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本来の姿で立ち向かわん

「あれからもう二年かぁ。なんやかんやで、ひとりでも生きていけてるな」

 アルゴはどうしているんだろうか。俺もこの二年、何も大ごとが起こっていないとはいえ、修行を欠かしたことはねえ。

 あれ、これってあれじゃね。修行なんてほとんどしてねえだろうアルゴを、もしかすると追い抜いてたりするんじゃね!? ……。いや、無理だろうなぁ。俺の想像を超えるような体験をして成長してるに違いない。うんうん、きっとそうだ。アルゴのことだから、ここに帰ってくるときは大きな土産話とともに帰ってくるに違いない。そんで俺が驚いて、変なテンションでベラベラ聞きまくるんだ。そうしたらあいつ困ってよ、あんましゃべんなくなったりしてな。こんだけ長旅してきたのに、結局のところ中身はなんにも変わってねえじゃねえかお前! 的なノリをかますんだ。ふへへ、その日が待ち遠しくてたまらんぜ俺は。

 なぁ、アルゴよぉ。俺は全然心配なんてしてねえからな。俺は、お前がちゃんと帰ってくるんだって確信してる。だから、思う存分長旅してこいよな。俺は、お前が帰ってくる日を待ちながら修行して、何かが襲ってきたら村を、師匠の墓があるこの場所を守って……。そんな日々を生きてくぜ。よし、今日も自分のため、村のため、師匠のため、アルゴのため、修行に励みますかぁ!!


             Episode10 死闘


 ラヴィが戦闘態勢に入ったのを感じ取ったアルゴは、まだ少し動揺しているものの、同じように剣を構える。ちなみに、アルゴの構えは受けに徹する構え。相手の力が規格外だとしても基本のスタンスを崩すつもりはない。そんなアルゴに対して、ラヴィが一言つぶやく。

「ほぅ。まずは様子見ってかい。まっ、様子見でやられねえように気ぃつけろや!」

 ラヴィが攻撃を仕掛ける。いや、これは攻撃というよりも猛攻だろう。ラヴィは、初めは様子見に軽いジャブというタイプではないらしく、初めからストレート連発。しかし、その猛攻は隙があるようで隙がない。猛攻で生じる隙を、勢いが消してしまっているのだ。これではどれだけ受け流してもカウンターを狙えるなんてことはかなわないだろう。

 そんな猛攻を紙一重で受け流し続けるアルゴ。アルゴはこの時点で、ラヴィを以前のヴィレイ以上と認識した。まず、剣で攻撃を受けてはならない。そして、受け流しているというのにこの重圧。剣で受けると剣が壊れてしまうほどだ。そんな紙一重の受けを続ける。それに、ここまでの体力の消費もあり、余裕はないに等しかった。なので、戦法を変える。

「おっ! 兄ちゃん、体術もこなせるのかい」

「あぁ、剣と拳は一心同体だからな」

 そう、体術だ。アルゴとフーレンは、剣だけでなく体術も使いこなせる。剣と拳の両立。これは、師匠の武におけるテーマである。だが、主体なのは剣であることに変わりはない。体術はあくまでも距離を取ったり状況を変えたりという補助の役目。そして、この選択は正解だった。このままいけば体力が持たずに敗れていただろう。だが、受け流しに合わせ、鋭い蹴りで牽制したことにより、距離を取ることに成功した。

「どうやら、このまま終わるってのはかなわなかったらしいな。ただの甘ちゃんかと思ってたが、なかなか骨があるじゃねえか、なぁアルゴよぉ」

「あぁ。次は俺が攻める番だ」

 距離を取ることにより、受けの構えから攻めの構えへと転じることに成功したアルゴ。いつものようにひとつ呼吸を整え、ラヴィの間合いへと素早く突き進む。

 この間合いを詰める一瞬の速度こそアルゴの武器、つまり持ち味。この詰めにはラヴィも驚く。

「へっ、やるじゃねえかアルゴ。でもよぉ」

 間合いを詰め、斬撃を繰り出すアルゴ。しかし、その攻撃はとおらない。

「なっ!」

「野生の本能なめんなよ。誇り高きラビット族よりも攻勢がうまいことは認めてやる。だがよ、野生の勘ってのには人間じゃあ勝てねえよ」

 もともと持ち得る力。そして、あり余る野生の本能と勘。この三つのスキルの融合により、いち早くアルゴの剣の軌道を読み、受けるのではなく力で弾く。そうすることにより作ることができる隙。

「大丈夫、男の子なら耐えられるさ……吹っ飛べ男の子ぉぉ!!」

 強烈な一撃をアルゴにたたき込む。この一撃でアルゴは大きく吹っ飛ぶ。だが、体術を心得ているアルゴは、受け身を取ることにより大きなダメージを免れる。だが、この一撃は重たく、力の一撃だけでも多少のダメージは免れない。

「これは……相当まずいな」

 また距離ができ、遠くにいるラヴィを見て、思わずそうつぶやくアルゴ。あまり戦闘経験がないのもあるが、今のアルゴをここまで追いやることができた生物はいままでいなかった。

「受け身ときたか。こんな山なのにうめえこととるもんだ……。んぁ?」

 ラヴィはひとつ異変に気付く。誇り高きラビット族に生える誇り高き白い毛。そんな白い毛の一部が薄い紫色に染まっている。

「ちょっとダメージとおってたのか。おいおい、野生の勘ってのには人間じゃあ勝てねえよ、とかかっこつけちまったのに恥ずかしいじゃねえか。この白い毛は誇りだが、ダメージ受けるとわかりやすくて困る」

 独り言をぶつぶつつぶやくラヴィ。油断しているようにもみえるが、裏を返せばそれだけ余裕があるということだ。まだラヴィは全力を出しているようには見えない。しかし……。

「おっ! 帰ってきたなアルゴ。さぁ、まだまだ終わらねえぞ……っててめえ……」

「あぁ。悪いが軽症で済ませることができないと判断した。少し痛いかもしれないが我慢してくれ」

 ラヴィの野生の勘が働き、全身に鳥肌が立つ。アルゴの構えはまた変わっていた。だが、それはさっきまでとレベルが違う。別人のような威圧がラヴィを包む。

「てめえ……。俺相手に手を抜いてやがったな!」

 さっきまでの余裕のあったラヴィと違い、余裕なく言葉を叫ぶ。

「いや、そういうわけではない。俺はただ殺生が嫌いなんだ。だが、ここで殺されるわけにはいかない。残念な話だが、殺されないためには相手に身を削ってもらうしかない。だから、命の保証はできないと先に言っておこう。そして、これが俺の構えだ」

 そう、アルゴの普段の構えは、アルゴ本来の構えではない。これも師匠の教えなのであるが、アルゴもフーレンも、構えを三つ持つ。おなじみの受けと攻めの構え。そして、この本来の構え。師匠は殺生を好まない。だから、むやみな殺生をしないように、力をセーブできるように受けと攻めの構えを教えた。


 普通、戦いというものは全力を出し切るものといわれている。だが、師匠はそんな言葉が大嫌いだった。全力を出し切ることでどちらかが死んでしまったら、どちらかが重傷を負ってしまったら、それを『試合』という言葉で償うことができるのか。それは『試合』という言葉で正当化できてしまうのか。

 師匠はそうは思わなかった。相手からすれば情けをかけられているような屈辱を受けるかもしれない。だが、情けをかけられた相手には未来がある。未来で再戦する意欲も時間も手にすることができる。しかし、重傷を負ってしまったり死んでしまったりすれば、相手に未来はない。相手が満足できればいいじゃないかという言葉もあるが、師匠はその言葉も嫌いだ。だって、それで満足できる『武』なんて現実はないのだから。全力を出し切れば死しても満足。それはしょせん、斬った側の逃げ場所でしかないのだから。

 だから、師匠は二人に攻めと受け、二つの構えを教えた。そして、普段は受けと攻めの構えで戦うようにとも。しかし、それでは敵わない何かが現れた時は『本来の構えを使うか使わないかは二人が決めなさい。本来の構えは二人独自の構えです。それは、未来を切り開く構え、それと同時に未来を閉ざす構えでもあります。それをよく考えたうえで決めなさい』師匠はこう教えた。だからこそ、二人は本来の構えを使うことはなかった。

 当然、使わないといっても修行の時は惜しまなく使う。だから寂びれるといったことはない。だが、実戦でこの構えを取るのは、生まれて初めてのことだった。


「……。いくぞ」

 アルゴが間合いを詰める。しかし、それは攻めの構えの比ではない詰め。別に速度が上がったわけではない。だが、明らかに間の詰め方のクオリティというものが違っていた。

「ちっ!」

 アルゴが攻勢にうつる。それと同時に、ラヴィも反撃しようと試みるが、それは失敗に終わる。

「ぐぬぅぅ」

 その攻撃はラヴィの弾きよりも鋭く、ラヴィの手が薄い紫色に染まる。これにより、ラヴィの野生の本能は受けに徹することを選ぶ。多少の傷を負っても受けに徹すれば流せないことはない。その鋭い爪で斬撃を防御する。

 だが、アルゴの斬撃はさらに威力を増す。次第に防御も追いつかなくなってきた。

(仕方ねえ……。あれやるか)

 心の中でそうつぶやいたラヴィが、斬撃を流しながら少しずつ息を取り込む。そして……。

「シャアアアァァァァァァァァァ!!!!」

 山が揺らぐような大声を上げる。これにはアルゴも一瞬動きが止まる。それをラヴィは逃さない。

「おめえほどの人間は初めてだ。俺もこんな卑怯な手は使いたくなかったが、許してくれや!!」

 さっきとは違い、仕留めるつもりでアルゴを狙うラヴィ。

「なっ、なにぃ!」

 だが、そんなラヴィの一撃をアルゴが弾く。だが、隙とは言わないが、動きが止まっていた以上、意図的に弾いたとは考えにくい。

「さっき、野生の勘は人間には勝てないといったな。きっとそうなのかもしれん。いや、そうだろう。しかし、今回に限っては、人間の勘が野生の勘を上回った」

 そう言いながら、アルゴはラヴィを素早く斬った。それも、今回は峰打ちではない。ラヴィを相手に峰打ちでは攻撃がとおらないとの判断からだ。

 何かを対象にした初めての大きな斬撃の一撃。アルゴは初めて生物を斬るという感覚を覚えた。そして、それはとても胸が締め付けられる感覚なのだということを知った。

 それと同時に、大きな音を立ててラヴィが倒れる。勝負ありといったところであろう。それを見たアルゴは、ようやく戦いが終わったという実感を感じ、よろよろと膝をついた。ここまでの体力消費、そしてラヴィとの戦いで、アルゴの体力も限界なのだ。

「大丈夫かいあんた!!」

 しかし、そんなアルゴにもまだ休息は許してくれないらしい。なんと、ラビット族の群れがアルゴとラヴィの周りを囲んだのだ。きっと、ラヴィの咆哮に誘われてきたのであろう。アルゴはこの日、生物を斬るという感覚を覚えた。そして、死が近づく感覚も覚えてしまった。

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