幸せに死ぬなんてあっちゃならねえ
一日遅延しました。次こそは火曜日に!!
行った……か。大丈夫だからな。俺が命に代えてもおめえらに危害がおよばねえようにしてやる。
それにしても、俺はどれだけ恵まれてきたんだ。こんな争いしか知らねえ、数々の残された者を作ってきちまったこんな俺が、家族を守るなんて役回りをしてるなんてな。運命なんてものがあったなら、俺はきっと家族なんてものを作ることはできなかった。
もしかしたら、運命は自分で切り開くなんてのはあながち間違いじゃねえのかもな。家族がいるから俺があって、そんな俺が家族を守って、そして……数々の家族を奪っていくんだ。こんな馬鹿げた話はねえよ……ねえはずなんだ。だけど、どうしてみんな俺みたいなやつを家族と認めてくれる。俺に微笑みを向けてくれる。俺の命なんかを案じてくれる……。
「これはこれは、勇者との死闘お疲れさまでした。おもしろいくらいにボロボロのようで」
こいつが予兆にあったとてつもねえやつか。確かにひでえ顔してやがる。自分のことしか考えてねえ顔だ。自分以外のすべては駒で、命を奪うことに躊躇ねえ。確かにそいつは間違えてねえかもしれねえなぁ。もともと、生物は争うためにある。家族とか気持ちとか、そういうのは生物から生まれた欠陥だ。こいつは純粋に生物なのだろう。分かっている、それは分かっている……が、俺はそれを認められそうもねえ。欠陥だと笑われても構わねえ。そいつを認められそうもねえんだ。
「けっ。大したことねえよ」
「あらあら、それは大変だ。もしかすると奥の手も使わなくちゃならないなんてこともあるかもしれませんね」
いけ好かねえやろうだ。こういうタイプが二連発なんて、ついてねえなぁ。
「俺はもうおめえとは会話したくねえ。とっとと戦ろうや」
「ふふっ。そうこなくっちゃ」
俺を家族と認めてくれた。俺に微笑みを向けてくれた。俺の命を案じてくれた。そんなおめえらを俺はどうあっても失いたくねえ。生きろ。嫌になるってくらい生きろ。俺が……その踏み台になってやる。幸せに死ぬなんてあっちゃならねえ。だが、その機会をくれるというのなら、俺はそれを大いに使わせてもらうぜ。
RaviEpisode2 Death of the Happiness
俺は期待されていた。生まれたころから魔族でも飛び抜けた戦闘力に、驚異的な成長力。さらには豊かな知能ときたもんだ。自分で言うのはこっ恥ずかしいが、俺は魔族のエリートだった。確か、あんときは魔王の野郎も俺に気をかけていたっけなぁ。
だが、俺が魔族として物心がついてきたころ、魔王の思惑と俺の思想にズレが生じ始めていた。魔王はとにかく人間が憎かったようだ。まぁ、そりゃしゃあねえわな。復讐に駆られた心をコントロールできるほど魔族は強くねえ。魔王は俺に人間の愚かさを伝えた。だが、俺はそれを理解することはできなかった。
その後、俺の周りに魔族は寄り付かなくなった。まっ、当たり前だわな。周りからしてみりゃ、何考えてんのか分かんねえいけ好かねえやつだ。その上、実力のあるエリートとくれば距離を置くのが自然。いわゆる独りぼっちってやつになっちまった。
しばらくそんな時が続いていたとき、あの野郎は現れた。
「お主はいつも一人だな。寂しくないのか?」
あの野郎は俺よりも少し年上で、なおかつ落ち着いていた。だが、あんときの俺は幼かったなぁ。せっかく声をかけてくれたのに、精一杯敵意を剥きだしたもんだ。
「あっ? 好きで一人でいるわけじゃねえよ。だれだてめえは」
敵意剥き出しで答えた俺に対し、あの野郎は何の嫌悪感もなく言葉を返してきやがった。俺は今でもあの野郎の言葉と、何のけがれもねえ笑顔を忘れられねえ。
「私か? 私はただのはぐれさ。ちょっと他の魔族と価値観が合わなくてな。そこで吹っ切れられたらいいんだが、それでいて寂しがり屋ときたもんだ。ややこしいやつが来たなぁと思っただろ?」
別になんともねえ、むしろどっちかと言えばうぜえ台詞だと思うが、なぜか俺には印象的な言葉だった。
だからこそ、俺は今でも信じられねえ。こんな馬鹿みてえにけがれねえおめえが、理由なく生物を殺めるなんてよぉ。なぁ……獅子王。
それから、俺と獅子王はずっと二人で行動していた。他の魔族からは白い目で見られていたが、それはそれで構わなかった。結局のところあれだ。ごちゃごちゃと魔族というものは生息しているが、そのごちゃごちゃいやがる中で、一人でも気が合うやつが見つかれば住む世界がガラッと変わる。意外とそれが難しいもんだと知っているから、俺としてはこの現状を幸運に感じていた。
「けっ! 相変わらず桁違いの強さだなぁおめえは。エリートなんて言われてた俺が恥ずかしく思えるぜ」
「それは持ち上げすぎだろうラヴィ。お主も十分な力を持っている。エリートに違いないと私は思う」
「嫌味にしか聞こえねえよ!」
あの野郎との修行ってのは格別だったのを今でも覚えてるぜ。なんというか、心地良いんだよな。何が心地良いのかと言われれば難しいが、例えるとしたら「殺めるためじゃねえ武」と言うのか、そいつを鍛えてる感覚に陥るんだ。
俺は別に偽善者ってわけじゃねえ。争わなきゃなんねえときがあるのは身に染みた。いつまでもこの心地良さが続くわけでもねえってのも本能で分かっていたのだろう。だけど、こういう感覚も身に染みついているというのは、俺にとって宝だ。
「そういや、それってなんだよ。おめえ、剣使いの癖に斬ってこねえよな。その証拠に傷が打撲だ。あれか? ハンデか?」
「ほぅ。そんな風に思わせてしまっていたか。それは失礼した。別にハンデというわけではない。ただ、これは私の性分だ。斬らなければならないとき以外は私は斬らない。『斬る』というものは言葉以上に繊細なものだ。少しでも手元や感覚が狂ってしまうだけで、予想よりもはるかに大きな損害を与えてしまう。その一度のミスでラヴィの未来を奪ってしまったとなれば、私はどう悔やめばいいか分からない」
あんときの獅子王は、いつにもまして真剣だったのを覚えている。獅子王といい、アルゴといい、剣士運はいいらしい。あの勇者野郎も、悔しいが剣には一本筋が通ってやがったしな。
「つまり、『斬る』というものにも相当な覚悟が必要なのだ。簡単に言えばあれだ。剣士なりの安全策のようなものだ」
「そいつはえらく気を使ってくださってるじゃねえか。そんで、その剣なのに打の攻撃が安全策だというわけか」
「そうだな。これは正式名称を『峰打ち』という。剣士としては必ず覚えておきたい奥義だ」
笑わせるぜ本当に。獅子王は、敵を殺めない技を奥義と言ってしまったんだ。強さを求める武からすれば反した剣士なんだろうと思う。だが、俺はそんなことを生真面目に語る獅子王が好きだった。こんな物騒な世にもこういう魔族はいるのかと感心したものだ。
だが、アルゴは襲われ、大ダメージを負った。嬢ちゃんは家族を奪われた。きっとどちらもうそを言っているわけではないだろう。何か事情があると願いたいが……。
その後もずっと獅子王とともに行動していた。だが、ずっとそんな状況でいられるほど人生ってのは安くできてねえ。ほぼ同時期に別れなければなんねえ出来事が起きた。これが俺にとってもあの野郎にとっても、大きな転機だったのかもしれねえなぁ。よく考えりゃ俺はずいぶん汚れちまった。なのに、獅子王が汚れてねえ。そんな確証はないのかもしれねえな。
「マジか! まっ、おめえは強いもんなぁ。それもうなずける話だぜ」
獅子王は、魔王の直属の部下に指名された。それもまぁ当たり前の話だわな。こんだけ強くて目がつけらんねえはずがねえ。少しくれえ思想が食い違っていたとしてもお釣りがくるレベルだ。
「あぁ。どうやらその様なのだ。さすがに魔王様のご使命だ。受けぬわけにはいくまい」
「どうしたよ。こんなVIPなご使命受けた割にはテンション下がり目じゃねえか」
「それはそうなのだが……。お前と離れてしまうと考えると手放しには喜べなくてな」
「……気にせず行ってこいや。離れてようが近くに居ようが、俺とおめえは俺とおめえだ。運がありゃあ、ふとした時に再開できるさ」
「そうだな。ありがとう」
なんか、今思い出すとやたら恥ずかしいな。ぼっち二人の青春ドラマとかどこに需要あるんだよ。あんときゃあ俺も若かったなぁ。なんやかんやで別に普通に会えたし、ほんと……若かったなぁ。
そして、獅子王が魔王の下へ去ってから少ししたころか、偶然にも俺にも転機が訪れた。ラビット族がひとつの団体としてまとまってきたらしく、『ポルッカ山』に配備したいそうだ。そこで、ぼっちといえどエリートな俺に白羽の矢が立ったというわけだ。今思えば、それが争いの始まりだったんだな。
まっ、俺だってこのままジッとしているのは嫌だった。だからその申し出を受けた。魔族の偉いさんどもは驚いていたぜ。こんなぼっちの俺が、団体の中で生活するのを快く引き受けるなんて思っていなかっただろうからな。
それからしばらく、俺は『ポルッカ山』の生活にはなじむことができなかった。まっ、偶然にも友だちがいたとはいえ、本質はぼっち体質だ。そんなやつが群れの中のリーダーになれと言われても簡単にいくはずがねえ。あのときはあの野郎のことを思いだしまくったのを覚えてるぜ。あれだけぼっちに慣れてたのに、いきなりそこから引き上げられて沈められると、また悲しくなっちまう。あんときばかりは、ぼっちである自分と、引きずり出して去った獅子王を恨んでたぜ。どうせまたぼっちになるなら初めから手を差し伸べてくれない方がよかった。そんなことも思っていたな。
だが、そんな俺に対して接してくる物好きがまた現れた。
「あんた、いつも寂しそうな顔してるねえ。寂しそうなのに一人でいるなんて変な人」
「あっ? 別に好きで一人なわけじゃねえ。おめえも早く去りな。仲間だと思われちまうぞ」
「何言ってんの! あたしもあんたも同じラビット族さ。だれもあんたを見放してなんてない。あんたが勝手に離れていってるんじゃないか」
「……」
今思えば、俺はすでに天に恵まれていたのかもしれねえな。こんな気難しいやつを二回も、二回も引き上げてくれるやつがいた。俺にとってはこれだけでも感謝に値する。
それから、俺には友だちだけじゃなく仲間が、家族ができた。やはり誇り高きラビット族だ。こんな俺でもすんなりと輪に入れた。それから少しの間は俺が俺じゃないようだったな。山を探検して新たな発見に心が躍ったりしてたもんだ。そんで、心の底から笑ってた。今でも心の底から笑うことはあるが、あんときは血にまみれてなかった、きれいな笑顔だったな。懐かしいぜ……。
「てめえら! 大群の何かが、この山に押し寄せてきやがるぞ……。注意しろ」
こんなことはあいつらには口が裂けても言えねえが、もしかすると、それに気づかずに奇襲で滅んでいたのが一番よかったのかもしれねえな。それが俺たちが血にまみれずにすんだ一番の方法だったのかもしれねえ。だけど、きっと今でもそんな選択はしなかっただろう。俺は自分のプライドよりも家族を選んじまった。
「世界を脅かす邪悪なる魔め! 我ら王家騎士団が葬り去ってくれるわ!!」
「……やるしかねえんだな。欲深い種族か。悲しいもんだぜ!!」
人間は話し合いになど応じる気はなかった。根底から魔族を悪と決めつけ、魔族を滅ぼすために争う正義。きっと、人間の王というやつはそう刷り込んできたのだろう。結局は偉い人間の安泰のため。使い捨ての下民を使って魔族を滅ぼし、自分たちは高みから見物か。ほんと、どこも一緒だよなぁ。魔王も、人間の王も、そして、俺もだ。どれだけきれいごとをほざいても結局は戦っちまうんだ。『家族のため』。そのためなら、俺は血にだって争いにだって、何にでもまみれた。いくらでも汚くなれた。
「……これが、争いか」
俺たちは人間の手から居場所を守った。だが、何人かの死者も出た。なぜだろうな。攻めてきた人間は数えきれないほどいるのに、死んだ少数のラビット族に対して悲しみを覚えた。そのとき、初めて命は平等ではないことを覚え、同時に争いで血にまみれる自分をひどく卑下するようになっていた。
それからも人間と数えきれないほどの争いを繰り返した。今の今までこちらから攻めたことは一度もない。しかし、人間から見れば、それは魔族が人間を襲い、殺したように感じる。勝者はいつのときも悪者にされて、また新たな争いが生まれる。絶えることのない残された者と、俺たちはいつも争っていた。
「大丈夫かいあんた!」
だが、そんな俺が生きていられたのは家族がいたからだ。家族が俺をつなぎとめてくれていたから今の俺はある。そんな家族を、死なせることなんてできやしねえよなぁ。罰当たりにもほどがあらぁ。
それから俺は、オビィを抱いて、失って、アルゴと出会い、別れ、また出会った。そして、俺は今アルゴを、家族を守っている。争いの中で息絶えるに相応しい俺が、最後は何かを守って散れるんだ。これほど幸せな死はねえ。
ほんと、どうしちまったんだろうなぁ。俺の人生、少しも不自由なところがねえ。こんな汚え俺が、こんなきれいに死ねるんだ。人生というやつには感謝してもしきれねえや。
「どうしたよ。こんな傷だらけの俺に苦戦してるようじゃ読み違いだったなぁ」
「一体どこからそんな力が……。私が弱いわけがない。しかし、今のこいつがそんなに強いはずがない。許せない事態だ」
「けっ、おめえには一生分からねえだろうよ」
「仕方ありませんね……」
どうやら奥の手とかいうやつらしいな。こいつはやべえわ。やはり俺の野生の勘は優秀だ。逃がして正解だったぜ。本当に良かった。こんなやつに命を奪われるのが本当に俺だけでよかった。
後は任せたぜアルゴ、獅子王。俺にとって家族を託せるのはおめえらだけだ。俺は一足先に脱落しちまうが、おめえらがいれば安心だ。
「この力がどういうものか分かるでしょう! もう、あなたはおしまいですよ。あなたは私を怒らせてしまったんだ」
「みてえだな。けど、安心したぜ。おめえ程度のやつらにアルゴと獅子王は負けねえよ」
「あなたは人をイライラさせるのがお得意のようだ。魔は魔らしく無残に死ね!!」
生物の死というものは最後に人生を振り返ると聞くが本当だな。思う存分振り返らさせてもらったぜ。それを踏まえてもおかしな話だぜ。俺は、最後の最後まで幸せだったんだ。ほんと……
――いい人生だった――
「……ふふっ。あはははは! どれだけ大口をたたいても結局はこうなるのです。しかし、手強かった。予想以上にあの勇者さんは使えるかもしれませんね。予定変更です、残党なんて放っておいても問題ないでしょう。帰還します」




