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平凡な日々は彼らにとっては特別で

「魔王様。コング兄弟からの報告が入りました」

「うむ」

「単刀直入に言うと、どうやらあの混血はただの混血ではないようです。オランを一撃で気絶させるほどの魔法を扱うようですから」

「強力な魔法……か」

 我のほかに魔法を使う者か。コング兄弟に追わせていた混血、まだ小さな少女なようだがそれほどまでに……。いや、当たり前か。あいつらの娘だ、強いに決まっている。

 しかし、混血か。我が父もそうだが、どうしてあんな愚かな人間などとつながることができよう。人間など私利私欲でしか動けぬ愚図どもだ。先に仕掛けてきたのは愚かな人間だというのに……人間どもは、我ら誇り高き魔族から世界を守っているなどと抜かしている。人間はどんな状況でも自分たちを正当化しなければ気が済まない生物。そんな生物となぜつながることができる……。

 だが、我が母は人間だ。それも、認めたくはないが尊敬できる人間だ。これほど尊敬できる人間はこの世にいまい。だが、愚かな人間は奪った。汚い欲望のために我が母を……魔族を……。

 許せぬ。我は人間を許せぬ。世界がどうであれ、我ら魔族は人間を許さぬ。多くの人間は理不尽な苦しみに打ちひしがれているのだろう。理不尽な悲しみで地を濡らすのであろう。だが、それもすべてお前たちの欲望が引き起こしたことだ。我は人間を滅ぼすためならばどんなこともしよう。そのためにも……あの混血が必要だ。

「獅子王」

「はっ!」

「コング兄弟とともにお前も同行しろ。こちらとしても遊んでいる余裕はないからな」

「かしこまりました。必ずや混血を魔王様の下へお連れしましょう」

 今に見ておれ愚かな人間ども。貴様らが虐げている混血は貴様らの希望だ。しかし、愚かな人間どもはそうとも知らずに虐げるのであろう。その狭い価値観と汚い欲望に後悔することとなるのだ。我はその日が待ち遠しい。愚かな人間の滅亡を我が親にささげよう。我が親よ。さすれば少しは安らかに眠れるであろう?


               Episode15 平凡


 行動をともにすることとなったアルゴとミクス。ミクスはさっそく旅に出ようと促したが、アルゴはそれを断った。

 アルゴはもう一人旅ではない。ということは、何かに襲われたとき、この小さな少女を守りながら戦わなければいけないということだ。

 確かにミクスはオランを一撃で気絶させるほどの魔法を扱える。だが、どれだけ強いとしても実態は小さな少女。気楽に背を預けられると言われればそうではない。だからこそ今は修行をしたかった。幸いにも、『レーベ』という村は自然に囲まれており空気もきれい。それに、あの険しい森も修行にはもってこいなのだ。これほど修行に適した環境はない。

 そして、さらに理由がある。アルゴはミクスの魔法に興味があるのだ。正直、こういう種類の魔法があると口でいわれても実感がわかない。なので、修行という形で実際に使ってもらおうという試み。

 アルゴはミクスに修行を提案した。すると、ミクスも納得したのかアルゴとの修行の日々に応じる。正直なところ、ミクスはうれしかった。一年も逃げ続けていた少女だ。こうやって同じ村で修行をしながら日常を過ごす。ミクスにとって日常は幸せだった。生物が何気なく生きている日常も、ミクスにとっては特別な時間。


 そうと決まれば、さっそく舞台を険しい森へと移す。ここならだれにも邪魔されることなく修行ができることだろう。

「修行っていうても何するん!?」

 目を輝かしながらアルゴに問いかけるミクス。ミクスの父以外と修行をしたことがないので新鮮なのだ。

 そんなミクスに対し、淡々と説明を始めるアルゴ。

「そうだな。別に大したことはしないが、素振りや精神統一、型の稽古などをする。本当なら実戦形式の修行もあるのだが、あいにく相手がいなくてそれはできないな」

 そんなアルゴの言葉に、さらに目を輝かすミクス。ニマニマしながら自分のことを人差し指で指すミクス。

「おるやーん。この森にはうってつけの相手がおるやーん」

 わざとらしく、遠まわしに自分のことだと説明するミクス。しかし……。

「そうなのか? この森にはそれほどまでに強い生物がいるというのか?」

 真意はどうなのか。まったくもって、ミクスを実戦相手としては捉えていない。そんなアルゴに対し、ミクスは大きく頬を膨らます。

「いや、明らかにうちやろ。今の流れはうちやろ。アルゴってそんな天然ボケを装うキャラやったん?」

「いや、そういうわけではないが……。ミクスが相手になるのか?」

 半信半疑で言葉を返すアルゴ。この返しではミクスの怒りを増幅させるだけだ。

「……アイス」

 不意に魔法を放つミクス。

「なっ!」

 反射的にかわすアルゴ。いきなりだったからか驚いた顔をしている。

 アルゴにかわされたアイスは木にぶち当たる。そして、その木の当たった部分を見てみると見事に氷結していた。

「相手に……ならん?」

 ドスの効いた声で、アルゴを脅すように語りかけるミクス。これには反論などできない。

「いや……そんなことはない」

 すると、ミクスの機嫌が直り、またニコニコした顔となる。

「せやろー。これでも魔法使いやねんでうちは」

 自信満々にそう言うミクス。アルゴは、ここで疑問をぶつける場だと判断する。

「ミクスは一体どんな魔法を扱えるんだ?」

 アルゴが興味を持ってくれたのがうれしいのか、意気揚々と説明を始めるミクス。

「そういえば、そんな詳しく魔法の説明してなかったなぁ。ええ機会やしアルゴには説明したる!」

「それは助かる」

 機嫌が直り、魔法の話を聞ける。アルゴにとって、これほどホッと胸をなでおろす状況はなかった。

「まず、魔法を放つ順序から話すな。魔法を放てるというても、無限に放てるわけやない。魔法を使うには自然の力を取り込むための精神力。親への愛を具現化する意思力が必要やねん」

 そう言うと、左手を前に出すミクス。

「まずは自然の力を左手に取り込む。今回はウィンドにしとこか。フレイムは木が燃えてまうし、アイスは見せたしな」

 そう言うと、何やら集中しだすミクス。そして、左手に薄い緑色をした球体型の風が現れる。

「これが自然の力。魔法の元や。うちは球体型に取り込んどるけど、別にそうせなあかんわけやない。ここは魔法使いのセンスやな。でも、これだけじゃ威力はまったくないねん。一度アルゴに向けて放つから何もせず食らってみ」

「……あぁ」

 ミクスの左手から球体型の風が放たれる。その風はまっすぐにアルゴに向かって飛んでいき、アルゴに当たる。確かにミクスの言うとおり痛みはない。緩やかな風がアルゴに流れただけだ。

「本当に痛くないな」

「やろ。けど、これに親への愛をブレンドしたら、ちゃんと実戦でも使える魔法になんねん。ちょっとびっくりするかもしれへんけど食らってみる? ウィンド程度の魔法やったらそんな損傷ないと思うけど……」

 さっきは不意にアイスを放ったのに、今回はちゃんと了解をとるミクス。この行動だけでも機嫌がいいことが分かる。

「構わない。見るよりも食らう方が感覚に残るからな」

「分かった。じゃあいくで」

 さっきと同じ要領で球体型の風を作るミクス。そして、親への愛をその球体型の風にブレンド。すると、薄い緑色をした球体型の風が濃く染まる。

 これがブレンドした証なのであろう。素人目で見ても威力があることが分かる。

「ウィンド!」

 アルゴへ向けて放たれる球体型の風。アルゴの数メートル前からすでに風が感じられるほどの威力。いつもなら慌ててかわしているところだが、食らうと言った手前かわすことはできない。素直に球体型の風を食らう。

「うっ!」

 予想以上に鋭い風。このウィンドという魔法はただ単に痛みを与える魔法ではないのだろう。それを踏まえたうえでウィンドという魔法を選んだことが分かる。

 しかし、その風は強烈な突風のようで、アルゴはいともたやすく茂みに吹き飛ばされる。木には当てないように考慮したのだろう。茂みがクッションとなり痛みはなかった。

 しかし、相手との距離を取るには最適の魔法。魔法は攻撃魔法だけではないことを知った。

「大丈夫?」

 心配そうに駆けつけるミクス。やはり、自分が魔法を放った手前心配になったらしい。

「あぁ。驚いたが問題ない」

 アルゴが大丈夫というのを確認してホッと胸をなで下ろすミクス。

「無事で一安心や。話を戻して、これが魔法を放つ順序やな。後、話すことと言えば種類やね。とりあえず、うちが放てる魔法しか分からへんけど、うちは攻撃魔法にフレイム、アイス、サンダー、クレイ。補助魔法にウィンド、サーチを使えるんや」

「サーチ?」

 サンダーは雷。クレイは地のことのようだ。サンダーは受けると相手をしびれさせることができる。クレイは単純に物理攻撃系の魔法らしい。そして、サーチのことを聞く。

「これは前使ったで。コング兄弟が二分前に現れることが知れたのは、このサーチのおかげやねん」

 ここでアルゴの謎がひとつ解ける。つまり、サーチとは相手の気配を感じ取れる魔法。相手に気付かれないようにこちらは相手の動向を探れるというわけだ。この魔法は重宝するだろうとアルゴは思った。

「理解した。それは便利な魔法だな。さらにもうひとつ聞いてもいいか?」

「ええよ。いくらでも聞いて」

「ありがとう。オラン相手に放ったフレイムは、さっきのアイスやウィンドと同じ球体だったが、大きさは段違いだった。あれはどういうことなんだ?」

 アルゴの疑問は、オランを一撃で気絶させたフレイムに移る。アルゴはあの光景が頭から離れないのだ。あの大きな赤い球体は、さきほどのアイスやウィンドの非ではないほどの大きさだった。それが謎だったのである。

「簡単な話やで。あれは攻撃魔法の中の上級魔法や。取り込む時間かかるけど威力は普通のフレイムとは桁がちゃう」

 聞いてみれば簡単な話。どうやらあれはフレイムの進化系とでもいうものなのだろう。まだまだなのであろうが、魔法の基本的な部分は理解したアルゴ。次はこちらが要求に答える番である。

「ありがとう。よし、次は俺が付き合おう」

 そう言うと、剣を構える。構えは防御の構え。

「もしや……もしやもしやもしや! これは実戦ちゃいますか! アルゴさん。これは実戦やんな!?」

 うれしすぎて、わめき散らすように言葉を発するミクス。それを見たアルゴは、少し引き気味の笑顔を浮かべる。

「ミクスはどうしてそんなに実戦形式の修行がしたいんだ? 戦いが好きなのか?」

 素朴なアルゴの質問。そんな質問に対し、ミクスは首を横に振る。

「ちゃうねん。懐かしいんや。こうやっとると、おとうとおるときを思い出すねん。おとうにもこうやって修行してもろうとったなって思うたら、いやでも楽しくなってくるんよ」

 ミクスの純粋無垢な言葉に、自然とアルゴの気持ちが温かくなる。

「そうか。じゃあ修行を始めようかミクス」

「うん!」

 ミクスはどんなときでも家族のことを忘れない。そんなミクスの真っすぐな心に、アルゴの心は大きく動かされていた。

 自分が親代わりになれるなんて思っていない。だが、こうして相手になることで少しでもミクスの気持ちが安らぐのなら、少しでも長く、こうやってミクスの親代わりになっていたい。アルゴはそう思った。

 まだ出会ったばかりの二人。しかし、心の底からにじみ出たような柔らかな表情を浮かべる二人の姿は、だれがどう見ても親子そのものだった。アルゴにとってもミクスにとっても久しぶりの平凡な日常。しかし、多くの生物にとって平凡な光景だとしても、二人にはそんな平凡な光景が幸せだ。そんな平凡がいつまでも続けばいいのに……。二人は願う。

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