これぞ心友の形なり
プロローグだけでは初陣には心細いので、初回だけ二話連続更新という形をとらせていただきます。
「いよいよねヴィレイ。勇者を勝ち取って凶悪な魔を滅ぼしなさい。そうなったら母さんどれだけうれしいか」
「分かってるよ母さん。僕は負けない。こういうきっかけがあると信じて、今日まで一日たりとも稽古をおこたらなかった。魔だって僕が一番裁いている。僕が勇者になれない道理はないよ」
やっとだ、やっとこの日が来た。僕はずっと英雄を夢見ていた。凶悪な人外を相手に、叙事詩の中で勇敢に活躍する英雄。かっこよかった、熱くなれた。でも、現実はそんなに甘くない。そんな英雄も敵も存在しない。いや、存在しないはずだった。存在しないから叙事詩が生まれ、人々に夢を与えた。でも、今は違う。勇者、すなわち英雄になれる場を与えられ、人外の敵、すなわち魔が存在する。僕の夢見た叙事詩が現実となったんだ。
僕はこんな時代に生まれたことを感謝する。僕を生んでくれた母さんに感謝する。『勇者』という称号を作った王に感謝する。僕の勇者としての踏み台となる雑魚どもに感謝する。そして、争ってくれた人間と魔に感謝する。
「行ってくるよ母さん。待ってて、次会うとき僕は勇者だ。僕はもうただのヴィレイじゃなく、勇者ヴィレイとして人々の英雄となる。そして、ただの叙事詩じゃなく、実記叙事詩として歴史に残り、夢を与える側の人間になるよ」
さぁ、まずは勇者にならなきゃ。いや、きっとなる運命なんだ。英雄に憧れ、武を磨いた。いつかこんな日がくるんじゃないかと信じて、僕は毎日武を磨き続けたんだ。そんな僕が勇者になれないはずがない。そして始まるんだ。もしかすると長い歴史の中で、叙事詩として語り継がれるかもしれない実記『勇者ヴィレイ』の伝説が……。
Episode2 心友
大きな世の中でも比較的山奥に存在する小さな村『ラモール』。その村は比較的小さな村ではあるが、豊かな自然に囲まれ、空気もきれい。裕福な生活さえ望まなければとてもいい環境であることは間違いなかった。
そんな村で暮らす青年アルゴ。王の魔王討伐宣言により『ラモール』も大きなざわつきを見せている。そして、そんな『勇者』の称号を賭けた格闘大会へ出場する村人の代表を、アルゴにしようと村が動いているのだ。
「お願いだよアルゴ。おめえみたいな身寄りのない子どもをここまで育ててあげようなんて村はここくらいしかないんだぞ? 恩返しと思って大会に出てくれよ」
「……」
村人は必死だった。それもそうだ。こんな山奥にある村、知名度もないし観光客もほとんどこない。村人は一日一日生きていくのに精一杯。しかし、そんなときにこんなチャンスが訪れた。もしもこの村から勇者が生まれたとしたら、間違いなくこの村は観光客であふれかえり、栄えるだろう。そうなれば村としては大盛り上がり。そして、その可能性がこのアルゴという青年にはあった。
「なんか答えてくれよアルゴ。オラは知ってるぞ。おめえには小さいころ師匠がいて、剣術を学んだんだろ? それに、師匠が居なくなった今も、毎日欠かさず修行してるそうじゃないか」
先ほどまでだんまりを決め込んでいたアルゴ。しかし、『師匠』というフレーズが聞こえるとともに、明らかに嫌悪感あふれる顔で村人をにらんだ。
「お前のようなやつが軽々しく師匠の名を口にするな」
怒りのこもった言葉を村人にぶつける。
「えっ……いや」
そして、ひるんだ村人に対し、さらに畳み掛けた。
「俺はそんな馬鹿馬鹿しい大会などにでるつもりはない。他を当たるんだな」
しばらく険悪なムードが流れる。正直、こんな性格のアルゴだから、村人はあまり関わりたくないのだ。しかし、こんな一発逆転の宣言があったのだから、実力のあるアルゴに頼まないわけにはいかない。意を決して頼みに来た村人であるが、結局こうなってしまったとため息をついた。だが、そんなときである。
「はいはい落ち着いてお二人さん。そんないつもいつも険悪なムードで何が楽しいんですかって感じよねほんとに」
一体どこに潜んでいたのか。いつもこういう空気になると現れる一人の男。アルゴの唯一の友人であるフーレンである。
「いいところに来たフーレン。おめえもアルゴに頼んでくれねえか。オラはアルゴなら勇者になれると確信してるんだ」
村人は、フーレンにもアルゴ説得の応援を頼む。
「まぁまぁ、ここはひとつ二人きりにさせてくださいな。身寄りのない者同士、師匠に育てられてきた者同士、俺も含めてあんたとは壁がある」
調子良く、しかしさりげなく重たい言葉をはいて、村人の返事も聞かずにその場を去る。いつもお調子者のフーレンであるが、正直村人たちとは気が合わない。アルゴの唯一の友人がフーレンであるように、フーレンの唯一の友人もアルゴなのだ。
村から少し離れたところまで移動する二人。ここならだれかに話を聞かれるとかそういう心配はない。しかも、こんな空気のきれいな森の中で気配がしたらすぐに分かる。気配を消せる達人であっても消しきれない空間であろう。そんな空間だからこそ二人は心置きなく話すことが出来る。いうなれば二人の秘密基地。そんな秘密の空間で二人は語り合う。
「あいつらも薄情なもんだよな。いつもお前を忌み嫌う癖に、こんなときだけ調子良くお願いなんてよ。しかも、みんなお前ばっかで俺は眼中にねえみたいだし。俺だったら快く出てやろうじゃないかとなるのに」
「なぜ出ようと思うんだ?」
怒り口調で話しだすフーレン。二人の会話はいつもこうだ。フーレンが一方的に話しかけ、口数少なくアルゴが答える。
「だってよぉ、勇者だぜ。人々から称賛を浴びる英雄だぜ。めちゃくちゃかっこいいじゃねえかよぉ!! ……なーんて言えたらお前の友達にはなれてねえわな。正直、勇者なんてどうでもいいんだ。でも、俺は師匠が馬鹿にされるのがとてつもなく嫌なんだよ。師匠はあんな馬鹿げた運命に巻き込まれるような……すまん。とにかく俺は、優しい武に生きた師匠の生きざまを証明したい。ただそれだけだ」
真面目にそう語るフーレン。いつもはお調子者のフーレンではあるが、それは多少無理をした姿。幼いころに親を亡くし、人間の汚さを知っているフーレンは心の底からお調子者ではない。
「その気持ちはとてもよく分かる。しかし、こんな馬鹿げた大会にでることが証明になるか? 俺はそうは思わない。それに、あの腐った王が開催する大会だ。なおさら出る気が起こらないな」
気持ちは分かるといいながらも、真正面から否定するアルゴ。これにはフーレンも悩み顔になる。
「腐った王か……。分かってる、あいつは腐りきってるよ。あいつが王だなんて、人間をまとめてるなんて思いたくねえ。ん? ちょっと待てよ。別にあいつの……。おぉ! フーレン様名案を思いついてしまった! ちょっと聞きたまえアルゴ君!」
急にテンションの上がるフーレン。困惑の顔を浮かべるアルゴであるが、そんなものはお構いなし。そのテンションのままアルゴに何か説明を始めた。
高いテンションを保ったまま長々と説明を続けるフーレン。初めはめんどくさそうに話を聞いていたアルゴだが、説明を聞くうちにだんだんと真剣に話を聞くようになっていた。フーレンにしては聞ける話ではないか。そういう心境になるアルゴ。だからこそアルゴは、ひとつフーレンの話に疑問を持った。
「少し口を挟ませてもらうぞ。ひとつ疑問に思ったのだが、それは俺である必要はあるのか? 別にお前であっても問題ない話だろう」
そんなアルゴの疑問に対し、フーレンは威張るように答える。
「無理だ! 俺じゃ勝ち抜けねえ!」
明らかに威張るようなことではない。それにさっき、村人に自分が頼まれたら、師匠の生きざまを証明するために快く出てやるぜとか言っていたではないか。そんな言葉を返したくなったアルゴであるが、そこはグッと我慢する。威張っているものは仕方がないのだ。
「お前が勝てない? さすがにその冗談はつまらんぞ」
ここは冷静になって真面目に返すアルゴ。
「冗談じゃねえよ。そうか、疎いもんなお前。知らないのも無理ないか……」
やれやれと言った表情をするフーレン。そんなフーレンに、アルゴは少しイラッとする。
「まぁ、そういう顔せず聞けよ。『ストロッグ』ってくそでけえ村によ、ヴィレイって男がいるんだ。結構有名だぜ? でけえ村の中でも一番強く、数年前に、俺らよりもでけえ魔を斬り殺したなんて話もある。正直、悔しい話だが勝てる見込みがねえ……。でも、俺はお前ならいけると信じてる。他のだれよりもお前の強さは俺が知ってる」
さっきまでのテンションはどこへやら。いちいち感情の起伏が激しい男である。しかし、どうやら勝てないと感じているのは事実らしい。ヴィレイの話をするフーレンはどこか悲しそうな瞳をしていた。それに気付かないアルゴではない。
「……。分かった、俺が出よう。だが、ひとつだけ訂正させてくれ」
そう言うと、フーレンの肩に手を乗せ、また話し始める。
「きっとフーレンが出ても負けなどしない。武を殺めるために使うようなやつには絶対にな。だが、友であるお前の推薦だ。お前の話に乗っかろう」
不器用ながらも、ニヤッとほほ笑みながらフーレンに言葉をかけるアルゴ。そんなアルゴの言葉に気を良くしたフーレンは、器用にニコッとほほ笑んだ。
「さすがアルゴ、俺の心友だぜ」
「当たり前だ。ここではお前以外に心を開ける者を見つけることはできそうもない」
「へへっ。じゃあ、今日もやりますか。まずは素振りからだぜ!」
それ以降、二人は多くを語らず修行に打ち込んだ。そして、少々の時が過ぎ、大会当日。『ラモール』代表として出場するアルゴの姿があった。




