考を崇拝していると批難されると一切否定できず、自殺を考える癖に生き残ることを考え惰性で生きようとすると見られることもあり、ある意味事実だが戦場に必要なのは兵士であり、自殺志願者ではないのだ。
金かと言われ金銭欲がないわけでもないが、この後現実問題本来いた時間に戻れるとして、手当が出るかわからないが、何にしても傭兵と言う職業を選択した以上は生きている限りは利潤を追求し戦い続けるしかないのだ。
「―――?!」
「山中!?」
多くの人間の先にあるものは死であり早いか遅いかと言う結果であり、歴史を一片させるような出来事はよほどのことや人間でない限り起こすことや遭遇することもなく一生を終える。
何が言いたいかと言えばイヴが突然姿を消したかと思うと突然眼の前に姿を表し、俺はこの時一瞬、自分が死ぬのかと思った。
「―――」
懐に手を回し、リードが銃を取出し撃つ構えの中で、イヴは真剣な表情でこちらに向けってきた。
「―――――?」
時間にして十数分ほどだが、寸前にだが銃声のような音が少しだけ聞こえ、この後俺の意識はなくなり、リードに起こされることになるが、気絶する寸前、迫るイヴの顔とは違うものが見えた。
確かにイヴが迫ってきたように見えたが、顔と顔が激突する寸前か、顔が、身体全体が全く違うだれかに変わった気がしたのだが、一瞬の気のせいかと思う中で激突した際に衝撃を受けたのか、この後視界がすぐに暗黒に包まれ、意識が一瞬で途切れた。
確かに変わった気がしたし、イヴと違い大人のような顔で、髪で少し隠れていたが、妖艶と言うべきか、淫蕩と言うべきか少々狂気的な眼をした女性のようにも見えた。
イヴの成長した姿にも見えず、顔立ちも無邪気とは正反対な、邪悪とまでは言えないが、何か不穏な雰囲気の印象の女性の顔だった。
一瞬とは言え、気のせいとも言えるが、このことが後に影響するとは思わなかった。
一言で言うと間に合わなかった。
後ですぐに調べるが山中は気絶しているだけだったが、不意に姿を消したかと思うと姿を山中の眼の前に表し、とびかかろうとするような構えをしようとするイヴに対し銃撃しようとしたが、外した。
肉眼では確かに胴体に命中させることができたが、視認できる状態ではあったようだが精神体へと変貌し、銃弾が通り過ぎ、山中の身体を通り過ぎて行ったようだった。
「そこだ!」
何もしてはいないが、何にしても山中を攻撃されたオレはこれでは終わらせる気もなくイヴの飛んで行った方向へと銃口を向け引き金を遠慮なく引いた。
『対特殊生物弾』
未来で開発された科学非科学を問わず効果を持つ弾丸で、神にも効果があり、特定の物体へも物理化学の法則を無視して高い破壊力を発揮し人間への発砲厳禁の代物だが、銃口を向けた先にいたイヴには効果がないようだった。
「―――変異体、か?」
「そういうべきでしょうね? あなたの目線から言うと。」
イヴが立っているのは少し先の高い場所で、先ほどの子供のような姿と違い、姿が変化し、1、20代ほどの女性へと変貌していた。
神
高感度映像形態には先ほどまでは反応がなかったが、イヴに対してこの時確かに神として反応があり、精神体としてはかなり強いが、身体が弱い状態の神だと言うことが分かった。
身体など精神体が基本である神には仮の姿にしかすぎず、生物として自由自在性を持っている証明だと言えるが、この変異性や反応の変化から考え、アダムは反応も何もなかったが、イヴは変化しないと反応が出ないようだった。
「―――ま―――」
「やめなさい、彼を助けなさい―――――」
「―――?!」
このままで終わるかと言うように、神なら殺せると思い再び対神特殊砲を起動しようと銃を利き手とは反対の手に持ち替えた中でイヴが口を開いた。
「―――彼は生きています。」
「―――!」
少々冷ややかな物言いだが言うとイヴは山中のほうに眼を向けたオレに対して背を向けた。
「―――待てっ!? 機械の下僕の手下が! 逃げるな!?」
「―――行かせてください。」
「断る(No way)―――」
背を向け隙を見せた状態のイヴに警告するが、イヴは進み続け、オレは銃を持ち替え狙いを定め引き金を引き銃声に合わせ銃弾が飛んで行ったが、銃弾はイヴの前で何もなかったかのように姿を消し無効化された。
「―――――ここは引きます。あなたから逃げるには、十分です―――」
「―――――Scrap―――!」
イヴは歩き去りながら姿を消していき、攻撃が通用しないオレは悪態を口から吐き出すしかできなかった。
「―――山中!」
腹も立つが、追いかけもしたいが気配も消えてしまい神の力も計り知れずどこに行ったかまったくわからず、追うこともできず、何にしても山中に近づいて声をかけた。
「―――生きてるな? よし?!」
状況的にだれかが見れば誤解を招く行為だが首に手を締めるように触れた。
首の頸動脈を見る方法の1つで、腕の脈や心臓音を確かめるよりも簡単で、親指には脈の動く感触があり、確認すると次に胸の中心に5秒ほど少しして額に手で触れた。
「心肺活動確認、脳波正常。」
普通の人間であれば胸に手を触れても心臓の鼓動は聞き、感じ取ることは難しいが、ハイブリッダーにとっては手に集音機器や脳波を計る医療系機器に変えることも可能で、生死の見極めなど簡単にできるのだ。
「―――――」
人間の死は医学的に判断して脈拍停止、心臓停止、脳機能停止の状態が3分以上続けば必然的と言われるが、山中は気絶しているが眠っていると言う方が正しいほどの状態だった。
半場強引にだが肩に背負い、死体もあるし疑われると困る部分もあり、山中が持っていたが、気絶し、持ち上げた時に手から落ちたショットガンを拾い、ここから消えることにした。
転がっている死体は計4人で、1人は後で山中に聞いたが、望月雷也と言う報道カメラマンの男、制服を見ればわかるが現地の警察官だと思われる男2人、アダムの死体であり、オレは軽く見た後背を向け歩き出した。
山中を連れて行くと言う一見すると奇妙な事態だが、何の目的でここにいるかわからないが、何にしても同じ未来から来たPMASCAGSの傭兵であると判断し、仲間として判断し、手伝わせたこともあるし、一緒にここから離脱することにした。
人のことは言えないがファッションにあまり興味も無いようで、上着は仕事の時以外でも普段着として着用していたようで、銃も手に入り、オレに助けられ、偶然が山中を運がいいのか悪いのか、この場から生存させた。
どちらが聞き答えるにしても、お互いに同じ意見だと思うが、これが言葉通り2人の傭兵の出会いであり、本当に長い戦いの幕開けだった。
死者4人、4と言う字は日本では死を連想する数字だと言うが、この数字が多かったのか、少なかったのか、答えは神も知らない領域だ。
穏やかな聖夜ではなく、この話を聞けば何の関係があると思われる話だが、彼ら2人の話は一度一休みし、ここからわたしたちの話もすることになる。
わたしこと、ジョセフ スミスも一見すると関係ないように思えるが立派な、加えて十二分すぎるほどの関係者であるし、責任重大な立場を持っている。
このまま話を続ける義務や責任もあると思われるが、2人の話は普段無口な性質が災いするのか非常に長くなっただろうし、話も交代制でもあり、これまで聞き手でいたわたしには少し身も荷も重い気がしてきた。
全員すべてを語り切れる自信も精神的体力もないだろうし、わたしも同一だが、何にしても2人がこれからの話の幕開け、と言うよりも警笛となったことは明らかだった。