戦いの後もいつも波乱で
「説明してもらおうか獅子王。お前がいながらコング兄弟は負傷した。挙句の果てには混血を連れてくることができなかっただと……? 見たところ、お前が負けたということはあるまい」
「言い訳するつもりはありません。私が見逃したのは事実。私をどう処分しても構いませぬ。しかし、コング兄弟に罪はありません。どうか、彼らに処分を与えないでやってはくださいませんか?」
「コング兄弟は治療が済み次第牢獄謹慎だ。そして、その実力を持ちながら今まで尽くしてくれているお前だ。我はお前に処分などくだすつもりはない……。ただ、もう時間がない。混血は諦めて準備にかかる」
「なっ! ミク……混血抜きで取りかかろうというのですか?」
「……。お前の勝手な判断によって、魔族の進行はどうなるか見当もつかんようになった。お前に処分などくださんが、そのことだけは心に背負って生きるがいい」
「……。申し訳ありませんでした」
「もうよい。では、我はしばらく魔王の間を留守にする。我が帰ってくるまで魔王代理として魔族を頼んだぞ」
「かしこまりました。重罪を背負う私が言うのもおかしいとは思いますが、魔王様、どうかお気を付けて」
「あぁ」
まさか、それほどまでに進行しているとは思いもしなかった。私は魔族として魔王様に仕える身。なのにも関わらず大きな罪を犯してしまったな。これでは正常にことが進むかどうか……。いや、悔やんでも仕方がない。私は魔王様の帰還まで、代理魔王として魔族をまとめる。それが私に与えられた使命だ。
どうして私はミクスを逃がしたりしたのだろう。別に私は人間の味方ではない。なのにどうして……。なんて思ってみても、答えはすでにでているか。まさか、ミクスとともに行動しているのが、話に聞いていたアルゴという剣士だとは思いもしなかった。
本当に聞いていた通りの男だったな。私は、何度あの剣士の心を折ったと判断しただろう。だが、あの剣士は諦めず私に立ち向かってきた。それも、最後は剣と心との共鳴。真の意味での精神統一ときたものだ。私だって、剣士としての本能に流されてしまう。これは、自分勝手な言い訳でしかないがな。
人間と魔族か。今は争っているが、いつの日か必ず手を取り合って生きることができると信じている。だが、そうなってほしくない思いがあるのも事実。きっと、魔王様は人間と和解をすることはないだろう。あんなことがあったのだ、人間を恨むのも仕方がない。
だが、もしもその狭間に立ったとき、私はどうするのだろうか。人間とともに生きるために魔王様に剣を向けるか、魔王様のために人間に剣を向けるか、今の中途半端な気持ちではどちらも選べそうもない。ふっ、こんなことでは私も名折れだな。お主も……そう思うであろう……?
Episode19 敵は去り
ボロボロのアルゴを村へ運ぶミクス。ミクスも、外傷こそないものの、魔法と体術の過度の使用により気を失いかけている危険な状態。しかし、アルゴはそれの比ではない。剣の傷はないものの、幾度も受けた峰打ちにより、打撲どころか何本も骨が折れているのではないだろうかとまで思ってしまう。さらには、そんな状態の中での剣術の使用。もう動ける状態ではない。そんなアルゴを引きずるように村へ運んだ。
「そ、そちらの方は魔にやられたのかい!?」
先ほどまで魔族が攻め入っていた『レーベ』。それもあってか、『レーベ』に入ってすぐ、駆け寄るように村人がミクスに話しかけてきた。
「そうや。でも、もう心配ないで。魔族は引き返していったから」
「そ……そうなのですか! もしや、あなた方が追い返してくれたので?」
「そうや。別に追い返そう思っとったわけやないけど、それがこの結果」
「あ……ありがとうございます! あなた方のおかげで、この村は救われました!」
「お礼なんてええよ。ただ、ひとつだけ覚えとってほしいんや……あんたら、ずっと逃げとったんやろ?」
「あっ……いや」
「同じ人間がボロボロになってまで戦っとったときに、あんたらは逃げとったんや。それだけはちゃんと覚えとき」
「……すみません」
「それだけや……」
そう言葉を交わすと、アルゴを引きずりながら、村の病院へと進み始めるミクス。しかし、先ほどの村人もいろいろと責任を感じたのか、ミクスにお礼を言い直すと病院まで案内してくれた。
そして、こんな山奥にある小さな村だ。魔を追い払った青年と少女の存在は瞬く間に広がり、とてつもなく厚い歓迎をされることとなる。さらには、無料で治療を受けさせてもらい、宿も無料で貸してくれることにまでなった。この待遇には、人間の暖かみというものを感じたミクス。先ほどの村人に対する暴言を恥じる。村人も逃げていたからといって情がないわけではないのだ。
病院に入院してしばらく、ゆっくりと目を覚ますアルゴ。まだ状況を把握できていないようだ。
「ここは……いったいどうなっている」
ゆっくりと体を起こすアルゴ。
「ぐっ……!」
しかし、体を起こしたことにより発生した激痛により、また体を寝かせる。
「やっと起きよった! まだ体起こしたらアカンで。重傷やねんから」
アルゴが目を覚まして、ホッとしたようで心配そうな表情を浮かべるミクス。どうやら、アルゴがベッドで寝てから起きるまで、ずっと側にいたようだ。
「無事だったんだなミクス。よかった」
痛みによる苦痛の表情を浮かべながらも、ホッとしたような頬の緩みを見せる。
「おかげさまやで。ホンマにおおきに」
そんなアルゴに対し、にっこりとした笑顔で答える。
「魔とは遭遇しなかったのか? そして……獅子王はどうした?」
どうやら、アルゴはミクスが助けに来たのも覚えていないらしい。それも踏まえたうえで、アルゴの教えのおかげでコング兄弟を倒すことができたことから、獅子王が情けをかけるように去っていったところまでのすべてを説明した。だが、やはり話したくなかったのか、家族と獅子王の関係については話さなかった。
「そうか……。そんなことがあったんだな。だが、獅子王という魔はつかめない。目的が見えてこないというべきか」
「そう? うちはあれほど嫌いな魔族はおらんわ。うちの家族を奪った魔族や、悪い魔族に決まっとる」
思わず口に出してしまい、しまったという顔を見せるミクス。
「うちの家族を奪った……まさか獅子王が?」
「そうや」
その事実にアルゴは驚きを隠せない。だが、ミクスはそれ以上は言いたくない様子。それを察したアルゴは、それ以上深く追及することはなかった。
この日はそれ以上会話がなく終わった。ミクスも、一年ぶりの憎き魔族との再会に気が気でないだろうし、アルゴだって傷の痛みがひどい。どちらも空気を読んでその場を後にしたのだ。だが、気まずい空気は時間と思考が和らげてくれる。まずはアルゴの体の回復が一番。そういう結論に至ったミクスは、次の日には明るく話しかけた。無理をしていると察したアルゴは、そんなミクスに感謝しながら、獅子王のことに触れることなく言葉を返した。
そして、二人はアルゴの体が回復するまで『レーベ』にとどまり、アルゴは安静、ミクスは魔法と体術の修行を重点に置き日々を過ごした。
あれから一か月の時が流れた。アルゴの体はようやく回復し、旅に出ることのできる状態となった。とても喜ばしい日である。
「行くかミクス」
「せやね。ホンマこの村にはお世話なったわ。おおきにな!」
元気よく村人に頭を下げるミクス。村人も二人に感謝しながらお別れの言葉を告げてくれる。修行をしていた三か月よりも、今のこの一か月の方が村人との仲が深まったというのも不思議な話だ。
「どこに行くか決まってるん?」
ミクスの素朴な疑問。それに対し、アルゴは首を横に振る。
「えっ! ほんならいつも行き当たりばったりやったん!?」
驚くミクス。
「あぁ。何か大きな情報がない限りはな」
アルゴのこの言葉に、村人の一人が反応する。どうやら、『レーベ』の情報屋らしい。
「すみません。お役にたてるかはわかりませんが、ひとつ、こんな小さな村の情報屋の私でもつかめた情報がありますよ。確か、アルゴさんは魔を研究しているとか?」
「そんなたいそうなものではないが、間違ってはいない」
研究という言葉に少し照れるアルゴ。
「じゃあ、お役に立てるかもしれませんね。アルゴさんたちには世話になっているのでタダでお教えしますよ。実はですね……」
「……なっ!」
情報を伝えた情報屋の胸倉をつかみながら驚きの声を上げるアルゴ。
「それは本当か!?」
それも、いつもは見せないような焦りを見せながらである。
「ちょっ、ちょっとアルゴさん。落ち着いてください!」
「すっ、すまない……」
情報屋の一言で冷静さを取り戻し、手を離すアルゴ。
「……。間違いないでしょう。これは私の情報屋としての人生を賭けて言えます」
「……。ありがとう、感謝する。ミクス、行く場所は決まった。いくぞ!」
「あっ、ちょっと待ってえなアルゴ!」
駆けるように進みだすアルゴに、焦りながらついていくミクス。
「ホンマにおおきになぁ! 絶対また来るさかい、元気にしとってや!!」
走りながら村人にお礼を言い、その場を後にする。
こうして二人の旅が始まった。偶然にも出会った、剣士と魔法使い。ともに旅をすることに決めた二人は、一体これからどんな人生を歩むことになるのだろうか……。




