勇者を求めていざ勝負
「集まってください二人とも。ほら、喧嘩しない! いいですか、今日はとても重要な修業です。今日は二人に、剣技においての奥義というものを教えましょう」
「奥義!? なんかすごそうじゃん! 奥義ってことはその……真空刃とかでたりするのか?」
「さぁ、どうでしょうね。ですが、それに匹敵するほどの剣技といえましょう。しかし、二人がこの技を習得するのはいつになることやら……。覚悟しておいてくださいね」
「こいつは大技の雰囲気!! なんかすげーテンションあがってきた! って、お前は奥義と聞いてもいつもの調子かよ。もっとなんかリアクションないのかよぉ」
「いや、これでも喜びを表しているつもりだぞ。師匠のことだ、真空刃はでないと思うが……とても興味深い」
ふふっ。この子たちならきっと大丈夫でしょう。二人とも優しい武を持っていますから……。
Episode3 勇者祭開幕
「腐った王が動いてるからそりゃそうだろうけど、マジですげーなぁ。みんな何かしら聞いたことあったり見たことあったりする名前ばっかだぜ。世間的に無名なんてお前だけじゃねえのか」
魔王を討伐する勇者を決めるために王が開いた大会『勇者祭』。当然、村の者が勇者になるということは、村の価値は上がり、名声も得ることが出来る。村にとっても大きな意味を持つ大会であり、その熱気は尋常ではない。村の代表という重圧、勇者という名の名誉ある称号。こんな特典がついてきてやる気が出ない者などほぼいない。出場者のほぼ全員が眼をギラつかせている。
そして、そんな空気漂う会場の中でも、平然としながらテンション高くアルゴに話しかけるフーレン。アルゴの影に隠れているという印象を持たれている彼であるが、結局のところ実力者に変わりないのである。
「そうか? 有名だからといって決して実力があるわけではないという証明になる図だろう」
当然、勇者という名誉や代表という重圧を感じておらず、平然としている出場者も数人いる。アルゴはその中の代表格といえるだろう。しかも、緊張感漂うこの場だ。雑談などしている者はほぼいない。そんな中で言葉を発すれば普段よりも声は通る。つまり、二人の会話は近くに居る数人には筒抜け。今のアルゴの発言で、会場へ足を踏み入れて早々に敵を作るという事態に陥ってしまった。
「にらまれてるぜ俺たち。俺たちって大人数のパーティーとか行ったら絶対怨まれて解散するタイプだよな」
苦笑いでそう言うフーレン。しかし、そんな空気もお構いなしに、アルゴは表情ひとつ変えずに言葉を返す。
「別に構わない。こいつらとこの先の人生関わっていく気がしないしな。ただひとつ発言するならば……、ここに居ても仕方がない、俺はもう控室に行く。お前は観客席へ行け。それだけだ」
「へいへい……。もうアルゴのファンとかが出来ることはないんだろうなぁ……。ヒール人生万歳!」
周りはもう二人をうっとうしい敵としか見ていない。本当にたいしたヒールである。アルゴはまったく気にしていないという感じであるが、フーレンはとても気にしている。出場者の熱気には平然としているフーレンであるが、周りからの熱いようで冷たい視線には弱いようで、空気を読んでそそくさと退散する。アルゴもそんなフーレンにため息をつきながら控室に向かう。
だが、二人は気付いていなかった。そんな一連のやり取りを冷静に観察する一人の男の存在に。
「アルゴ、『ラモール』のアルゴか。やはり山奥の小さな村だ。あんな色物が代表だなんて……。それに、他の出場者もたいしたことなさそうだな。まぁ、僕はこんなところで反感を買うのは好きじゃあないから、あんな大きな声で宣戦布告しないけどね」
そうつぶやくと、クスッと笑いながらその場を後にする。
そして、いよいよ『勇者祭』の開幕の時。王が開幕のあいさつをし、社交辞令的な開幕式があげられた。その後、出場者の紹介とともにトーナメント表の発表。なんと、アルゴは第一試合目という結果となった。
「おっ、一試合目からアルゴかよ。多分ブーイング浴びまくりだろうなぁ。まっ、その方が俺ららしいといえばらしいけどよ」
フーレンはアルゴの試合を見られるのが楽しみで仕方がないという様子。出場するわけでもないのに、そわそわしながら入場を待つ。
そうしているうちに入場の時となった。大会の実況役といえる人間が高らかに名前を呼ぶ。
「お待たせしました! では早速いきましょう。西より『オルストック』代表、カイン選手の入場です!」
選手の名前が呼ばれると同時に、観客席から歓喜の声が漏れる。それはもう犯罪レベルにうるさく、フーレンは思わず耳をふさいでしまった。そんな中でも特に女性の声が良く聞こえる。何事かとよく見てみると、カインの顔が整っているではないか。顔が整っているとこれだけの歓声が上乗せされるのか。フーレンはなんだか敗北感を感じ、同時に羨ましく思った。
「続いて参りましょう。東より『ラモール』代表、アルゴ選手の入場です!」
先ほどとは打って変わり、選手の名前が呼ばれると同時に観客席から怒号の声が漏れる。それはもう犯罪レベルにうるさく、フーレンは思わず耳をふさいでしまった。恐らくさっきの出来事が一気に広まったのであろう。噂の広がりとは本当に恐ろしいものだ。しかし、フーレンは実力者であるがゆえに耳がいい。だからこそ聞こえてしまった。怒号の中に、女性の歓喜の声が混ざっていたことを。よく考えてみればアルゴの顔も整っているのだ。顔が整っていれば多少の悪名があってもカバーされる。恐らく自分ではこうならなかっただろうと考えると、久しぶりにアルゴに対し憤りを感じた。
「けっ、いわゆるイケメン対決かよ。死ね、両方相打ちで死ね!」
思わず悲しい咆哮を上げたフーレン。しかし、そんな悲しい男は当然相手にはされず、何ごともなかったかのように試合の段取りは進む。
まず、試合前に両者が向かい合い握手をする。そして、その時に多少の会話が交わされる。
「見ない顔だな……」
ジロジロとアルゴを見回しながらそう言うカイン。しばらく見回した後、アルゴの目線に自らの目を合わせ、改めて言葉を発する。
「えーっと『ラモール』出身だそうだね。あまり聞かない村だが、その中でも期待されてきたのだろう。でも悪く思わないでくれ、君はここで私に負ける。私と戦えたことを土産と思ってお帰りくれたまえ」
皮肉交じりのあいさつを交わし、手を差し出すカイン。
「あぁ、そうしよう。だが、試合が土産というのも大変なものだな。これでは、土産で両手がふさがってしまうことになりそうだ」
皮肉には皮肉で返すのがアルゴ流。そして、何ごともなかったかのようにカインの手を握るアルゴ。少しムッとした顔になったカインであるが、建前の握手を交わし、持ち場に戻る。
「西、カイン選手VS東、アルゴ選手。試合開始!」
少々の皮肉合戦の後に試合が始まった。まず先手を仕掛けたのはカイン。顔に見合った、きれいで隙のない剣撃を仕掛ける。これに対し、アルゴは剣で受け流すことに徹する。初めはどちらも様子見、カインが攻めてアルゴが受け流す。
「ほぅ、多少は剣の心得があるようだね。私の村の人々は、この段階でみんなギブアップを宣言していたよ。でも、これならどうかな」
カインの剣速が上がる。そして、それと同時に剣の軌道が変則味を帯び、なおかつ隙のない剣撃に仕上がる。一言で表すならば美しい。だが、反撃の余地を与えないその剣撃に対し、アルゴは顔色ひとつ変えずに受け流し続ける。
「ほぅ、まだ受け流せるのか。しかし、受け流してばかりじゃ試合に勝つことはできないよ。このまま受け流し続けても体力を消耗し、切り刻まれるだけだ。まぁ、それもいいかもしれないね」
皮肉を口走りながら剣撃を繰り出し続けるカイン。しかし、この皮肉にアルゴは無反応。
「……。これは憶測でしかないが、もしかすると隙なんてものを狙っているのかな? もしそうだとすると、そいつは見当違いだね。私は君に隙など見せはしない。私の剣撃は受け流せばいいというほど甘いものではないのだよ!」
しばらくの間、カインの剣撃とアルゴの受け流しの合戦が続く。次第に、同じ状態に飽きがくる観客たち。攻めようとしないアルゴに汚いヤジを飛ばす観客も数え切れないほどいた。いや、一回戦の第一試合にしてこの大会上で一番のヒールになったアルゴは、こういう状態になっていなくてもきっと同じ結末にはなっていたのであろうが。
そんなヤジが飛んでも顔色ひとつ変えずに受け流し続けるアルゴ。そんなアルゴに観客からはため息が漏れていたが、そんな状態を楽しんでいるのは一人……いや、二人。
「なんやかんやで甘いよなあいつは。俺だったら初めの様子見で攻めてたね」
アルゴの心友として、そして大会の観客として試合を楽しむフーレン。そして……。
「ただの色物じゃあなかったか。もしかすると僕と……このヴィレイと決勝戦で戦うのは彼かもしれない」
同じ剣士として何か危機感を覚えたヴィレイ。ため息交じりの泥仕合として見られているこの試合をとても真剣に見つめる。
「アルゴとかいう名前だったかな。アルゴ君、君があまりにも攻めてこない、いや攻めることができないからお客さま方が退屈していらっしゃる。そこで私から希望を与えよう。ここはひとつアルゴ君に攻めるチャンスを与えようではないか」
カインがそう言うと、攻撃を止め素早く距離を取った。そして、何やら構えを取る。
「さぁ、攻めてきたまえアルゴ君。この構えがなんだか分かるかな。居合いだよアルゴ君。私の居合いはだれにも破ることができない自信がある。これ以上の無意味な攻防は避けたいんだ。もう、終わらせよう」
「それがお前の最大の武器か?」
「どうだろうね。でも、そうだったとすればどうなんだい?」
「希望を受けよう」
そう会話を交わした二人は、これ以上の会話を交わさない。一人は気を読むために精神統一へ。一人は攻めるために構えを変え、初めて相手に向けて気を放つ。この光景には、さっきまでヤジを飛ばしていた観客も息を呑んで展開の行く末を見つめる。そして、あの二人もこの展開に対し異なった対応を見せる。
「ああ見えて本当にお人よしだよなしかし。本来、戦闘なんてものは相手の手の内をさらけ出す前に仕留めちまうのが一番なんだ。なのにお前はそれを引き出そうとする。まっ、そっちの方が両者気持ちいいもんな」
なんだか心地良さそうな頬笑みとともに、この対決のクライマックスを優しい瞳で見つめるフーレン。
「この試合終わったな。終わった試合なんかに興味はないし先に戻るか……。ちょっとでも長く決勝戦のイメージをしておかないと」
現在のカインVSアルゴを終わった試合と称し、控室に戻るヴィレイ。アルゴに向けるその視線は、先ほどまで色物と馬鹿にしていた視線とは別物と変わっていた。
そして、そうこうしているうちに試合は結末を迎えようとしている。息を整えてカインを見つめるアルゴ。そして、次の呼吸と同時にカインの間合いに攻め入る。
それを迎え撃とうというカインだが、予想外の出来事が起こる。
「き……えた?」
攻め入ってきたはずのアルゴの姿がない。カインはこの出来事に一瞬動揺してしまった。正直、カインほどの実力者なら気付いておかしくなかったはずなのだ。村の人々を様子見で全滅させてしまうほどの実力を持つ剣技だというのに、それを初見で、何食わぬ表情で見極めるアルゴ。防御がうまい剣士だとしてもこうはいかない。カインは自分の剣技を過信しすぎていた。だからこそ気付けなかったのだ。アルゴは自分の剣技を受けきるので精一杯という意識から生まれる、受け流しながらこういう展開を待っていたという穴に。
そして、その一瞬の動揺が命取り。カインが次に脳が働いたころには、すでにアルゴの剣が目の前にあった。その狙いは確実に息の根が止まるであろう位置。カインはその一瞬の動揺で、自分の間合いはおろか、アルゴの間合いにどっぷり入ってしまっていた。その一瞬で死を覚悟したカイン。いや、カインには死を覚悟するほどの器量は持ち合わせていなかった。だからであろう、カインは斬撃を受けるその前に意識を失った。
「……。気を失ってくれたこと、感謝する」
アルゴが斬撃を加えるその前に気を失ったことを察知したアルゴは、剣が当たる寸前のところで剣を止めた。そして、これにて試合は完全決着。おおかたの予想を裏切り、勝者は無名のヒール、アルゴとなった。
大きなヤジが巻き起こると予想されていたが、その予想も裏切られる。確かにアルゴが勝ち、憎い気持ちはある観客。だが、あんな鋭い剣技は今までの人生においてもだれも見たことがなかったのだ。すなわち、声もでないほど圧倒されたということである。そして、さらに驚くべきことは、この試合、どちらも無傷で決着したということだ。この結果に対し、質問インタビューがとぶ。
「アルゴ選手、見事な試合でした。わたくし、今まで幾度なくインタビューをしてきましたが、戦闘において両者無傷決着など見たこともありませんでした。この結果についてどうお考えでしょうか?」
そんなインタビューに対し、フーレンはあきれたような声でボソッとつぶやく。
「くだらねえ質問しやがんなぁインタビュアーというやつも。どう考えるもなにも考えるまでもねえだろうがよ」
それはアルゴも同じだったようで、あきれたというか、怒りの交じった声で質問に答える。
「ともに無傷であるのは素晴らしいことでもなんでもない。見たことがないのはお前たちの怠慢の結果だ」
予想外の返答に固まるインタビュアー。しかし、そんなことも気にせずにアルゴは会話を続ける。
「だが、質問されたのだからちゃんと答えよう。これは受け売りだが、『だれも傷つかなくてすむのなら、どれだけ回り道になるとしてもその道を選びなさい。そして、その道を誇ったりしてはいけません。それは誇ることでもなんでもなく、当たり前の話なのですから』。これがお前の質問に対する答えだ。俺からすれば、当たり前のことを珍しい物を見たなどと質問した思考について質問したいところだがな」
このアルゴの皮肉的な態度に会場は静まり返る。そして、インタビュアーもこれ以上アルゴに対し質問をすることはなかった。
毎試合毎試合そんな調子で試合を積み重ね、とうとうアルゴは決勝戦までコマを進めた。




