強さを求めいざ参らん
「今日も骨のない魔ばかりだな」
必要以上に人間は魔を恐れる。しかし、しょせんそれは何かに頼りっきりの人間の恐れだ。僕からすれば、そんな雑魚どもの言葉を人間の言葉だなんて思わないでほしいね。僕のように、毎日英雄になるために稽古している人間は、魔なんて恐れることもない。むしろ骨のなさにあきれるくらいだ……ん?
「あ、あれは!」
そんなことを思っていると現れるものだね。運命は僕に味方してるのかな。ふふっ、運命なんて僕らしくないな。それぐらい興奮しているのか僕は。
「こんな大きな魔は初めてだよ。これはもしかすると僕の名を上げるチャンスかもしれないね」
「シャアァァァ!」
「いきなり襲いかかってくるか。いいね。血気盛んな方が裁きがいがある!」
そうだよ。これなんだ僕が求めているのは。英雄に必要なのは強さ。それはこの緊張感に耐えるために必要なもの。強さがないと強大な敵に立ち向かう勇気なんてものは養われないだろう。少なからず、ほとんどの人間には理解されない欲だろうね。ほとんどの人間は逃げ惑うのに精いっぱいだ。強大な敵が来たらだれかに助けを求め、敵が去ったら何食わぬ顔で大きな顔をする。そんな雑魚どもには分かってもらいたくもない。当然、あの人にもね。
「はぁ……はぁ……。強かった。僕が今まで戦った魔の中で一番だ。でも、僕はここに立っている。僕の英雄への道は、また閉ざされることはなかった」
そして、それを乗り越えた末に得られるこの感覚。強かった、本当に強かったよ。訂正する。一握りながらも人間に立ち向かえる魔が身近にいるのだろう。僕はうれしいよ。魔がそろいもそろって雑魚どもの集まりだったら、僕が英雄になる意味なんてないんだ。少なくてもいい、少なくてもいいから強大な敵が存在すれば、僕は英雄として名を残せる。僕は今日という日を忘れないだろう。今日という日を覚えていれば、僕はまだ剣を振ることができる。
――ありがとう、名も知らぬ強大な魔。君の死は意味のある死となる。絶対に残してあげるから。僕の叙事詩で、君は生き続ける――
Episode23 飢え
魔から人間を救う『勇者』。そんな勇者として旅を続けるヴィレイ。彼が助けてきた人間は数えきれないほどで、いまや、ヴィレイは数々の村の人間から勇者様と崇められる存在となっていた。
しかし、そんな人間の救世主のような扱いであったとしても、ヴィレイの表情は曇っている。これも何かの運命か、勇者として旅に出て二年半を迎えようかとしているのにも関わらず、胸が熱くなるような強敵に出会えていない。ヴィレイは強大な魔に飢えて飢えてたまらないのだ。
そんなヴィレイは『イーメント』という村に足を運ぶ。ここは世界が誇る情報都市で、数多くの情報屋が集まる。正直、人から情報を手にするのは嫌いなヴィレイであるが、もうそんなことは言っていられない。私情を捨てて、情報屋から情報を入手しにきたのだ。
「あの行方知らずだった銀狼を目撃したって噂が流れてるらしいぜ」
「この世界に亡霊が出てるって噂だぜ。信頼性はないけどな」
歩く場所歩く場所、いろいろな情報が飛び交っている。これほど異質な村もないだろう。
「こんな雑音の中で生活してたら耳が壊れちゃうよ。早く何かいい情報を聞いてしまおう」
あきれたような表情で、パッと見て信用できそうな、つまり直感で情報屋を探すヴィレイ。そして、しばらくして信用できそうな情報屋を見つける。
「ちょっとすまない」
情報屋に声をかけるヴィレイ。しかし、声をかけた情報屋はなにやら驚いている様子。
「どうしたんだい? 客が訪ねているんだ。『はいなんですか?』と答えるのがマナーじゃないかな?」
もっともな疑問を投げかけるヴィレイ。そう言った直後、情報屋が口を開く。
「ゆ……勇者様がこの村に!」
その瞬間、近くにいたほとんどの情報屋がヴィレイの方を向く。
「勇者様がこの村にだと! しまった……多くの情報に気を取られすぎて目の前の宝石を見落としていた!」
「……。これはまずいな。僕はあまりこういうのは趣味じゃない。行くぞ!」
声をかけた情報屋の手を取り、逃げ出すヴィレイ。人間に注目を浴びて逃げ出す勇者。少し新しいのではないだろうか。
「はぁ……。ねえ、僕はお前を信頼して声をかけたんだ。なのにこの仕打ちはなに? 僕にここまでさせといてお代を取るとか言わないよね?」
なんとか、追いかけてくる数々の情報屋たちの魔の手を避けたヴィレイ。細かなイライラがおさまらないヴィレイは、情報屋に理不尽な脅しをかける。
「め……滅相もございません。勇者様からお代を取ろうだなんてバチ当たりもいいところですよ。私が知っている情報であるならばなんでもお教えいたします」
その言葉にヴィレイの気も少しおさまる。当然、これで何の情報も得られなかったらまた怒るのであろうが。
「いい心掛けだよ。じゃあ、遠慮なく聞くよ。何か強大な魔を知らないかな。勇者らしくないかもしれないけど、少し戦闘に飢えていてね」
「さすが勇者様。われわれ人間のために、少しでも強大な魔を裁いてくださるというわけですね」
「ふふっ。そんな都合のいいものでもないけど、君たちにとってはそれの方が印象がいいだろうから、そういうことにしておくよ。それで、何か情報はないのかい?」
情報屋の都合のいい解釈に驚きながらも、冷静に話を進めるヴィレイ。それに対し、情報屋は自信満々に答える。
「これでも情報屋ですよ。任せてください」
「過度な期待はせずに期待するよ」
情報があるということで、とりあえずホッとするヴィレイ。
「そうですねえ。勇者様は獅子王という魔をお知りになられておりますか?」
「獅子王? 知らないな。その魔は強いのかい?」
「ええ。情報屋の中では魔王よりも強いのではないかと噂されているくらいです」
「なのに魔王ではないんだね」
「詳しくは分かりませんが、人間だってグラン王が一番強いわけではないでしょう?」
「ふふっ。うまいこと言うじゃないか。それで、その獅子王の所在は?」
「それは分かりません。ですが……」
「貴様! この勇者ヴィレイをなめているのかい?」
まさかの肩透かしに、思わず剣を抜きそうになるヴィレイ。これには情報屋も大慌て。
「落ち着いてください! まだ続きがあるんです」
「……続けろ」
サヤから手を離し、落ち着きを取り戻すヴィレイ。
「はい……。それに近い実力を持つ魔がおりまして。それも、その魔は獅子王とも親しい関係なようです。うまくいけば獅子王の所在にもつながるかと」
情報屋の言葉を聞き、不敵な笑みを漏らす。
「それは興味深いね。当然、その魔の所在は分かっているんだろうね?」
「そこはご心配なく。その魔は『ポルッカ』という村の近くにある、『ポルッカ山』の頂上に生息しているとの情報が入っています」
自信満々にそう言う情報屋。きっと嘘はついていないのだろう。ヴィレイはそう確信する。
「ありがとう。とにかく『ポルッカ』へ向かえということだね。これは僕の気持ちだ」
「えっ、そんな! 勇者様からお代は受け取れません。それも、普段の倍ほどのお代を……」
「いいんだ。希望があってこその人生だからね。その希望をもらっておいてタダはひどい。まぁ、ひとつ不満を言うならば、それをだれかから手に入れてしまったことだ。でも、それは君のせいではない。だから気にせず受け取っておいてくれ」
笑みを浮かべながら、情報屋に羽振りよくお代を渡すヴィレイ。しかし、情報屋にはそれが笑みには見えなかった。
底が見えない飢え。そして、その飢えを満たすオモチャを手に入れたようなその眼に、情報屋はおびえを隠すことができなかった。
「ふふっ。じゃあもう僕は行くよ。その魔、強かったらいいな」
そう言い残し、おびえる情報屋に触れることなくその場を去った。ヴィレイにはもう、『ポルッカ山』の頂上に生息すると言われる魔の存在にしか意識がいかない。それに、もしその魔が弱いとしても、獅子王という魔王よりも強いと噂の魔の所在を聞き出せばいい。保険までついているとはなんとありがたい話なのだろう。
ヴィレイは期待を抱いて『ポルッカ』へと向かう。それは、勇者として人々を助けるためなどではない。自分の飢えを満たすために強大な敵と戦う。そのためにヴィレイは足を進める。




