奇妙な出会いは突然に
「いくら逃げてもいつかは捕まっちまう運命なんだ。おとなしく捕まりやがれ!」
「ホンマにあんたらなんなん? なんでうちを捕まえようとするん!」
「そんなもん俺たちに聞かれても知らねえよ。だが、魔王様の命令だ。おとなしく捕まれ」
なんでなん……。うちなんにもしてへんやん。確かにうちはちょっと変わっとるかもしれへん。でも、それだけやん。魔王がうちを必要としとる? そんなん知らへんよ。うちはただ必死に生きとるだけ。
それに、そんなん勝手やわ。うちの幸せを……家族を奪ったくせに……。それで、今度はうちを必要としとる? どうせ利用するだけ利用して、うちの命も奪うんやろ。勝手すぎるわそんなん……。
「おとなしく捕まれ? うちの家族を奪ったお前ら魔族なんかに捕まったらどうなるかくらいうちにでも分かるわ! うちがこのままおとなしくしとると思ったら大間違いやで」
「ほぅ。そんな小さな体からでてくる威勢とは思えないな。抵抗するならこっちも多少荒っぽくさせてもらうぞ?」
くっ……。あかん、まだ普通の魔族ならなんとかなるかもしれへん。でも、こいつらは上級魔族や。なんかの拍子に攻撃がとおっても倒すんは無理や……。弱気になっとる場合やないのはわかっとる。でも、体の震えが止まらへん……。おとう……おかぁ……。こんなんでごめんな。せっかく生かしてもろうた命やのに、まただれかに助けを願う。ホンマこんなんでごめんな……。
「だれか……だれか助けて!!」
うちは生きるんや。絶対死んでなんかやらへん。うちは決して一人でなんか生きてへんもん。家族がうちを見守っとる……温かい家族がおんねや。そんな家族に生きろ言われて死ねるもんか! 生きられるんやったらなんにでもすがったる。うちは……絶対死んでなんかやらへん。
Episode12 出会い
ラヴィと出会って一年の月日が流れた。この一年の間、アルゴは旅よりも修行を重視していた。
生まれて初めて出会った、本来の構えを使わなくてはならないほどの相手。そして、使ったからには相手を斬らなければならないという悲しい現実。アルゴは、できる限りそれを繰り返さないために修行を繰り返した。おそらく、今の自分は前の自分よりも強いだろう。しかし、それはだれも一緒。同じ地点でとどまっている者などいないのだ。そう思えば、修行にも自然と身が入った。
そんな一年を過ごしたアルゴは、修行もそこそこに旅に戻る。長期滞在した村を出て、『レーベ』へと足を進める。しかし、『レーベ』はかなり山奥にある村。そこに行くには、一日二日では通り抜けることができそうもないほどの険しい森を抜けなければならない。現在アルゴはそんな森の中を歩いている。そこに現れる魔や動物を避けながら進み続ける。
「まだ抜けられないのか。かなり険しいな」
思わずそんな言葉をつぶやいてしまうほど終わりが見えない森。動物や魔の鳴き声もあってか、まるでジャングルのようだ。だが、そんなジャングルのような森で、普通ならば聞こえるはずのない声色が聞こえてきた。
「……か……助けて!!」
小さくではあるが、明らかに助けてと聞こえた。それも、間違いなく女性の声。こんな森の中だ。魔や動物に襲われてしまっても仕方がない。アルゴは『レーベ』へ向かうのを止め、声の主の下へ急ぐこととした。
「どこだ! 助けに来たぞ。もう一度大声を出してくれ!」
柄にもなく声を張り上げるアルゴ。すると、また声が聞こえてきた。
「こっちや! だれか来てくれたんか!?」
今度ははっきりと聞こえた。アルゴは声の主の下へ急ぐ。
「ここか!」
アルゴが着いた先には、魔であろう二体が何者かを取り囲んでいる図が確認できる。
「おい、そこで何をしている貴様ら」
鋭い目つきで魔に話しかけるアルゴ。アルゴの直感が、この二体の魔が手練れだということを知らせている。それが二体となると、アルゴも気を引き締めなければならない。
そんなアルゴの言葉に対し、面倒くさそうに振り返る二体の魔。
「何をしている? 決まっているだろう。この小娘を魔王様の下へ連れ帰らねばならん。捕縛しようとしているんだよ」
一体の魔がそう説明しているところを、もう一体の魔が遮る。
「そんな馬鹿正直に答えるやつがどこにいる。おい、そこの長髪。お前は黙ってここから去れ。今なら命だけは助けてやる。このコング兄弟の手にかかれば貴様など一捻りなのだからなぁ」
余裕そうに笑う魔を見て、アルゴは剣を構える。構えは攻めの構えだ。
「悪いがそういうわけにもいかない。発見した手前、見過ごすわけにもいかんのでな」
そんなアルゴを見て、ニヤッと笑う二体の魔。
「OK。このオラン・コング、ウータン・コングのコング兄弟を目にして剣を構えたことを褒めてやる。そして後悔させてやろう。ウータン、軽く遊んでやれ」
「分かったぜオラン兄ちゃん。どれ、軽く捻ってやろう」
コング兄弟がそう言うと、ウータンがアルゴの前に立つ。オランはそのまま声の主を捕らえようと動く。
どうやら、この声の主は結構しつこいらしく、捕まえづらいらしい。荒っぽくするにしても魔王の命令なので、あまりうかつな攻撃はできない。それもあってか、アルゴの登場は予想以上に厄介なものだといえる。だから、早いところ兄弟で捕まえる作業に戻りたいのだ。
なので、言葉の余裕とは裏腹に素早く間合いを詰め、攻撃にでるウータン。ゴリラのような形状をしたコング兄弟の攻撃は見た目以上の威力のようで、かわしても風圧が感じられる。だが、開始早々隙は発見した。
「かわしやがったか。だが、次は当てるぜ!」
ウータンの二撃目。確かに威力は大したものだが、それに見合うほどの速度がない。これは魔王の人選ミスといえるだろう。ウータンがこれならオランもそれほどの速度はないといえる。それを利用した作戦を思いついたのだ。
「けっ、またかわしやがったか。でもよぉ、かわしてるだけじゃ戦いは……っておい!」
アルゴはそのままウータンをスルーしてオランの下へ向かう。そして、剣を構えオランへ向けて剣を振る。
「おいおい……そんな抵抗すんなよ。温厚な俺も殴っちまうぜ……がっ!?」
無防備のオランの背へ向けて峰打ちをかます。どうやら手応えなし。だが、声の主の手を引く時間くらいはできた。素早く声の主の手を引いて駆ける。
「怪我はないか?」
「だ……大丈夫や!」
「そうか。だが、これでは追いつかれてしまうかもしれない。背へ乗れ」
「ま……まだ状況が把握できてへんけど、兄さんおおきに! 恥ずかしがっとる暇もあらへんからお言葉に甘えさせてもらうで」
軽い身のこなしでピョンっとアルゴの背へ飛び乗る声の主。どうやら、声の主はまだ少女のようだ。
「ちっ! 何してやがるウータン! このままじゃ生きて帰れねえぞ!」
「すまねえオラン兄ちゃん。あいつ意外とすばしっこくてよ」
「言い訳は聞きたくねえ! 追うぞ!!」
「おっ、おう!」
焦った様子で二人を追うコング兄弟。上級魔族というだけあって、こんな状況でも、冷静に追うことを選択した。
しかし、素早さではアルゴの方が大きく勝る。コング兄弟を大きく離したアルゴは、コング兄弟に見つからないために隠れ家を探す。
おそらく冒険者のだれかが作り、そのまま置いていったのだろう。ちゃんとしているとは言わないが、隠れ住むことはできるくらいのいい場所を見つけたアルゴは、そこで身をひそめることにした。
「ここなら当分は大丈夫だろう。一度休息を取ろう。降ろすぞ?」
「ホンマすんまへんなぁ……」
ピョンっと飛び降りる少女。そういえば、まだアルゴは少女の姿をちゃんと見ていない。そして、初めてその姿を見たアルゴは驚きを隠せなかった。
「……」
「……」
しばしの沈黙が流れる。驚きを隠せないアルゴに対し、少女もやっぱりかというような表情をしている。
「やっぱり……気持ち悪い?」
少女が申し訳なさそうにアルゴに問う。それに対し、アルゴは首を横に振る。
「いや、そうじゃないんだ。すまない、失礼だとは思うが君は……」
「うん。うちは魔族と人間の子。自分で言うのも変な話やけど、兄さんからしても気になる部分やと思う。むしろ気持ち悪いって思ってくれとらんだけでもうれしい話や。けど、詳しくは兄さんともっと仲良くなってから話すわ。今はそんなときでもないやろうし」
アルゴが言葉を言い終える前に答えを述べる少女。その答えはアルゴの想像と合致した。それもそのはず。水色の髪の毛で隠れてはいるが、よく見ると小さな猫耳が生えており、人よりも歯が鋭い。それに決定的なのが、左腕だけであるが、猫のようなしなやかな毛並みが生えていた。おそらく、猫の魔と人間の子どもなのだろう。
そんな少女に興味を抱いたアルゴ。少女に自分の名を名乗る。
「アルゴか、ええ名やなぁ。うちはミクス。アルゴ、ホンマ助けてくれてありがとう。いろいろ話聞きたいししたいけど、今はそうも言ってられへんもんな……って、ごめんな。勝手に話進めとるけど、これ以上アルゴを巻き込むわけにはいかんよね。ここに来たってことは『レーベ』を目指しとるんやろ? うちはもう大丈夫やから気にせんと行ってええよ」
テンションが上がったと思ったら、急に落ち込むというか申し訳なさそうな表情になるミクス。どうしてまぁ、アルゴの下には感情の起伏の激しい者が集まるのだろうか。
しかし、そんなミクスに対し、アルゴは横に首を振った。
「そうはいかない。こうなった以上、放っておけるような性格でもないのでな。こっちから巻き込まらせてもらう」
予想外の返答だったのか、ポカーンとした表情でアルゴを見るミクス。
「ホンマに?」
「あぁ、本当だ」
ホンマという言葉は聞きなれない。いや、しゃべり方自体聞きなれない感じだったが、なんとか頭の中で意味を解読する。これも後で聞いてみようと思うひとつの事柄である。そして、アルゴの読解は当たっていたようで、ミクスの目に涙がたまってきていた。
「ホンマありがとうなアルゴ。うちはアルゴに助けてもらって幸せ者や! うちの姿を見て気持ち悪くならへんし、めっちゃええ人やし……。もう、どう感謝したらええかわからへんわ」
アルゴに飛びつきながらそう言うミクス。良くも悪くも感情を表に出すのがうまいようで、感謝している気持ちが痛いほど伝わる。
「感謝の気持ちはとても伝わった。とりあえずまずは休息だ。ずっと逃げていたんだろう? ちょっと横になるといい」
少女といっても女の子であるミクス。そんなに女性の耐性のないアルゴは、少し照れながらミクスを引き離し、寝ることを進める。
「ホンマ優しいなぁ。確かに、言われてみたら一気に疲れがでてきたわ……。ちょっとお言葉に甘えてええ?」
「あぁ。見張りなら俺が受け持とう」
「何から何までおおきに……」
そう言い、簡易的なベッドに寝転ぶと、すぐに寝息を立て始めたミクス。相当の疲れだったのだろう。とても気持ちよさそうに寝ている。
(それにしても今日はいろいろなことがありすぎたな……)
この一日でどれだけ驚いただろうか。混血の少女の存在。混血の少女を狙う魔の存在。他にもさまざまな疑問がアルゴの中で生まれた。ひとつひとつ聞いていきたいところであるが、今は目の前の現状を打破しなければならない。疑問は心の底に封じ込め、今はミクスを守るために見張りを続ける。




