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我、生を殺めぬ剣士なり

「西より『コリーナ』代表、アルス選手の入場です!」

 くだらない。こんなもの茶番にもならない。

「東より『ストロッグ』代表、ヴィレイ選手の入場です!」

 こいつが村の代表だって? ふざけるな。僕はこんなやつに時間を使っている暇などない。さっさと終わらせよう。

「おい、あいさつなんて時間の無駄だ。早く試合を始めてくれ。僕はこんなやつに無駄な時間を使っている暇なんてないんだ」

 あぁ、みんな僕を見てる。みんな僕に怒りの眼を向けてる。なんて心地良いんだろう、ゾクゾクするね。そうだよ、反感を買うのはやっぱり剣を握るときだ。僕が今からあの雑魚を一瞬で、華麗に倒したらみんな黙るんだろうなぁ。あのアルゴとかいう男もきっと黙らせたはず。そうだよ、外野の雑魚どもなんて結局は雑魚でしかない。どれだけ失礼な行動を取ったって、剣ひとつで黙らせることが出来るんだ。

 さぁ、そろそろ集中して闘おうかな。だめだ。どれだけ目の前の雑魚に集中しようとしても、決勝戦が楽しみで集中できないよ。きっと天は僕に用意してくれたんだ。勇者になるための最終試練というやつを……。


              Episode4 奥義


 一回戦と同じように、両者無傷で勝利し、ついに決勝戦にコマを進めたアルゴ。対して、相手は一回戦から瞬殺で相手を斬り倒し、楽々と決勝戦までコマを進めたヴィレイ。互いの傷だけいえばどちらも無傷。さらには、どちらかが息が切れているなんていうこともない。時間を長く使って戦っていたアルゴではあるが、実質的な疲れはほぼないのだ。

 となると、どちらもトーナメント表に救われたとか、どちらかが疲れていたなんていう言い訳もできない。正々堂々とした剣士としての戦いとなる。そんな決勝戦の会場に、二人の剣士が降り立った。

「さぁ、長らくお待たせいたしました。メインイベント! 『勇者祭』決勝戦の開幕です!」

 実況の声とともに会場からは歓声が上がる。両者とも、今まで感じてきた性格でいうと観客は好かない。しかし、単純に見たい。決勝戦まで楽々と上がってきた両者の試合をみたいのだ。これは好きだとか嫌いだとかではなく、単純にどちらが強いのかをみたい好奇心。そういう意味ではヴィレイの言った、観客はしょせん雑魚でしかないから、剣ひとつで黙らせることができるという理論はあながち間違っていないといえよう。

「では参りましょう。こう言っては悪いですが、まさに予想外。言い方を変えるとダークホース! 小さな村からやってきた大きな強者! 西より『ラモール』代表、アルゴ選手の入場です!」

 実況の声とともにアルゴの入場。このとき、すでに一回戦のようなブーイングはなかった。かといってそれほど歓声もない。しかし、歓声がない分、顔で人を選ぶ女の歓声が響く。

「続いて、打って変わって大本命。大都市『ストロッグ』の代表であり、すでに魔狩りの経験も豊富な勇者候補。東より『ストロッグ』代表、ヴィレイ選手の入場です!」

 アルゴと同じく、もうヴィレイに怒りの眼を向ける観客はいなくなっていた。だからといって歓声が少ないのはヴィレイも同じ。しかし、アルゴと同じく顔が整っているために女性の歓声は多少上がる。

「ちっ、なんだよ。イケメンで強いとかどうしろってんだ。イケメンは正義なんて認めねえぞ俺は」

 決勝戦がイケメン対決の時点で何か勘に触る。フーレンは意外とデリケートなようだ。

「さて、これは一回戦からの希望で、ヴィレイ選手が試合開始前のあいさつを好まない……」

 ヴィレイの発言以降、ヴィレイ戦のみではあるが、会場側も空気を読んで試合前のあいさつをしない方向で話を進めていた。しかし、そんな会場側の気づかいを、なんと当事者であるヴィレイがさえぎる。

「待ちたまえ。わがままばかりですまないが、この男とは少し話をしたい。構わないか?」

 元のルールに戻るだけなので、否定することもなくヴィレイの提案を受理する会場側。それを聞いたヴィレイはにこやかにアルゴに近づく。しかし、にこやかにといっても眼はひとつも笑っていない。今にでも斬ってしまうのではないかというぐらい冷たい瞳だった。

「やぁ、アルゴといったかな? 僕はヴィレイ。よろしく頼むよ」

 にこやかに近づき、軽くあいさつを交わした後に手を差し出すヴィレイ。

「あぁ、よろしく頼む」

 そんなヴィレイに対し、何の警戒なく手を握る。

「アルゴ。君はどうして勇者になりたいんだい?」

 ヴィレイの急な質問。

「別になりたいわけじゃない。ただ、こちらにもいろいろと事情というものがある。教える気はないがな」

「ふーん。ちなみに僕はね、勇者になって魔王を倒して人間を救い、歴史に残る。そんな野望があるんだ。そのためにはね、まずは君が邪魔だ。だからもうここで死んでよ」

 ヴィレイはそう言い終わる前に握っていた手を離していた。そして、言い終わると同時、いやもうすでに手は自分の剣をつかんでいる。そして、その剣を勢いよく引き抜き、アルゴに向けて振った。

 この行動に会場はあぜんとなる。そりゃそうだ。勇者を決める大会において、なんとヴィレイは不意打ちをかましたのだ。しかも、ただの不意打ちではない。間違いなく一撃で勝負が決まってしまう不意打ち。

「何をしているヴィレイ! そんなことをすれば当然失格に……」

 慌てて審判がそう言おうとしたが、どうも様子がおかしい。斬られているはずのアルゴからは少しの傷もない。そして、斬って失格になりかけているヴィレイはにこやかに笑っている。

「合格だよアルゴ。そうじゃないと勇者の始まりには相応しくない。おめでとうアルゴ。君は僕の壮大な歴史の一ページに加わることが決まった」

「手厚い歓迎だな。だが、いいウォーミングアップとなった。感謝する」

 そう。アルゴはヴィレイの殺気にすでに気付いており、初めから防御する算段だったのだ。これも決勝戦の醍醐味。戦いは始まる前からすでに始まっているのだ。

「ヴィレイ! 次にこういう行動を取った場合貴様は……」

 怒りを隠しきれない審判。そんな審判を、汚物を見るような眼で見つめながら口を開くヴィレイ。

「こんなことでかっかしてて、よく審判なんて仕事が務まったね。大丈夫、もうしないよ。だからさぁ、そんな無駄な時間を使うんじゃなくて早く始めよ? 僕も剣もウズウズしているんだ」

 そんなヴィレイの言葉に怒りが増すも、確かに審判である自分が冷静でないとならない。そう言い聞かせ持ち場へ戻る。

「では、試合を開始する。西、アルゴ選手VS東、ヴィレイ選手。試合開始!」

 いろいろと一悶着あったが、無事に試合が開始される。間合いを取り、互いに息を整える。そして、まず先手を打ったのはヴィレイ。先手が相手で受けがアルゴというのは、もう見なれた構図だ。だが、いつもと違う事柄がひとつ。

「アルゴ。君は自分の力を過信しすぎじゃあないかい? このヴィレイ相手に受け流しだけで戦えると思ったら、それは……とんだ勘違いだよ!」

 ヴィレイの鋭い斬撃がアルゴを襲う。いつもなら軽々と受け流しているアルゴではあるが、ヴィレイ相手だとそうはいかない。かすり傷ではあるが、アルゴの受け流しをかいくぐり、ヴィレイの剣がアルゴを襲う。

「ふふっ。アルゴの無傷記録……ここで途絶えたね」

 自信気にそう言うヴィレイ。しかし、そんな言葉にアルゴが皮肉で返す。

「馬鹿を言うな。無傷記録だかなんだか、そんなくだらん記録はどうでもいいが、そんなものとうの昔に途絶えている。お前の言葉をそのまま返そう。自分の力を過信しすぎると足元をすくわれるぞ」

「意外としゃべるんだね。確かにどうでもいいことだ。でも、僕の優勢に変わりはない」

 攻め続けるヴィレイ。次第にまたアルゴの受け流しをかいくぐるチャンスが生まれてくる。そこを見逃すはずがないヴィレイ。さきほどのようにアルゴに斬撃を加えようと剣を振る。

 しかし、なにやら様子がおかしい。というより振ってはいけない。ヴィレイの本能がヴィレイの脳にそう伝達した。

「くっ!」

 何か危険を感じ取ったヴィレイは、優勢であったにもかかわらず一度身を引いて間合いを取る。このヴィレイの行動に会場は疑問を抱く。しかし、どうやらこのヴィレイの本能は事実を伝えていたようだ。

「よく気付いたな。そこで俺を殺めようとしたならば、この試合は俺の勝ちだった」

 アルゴがニヤッとした表情でそう言う。この表情はヴィレイにとって屈辱にうつったらしい。

「当たり前だ。もう一度さっきの言葉を君に贈ろう。力の過信もほどほどにしろよ! お前が僕を下に見ていいはずがない。歴史の一ページは一ページらしく無残にやられて残れ」

 言葉の勢いそのままに、攻めに転じようとするヴィレイ。しかし、先ほどと今との変化に気付き、攻めを止める。

「アルゴの構えが変わっている……。試合も終盤ということだね」

 そう、先ほどの剣の構えとは違う構えをアルゴがとっていたのだ。

「さっきまでの構えは受けに徹する構えだったからな。攻撃はカウンターしかなかった。だが、この構えは違う」

 そう言うと、剣の行き先をヴィレイに定める。

「攻守交代だ」

 この構えはすべての試合で見せている構えであり、それほど驚くことではない。だが、ヴィレイはこの構えの本質を知らなかった。ヴィレイはアルゴの試合の結末を見たことがなかったのだから。

 そう言ったアルゴは、ひとつ呼吸を整えると、またたく間のうちにヴィレイの間合いへ入り込む。

「ぐっ! なめるなアルゴ!」

 そして、攻撃にうつるアルゴの斬撃をなんとか受け流していくヴィレイ。だが、アルゴの斬撃は予想以上に鋭い。このままでは遅かれ早かれヴィレイの体に傷がつくのは避けられない。しかし、そんな簡単に傷をつけられるようなヴィレイではない。


 ――今までこんなピンチは幾度なくあった。何年前かのあの魔か、一日も欠かさなかった日々の稽古か。なめるなよアルゴ、僕は勇者になるんだ。勇者になって魔王を倒し、永久に歴史に残る。僕の叙事詩が生まれるんだ。なのに……僕はまだ始まってもいない歴史で幕を閉じるつもりはない。僕はあの人のような歴史は繰り返さない――


 ヴィレイは見つけた。この攻撃には隙がある。ないように見えてもある。剣士の戦いは隙の探り合い。どちらかが決定的な隙を見つけ、それをつくことで試合は決する。そしてヴィレイは見つけてしまった。ほんの一瞬、一コマしかない隙ではあるが、ヴィレイは見つけてしまった。

「ただの踏み台が調子にのるな!! 僕はヴィレイ、勇者ヴィレイなんだ!!」

 ほんとうに一瞬。そんな細かい隙をついた斬撃。ヴィレイは殺すつもりで斬りかかった。それほどの気迫と覚悟をアルゴに浴びせる。しかし……。

「なっ! ……アルゴぉぉぉ!」

 アルゴはさらに一枚上手だった。正直、アルゴ自身も自分にそんな隙があることに気づいてはいなかった。しかし、ヴィレイから漏れる微かな殺気で隙があることに、隙をつかれようとしていることに気付いたのだ。そして、隙を見つけてしまったことにより表に出てしまった高揚感。油断から漏れる殺気。そんな微かな殺気が漏れてしまっていたヴィレイの一撃に合わせ、バックステップで回避する。

 この瞬間。斬りかかったヴィレイには分かりきっていることであるが、ヴィレイに回避不可の隙ができる。ヴィレイは、そんな隙を回避することを諦め、最後の悪あがきに防御を固める。この防御は多少のダメージは捨てた構え。急所だけは狙わせないための応急処置といえる構えである。だが……。

 結果から説明すると、アルゴの剣はヴィレイの体を斬ることはなかった。代わりにヴィレイの剣が宙を舞う。

「くっ……」

 アルゴはヴィレイの剣を弾き飛ばした。これで、ヴィレイの手には剣士の心である剣がない。勝負ありといっていいだろう。

「どうやら終わりのようだなヴィレイ。ここらへんでギブアップを宣言するのが利口だと思うが」

 アルゴがヴィレイにそう告げる。だが、ヴィレイは余裕なさそうに苦笑いを浮かべながらもアルゴに反論する。

「そんなお決まりのセリフをはく前に斬りつけるべきだと僕は思うけどね。僕に体術の心得があればまだ勝機はあるが、残念ながら戦いに持ち込めるほどの体術の心得はない。ははっ、今度からは体術も修行に加えないとね。でも、僕はまだ負けていないよ。さぁ、僕を斬るんだアルゴ。じゃないと君は勝ったことにならない」

「……」

「残念ながら僕はギブアップはしないよ。負けるなら負けるで心の傷でも負わせてやるさ。さぁ、盛大に斬るがいい。だが覚えておけ。このヴィレイ、絶対にこのまま終わるつもりはない。こういう経験も別に構わないさ。英雄の歴史の初めに敗北はつきものだ」

 ヴィレイは覚悟を決めた。ここでどれだけ鋭い斬撃をくらったとしても死ぬつもりは毛頭ない。ヴィレイは確信していた。いや、どれだけの斬撃をくらっても生き延びる執念が自分に備わっていることを信じているのだ。

 ヴィレイの覚悟に対し、アルゴは剣で答える。アルゴの構えは攻めの構え。ヴィレイを斬る覚悟をアルゴも決めたということだ。この一撃を会場は息を呑んで見守る。だが、そんな緊迫した会場で、高揚を隠せない男が一人。

「さぁ、ここだぜアルゴ……。ここがお前の、いや、俺たちの奥義が光る場所だ」

 迷いなく一直線に間を詰めるアルゴ。素早く剣を抜き、素早くヴィレイの体を斬った。

 崩れるように地に倒れるヴィレイ。勝負ありだ。ヴィレイが倒れた瞬間、会場側の人間が数人ヴィレイに近寄り、生死の確認を取る。しかし、ヴィレイの思わぬ状態に、ヴィレイの下に集まった数人の人間みんなが驚いた。

「血が……血がひとつもでていない……」

 この発言には会場全体がざわついた。観客も、そばで見ていた審判も見たのだ。アルゴがヴィレイを斬りつける瞬間を。確かに、どのようにして斬りつけたのかはアルゴの剣の早さゆえに分からなかった。そして、斬りつけた瞬間に血が出たという確認もなかった。だが、奇妙なことに、なぜかヴィレイの体には打撲が残っていた。

「どういうことだアルゴ選手」

 審判が冷静を装いながら質問する。それに対し、またあの皮肉が入ったニヤッとした笑顔で答えを返す。

「安心しろ。少し打撲は負ったかもしれんが命にも後遺症にも別状はない。俺には師匠がいてな、その師匠はだれよりも優しい剣士だ。そんな師匠は俺に剣技で最も優しい奥義を教えてくれた」

「もしや……」

「あぁ、きっとそのもしやは当たっているさ」


        ――剣技で最も優しい奥義『峰打ち』だ――


 この答えに対し、他の者は何を言うこともできなかった。

「勝者! そして『勇者』の称号は『ラモール』のアルゴ選手に決定しました!」

 この決着にはさすがの会場も大いに沸く。アルゴに大きな歓声が上がったのはこれが初めて。そして、それと同時に、アルゴは『勇者祭』に優勝。すなわち『勇者』の称号を手に入れた。

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