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魔法は思いとともに

「魔法……魔法ときたかい。大丈夫かオラン兄ちゃん……って、オラン兄ちゃんが気ぃ失ってやがる。まっ、燃えてないだけ幸いか」

 一撃か……。俺の剣でもびくともしなかったというのに、なんという威力だ。

「まっ、これでなんとか殺されずに済むな。それに、このまま戦っても分が悪いか」

 ウータンがオランを担いだ。どうやら引くようだな。しかし、ここで逃がすわけにはいかない……。

 だが、だめだ。どうしようにも体が動かない。旅に出るとはすごいものだ。こんな数年のうちに、味わったこともないような驚きと何度も出くわす。言語を話せずとも心が通じ合える魔の家族。人間の言語も扱える上級魔族。魔でできた初めての心友ラヴィ。混血の少女ミクス。そして……魔法。これだけ立て続けに驚くことがあると身がもたない。

「何しとるんアルゴ! しっかりしぃ!」

 ミクスの声が聞こえる。だが、今はそんなことを気にしている余裕はない。しっかりしないといけないのはわかっているが、こんなものを見せられてしっかりしていられるほど強くはない。

 師匠。いつだったかあなたの言葉を思い出す。あなたは俺に「いつか私の下を離れなさい」と言った。俺は子どもながらに嫌だ嫌だと反対したが、今、あなたの言っていた意味が分かった気がする。世界とは……俺が思っているより広く未知。そして、これだけ興味深いものだとは思いもしなかった。


               Episode14 魔法


 混血の少女の騒動から一日の時が流れた。コング兄弟は引き、二人も無事に『レーベ』に到着。しかし、アルゴがほぼ放心状態だったため、そうそうに宿を取り、一日の休息をとることとした。ちなみに、ミクスの左腕は村人にみられると魔族と間違われる恐れがあるので、いつもはまくってある長袖を伸ばして隠してある。

 アルゴの頭の中は驚きでいっぱいだった。正直、ミクスに聞きたいことはたくさんある。だが、それにはまず自分が落ち着かなければならない。必死で混乱する心を静めるアルゴ。そして、そんなところにミクスが現れる。それも、心配そうなのかニコニコしているのかよくわからない表情で。さらには風邪の定番、おかゆを持って。

「大丈夫? けどもう安心やで。気分が優れないときはおかゆがいいとおかぁから聞いとるからな! このミクスちゃんが腕を振るって作ったおかゆを食べて元気になってや」

 気分が優れないといっても風邪ではないのだが……。心でそうつぶやきながらも「ありがとう」とおかゆを受け取るアルゴ。少女といってもやはり女性。見た目は普通に美味しそうなおかゆ。何の警戒もなくおかゆを口に運ぶ。

「ふぐっ!?」

 だが、現実は甘くない。ラヴィの一撃を受けた時よりも苦しそうな顔を浮かべるアルゴ。

 見た目は普通に美味しそうなおかゆ。しかし、その味は何よりも強烈な一撃であった。いったいどうすればおかゆをこれだけの殺人凶器にできるのか。このときばかりは魔法のことを忘れて、おかゆに対して疑問を持った。だが、そんなことは考えていられない。そんなアルゴの顔を見たミクスが、泣きそうな表情でこちらを見ているのだ。これは非常にまずい。これで魔法を撃たれてしまってもまずいし泣かれてもまずい。アルゴは生まれて一番の苦笑いでミクスに語りかける。

「泣きそうな顔をしてどうした? とても美味しかったぞ?」

 なぜか疑問形で美味しかったと発言してしまう。アルゴは、ここぞとばかりにフーレンの作った料理を思い浮かべる。いつもフーレンの料理を食べていたからか気付かなかった。フーレンは料理がうまかったのだ。そういえば、どこで食べる料理よりもフーレンの作った料理の方が美味しかった。久しぶりにフーレンの偉大さをかみしめるアルゴ。

 そして、見え透いたうそで塗り固めたアルゴの言葉は、当然ミクスの心に響くはずはなく、荒々しくおかゆを取り上げられる。

「あっ……」

 これほど気まずそうな顔をしたアルゴは見たことがない。確実に主導権を握られている形だ。

「もうええわ……。美味しいやん、めっちゃ美味しいやん。おかぁもおとぅも美味しい言うて食べてくれとったもん。うちが下手なんちゃう。アルゴの舌がおかしいんや……。まずい言う人に食べてもらいたくなんかありませんわこっちとしても」

 完璧にいじけた様子のミクス。涙を浮かべながら自分の作ったおかゆをバクバク食べる。こんな小さな少女のどこに入るのだろう。というより舌はどうなっているのだろう。あっという間におかゆを食べ終える。

「あっ……あの」

「何?」

 申し訳ないと話そうとしたアルゴに対し、ものすごくドスの効いた返事をするミクス。これには何も言うことができない。

「言いたいことがあったらはっきり言いや。もう一回聞くで……何?」

 さっきまで身を案じてくれていたミクスはどこへやら。ラヴィと出会ったころ以上の威圧感でアルゴを攻める。これに対し、アルゴはぼそっと「すまない」としか言うことができなかった。

 すると、どうしてだろうか。「すまない」というたった一言で、ミクスが笑顔になる。

「それでええんよ。まずいときははっきり言うてくれた方が気持ちええ。無理されんのが一番嫌いやねん。まぁ、もうアルゴに料理は作らんけどな」

 優しさと厳しさの融合はアルゴに相当なダメージを与えた。どうして自分は明らかに年下の少女に論されているのだろうか。なんともいえない気持ちでいっぱいになる。

「まっ、とりあえずこの話は置いとこうや。いろいろ間違った形かもしれんけど、アルゴも正気に戻ったみたいやし、話題変えよ。アルゴはうちに聞きたいことたくさんあるやろうし、うちもアルゴに聞きたいことがたくさんある。状況もとりあえず落ち着いたことやし、一度情報交換といこうや」

 話題を正しい軸に戻すミクス。過程はどうであれ、落ち着きを取り戻したアルゴ。素直にミクスの話題に応じる。


 情報交換するなかでいろいろな情報を得た。まず、聞きなれない言葉のことだ。

 これはミクスの父が原因らしい。ミクスの父は田舎の中の田舎の村である『ロンロン』出身らしく、そこでしか使われていない言葉だという。これは非常に納得のいく話である。

 こちらも今までの旅の経緯や仲間のことなども話した。ミクスにとって、とても興味深い話だったらしく、真剣に聞いてくれていたのがうれしかった。その中でも驚いたのは、いまや勇者ヴィレイの名前は世界全土にとどろいているらしい。というよりも、それは小耳にははさんでいたことだが、まさか家もなく魔から逃げ回っていた少女が知っているのに驚いた。

 続いて、これはかなり重苦しく話していたのだが、ミクスの幸せが奪われたのは今から一年ほど前らしい。ということは、ラヴィと別れたころあたりに魔がミクスの家族を殺したこととなる。一年も魔から逃げ回っていたかと思うと、アルゴの心はまたぐらついた。ラヴィの言っていた人間も魔族もそれほど変わらないという言葉。これは真実だということなのだろうか……。

 そして、これが一番重要な話。先ほどアルゴを放心状態になるまで驚かせた魔法の存在だ。

「魔法を見たのは初めてやとしても、聞いたこともなかったん?」

 ミクスの素朴な疑問にアルゴはうなずく。

「なら驚いても仕方ないね。自分で言うのも恥ずかしい話やけど、魔法っていうのは三回運命に選ばれへんかったら使われへんねん。これはおかぁから聞いた話やねんけどな」

「どういうことだ?」

 よく意味が分からないので、思わず口をはさむアルゴ。

「今から説明するから待ちぃや。結論から言うで。聞いた範囲でしか分からんから確証はないけど、この世で魔法を扱えるのはうちと魔王だけや」

 その言葉にアルゴは驚く。しかし、口をはさむと余計にややこしくなりそうなので、黙ってミクスの話を聞く。

「そんで、なんでうちと魔王だけが魔法を使えるかやな。まず、魔法を使うには三つの条件がいるんや。なんやと思う?」

 不意に質問を持ちかけるミクス。不意の質問に驚いたが、真剣に考える。

「……。分からんが、とりあえず混血は関係ありそうだな」

 現在知っているミクスの特徴で、自分との違いはミクスは人間と魔の混血ということ。これは間違いなく関係あるとアルゴは予想した。そして、その予想は見事に当たる。

「さすがアルゴや。それは条件のひとつ。でもな、それだけやったらあかんねん。それに加えて才能、愛が必要なんや。どっちも文字通りの意味やで」

 混血、才能、愛。この三つの条件が必要となる魔法。アルゴの中でこんがらがっていた線がひとつとなる。確かに、この三つの条件ならばすべてがつながる。

「つまり、武かどうかは分からないが、才能をもった人間と魔が心の底から愛し合って生まれた子どものみが魔法を扱えるということか……」

「理解早くて助かるわ。それに付け加えると、子どもが心の底から親を愛してへんと魔法は使われへん。魔法の動力源は才能を持った混血の親への愛なんや」

 魔法とは才能を持った混血の親への愛の証明。ロマンチックといえばロマンチックな話だが、確かにそれなら扱える者が少ないのもうなずける話。まず、人間と魔が結ばれることじたいが奇跡のような話なのに、それに加えて才能と家族の愛……。しかし、となるとアルゴにひとつ疑問が浮かぶ。

「魔王も……魔王も混血なのか?」

「みたいやね。ごめんやけどそこは詳しくは分からへん。うちもおかぁから聞いただけやから……」

 質問に答えることができないことに申し訳ないという表情を浮かべるミクス。

「知らないものは仕方がない。しかし、本当にミクスは家族を愛しているのだな」

 ニコッとした笑顔で、落ち込むミクスの頭をなでるアルゴ。これにはミクスもうれしそうだ。

「当たり前や。だれがなんと言おうと、おかぁとおとぅはうちの家族や。混血がなんやねん。殺されたからってなんやねん。何がどうなろうと、おかぁとおとぅはうちの大事な家族なんや」

 うれしそうに、しかし涙を浮かべながらそう言うミクス。そんなミクスにアルゴが優しく語りかける。

「ミクス。お前には帰る場所はあるのか?」

 不意な質問に驚くミクス。だが、ミクスなりに内容を解釈することができた。それは、きっととても悲しい宣告。だけど仕方ない。そんな内容なのだろうと予感した。

「あらへん。でも気にせんでええで……あっ、助けてくれてありがとうなアルゴ。アルゴがおらんかったら間違いなくあのまま捕まっとった。ホンマに感謝しとる。でも、アルゴには旅があるもんな。それを邪魔するわけにはいかへん……。今日はゆっくり休んで明日に備えなあかんのちゃう? 出発するなら早い方がええもんな」

 ミクスは涙をこらえてそう言う。ミクスは無理をされるのが嫌いだ。でも、まだまだ小さい少女。嫌いであっても自分は無理をしてしまう。しかし、そんなミクスに対し、アルゴは驚いている。

「な……何か勘違いをしていないか?」

「えっ?」

 驚くミクスに対し、やっぱりというような表情でミクスに近づき、また頭をなでる。

「帰る場所がないなら俺と一緒に旅をしないか?」

 その言葉に、ミクスの頬が赤みを帯びる。

「えっ……」

 しばらくの沈黙が流れる。それは、まさかと言った表情のままミクスが固まってしまったからだ。アルゴは黙ってミクスの言葉を待つ。

「別れの言葉を言おうとしてたんちがうの? 一緒に行って……ええの?」

「あぁ。家族を大事にする者に悪い者などいない。大歓迎だ」

「アルゴ……ホンマおおきに……」

 無理をしていたミクスから涙があふれ出す。そんなミクスに対し、黙って頭をなで続けるアルゴ。こうしてアルゴの一人旅は、二人旅へと変わった。

 家族を愛する者に悪い者などいない。これはアルゴが生きてきた経験の中でもっとも断言できる意思。

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