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因縁。それは切っても切れぬ黒い糸

久しぶりの登場となりますので少し補足を。今回の前置きストーリーは、Episode6の前置きストーリーで登場した王と王子です。

「いよいよ始まるな」

「そうですねグラン王。ようやく人間が魔に大きな一手を打てる」

 勇者が旅に出て、もう二年以上経ちましたか。しかし、時とは残酷なものだ。彼の過ごしてきた時間は現実の二年ほどに感じていることでしょう。しかし、魔からの注意をあなたが引き受けてくれたおかげで、私たちはその倍、いや、それ以上の成長をとげることができましたよ。

 だが、私たちはこんなものでは満足できない。人間はなによりも強大でなくてはならないのですよ。残念ながら、まだ魔を制圧できるほどの力を手にしているわけではない。そのためにはまだまだ成長が必要だ。成長するための時間が必要だ。時間を作るための余裕が必要だ。そして、余裕を作るためのきっかけが必要だ。そのためにも、もう少し働いてもらいますよ勇者様……。

 勇者、人間代表という意か。本当にそのとおりだと思いますよ。人間を代表する人間のための駒。まさにそのとおりだ。

「さぁ、旅立ちの時だ王子。いや、こういうときまで王子と呼ぶのは失礼だな。旅立ちの時だエヴィル。人間の運命をお前に預けたぞ」

「えぇ。人間の技術力に死角なし。まだそんな大げさなものでもございません。では、行ってまいりますグラン王」

 さて、運命を預けられたところで、私はまやかしの神にでも祈ろうかな。私は神の僕。どうか私の描く通りの戦局でありますように……アハハッ。神なんてしょせんは人間の操り人形なのに、どうして操り人形が人間を操れるんだろう。不思議だなぁ。まぁ、勇者を操る私たちのようなものか。私たちが決めた人間代表を、決めようと言い出した私たちが利用する。これほど心地いいものはない。そう考えると神を考え出した者は天才だ。心はだれよりも真っ黒でも、だれよりも爽快だったのだろう。気分よく神様気分で戦局を眺めに行こうじゃないか。そして、また見下しながら笑いたいな。


 ――さぁ、旅立ちの時だ。人間の成長のために……勇者、あなたをいただきます――


             Episode24 因縁激突


「まだ着かへんの!?」

 『レーベ』を出てから一週間あまりの時が流れた。しかし、まだ目的地には着かず、最大限の移動と最小限の休息を繰り返して進む。そんなむちゃな移動の仕方にミクスは疲れを隠せない。急いでいるとは分かっていても、ついつい口から愚痴がこぼれる。

「もう少しだ。辛抱してくれ」

 アルゴからの返事はいつも同じようなことばかり。いつになく焦っている様子だったので深くは干渉しなかったミクスであるが、一週間もこんな調子だとさすがに気になってしまう。

「あかん。さすがにもう聞くわ。なんでこんなに焦ってるん? アルゴらしくないで」

 そんなミクスの言葉に対し、やはり焦りを隠せない表情で答えを返す。

「友が……ラヴィが危険なんだ」

「ラヴィって、あの魔族で友ができたとかいうそれかいな!」

「そうだ。ラヴィが危険にさらされているんだ。焦らずにはいられない」

「そういうことやったら早く言ってや! 急ぐで、休憩なんかしてられへんわ!」

 事情を把握し、納得したミクス。これまでよりも大急ぎで『ポルッカ山』へ向かう。


 そしてこれは同時刻。一人の男が何かを見上げるように空を見た。

「ここか。ふふっ。現物を見るとさらに燃えてくるな。待っていてくれよ強大な魔」

 冷たい笑みを浮かべながら山へ入る。しかし、なにか違和感を感じる。

「なんだ、この山からは殺気がしないな。魔がでてくる気配がない……謀られたか? いや、勇者であるこの僕をだますメリットはない。となると……!?」

 この一瞬でヴィレイの悩みは取りこし苦労だと認識した。ヴィレイの体が感じたのだ。この『ポルッカ山』の頂上から伝わってくる強大な気を。そして、その気はヴィレイの心を躍らせるのに十分の気だった。

「お前も待ちきれないのかい? いいね、僕の好みだ。お望み通り最速で駆けつけてやるよ!」

 体力のことなどお構いなし、強大な気が伝わってきた頂上まで走る。

 ヴィレイが頂上へ向かうその眼は純粋そのもの。心からうれしいのだろう。自分の飢えを満たす強大な敵が頂上にいると思うと、自然と笑みがこぼれる。

「ふふっ。これはこれは驚いた。君は魔王じゃないよね? そんな堂々とたたずんでいたら勘違いしてしまうよ」

 頂上にたどり着いたヴィレイが見た姿、それは怒りの形相でヴィレイを待つラヴィの姿だった。

「けっ。てめえにとっては魔王かも知れねえぜ? おめえはあいつと違っていい風が吹いてねえ。遠慮なく追い返せるってもんだ」

「ふふっ。いいねえ。言葉が通じるというのがまたいい。それに、なんだか君を見てるとあのときの魔を思い出す」

 湧き出る感情を抑えきれないとでも言おうか。そんな表情を浮かべながら勢いよく剣を抜くヴィレイ。

「そうかい。あのときってのがどのときなのかは知らねえがよ、争いてえなら争いで返すしかねえ。俺たちはその程度の種族だ」

 剣を抜いたヴィレイに対抗するように、闘志剥きだしで戦闘態勢に入る。そして……。

「ふふっ。楽しませてね」

「けっ。争いが楽しいわけねえだろうが!」

 両者は知らぬ、因縁深き因果が今、激突した。


 両者が激突して少々、ようやくアルゴとミクスが『ポルッカ山』へ到着した。

「アルゴ。明らかに大きな気配が頂上に二つあるで」

 サーチで現状を確認するミクス。

「……急ごう」

「そやね」

 すでに戦闘が始まっている。アルゴはラヴィともヴィレイとも戦闘の経験がある。それは時期もあり、あのときのままならばラヴィが圧勝するだろう。だが、アルゴはヴィレイの覚悟を知っている。ぶれない者の成長力は果てしないということも知っている。だからこそ心配だった。もう、あれから二年以上も経っているのだ。二年もあれば人が化けたように強くなっていてもおかしくない。それも、あのヴィレイならばなおさら。

 そう思えば足も自然と進んだ。正直、ここに来るまでの体力の消耗は大きい。こんな状態で両者の戦闘を止められるかといえば自信はない。だが、行かずにはいられなかった。行かなければきっと後悔することになる。それが分かっていたから……。

 しばらく進むと、もう頂上が見える。初めて来たときは一晩を山で過ごしたというのに、何の障害もなければ大きな山も小さいものだ。そして、二人は頂上へたどり着いた。

「ラヴィ……ヴィレイ」

 頂上では威圧感漂う戦闘が行われていた。ラヴィからは薄い紫色の、ヴィレイからは濃い赤色の血が流れているのがはっきりと確認できる。そこに……。

「戦闘は中止や。不意打ちですまんけど一回しびれたってや」

 戦闘を止めるために強行策に出るミクス。左手には大きな黄色の球体が出来上がっていた。

「ライトニング!!」

 ミクスのライトニングがラヴィとヴィレイに向けて放たれる。しかし、いつから気付いていたのか。ラヴィの拳とヴィレイの剣がミクスのライトニングをかき消す。傍から見ればコンビのように息が同調している。

「嬢ちゃん連れとはやるじゃねえかアルゴ。それも、混血の魔法使いってやつか嬢ちゃんは? てことは、コング兄弟と獅子王を退けたってのに一枚噛んでやがったってわけだな。さすがだぜ」

「ふふっ。なかなか役者がそろってきたじゃないか。勇者とライバルと強大な魔と小さな魔法使いちゃん。いい図だよ」

 二人の出現により、一瞬でも戦闘が中断された。もしかするとこれで興が削がれて戦闘が終わるかもしれない。そんな希望も抱いた。しかし、現実はそう甘くない。

「でも、これは僕と彼の問題だ。そんなときに邪魔が入るのは不愉快だな」

 明らかな怒りの表情を見せるヴィレイ。楽しんでいたところに邪魔が入ったことが不快らしい。

「そいつはおおむね同意だな。ここは俺の山だ。そこに乗り込んできてるんだから俺が追い返さねえとなんねえ。邪魔はしねえでくれや」

 ラヴィもそこはヴィレイに同意する。

「……。つまり、力ずくでないと止まらないと言うのだな?」

 話し合いを諦めたのか、剣を抜くアルゴ。

「何しとんねん! アルゴまで加わったら埒あかんわ。そうや、なんで争っとんねや? ここは、そこのモフモフできそうな魔族さんの山なんやったら、青髪の勇者様が引いたら終わりやん」

 焦って、いろいろと意味の分からないことを言い出すミクス。そんなミクスの言葉に対し、ヴィレイが答えを返す。

「僕は君たちのように夢見がちじゃあない。ただ、強大な敵を倒して歴史に残りたい。みんなが僕を語り継いで生きていくんだ。だから、あのときのような強大な魔が必要というわけさ。まぁ、すでに彼はあの魔よりも強いけどね。偶然かは知らないけど、外見も彼によく似ていたよ」

 そんなことを平常で言うヴィレイに対し、ミクスは少し嫌悪感を覚えた。というよりも、自分の中の勇者像との違いに驚きを隠せなかった。

 命はすべて自分のためにある。歴史に残るであろう自分にとって、自分以外の生物はすべて踏み台。きっとヴィレイはそんなことを思っているのだろうとミクスの脳が結論を下した。結果、ミクスも左手に魔法を取り込み始めた。当然、標的はラヴィではなくヴィレイに。

 しかし、何やら異変に気付いたらしいアルゴがミクスを止める。さっきまで自分も戦おうと思っとった癖にと思いながらアルゴの方を見ると、明らかにアルゴが威圧されている。いつの間にか抜いていた剣を戻していたほどにだ。そして、そのアルゴの目線はヴィレイではなくラヴィにあった。何事かとラヴィの方を向くと、その理由がはっきりと分かった。そして、ミクスも魔法の取り込みを止めた。

「てめえ、今、外見が俺によく似た魔族と戦ったと言わなかったか?」

 アルゴとの試合で見せた時とは別人かと思うほどの威圧感を漂わせるヴィレイ。

「戦ったよ。もう何年前かは忘れちゃったけど、この近くの森だったなぁ。あの時の興奮は今でも忘れられないね」

 なんだか、ラヴィとあのとき戦った魔族の関係性が分かってきたヴィレイ。こんな風に余裕を見せて答えているヴィレイだが、体はラヴィの威圧を十二分に感じている。しかし、ヴィレイはそれに恐れるタイプではない。むしろ、もっと引き出したい。そう思ってしまった。なので、余裕を見せながら怒らせるように答える。

「もう一度聞くぜ? 俺に似た魔族を殺したんだな?」

「うん、殺したよ。いや、それは間違いかな。あのときの魔は僕の歴史の一部だ。僕の叙事詩で彼は生き続けるよ。だから心配ないよ。ふふっ。お・と・う・さ・ん」

 その瞬間、場の雰囲気が明らかに変わった。もう、だれもラヴィを止められない。加わることもできないだろう。ヴィレイの言葉で、その場にいる全員が気付いてしまった。オビィを殺したのはヴィレイ。そして、オビィはラヴィの息子だということ。さらには、アルゴは師匠。ミクスは親、どちらも大切な者を失っている。それを今のヴィレイのように冒涜されれば、自分も同じように怒っただろう。アルゴもミクスもそう思ってしまったから。

 そう思った時には、ラヴィはすでにヴィレイへ向けて拳を振るっていた。あまりの速さに驚いたヴィレイだが、バックステップでなんとか攻撃をかわす。だが、ヴィレイはかわせただけ。反撃に移ろうと思っても、すでに二撃目の拳が見えるのだから反撃のしようがない。ヴィレイはラヴィの野生の力というものを百パーセント引き出してしまった。しかし、ヴィレイは後悔などしていない。むしろ、攻撃をかわすその顔は笑顔に見えた。

 しばらくはラヴィの攻勢が続いたのだが、ヴィレイもリズムをつかんだのか反撃に移るようになってきた。しかし、ここでひとつの誤算。なんと、意図してのことかそうじゃないのか、ヴィレイの斬撃をもろに受けた上での攻撃をラヴィが仕掛けてきたのだ。これはもうカウンターと呼べたものではないだろう。言うなれば捨て身の特攻。ラヴィの体に大きな傷がついた代わりに、ヴィレイを思いっきり殴り飛ばした。

「こんな傷、こんな傷よぉ、俺がオビィにしちまった罪に比べりゃあ小せえ小せえ傷だ。でもよぉ、それがおめえにつけられた傷だってのが死ぬほど恥ずかしいぜ。オビィがてめえの歴史の一部? てめえの叙事詩で生き続ける? ふざけんじゃねえ! てめえが奪った命がてめえの歴史で生きるなんて、それこそ夢見がちだろうが。命を奪うってのはそんなかっこいいもんじゃねえ。ただ、命をひとつ消すだけだ」

 体から流れる血が、ラヴィの白い体を薄紫色に染める。それだけで痛々しい光景ではあるが、アルゴもミクスもラヴィを心配して近づくことはできなかった。そう、まだ戦いは終わっていないのだから。

「ごちゃごちゃうるさいなぁ。君こそ歴史を軽く見過ぎじゃないかい。なぜ僕たちは生きる? 死ぬまでに何かを残すからじゃないか。そして、その中でもっとも素晴らしいもの。歴史だ。歴史に残ればいつまでも生きていられる。もし不死であったとしても、それだけじゃつまらないじゃないか。死ぬまでに何か大きなものを残したい。それは当たり前な考えだと僕は思うけどね。そして、僕の歴史が詰まった叙事詩のなかに、君も、君の息子も加えようと言っているんだ。ありがたく思うのが普通だと思うけどね!」

 フラフラになりながら立ち上がるヴィレイ。よほどの大ダメージだったようで、明らかにひどい吐血もしている。だが、ヴィレイは戦いをやめるつもりはない。すべては自分の叙事詩のため、ラヴィへ剣を向け、そして駆ける。

 深いダメージを負った両者。しかし、どちらも攻撃を止めるつもりはない。ラヴィには息子を奪われた憎悪、目の前で冒涜された怒り。ヴィレイには歴史に残るための意志、父の英雄論への否定のための強さの渇望。そんな思いが支えているのだ。どちらも体がボロボロになり血だらけになっても攻撃を止めない。アルゴもミクスも止めることはできない。そんな戦いが続いていた。


 しかし、最終的にはどちらかが倒れ、どちらかが生き残る。いや、ときには両者倒れることもある。それが戦闘というもの。しかし、今回はきっちりと勝敗がついた。片方は地に倒れ、片方は大地を足で踏みしめる。

「……てめえだけは生かしちゃおけねえ」

 立っていたのはラヴィだった。地の利というものもあったのだろう。ヴィレイはここにたどり着くまでに体力を消耗していた。勝敗の差を分けた決定的な差はそこだろう。実力的にはまったくの互角だったといえる。

 しかし、立っているといってもボロボロで今にも倒れそう。だが、ヴィレイの気が失われている今、ラヴィはヴィレイをどうにでもすることができる。

 ラヴィはよろよろとヴィレイに近づき、手でグッと持ち上げた。

「殺す……のか?」

 思わず口をはさむアルゴ。

「当たりめえだろ。今回はおめえに口をはさむ権利はないはずだぜ。みろ、魔法使いの嬢ちゃんの方がよく分かってやがる」

「……」

 アルゴがミクスの方を見ると、泣きながら口をつぐんでいた。

「ミクス……」

 ミクスも、アルゴのように殺すのは勘弁してくれと口をはさみたかった。殺してもオビィが救われるわけがない。また新たな争いを生むだけ。親を奪われたミクスにはそれがよくわかっていた。しかし、それと同時に、大切な者を奪ったやつを自分なら生かせるかといえば自信がないのだ。実際に、獅子王と対峙したときに生まれた感情は殺すという感情。それが痛いほど分かっているミクスだけに、口をはさみたくてもはさむことができなかった。

 それは当然アルゴも同じ。だからこそ、アルゴもこれ以上の口をはさむことを止めた。せめてこの場の気持ちを見届けよう。そう思ったのだ。

「……」

 ラヴィの手に微かな力がこもる。それは、微かだとしても今のヴィレイならば殺すことのできる一撃。

「てめえは俺の息子を奪った。そしたら、俺みてえな残された者が生まれちまったんだ。そして、俺がおめえを殺したら、また残された者が俺を殺しに来るのだろう。いったいどういうことだろうな。争いってのはやっぱり虚しさしか残らねえ……。でも、やっぱりおめえは憎い。憎いって言葉じゃ足りねえくらい憎いんだわ」

 ラヴィがボソッと言葉をつぶやいた後、大きく手を振りかぶる。しかし、なかなか拳を打つことができない。

 しばらくして、ラヴィがヴィレイを持ったまま頂上の入り口まで移動する。

「なのに……なんでだろうなぁ……」

 そのままヴィレイを放り投げる。放り投げられたヴィレイは、視界から消えるほど下へ転がっていった。

 結果的に、ラヴィ本人の手でヴィレイを殺すことはなかった。まぁ、あれほど無防備に山から落ちたのだ。無事でいるとは思えないが、結果は分からない。

「ラヴィ……」

 二人の下へ戻ってきたラヴィ。だが、ボロボロの体でフラフラになりながら涙を流すその姿に、アルゴもミクスもどう声をかけていいか分からなかった。

「なぁ、アルゴ。魔法使いの嬢ちゃん」

 泣きながらラヴィが二人に問う。結果から言うと、二人はその質問に答えなかった。いや、答えることができなかった。


 ――なんでだろうなぁ……俺は、俺たちの居場所を守るために争いを続けて、人間の命を奪い続けた。でもよ、それは好き好んで奪った命じゃねえ。そりゃ、そんなもんは言い訳にもならねえよ。けどよ、俺は初めて好き好んで命ってやつを奪いてえなぁって思ったんだ。なのになんでなんだろうなぁ……殺してえやつほどいざとなったときに殺せねえ。憎いはずなのに、殺してえはずなのに……どうしてなんだろうなぁ……?――

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