序章……巡り廻る
暑いですねー
小さな建物(恐らく会社であろう)の前に小柄でボロボロの服を着た男性が、立ち尽くしていた
「くそがっっっ!!」
彼は客観的に見ればどう考えても荒れているようだった
ガンっ、とその建物の壁に鈍い音を素手でならした
「なんで、僕がっ、リストラされなきゃならないっ!!」
奥歯を噛み締め、怒りで顔を赤く染めた
「僕がどれだけ苦労してこの仕事に就いたと思ってるんだっ!!」
赤く染まった手に持っていた歪なスカーフを巻き、握りしめる
……泣きはしない
それは奴らに屈したことになる
そして、彼は願ってしまった
「…………力が欲しい、何者にも屈することのない、圧倒的な力が……」
憎悪が膨らむごとに、手から力が湧いてくる気がしている
「こんなことで悩まないほどの力がっ!!」
彼は知らなかった
身につけているスカーフが、『あの文字が刻まれた』ものだったことを……
そして目覚めてしまった
「こんな世界は……いらない!」
────では叶えてやろう。貴殿の願いを。
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キーンコーンカーンコーン
「はい、じゃあ今日の授業はこれで終わりね」
今日最後の授業が終わると、クラスがざわめくのはよくあることだ
「ふぁ~、やっと終わったな~」
トテトテと、俺の席に向かって来た優に声をかける
「そうだね~、でも部活いかなきゃ~」
少し苦笑いをする優
確か軽音部だっけ?優の部活って
「そうか、じゃあまた後でな」
言うと、優はパアッ、と顔を輝かして
「うん、また家でね!」
そう告げてタタタっと走って行った
……はぁ
「燃え尽きてないで帰るぞ、昴」
自らの机で、まるで精根果たしたように横たわっていた変人に呼び掛ける
「俺……さっきの授業が終わったら、結婚するんだ」
何言ってんだ、こいつ
「……おいてくわ」
「ぇえ!ちょ、待ってーーーー!」
俺はこれから起こることなど考えてもいなかった
───それから俺の……俺たちの日常は壊れ始めた
次回から壱章に入ります。