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戦いの勝者はいつもひとり

「いいですか。武とは、まず自分自身を磨かなくては話になりません。武を磨くということは力を得るということ。力を得るということは生きる幅が広がるということです。しかし、それはいいことばかりではない。生きる幅が広がるということは、間違ったことも幅広くできてしまうということです。ですので、武を磨くということは力を得ることだけではなく、自分と世界を客観的に見る見極めが必要です。分かりましたか?」

「師匠。質問です!」

「なんでしょうフーレン」

「話が難しくてわかりません!」

「あらあら、それは困りました。確かにあなたたちにはまだ難しいかもしれませんね。なら、心の片隅にでも置いておいてください。今はそれだけで十分です。アルゴは何か聞きたいことはないですか?」

「……。もしもこの先、俺とフーレンが間違ったことをしてしまった。そうなったら師匠はどうする?」

「そのときは、私が責任を持ってあなたたちを斬りましょう。武を志すことでしか自分を表現できない私には、それくらいしか思いつきません。それとは逆に、あなたたちが危険にさらされたときも、私は剣を握るでしょう。そのときは私を見捨ててお逃げなさい」

 間違ったこと……だれにでもその人の正義と悪がある。一概には間違いなんて分からないでしょう。だけど、私はきっと握ってしまう。この子たちが私にとっての間違いを犯したとき、間違いに巻き込まれたとき、そのときはきっと握ってしまう。

 剣士というものも困ったものだ。優しい武を志していても、本当の意味で優しい武なんてものは作り上げることはできない。どこまで理想に近づけるか。それが、私の武……。

 短いようで長いこの人生。いつかそういうときもきてしまうのかもしれませんね。そのとき、私はこの子たちの下を離れなければならない。アルゴ、フーレン、こんな頼りない師匠ですみません。この先、あなたたちに寂しい思いをさせてしまうかもしれないと思うと……。

 いけない。何も起こっていないのにこんなことを考えてしまうのは私の悪い癖ですね。だけど、本当にそうなってしまったそのときは……頼みます。


            Episode17  小さな魔法使い


 ミクスとコング兄弟の戦い。タンカは切ったものの、上級魔族二人との戦いは難しい。なので、まずは距離を取って策を考える。距離を取れるという意味では、魔法使いにとってコング兄弟は戦いやすい相手ではある。

「簡単にいかねえとは言っていたが、そりゃ簡単にはいかねえわな。なぁ、ウータン」

「そうだなオラン兄ちゃん。逃げられちゃ俺たちも簡単に仕留められなんてしねえよな」

 距離を取るミクスを見て、高笑いしながらそう言うコング兄弟。自分たちにスピードが足りないことが分かっているので、ミクスを無理には追わない。しかし、逃げ切られるわけにはいかないので、ある程度の間は詰めている。

「メージャンフレイム!」

 そのおかげで上級魔法を放つことも容易。力押しで攻めると言わんばかりの真っ向勝負を仕掛ける。しかし、そんなメージャンフレイムを避けずに真っ向から受け止めるオラン。

「おいおい。いくら俺がお前の不意打ち魔法にやられたからってよ。これはいくらなんでも勘違いが過ぎるぜ!」

 なんと、受け止めた魔法の威力を力ずくで消してしまった。どうやら、真っ向から魔法を撃っても効き目はないようだ。

「そんな簡単にいくわけあらへんよなぁ……」

 早々に真っ向勝負を諦める。コング兄弟には、スピードがないぶん屈強な攻撃力と防御力がある。接近戦で勝てるとは考えずらい。ということは、隙を作る方法が思いつかない限りは、ダメージすら与えられないということだ。

 頭を悩ませ、考える。これだけ考えられるのも相手がコング兄弟だからこそ。しかし、ずっと待ち続けるほどコング兄弟もやわではない。

「そろそろ行くかウータン」

「OK。オラン兄ちゃん」

 なんと、突如ウータンがオランをジャイアントスイングのような形で振り回し始めた。その勢いで、オランをミクスの方向へぶん投げる。

「なっ、なんやねん!」

 飛んできたオランを軽い身のこなしでかわすミクス。しかし、これこそがコング兄弟の狙い。

「捉えたぜ」

 投げられたオランは、ちょうどミクスがかわした直後に地へ落ちる。

「そんなん荒っぽすぎるやろ!」

「うっせえ。なんとでも言え」

 無理やりではあるが、オランがミクスの至近距離まで間を詰めた。距離を取ろうにも、反対側からはウータンが逃げ道をふさぐように詰めてきている。簡易的ではあるが挟まれた状態だ。

「さぁ、俺が望みに望んだ接近戦……やろうか」

 ミクスに攻め入るオラン。

「……上等や!」

 そんなオランの攻撃を軽い身のこなしでかわしながら、小手先のカウンターで反撃する。

「なんだ、体術もできたのか。だが、攻撃が軽すぎて痛くもかゆくもねえ!」

「うっさいわ。チリも積もれば山となる!」

 コング兄弟相手に、体術はまったく効き目がない。しかし、カウンターを止めないミクス。三か月修行した意地というものがあるのだろう。だが、それも無力に終わり、ウータンも接近戦に加わる。

「一人ならばかわせるだろう俺らの攻撃」

「しかし、二人ならばかわせまい」

『これぞ、兄弟の絆よ!!』

 アルゴに言った時とまったく同じ言葉を発するコング兄弟。やはりこの言葉は決め台詞なのだろう。

 だが、兄弟の絆というだけあってコンビネーションは完璧。小回りが利くミクスもかわすのがつらくなってくる。

(厄介やなぁホンマにもぉ……。こうなったら一か八かこっちも強行作戦や)

 ミクスがとった行動は魔法の取り込み。攻撃をかわしながらの魔法の取り込みは神経を大きくすり減らす。しかし、そんなことは言っていられない。一か八かで魔法を取り込む。

 魔法を取り込み、ミクスの左手に薄い緑色の球体が現れる。そして、その球体に親への愛をブレンド。立派な緑色の球体となる。

「ウィンド!!」

 ウィンドの魔法がコング兄弟を襲う。

「魔法は効かねえって! なにっ!?」

「風が!」

「どうやら成功見たいやな」

 この魔法をかわされたら、ミクスには打つ手がなかった。しかし、コング兄弟は受け止めてくれたのだ。考えてみれば、コング兄弟はミクスが放つ魔法のすべてをかわすことはなかった。コング兄弟は自分たちの防御力に絶対の自信を持つ。だからこそ、不意打ちでさえなければかわす必要などないという考え。この戦いは、そこに隙があるとミクスは考えた。

「いける……いけるでこれ……」

 ウィンドによって吹き飛ぶコング兄弟を見て、ミクスは一筋の希望を見いだした。考えた後は実行するのみ。コング兄弟の行動をよく観察する。

「どんなからくりかしらねえがなめやがって……。おいウータン。今の混血の状態で、俺らから逃げられると思うか?」

「いや、思わねえよオラン兄ちゃん。だって、息切らしてたぜ。逃げる体力はねえだろうよ」

「いい洞察力だウータン。もう待ってやらねえ。一気に詰めるぞ」

「おぅ!」

 特攻のような形で全力で間合いを詰めてくるコング兄弟。それに対し、ミクスは大きな黄色の球体を練り上げていた。

 そんなこともお構いなしに接近戦の間合いへ入るコング兄弟。

「また魔法か。でもよぉ、いくら吹き飛ばしても俺らを倒せはしねえ!」

「そう、俺らは誇り高きコング兄弟。なめんじゃねえぞ!」

(まだ、まだや。ここで撃ってもまだ当たるか分からん。撃つなら最高のタイミング。そうや、カウンターや。アルゴに教えてもろうたカウンターや)


 ミクスは三か月の間、自らの魔法の強化。そして、アルゴに体術を習っていた。だが、その小さな体で相手に大きなダメージを与えるのは難しい。しかし、ミクスには小さいからこその小回りがある。軽い身のこなしで相手の攻撃をいなし、隙を作らせることができる。

「そうじゃない。ただ攻撃をかわしていても、隙を作らせることなどできん」

「どゆこと? かわしてスパーンやないん?」

「原理はそうだが、かわすにもかわし方がある。これは実戦で感覚をつかんだ方が早いな。ミクス、俺の攻撃をかわしてカウンターしてみろ」

「ええよ! 気絶しても知らんで!」

 アルゴの体術をかわすミクス。小回りが利くミクスにとって、アルゴの体術はかわせないものではない。しかし、不思議だ。いくらかわしても、そこから自分が攻撃に移るチャンスが見当たらない。結局、アルゴが体術を中断するそのときまで攻撃に移ることができなかった。

「なんでやーー! ちょっと大人げないんちゃうかアルゴ! あれやろ、隙のない体術の自慢やろ!」

 あまりにも攻撃に移れないことで、あらぬ言いがかりをつけるミクス。

 対して、そんなミクスに困りながらも声をかけるアルゴ。

「……隙のない体術などは存在しない。さぁ、次はミクスの番だ。ミクスが俺に攻撃してみろ。俺がそれにカウンターをする」

「知らんでー。うちは今憤怒しとるからなぁ。気絶しても知らんで!」

 何やら、さっきも聞いたようなセリフをはきながら攻撃を開始する。アルゴは体が大きい分小回りが利かない。しかし、うまく立ち回りながら器用に攻撃をかわす。

「なんや! アルゴもうちの隙のない見事な体術にカウンター……あれっ」

 ミクスは、何やら実体のない違和感に包まれた。明らかに優勢のはずなのに、この操られている感じはなんなのだろう。

 ミクスがそう思った時には、すでにアルゴの拳はミクスのあごの下にあった。

「今のが戦いだったらアッパーが決まっていたな」

「なんで? 明らかにうちが優勢やったやん!」

 不思議そうな顔でアルゴに聞くミクス。

「そう思わせるのがコツだ。カウンター狙いと悟られないようにかわしながらカウンターを狙う」

 原理を詳しく説明するアルゴ。

「まず、頭の中に狙いたいカウンターの決めを思い浮かべる。別にどれだけ遠回りしても構わない、基本はそこに向かうようにかわしていく。自然にその決めまで持っていければ、あとは狙うだけだ」

「原理だけ聞いたら簡単やなぁ」

 そんなミクスの疑問に対し、首を横に振るアルゴ。

「簡単なように見えるが難しい作業だ。しかし、これは魔法にも応用できるからミクスに適していると思ってな。ミクスにはこれを覚えてもらう」


 ――分かっとるよ。アルゴ、うちは出来た弟子やろ? うち、ちゃんとアルゴの教え覚えとるんやから――


 魔法の取り込みはすでに完了している。だが、まだ撃たない。ちなみに、魔法は保つだけでも神経を大きくすり減らす。それも上級魔法となるとなおさら。さらには、コング兄弟の攻撃をかわす体力消費も加算される。ダメージを負わずとも体力は奪われ続けるというわけだ。

 しかし、ミクスはかわし続ける。自分が思い描いたカウンターヴィジョンと重なるように、誘導するように攻撃をかわす。

「どうした魔法使い。その魔法は撃たないのか!? 飾りかよ!」

 攻撃を続けるコング兄弟。そんなことを繰り返すのちに、コング兄弟に最大のチャンスが訪れる。

「きゃっ!」

 なんと、ミクスの体がかわすことに耐え切れず、尻餅をつくように転んだのだ。これにより、もう攻撃をかわすことはできない。コング兄弟がミクスを追い詰めた形だ。

「こいつは年貢の納め時だな魔法使い」

「そうだなオラン兄ちゃん。魔法を無駄にしておとなしく捕まれや!」

 ミクスを捉えたコング兄弟は、ミクスを気絶させようと拳を振りかぶる。しかし、ミクスは怖がるどころかニヤリと笑う。

「ここや。ここをうちは待っとったんや。あんたらがどんだけうちをなめとるか知らんけど、なめすぎは命取りやで……。ホンマ、笑けてくるわ!」

 今までずっと左手に維持していた大きな黄色の球体をコング兄弟に向けて撃つ。

「ライトニング!!」

 放たれた黄色の球体は、かわされることなくコング兄弟に命中する。しかし……。

「おいおい! 効かねえぞ魔法使い! お前の魔法はしょせんその程度か」

「当たり前だぜオラン兄ちゃん!」

 余裕を見せるコング兄弟。しかし、ウータンがある異変に気付く。

「おい、オラン兄ちゃん……動けるか?」

「……! 動けねえ! どういうことだこれは」

 思わぬ事態に慌てるコング兄弟。そんなコング兄弟の慌てように、息を切らしながら冷ややかな笑みを漏らすミクス。

「フレイム食ろうても燃えへん体や、きっとアイスでも凍らんねやろ。あんたらの表面はすごいわ。でも、神経はどうやろな? あんたらが神経まで鉄壁やったら無理やった。でも、そんなことはなかったみたいやね」

 ミクスは、また左手に魔法を取り込む。正直、魔法を取り込むだけでも意識がかすむ。しかし、ライトニングといえどコング兄弟相手にどこまで持つか分からない。だから、ミクスはまた魔法を取り込む。この一撃でこの戦いを終わらせるために、最後の魔法を取り込む。

 左手に浮かび上がるは大きな黄土色の球体。それは、コング兄弟も一度見たことのある単純な物理魔法。そんな単純な物理魔法を最後の魔法に選ぶ。

「グランドアース!!」

「……!!」

 大きな黄土色の球体が、しびれて無防備なコング兄弟にぶち当たる。それは、単純な威力ならばメージャンフレイムよりも強力な魔法。そんな魔法をもろに受けたのだ。さすがのコング兄弟もこれには耐えられるはずもなく、地に沈み、意識を失った。

 この瞬間、体の力のすべてが抜け、地に膝をつきながら息を切らすミクス。まさに勝利の実感というやつだ。

「やったった……。うち、やったったで!」

 そのまま気持ちのいい草原に寝転がる。しかし、大事なことを思い出しバッと起き上がる。

「しもうた! アルゴやん、アルゴどこ行ってん!」

 勝利の誘惑を振り払い、現状を理解しなおした。そして、また考える。

「もしかしたらコング兄弟以外にも魔族が襲ってきたかもしれん。それに巻き込まれてる可能性も十分にあるな。おそらく村にはおらんやろ……ということは村の外や。よっしゃ、うちはまだまだ無理するで」

 少ない神経をすり減らし、サーチでアルゴを探すミクス。すると、近くの森で大きな気配を二つ発見する。

「これや! 今行くでアルゴ!!」

 疲れもとらぬまま駆け出す。ミクスは、一刻も早くアルゴの無事を確認したかった。コング兄弟レベルの魔族が動いている以上、アルゴなら大丈夫という気にもなっていられないのだ。


「……」

「いい剣技だ。久しぶりに戦いが楽しく感じているよ」

 ミクスが駆け出したちょうど同時刻。ミクスが向かうそこでは、アルゴの首根っこをつかみながらそう言う獅子王の姿があった。

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