人間と魔の共存を信じて
「王子よ、ただいま帰った」
くだらん。なんとくだらん連中だったのだ。
「お帰りなさいませグラン王。どうでした? 勇者は旅立ちましたか?」
「うむ。いらいらさせてくれる男ではあるが旅立ったぞ。これで魔は勇者に気を取られるであろう」
「それはそれは……でもいいじゃないですか。それぐらいの人間であるほうがかえって好都合。私たちにも慈悲の心くらいはありますからね。それを持つ必要もない。どうせ、勇者は私たちの手のひらで踊る人形のようなもの。時を待とうじゃありませんか」
「うむ。そうであるな」
そうだ。この王がいらいらする必要など微塵もない。どうせやつらなど我らの人形なのだ。アルゴの存在は予想外ではあるが、危惧する必要もあるまい。すべては計画通り。これからの世の流れが楽しみなものよ。
ヴィレイよ、わしはのどかに待とうではないか。しかし、最後に笑うのは勇者であるお前ではない。王であるこのグランだ。せいぜいその時まで魔に敗れることなく、勇者として名をあげることだな。
Episode6 アルゴの決意
『勇者祭』のごたごたに対し、疲れた表情でその場を後にしたアルゴとフーレン。アルゴはいつも通りの平然とした顔であるが、もともとの首謀者であるフーレンはものすごく疲れた様子だ。
「なんとか終わったなアルゴ。しかし、やっぱ思いつきで行動するべきじゃあないな。えらい目にあったぜ」
愚痴をこぼすようにアルゴに話しかけるフーレン。
「そうか? 俺にとってはとても有意義な時間だった」
そんな愚痴に対して反論で返すアルゴ。フーレンは、ただ愚痴を聞いてもらって心を休めようと思っていただけなのだが、こうなってしまっては対話をするほかない。
「なんでだ? あっ、もしかしてヴィレイのことか? あいつはよぉ、初対面で猿顔ってなんだよったくよぉ。イラッときて悪口で返そうとしたんだけど、あいつ見た目整ってるから反論できなかったぜ。何が色男だってな。褒めてどうすんだよって心の中でつっこんだわ。でも、あいつのおかげで、たくさん人がいるなかでかっこつけられたからよしとしてやるぜ」
どうやら疲れとイライラが同時に混合しているらしい。対話をしようとはするものの、しゃべりだすとどんなことでも愚痴につなげたくなってしまうのがいい証拠だ。こんなフーレンに対し、アルゴも思わず苦々しい顔になってしまう。
「おっ、すまんすまん。でっ、何が有意義だったんだ?」
そんなアルゴに気付くフーレン。仕切りなおして対話を続ける。
「あぁ。確かにヴィレイもそのひとつではあるが、おかげで決心がついたんだ」
「決心?」
「俺は村を出る」
アルゴの言葉に言葉を返すことができないフーレン。ひとつ生唾を飲み、呼吸を整え、再度質問を試みる。
「村を出るってまたなんで? もしかしてヴィレイにライバル意識が芽生えたとか?」
「……。フーレン、お前が言ったんじゃないか。確かめもしないうちに夢物語だと決めつけるなと。そしてヴィレイは言った。はっきりとした答えを見つけたのちに止めてみろと。そのとき気付いたんだ。俺は人間と魔は争うべきではないと思っている。それは今も変わらない。だが、俺は魔のことをあまりにも知らない。確かめもしないうちに言っていい言葉ではなかった。だからこそ俺は見極めたい。俺の目で人間と魔を見極めたいと思ったんだ。だから俺は村を出る」
アルゴのその言葉に、さっきまでの疲れやイライラといった感情が吹き飛ぶ。そして、キャラを切り替えるように鋭い目つきへと変貌する。たまに現れるシリアスフーレンとでも呼ぶべきだろうか。
「そ……っか。いや、それが一番だ。てか、なんで今までそうしてこなかったのかが逆に不思議だわ。やっぱ何事もきっかけって必要なんだな。結局俺たちも馬鹿だったな。魔を裁くことが正義だなんて語ってるやつらを見て、それを心の中で馬鹿にして、俺はお前らとは考えが違うんだぞ……なんて思いながら過ごしてきたが、なんもしてねえじゃん俺ら。口ではペラペラそれらしいこと言ってた癖にな。でも、やっぱ俺はお前のこと好きだぜアルゴよ。行って来い、土産話楽しみにしてるからよ」
精一杯の笑顔でアルゴにそう言うフーレン。笑顔ではあるが、それは精一杯の作り笑い。確かにアルゴの選択は何も間違ったものではないとは分かっている。だが、小さいころから楽しいことも悲しいことも、ずっと人生をともにしてきた心友なのだ。そんな心友とのしばしの別れに、100%の笑顔で送り出せるほど強い男でもない。
そんなフーレンの言葉に、いつもの皮肉めいたニヤッとした笑みではなく、心からの笑みが生まれるアルゴ。だが、アルゴにはひとつ気になることがあった。
「フーレン。お前は行かないのか?」
もっともらしい疑問をフーレンにぶつけるアルゴ。
そんなアルゴの質問に対し、照れくさそうな顔をしながら答えるフーレン。
「俺も行きたいさ。けどよ、俺とお前が両方居なくなったらだれが村のやつら守れるんだよ。俺だっていつも村人に対してうだうだ言ってるけど、師匠が亡くなって、また身寄りがなくなった俺たちを育ててくれたのはあいつらだからな。俺はそんな村を見捨てることはできねえ。それに、師匠の墓に水をやるやつもいなくなるし、もしかしたらだれかに壊されてしまうかもしれねえんだぜ。そんな恐ろしいことは起きてほしくない。だから俺は村で待つよ。いい役割分担だろ?」
そんなフーレンの言葉に、アルゴはまた微笑んだ。
「つまらない質問だったな。お前と出会えたことは人生の宝だと誓おう。これがきっと第二の人生というやつなのだろうな。俺もお前も動き始める。お前と、師匠と過ごした……俺の素晴らしき平凡な人生は、しばしの間お預けだ」
「当たり前よ。しばしの間お預けでも、そんな素晴らしき平凡な時間があったことにかわりねえ! ……うーん、なんか照れくさいし師匠に報告といきますか!」
「そうだな」
互いの仲の深さを確認。そして、自分たちの考えを確かめに行くため、二人はしばしの間、別々に生きることに決めた。アルゴは人間と魔を見極めるために旅へ。フーレンは、アルゴがいない間、村を守り師匠を守る決意を。もし、どれだけ長い年月が流れての再開だとしても、またこの二人が出会うときはいつもと変わらぬ心友として出会うのであろう。
そして二人は、そんな二人をつないだ師匠。といってももう亡くなっているのであるが、二人の中ではいつまでも師匠であり続ける師匠の墓のもとへ向かうのであった。




