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ラビット族の巣窟『ポルッカ山』

「ありがとうございます勇者様!」

「あぁ……」

 勇者になって二年か。僕も、だいぶ周りから勇者と呼ばれるようになってきたな。だけど、なんだか物足りない。これじゃあキリがないじゃないか。僕はこの二年間何をしてきた。確かに、数々の魔の襲撃から人間を救ってきたさ。だけど、そのどれもが歯ごたえがなさすぎる。

 それにしても、こんな歯ごたえのない魔どもに襲われて逃げ続けるこいつらってどうなんだ。人間としての誇りは微塵もないのか。

 きっと、こうやってこいつらを救っていけば、僕は英雄として叙事詩に残るんだろう。でも、これじゃだめだ。叙事詩の英雄は強大な敵と戦い、死闘を繰り広げたのちに人々を救った。僕なんて、言うなれば弱い者いじめをしているにすぎない……。出会うのを待つしかないのか。数年前に出会った強大な魔に匹敵する、いや、それ以上の魔を。

 あぁ、それは一体いつになるんだろう。叙事詩の英雄も僕と同じ気持ちだったのかな。……空想にそんなこといっても仕方ないか。でも、きっと彼らも飢えていたはずだ。叙事詩といえば強大な化け物は必須だもんね。化け物……僕たちの世界では魔王か。一体どこにいるんだろあいつ。だれか教えてくれないかな。ねえ魔王、僕は今すぐにでもお前を狩ってもいいんだよ。僕はそれぐらい飢えているんだ。


             Episode9 ポルッカ山


「ここが『ポルッカ山』か」

 トロルとの暖かい騒動もあり、少しご機嫌な様子なアルゴ。『ポルッカ山』へたどり着いたときに、思わずそんな言葉をつぶやく。というよりも、なんやかんやでひとりというのは寂しいものなのであろう。もともと口数が極端に少なかったアルゴであるが、ひとりで旅に出てからというもの、独り言の数が極端に増えている。もしかすると、アルゴは無口なのではなく、フーレンがおしゃべりすぎただけなのかもしれない。

 とにかく、『ポルッカ山』へたどり着いたアルゴは山の中へ入り込む。

 『ポルッカ山』はまさに山という感じで、ごつごつした地面に、大きな岩がいくつも落ちている。しかも、山というだけあって迷ってしまいそうなほど大きく、傾斜もまぁまぁ強いので体力はかなり奪われる。しかも、大きいというのはいろいろな障害があり、道がいくつも枝分かれしているので無駄足を食うこともあるだろう。

 だが、そんな山にはもっと大きな障害がある。

「!」

 アルゴに走るいくつかの殺気。殺気を感じたアルゴは素早く剣を抜く。

「シャァァァッ!」

「ラビット族か……」

 現れたのは大きなウサギのような魔が二体。どうやらこれをラビット族というらしい。まず、驚くのはその体格の大きさ。力はトロルの方があるだろうが、体格ならばラビット族が勝る。大きな体格に加え、身長もアルゴと同じぐらいあるのだ。そして、ラビット族にはさらに恐ろしい能力がある。

「くっ!」

 そう、大きな体格の割に身のこなしが軽い。さらに、伸びる爪はとても鋭く、普通の人間ならば瞬きをする間もなく切り刻まれてしまうだろう。そんなラビット族は、魔の中でも上位の戦闘に適した魔なのだ。しかし、障害が好転したのか、ここは大きく広い山。戦いには適した地形といえる。だが、ラビット族の数は二体。アルゴもかわすのに専念しなければならない。いや、殺す気でいけば、きっと問題なく殺すことはできるのだろう。しかし、それはアルゴの意思に反する行為。今は様子を見るためにかわす。

「シャアッ!」

 しかし、ラビット族の方は敵意剥き出し。れんけいプレイでアルゴに襲い掛かる。それを紙一重でかわす。岩に隠れたりしながら距離を取ることも忘れない。

「このままではらちが明かないな……。仕方ないか」

 このままではどうしようもないと感じたアルゴは、意を決して剣をラビット族へ向けた。

「シャッ!」

 ラビット族も、相手に敵意が見えたことを感じ取り、狩りではなく、戦闘をする構えに切り替わる。

「少し痛いかもしれないが我慢してくれ」

 だが、そんなことアルゴには関係なかった。戦闘態勢に入ったアルゴはラビット族よりも器用に動く。瞬く間にラビット族の懐に入り込み、一体を斬る。

 そんなアルゴに対し、動揺を隠せないラビット族。当たるはずもない大振りをアルゴに向けて振り下ろす。アルゴはそんな大振りを冷静にかわし、残りの一体も斬る。

「よかった。命に別状はなさそうだ」

 ただ斬るのではなく、奥義である峰打ちを使う。果たして、アルゴは峰打ち以外の技で敵を斬ることはあるのだろうか。

 ラビット族二体との戦闘を終えた。だが、ここでまた試練が訪れる。戦闘力の高いのは承知の事実のラビット族。しかし、それだけでなく数も多いのだ。なので、ラビット族は幾度となくアルゴを襲ってくる。

 そんなラビット族に対し、峰打ちを駆使して進み続ける。しかし、そんなことを繰り返しているので、体力も徐々に奪われ、夜も更ける。一日で山頂まで向かうのは無理だと判断し、どこかで野宿することを決めた。まずは、適度に身を隠せるところを探さなければならない。

「ここなら見つからないか」

 しばらくして、なんとか適度な場所を探す。もう、夜も更けてすっかり寒くなっている山。そんなところで体力が回復できるかは謎だが、とにかく寝なければならない。しかし、完全に油断してしまうと、いつ寝首をかかれるかわからないので、かなりの気配りをしながらとなる。普通の人ならば発狂ものだが、そんなことを気にしている余裕はアルゴにはない。


 太陽の光が山を照らし、『ポルッカ山』に朝を伝える。

 そんな朝の光とともに目を覚ますアルゴ。しかし、当然と言えば当然なのだが、あまり休めていないためコンディションはよくない。ちなみに、昨夜は二度ほどラビット族に襲われた……。

 体調の悪い体にムチを打ち、また山頂へ向けて進む。そこでも何度かラビット族に襲われたが、体調が悪いながらも峰打ちで切り抜ける。現在『ポルッカ山』では、アルゴという男によって打撲を負ったラビット族が多発しているということは言うまでもない。

 そんなこんなで山頂にたどり着いた。いくらアルゴといえど、体調の悪い中の戦闘の連続はこたえたらしい。珍しく息を切らしている。

 だが、残念なことに、山頂へ着いたのはいいものの、ラビット族が一体もいない。まさか、人間が来たということを察知したラビット族が、全力で自分に向かって襲ってきたのか。そして、それをすべて峰打ちで無意味に倒してしまったのか。そんな罪悪感に包まれる。しかし、そんな罪悪感はすぐに打ち砕かれる。

「よぉ兄ちゃん。長旅ご苦労さまだな。後ろだようーしーろ」

「なっ!」

 驚きながら後ろを振り向くアルゴ。向いたそこには、言葉をしゃべり、自分よりもはるかに大きな体格のラビット族がいた。さらに驚くのは、いくらアルゴが疲れているといえど、気配が読めなかったのだ。アルゴほどの実力者に対して、気付かせることなく後ろに立つことすら難しいというのに……。

「そんな驚くことねえじゃねえか。俺たちは誇り高きラビット族だぜ? 俺みたいに人間の言語を話せるほどの高等な魔族がいてもおかしくねえだろ」

「高等な魔……族」

 アルゴは驚きを隠せなかった。まず、魔王のようにペラペラと人間の言語を話す魔を見たのは初めて。さらには、魔は自らのことを魔族と称しているのも初めて知った。驚きづくしである。

「ほれ、リラックスリラックス。山を取り返しにきた人間なんだろ? シャキッとしろシャキッと」

 驚きを隠せていないアルゴだが、冷静に分析してみると、なんだかフランクな魔である。なんというか、この接しやすさはフーレンを思い出す。そんな心境のアルゴ。一度息を整え、リラックスする。

「この山はお前たちが人間から奪ったのか?」

 落ち着いたアルゴが、高等なラビット族に質問を投げかける。そんな質問を微笑みながら返す高等なラビット族。

「さぁ、どうだろうな。というか、どうせ人間なんて自分の都合いいことしか信じねえんだから答えても無意味だろ」

「なら、どうして俺が気付く前に襲ってこなかった。無意味だったらこの会話も無意味なんじゃないのか?」

 皮肉には皮肉で返すアルゴ流は人外にも適用される。そんなアルゴの返しに対し、大笑いする高等なラビット族。

「兄ちゃんおもしれえな。いやぁな。別に兄ちゃんがただの強い人間さまだったら俺もこんな話をしかけねえよ。けどよぉ、兄ちゃんはここに来るまでに一人も家族を殺してねえ。俺にゃあ匂いでわかるんだ。そいつが気になっただけさ。まぁ、理由なんてたいがいこんな浅いもんよ」

「そうか。しかし悪いことをした。俺は別にお前たちと戦いにきた……!」

 そんな高等なラビット族に対して、わずかに気が緩んだ。その隙を狙ってだろう。高等なラビット族が素早くアルゴに間合いを詰め、攻撃を仕掛ける。しかし、その攻撃はアルゴを寸前で外した。だが、これはアルゴがかわしたのではない。高等なラビット族がわざと外したのだ。アルゴに、また緊張感が走る。

「おーい、次は外さねえぞ。そこで気を緩めちゃいけねえだろ兄ちゃん。こっちの家族も一応傷を負ってるんだ。まぁ、普通なら問答無用で殺してるところだが、兄ちゃんの努力に免じて二分殺しで許してやる。まぁ、ちょっと痛いかもしれねえがやられてくれや。話はそっからだ」

 高等なラビット族の顔つきが変わる。その威圧感は類を見ないもので、アルゴから少量の冷や汗が流れる。だが、アルゴは剣を抜かない。

「確かにお前の言い分もわかる。気が済むようにやってくれ」

 アルゴがラビット族を傷つけたのは事実。二分殺しの提案を受けようというのだ。だが、そんなアルゴの行動に対し、さっきまでとテンションも違い、声色も違い、大きさも違うと、違うづくしで高等なラビット族が吠える。

「おめえは何を言ってやがる。気が済むようにやってくれ? おめえは魔族を優しいもんだとか何かと勘違いしていないか? 俺たちは魔族だ。ただの魔族なんだよ。それを、気が済むようにやってくれ? おめえは、人間よりも魔族に期待を抱いてるだけの甘ちゃんじゃねえのか? 残念ながら人間も魔族もそんな変わんねえよ。知ってるか? 争いは同じレベル同士でしか起こらないんだってよ。なのに、おめえは魔族に対して期待を抱きすぎている。予定変更だよ兄ちゃん。ちょっと厳しく教育してやる。殺すぜ?」

 さらに高等なラビット族の威圧感が増す。こんな威圧感はそうそう感じられるものではない。気付いた時にはアルゴは剣を抜いていた。

「そうでなくっちゃよ。兄ちゃん、あんた名前は?」

「な……まえ?」

「そうだよ名前だ。戦闘の前には名を名乗るってのが定石だろうが。ちなみに、おめえが先に名乗れなんて言葉は受け付けないぜ。俺はまず名乗らせたい派なんだ」

 この威圧感にこの気の抜けた会話。一体どれが本当の姿なのか、アルゴにはわからなくなる。

「……。アルゴだ」

 あまり状況は把握できていないが、とりあえず名を名乗るアルゴ。そんなアルゴに、ニヤッとした笑みを見せる高等なラビット族。

「了解。そういうとこは素直でいいんだよ。俺はラヴィ。しょうもねえ名前だな、なんて言葉は受け付けないぜ。俺はこの名前が気に入ってんだ。まぁ、とりあえず戦闘前の会話はこんなとこにしといて、教育開始だアルゴ!」

 『ポルッカ山』に住むラビット族。果たして、もともとラビット族が住んでいた山なのか。それとも人間から奪った山なのか。それを確かめにきたアルゴであるが、今はそんなことを言っている場合ではない。アルゴは戦わなければならない。今まで出会ったことのない規格外の強さを持っているであろうラヴィと、戦わないとならないのだ。

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