その力、混血の証なり
「おかぁ! おとう! 見てえやこれ!」
なんや、また懐かしいな。久しぶりにこの夢見るわ。きっと落ち着いとるからやな。
ホンマこのころは幸せやった。確かに世間はうちらを虐げとったよ。それはうちかてわかっとった。人間は魔族を頑なに嫌うもんな。まず、魔族を魔族と呼ばへんもん、魔とか言いよる。略すなっちゅう話や。でも、人間は幸せまでは奪わへんかった。きっと怖かったんやろな。人間って魔族よりもよっぽど怖がり屋や。怖いからあんな理不尽に争うんやろうし、怖いから逆に争ってこうへん。ある意味うちらからしたらええ話やわ。まぁ、うちのおとうはそんなんやないけどな。いつもはおちゃらけとるけど、いざというときはどんな人間より強い芯を持っとる。そんなおとうがうちは好きや。
人間に比べて魔族は活発や。あいつらは自信に満ちあふれとる。自分たちの利益になることならどんどん実行してきよるんや。その結果、うちらの幸せは奪われた。うちは魔族が許されへん。けど、おかぁは好きや。おかぁはかゆくなるくらい優しいしな。
なぁ、おかぁ、おとぅ。うちはまだ生きとるで。おかぁとおとんの娘として生きとる。証明もちゃんとあるからね。混血のうちしかできひんもんあれは。うちはそれが誇りで仕方ないんや。
Episode13 混血の証
「ふわぁぁ……」
夢の終わりとともに現実へと引き戻されるミクス。それに気付いたアルゴがミクスの下へ動く。
「もう起きるのか? まだそれほど寝ていないと思うが……」
ミクスが寝てから、まだ二時間ほどしか経っていない。さすがにそれほど早くに気付かれることもないと考え、もう少し寝ていた方がいいのではないのかという考えを促すアルゴ。しかし、そんなアルゴの提案に対し、ミクスは首を横に振る。
「大丈夫やでアルゴ。おかげさまでゆっくり寝かせてもろたわ」
「しかし……。そんな小さな体で今まで逃げてきていたのだろう? 俺のことは気にしなくていいぞ」
いくら魔族と人間の混血といえど、実体はまだ幼い少女。きっと無理をしているに違いない。アルゴはそう考える。しかし、そんなアルゴの考えを覆す事実が発覚する。
「そうか、アルゴは知らへんのか。魔族ってな、そんな睡眠時間とらへんねん。混血であってもそれは多少受け継がれとるんよ。二時間も寝たら、そやなぁ……人間の一日分の睡眠に匹敵しよるな。やからぜんぜん大丈夫やで」
そういえばラヴィもそれほど睡眠時間をとっていなかった気がする。事実の発覚に驚きながらも、アルゴは理解し、そして納得した。
「そういうことやから大丈夫やで。というか、アルゴは睡眠とらんの? 人間って疲れもすごいから眠たいんちゃう?」
「いや……問題ない」
確かに疲れていると言われれば疲れているし、眠たいと言われれば眠たい。しかし、ここで眠ってしまえば、ミクス、さらには自分を危険にさらすこととなる。ここで寝てしまうわけにもいかないのだ。なので、その申し出を断る。
しかし、そんなアルゴの反応に不服そうなミクス。ジロッとした目つきでアルゴをにらむ。
「眠いやろ、明らかに眠そうやで。あれやろ、自分が寝たら危険やとか思ってんねやろ。確かにアルゴは強いかもしれへん。でも、だからって疲れを隠すことなんかないんや」
ジロッとした目つきで話しているかと思えば、急に悲しそうな表情に切り替わる。ミクスはフーレン以上に感情の起伏が激しいといえる。
「うちは死んでもお荷物にはなりとうない。出会ったばかりの、しかもこんな小さい餓鬼が何言うてんねんって思うかもしれへん。でもな、信じてくれへん? うちのために無理をされるのは耐えられへんねん。うちなら大丈夫やから、ここは一発信じてみてくれへんか?」
「……」
(そこまでおおごとではないのだが……)
心の中でそうつぶやくアルゴ。だが、こういう頼まれ方をされてしまっては断るに断れない。
当然熟睡するつもりはない。敵の気配には注意しながら、しばしの休息をとることにする。これが休息になるとは到底思えないが、こんな小さな少女の純粋な心を無下にするわけにはいかない。どうも、アルゴの正義感というやつをミクスはうまくかき立ててくれる。
こうして、見張りを交代するといった形で時間が進む。ミクスはアルゴが休息を受け入れてくれたことがうれしかったのか、ニコニコした顔で見張りを引き受けている。対するアルゴは神妙な顔つきで、目こそ閉じているものの気を周囲に張り巡らせている。これではどちらが休息をしているのかわからない。
しばらくの時間が流れた。一体コング兄弟はどこを探しているのだろうか。あれが上級魔族というのが逆にびっくりである。
この長らくの時の流れには、さすがのアルゴも意識が薄れてきた。これではいけないと気を引き締めるのにも限界がある。そして、ちょうどそんなときだ。ミクスが血相を変えてアルゴの下へ駆け寄ってきた。
「大変やアルゴ! 来よった! 間違いなくあいつらや!」
居場所を突き止められたようだ。アルゴは急いで起き上がり剣を取る。しかし……。
「いや、そんな焦らんでええで。おそらくまだ二分くらいかかると思うわ。ここで逃げるのも手やで!」
ミクスが逃亡を促す。だが、アルゴはそんな助言を無視して問う。
「二分だと? ミクスはそんなに目がいいのか? 俺でも気配は感じなかったというのに……。気のせいではないのか?」
もっともな疑問である。なぜ、ミクスはそれほど正確な情報を伝えることができるのか。アルゴは不思議で仕方なかった。
しかし、そんなアルゴの疑問にはお構いなし。アルゴの服のそでをクイクイっと引っ張って逃げようアピールをする。
「それはまた後で教えるわ。でも、今は逃げんと!」
必死な形相でそう言うミクス。しかし、そんな提案に対し首を横に振るアルゴ。
「分かった。それは置いておこう。しかし、逃げることはできないな。ここで迎え撃つ」
「何言うてんねん! 相手は上級魔族二体やで? アルゴが強いのはあの攻防でよう分かった! けどむちゃや……。逃げるのが得策やとうちは思う」
この分からず屋といった表情でアルゴに反論するミクス。しかし、アルゴに引く気はない。
「逃げ続けるよりはマシだ。それに、俺はあの二体よりももっと上級で誇り高い魔と戦ったことがある。さっきミクスは信じてくれといったな。なら、俺もその言葉を返そう。出会ったばかりで実力も定かではない剣士かもしれない。だが、俺は大丈夫だ。そんな俺を信じてみてくれないか?」
「うっ……」
これは見事な返し。これにはミクスも何も言えない。というよりも、少しかっこいいとまで思ってしまった。思わず頬を赤らめてしまう。
「わ……分かった。けど、無理はアカンで。約束やで?」
頬を赤らめながら心配そうな表情でアルゴを見つめるミクス。そんなミクスに対して素直に約束を交わすアルゴ。
「あぁ。それは承知した。そして、そんな話をしているうちに相手が来てしまったようだ。これはもう逃げようがないな」
大きな気を感じたアルゴ。これは間違いなくあのコング兄弟であろう。そして、本当にここまで二分程度。ミクスの言っていたことが現実となった瞬間だ。
「おい、間違いねえな。あれは間違いねえなウータン」
「俺の目に狂いがなければ間違いあるめえよオラン兄ちゃん。ツキはこっちにあるぜ」
コング兄弟が二人の前に現れる。きっと血眼に探したのであろう。その顔は怒りに満ちあふれている。
「大丈夫かアルゴ。なんやあちらさんは相当ご立腹やで」
目はコング兄弟を凝視しながらも、引きつった顔でアルゴに語りかけるミクス。
それに対し、アルゴは静かに剣を抜く。
「あぁ。心配ない」
攻めの構えに転じたアルゴは、不意打ちといえるほど脈絡なしにコング兄弟へ間を詰める。アルゴはコング兄弟をミクスへ近づけたくなかった。できるだけミクスの遠くで二体を相手して、ミクスの安全を確保したかったのだ。
しかし、この行動はコング兄弟にとって好都合。わざわざ向こうから自分たちの領域に入ってきてくれたのだ。これほど簡単なことはない。
「おい、あいつ馬鹿だな。自分を、クイーンを守る屈強なナイトとでも勘違いしてるんじゃないか」
「本当だな。このコング兄弟を二人同時に相手することがどれほど無謀なことか、勘違いナイトに示してやろうぜオラン兄ちゃん」
間を詰めたアルゴの斬撃。いくら相手がミクスを狙う敵といえども、無益な殺生をしたくないアルゴは峰打ちを試みる。だが……。
「おいおい。さすがにそいつは張り合いねえぞ。お前の剣は飾りかよ?」
防御することもなく、体で峰打ちを受け止めるオラン。そこでできた隙をウータンが狙う。
「そらよぉ!!」
ウータンの攻撃。しかし、これも修行のたま物だろう。素早く剣を引き、身をかわすアルゴ。ウータンの攻撃の遅さが幸いした形だ。
「またかわされちまった……。そんなに遅えかな?」
これにはウータンも落胆を隠せない様子。
「まっ、気にしても始まらねえ。一発当てりゃそいでしまいだ。気にするな」
ウータンを元気づけて士気を上げるオラン。
「……仕方ないか」
峰打ちを諦めて斬撃に切り替えるアルゴ。さっきはオランに受け止められたので、攻撃の対象をウータンに変える。
「そんな斬撃じゃ効かねえよぉ!! 殺す気できてねえなタコ助が!!」
これまた防御ではなく斬撃を体で受け止める。だが、この尋常じゃない耐久力はなんだというのだろうか。斬撃を食らわせたはずなのに効いたそぶりがない。
「手本を見せてやるぜウータン!」
そして、オランの攻撃。また身を引こうと考えたが、ひとつの誤算。
「早い!」
そう、オランの攻撃は少しウータンよりも早かった。なので、身を引くことを諦めて剣で受け止めることを試みる。
「ぐっ……」
予想を超える攻撃の重さ。剣で受け止めたというのにしびれがとれない。
これを好機と見たコング兄弟は、二人で攻撃に移る。
「一人ならばかわせるだろう俺らの攻撃」
「しかし、二人ならばかわせまい」
『これぞ、兄弟の絆よ!!』
決め台詞のような言葉を発しながら攻勢に移るコング兄弟。しかし、コング兄弟の言うとおり、アルゴは剣で受け止めることしかできない。
その攻撃のひとつひとつはとても重く、次第に防御も薄れてくる。しかも攻めの構えだ。弾かれるのも時間の問題であろう。
「これで!」
ウータンの一撃で防御が弾かれる。
「終わりだ!」
そこにオランの攻撃。一撃くらうことは決定的だ。
(まずいな。ここは耐えなければならない。ラヴィほどではないにしろ、この攻撃は大ダメージになるな……)
アルゴも一撃を食らうことを覚悟した様子。だが、本気ではないにしろラヴィの一撃を耐えたことがある。それもあってか、一撃でやられる自信はなかった。
しかし、何やら妙だ。なぜかかすかにオランの攻撃の風圧とは違う音が聞こえる。そして、その音は次第にこちらに近づいてくるように思えた。
「メージャンフレイム!!!!」
絶望的な状況に横やりが入った。なんと、大きな赤い球体がオランを吹き飛ばしたのだ。
『なっ……』
現状を見ていたアルゴとウータンが目を丸くして驚く。
「なんとか間におうたわ。アルゴがうちを引き離してくれとったおかげで上級魔法を放つことができた。助かったでアルゴ」
アルゴの目に映ったのは、大きな赤い球体を放って満足そうな顔をしているミクスの姿。そして、聞いたことのない『魔法』と呼ばれる言葉。
あのオランを吹き飛ばすほどの威力。感じただけで相当なものだと分かる。ミクスはまだ小さな少女だ。だが、たしかに放たれた。小さな少女からは想像もつかないほどの強力な『魔法』と呼ばれる技が、確かに放たれたのだ。




