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昨日の敵は……

「負けんじゃねえぞ! ここは俺らのもんだ!」

 攻めなきゃなんねえ。守んなきゃなんねえ。争わなきゃなんねえ。同じレベル同士の種族が二つできちまった。俺たちが早えのか、やつらが早えのかは分かんねえ。もしかしたらやつらのほうがずっと早えのかもしんねえな。けどよ、ここは俺らのもんだ。居場所は争いでつかまなきゃなんねえ。それを理解してるからこそ、俺らのもんだと言い張らなきゃなんねえ。

「大丈夫かいあんた!!」

「心配すんな。俺はそんな甘ちゃんじゃねえ。心配してる暇があったら前に行くぞ!」

 ありがとよぉ。争いしか知らねえ、こんな俺のために心配してくれるやつなんざ居てくれるとは思わなかった。それだけで俺は動ける。攻めれる守れる争える。

 生き残るには争わなきゃなんねえ。どっちかが絶えるまで、いや、どっちかがくたばってもきっと争いは続きやがる。

 俺は争いしか知らねえよ。けどよ、だからこそだれよりも胸張って言えることがあんだ。いつかよぉ……いつかこんな争いなんてもんが歴史からなくなっちまえばいいのにって俺は思う。争いほど寂しいもんはねえよ。今のこの歴史は……いや、ずっと昔からなんだろうな。争いとは平和の象徴だ。争うことで平和が訪れる。争いが平和を生む。確かにそうかもしんねえ。けどよ、俺たちは平和にすがって生きていくほど弱い生物じゃねえはずだ。平和なんてもんはこの世にはいらねえんだよ。だれかひとりでも自分のことを考えてくれるやつがいればそれで十分じゃねえか。それ以上の幸せがどこにあるっていうんだよ。それ以上に平和ってやつはいいもんなのかよ……。

 ちっ、こんなこと考えてる暇はねえな。今は、残念ながら平和を求めて争うやつらの塊だ。争わなきゃ……なんねえ。悲しいけどな……。


            Episode11 家族の長


 無数のラビット族に囲まれるアルゴ。そこには、自分が打撲を負わせたラビット族もたくさんいた。魔族も手当てというものを覚えているようで、どこで手に入れたのかはわからないが、包帯を巻いているラビット族がたくさんいる。当然、そのラビット族はアルゴに敵意を抱いているだろう。自分たちのボスを倒してしまったのだからなおさらだ。

 この状況には、さすがのアルゴも言葉が出ない。冷たい汗を流しながら状況の変化を待つ。すると、先ほどラヴィと同じく人間の言語を発したラビット族がアルゴの前に立ちふさがる。

「よくも……よくもうちの夫を! 生きて帰れると思ったら大間違いだよ」

 冷たく、しかし怒りが混じった声色でアルゴにそう言うラビット族。夫ということは、ラヴィの妻ということだろう。家族ともなれば、家族を斬られて黙っていられるはずがない。そんな気持ちが十分にわかるアルゴは、自然と死の覚悟を決めることができた。しかし……。

「やめろぉぉい! おめえらは下がってろ。これは俺とアルゴの男の教育だった。部外者が邪魔すんな」

 斬られた胸からは薄紫色の血が痛々しく流れる。だが、そんな状態を無理に動かし、苦しそうに立ち上がってそう言うラヴィ。

「あ……あんた!」

 立ち上がったラヴィを見て、ラビット族が心配そうにラヴィに群がる。

「そんな大げさに心配しなくても大丈夫だ。俺がそう簡単にくたばるはずねえことを知ってるのは他でもねえおめえらだろうが。こんな名誉な傷よりもずっと汚ねえ傷をたくさん受けてきた俺だ。争いしかしらねえこの俺だ。そんな俺が、こんな幸せな傷で死ねるわけねえことを、おめえらはよーくしってんだろ?」

 ラビット族の言語なのだろう。アルゴには、ラヴィが何と言ったかわからなかった。

 アルゴにはラヴィが何と言ったか分からなかったが、『家族の長』としての一言だったのだろう。ラヴィが話し終えたその瞬間、たくさんいたラビット族のすべてがラヴィの後ろに下がった。

 そんなラヴィを見て、自然と笑みがこぼれるアルゴ。

「どうした兄ちゃん。死なずにすんでホッとしたかい?」

 ニヤッとした笑みでアルゴに近づくラヴィ。もう、ラヴィからは敵意は感じられない。

「いや、家族を斬った俺だ。その家族に殺されることに対して、俺は死を覚悟した。だが、家族の長は俺を生かすことを選んだ。そんな家族の暖かさに酔っていたところだ」

 握っていた剣をさやに納め、言葉を返すアルゴ。アルゴにももう敵意はない。しかし、その直後ラヴィの顔が邪悪にゆがむ。

「……。油断したな兄ちゃん。俺は魔族だ。人間と敵対する魔族だ。そんな魔族に気を許すたぁ、ちょっと気が早かったんじゃねえかい?」

 ラヴィがアルゴに向けて拳を振りかぶる。気を許しすぎていた、油断していた。ラヴィの振りかぶりに対し、アルゴは動かない。

「……。兄ちゃん、いやアルゴ。おめえは何者だ」

 ラヴィの拳はアルゴの顔面にあたる直前で止まる。寸止めというやつだ。アルゴは初めからラヴィの拳をかわす気はなかった。

「別に何者でもない。ただの人間だ」

 微笑みながらそう言葉を返すアルゴ。

「どうして何もしようとしなかった? 直撃したら死んでたぜ?」

 不思議そうに質問するラヴィ。

「そうだな……。だが、不思議と当たる気がしなかった。俺は別に相手の気を読めるわけではない。ただ信じたかっただけだ。家族をまとめた直後に、家族の目の前で不意打ちなどという汚れた行為。そんな背中を見せるはずがないとな」

「本当に甘ちゃんだなおめえは。殺生が嫌いで、ただ何かを斬るだけで覚悟を決めやがる。そんな重てえ性格してるくせに、どうしてまぁ……。いずれ死ぬぜ?」

「かもしれないな。だが、その時は俺が負けたということだ。信じたものに裏切られて死ぬのは負けだと思っている。それほど悲しいことはないからな。だが、俺は信じられるものはとことん信じていたい。それが仇となって死ぬことになってもな」

「……。甘ちゃんだ。確かに甘ちゃんだが、俺はおめえのこと嫌いじゃねえよ。今日は疲れたろ? もてなしてやるから付き合ってけ」

 ラヴィがそう言うと、アルゴの返事を聞く前に立ち上がり、ラビット族の群れの方を向いた。

「おめえら! 今日は久々に客人をもてなすぞ! しかも人間だ、初めて人間をもてなす。だが嫌悪しねえでくれ、こいつはいいやつだ。俺は人間相手に初めて『友』を得たと感じている!!」

 ラヴィのその一声に、歓声を上げるラビット族の群れ。ラヴィが話し終えると同時に騒がしく動き始める。

「こっちへ来な客人様よぉ」

「あぁ、なんだかすまないな」

「気にすんな。殴って斬られた仲じゃねえか。今日は騒いで語り合おうぜ」


 こうしてアルゴとラヴィの戦いは終わり、一気に歓迎ムードとなった。そこでアルゴはいろいろなことを知る。まず、魔族も料理をするということだ。しかも、その料理は人間が作ったものと遜色ないほどにうまい。こうしてみると、手当てをしたり料理をしたり、人間と魔の違いというものはあまりないのではないか。アルゴはますますそう思った。

「さっきはすまなかったねえ」

 そう言って料理を手渡してくれるラビット族の一人。ラヴィの奥さんラビットだろう。

「いや、気にしていない。こちらこそ夫を斬ってすまなかった」

「男の戦いだったんだろう? なら仕方ないよ。男は馬鹿だからねえ。もう慣れた」

 笑いながらそう言うラヴィの奥さん。肝がすわっているというのはこういう人のことを言うのだろう。

「ありがとう。そう言えばあなたも人間の言語が話せるんだな」

「あなたって微妙な言い回しだねえ……。ヴァニーでいいよ。人間の言語は夫がなかなか面白い言語だと教えてくれたよ。仲間たちは気味悪がって覚えたがらないけど。好奇心強いからねえあたしは」

「そうなのか。面白い言語とは考えたこともなかったな。答えてくれてありがとう。とりあえずおかわりをくれないかヴァニー」

「見た目の割に食べるのね。もしくは、やっぱりあたしの料理は天才的に美味しいのか……。きっとそっちだね! あいよ!」

 アルゴは楽しかった。料理も美味しく、魔族との触れ合いもできている。それに、魔族との触れ合いはとても暖かいものだった。魔族にもいろいろな魔族がいるのだろうとは思うが、それは人間も同じ。魔族も人間と変わらない。人間が善で魔族が悪という認識は、やはり人間のエゴでしかない。アルゴは、よりいっそうその気持ちが高まった。


 ご飯を食べ終わったアルゴのもとにラヴィが訪れる。きっと真剣な話になるのだろう。二人きりにしてくれとでもお願いしたのか、ラヴィとアルゴの周りにはラビット族がだれもいなかった。

「よぅ。楽しんでるか?」

 気さくに話しかけてくるラヴィ。

「あぁ。おかげさまで今日はいい日だ」

 正直な気持ちを伝えるアルゴ。

「そいつはよかった。突然だがアルゴよぉ、おめえは家族の暖かみに酔っていたと言っていたが、おめえの家族には暖かくしてもらえなかったのか?」

 急に重たい話題に切り替えるラヴィ。どうやら、アルゴが『家族』というものに強く惹かれていたことに対して疑問を持っていたようだ。当然、聞きにくい質問であるのでちゅうちょしていたラヴィだが、どうしても気になって聞いたのである。

 そんなラヴィの質問に対し、顔を暗めるアルゴ。

「答えたくないなら構わないぜ?」

 そんな表情の変化に気付いたラヴィは、アルゴに気を使うようにそう言う。

「いや、構わない。俺の本当の親は俺が物心つく前に死んでいた。いや、死んでいたと聞いている」

 思い出すように、遠くを見ながらそう答えるアルゴ。

「そうか……。俺も息子を亡くしててよぉ、家族を亡くした者の、家族の暖かみに惹かれる生物の気持ちはよくわかる。だからもしやと思ったらやっぱりか」

 今にも泣きそうな表情でそう言うラヴィ。

「子どもが……。病気か?」

 そんなアルゴの質問に対し、今度はラヴィの顔が重苦しくなる。

「すまない……」

 軽はずみな質問をしたと謝るアルゴ。

「俺から言い出した話だ、気にすんな。俺の息子は何者かに殺されちまった。あれは俺の不注意だ。息子は俺ほどではないが強かった。だから安心しちまってたんだろうな……」

 そう言ったラヴィは一度言葉を止める。ラヴィにとって、とてもつらい出来事だったのだろう。言葉にするだけでも苦しそうだ。しかし、ラヴィはまた言葉を発する。

「一度大きな自由を許したことがあってな。それが過ちだったと気づき、探しに行って、発見したその時にはもう……」

 ラヴィの話はアルゴにとってもすごく心にくる話であった。似ている、似ているのだ。あれもアルゴの不注意であった。アルゴの不注意で一人の大切な人間の命を奪ってしまったに等しい。

「俺も、俺の親代わり、いや、俺にとっては親だ。俺には師匠がいてな。俺に剣術を、体術を、生き方を教えてくれた。そんな師匠を、俺の不注意で殺してしまった」

「……。魔族からお前をかばってとかそういうやつか?」

 申し訳なさそうに質問するラヴィ。

「いや、まだ俺が12歳のころだ。そんな幼い俺には師匠を救う力はなかった。あの腐った王たちからな」

 アルゴは、師匠のことを思い浮かべながら答えた。その眼には、普段の甘ちゃんなアルゴのどこから湧き出ているかわからないほどの憎悪があふれ出している。

 その言葉を聞き、ラヴィは驚きを隠せなかった。

「てことは、おめえの師匠は人間に……。人間は人間を殺すのか? 人間という生物は争い以外で同族を殺すってのかよ!?」

 ラヴィは驚いた。魔族は大きな争い以外で同族を殺めることなどない。そんな小規模な中でも人間が人間を、同族を殺めるという事実に驚きを隠せなかった。

「あぁ……」

 ラヴィと出会って一番の発見かもしれない。魔族は同族を、魔族が魔族同士を大きな争い以外で殺すなんていうことはありえないと言い切った。こんなこと人間ではよくある話。殺人という形で半ば日常化している話。だが、それは人間としての当たり前であり、魔族としては当たり前のことではなかった。こういう事実を知ると、人間という生物がいかに狂った生物であるかというのが身に染みる。アルゴは、そんな人間に対して悲しくなった。

「甘ちゃんなんて言って悪かった。おめえは強いよアルゴ。もしも俺が、俺の息子が魔族に殺されてたとしたら、俺は、俺のすべてを捨てても魔族を滅ぼしにかかる。同族が同族を殺していいはずがねえ。いや、時にはそんなときもあるかもしれねえ。でも、そんな簡単に殺していいわけがねえんだ。同族が同族を、しかも家族を奪われたとなれば、俺は黙っちゃいられねえ。おめえはそれでも人間に希望を持つんだろ? 気持ちは魔族に傾いてるおめえだけど、人間であるからこそ人間を殺めることができねえ。だからおめえはもがいてるんだ。気持ちをはっきりさせるために魔族のことを知ろうとしてるんだな」

「俺は……魔のことを知れば知るほど人間の汚い部分を知ってしまう。だが、俺は人間だ。俺は、人間にすがる、捨てる、どちらになるかはわからないが、気持ちを整理するために魔を利用しているのかもしれないな。魔を知るために旅に出たが、結局は俺の私情だ……」

「それでいいんだろうよきっと。生物なんて私情で動いて当たり前だ。そんな私情を見守ってくれたり後押ししてくれたり手を差し伸べてくれたり、私情で動いてると自然と引っ付いてきてくれる。俺はそれがもっとも幸せだと思っている。私情で動いてる生物同士が惹かれあうなんてすごい話なんだろうぜ。だからよぉ、俺もお前の私情を見守らせてくれ。種族なんて関係ねえ。俺とおめえは『友』であり『家族』だ。俺もおめえの私情の隙間に入れてくれ」

「家族か……。そんなことを言われたのはいつぶりだろうな。なぁラヴィ、今日はいい日だな」

「……。いい日過ぎてバチが当たりそうだぜ」

 語り合う両者。それは出会ったばかりとは思えぬほど打ち解けており、心と心はもうつながっている。そもそも、心と心の連結に時間などさほど関係ないのだ。気持ちこそが最高の材料であり、時間などはおまけに過ぎない。両者は、一日にして『友』として『家族』としての関係となった。これは、アルゴにとって初めての人間と魔族の友情である。アルゴにとってこれほどうれしい時はなかった。それほど、今のアルゴの心は満たされていた。


 そして日は過ぎ、アルゴは『ポルッカ山』を出発する。仲良くなったラビット族に別れを告げ、下山。

 ラビット族に見送られながら旅立とうとしたとき、ラヴィが一言叫ぶ。

「おいアルゴ。おめえの質問にひとつ答えるの忘れてたわ! この山はもともと俺らの山だ、人間のもんじゃあねえ!」

 アルゴはその言葉を聞き、親指をひとつ立てて答えた。アルゴはうれしかった。この山は魔族が人間を襲ったうえで住んでいるのではない。もともとが魔族の所有する山だった。だが、それと同時に、やはり人間が私欲で山を奪おうとしていたのかと思うと悲しくなった。

 そしてラヴィとの出会いから一年。アルゴは、今までに経験したことのないような光景を見ることとなる。

いよいよ序章が終了しました。ここまでで約45000文字ほどにもなっております(驚)本当にここまでお読みくださっている方には感謝の気持ちでいっぱいです。

     そして、ここから先が本編となります。これからもお読みいただけるとうれしく思います!

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