Vol. 7
一方,生徒会室では居残り組の3人が話を交わしていた。室内には教室にあるような机と椅子が数多く置かれ,きちんと整列されている。部屋の南側にある出入口用ドアからすぐ近くに青田,青田から見てその右隣に長田,さらにその前に春川が立っているといった配置だ。
「ここで朝までいれば人が来て助かるかも……」
長田はその言葉を一言で言い切ると,春川の方へ数歩歩いた。
「今何時?」
春川が訊ねる。青田は制服のズボンの脇ポケットから携帯を取り出し,背面ディスプレイに目を落とした。
「……あれ?」
「どうしたの?」
青田が疑問の表情を示したのを長田は見逃さなかった。
「帰ろうとしたのって何時頃でしたっけ?」
青田は携帯をしまい,長田と春川の真後ろの黒板の上にある掛け時計を見ながら言った。2人が振り返り時計へと目を向ける。
「あっ……」
時計の針は7時半を差していた。鍵を探そうとしてから十分時間が経過したはずなのに。時計という時計全てが完全に機能を失っていた。
「何かホラー映画みたいですね……」
青田がさり気無くおどけてみせる。しばらくの間室内に沈黙が流れた。
「……そうそう,これ見て下さい」
気まずい空気を打ち破ったのは,青田本人だった。青田はふと思い出し,藤本から預かった日記を2人に披露した。無言で日記を読み進める2人。
「……どう思います?」
「……どうって……。何でこんなのが……」
長田は半ば放心状態と化している。
「……これって,あの赤い浴衣の娘の日記……かな?」
「俺もそう思ったんです……。それに気付いて藤本先輩が俺に渡したみたいで……」
春川の予測を青田が肯定する。春川は今度は日記の最後の文
「仕返し1人目」
に着目する。
「『仕返し1人』って……?」
「粟田君だよ!!だって悲鳴聞こえた時粟田君だけいなかったもん!」
長田が即答した。しかし青田は首をかしげる。
「俺が図書館で見た時は書いてありませんでした……」
「さっき更新されたんだよ!きっと……」
「鏡!!鏡探してるんだから鏡見つければ帰れるんじゃない?!」
日記を読み返していた春川がひらめいた。
「でも10歳っていったら小学生じゃん!!そんなのここにある訳無いよ!!」
長田が懸命に否定する。
「あるからここにいるんじゃないの?」
それに対し春川は冷静に反論した。
「あ,あの鏡……」
「えッ?!」
ふと思い出した青田の記憶に2人が食い付いた。
「古い手鏡を乙原先生が放送室に持って来てました!……地学部がどうのこうのとか……」
「ひでのり!!!」
2人は顔を見合わせ,落胆した。
「じゃ,放送室!放送室行こ!」
長田を先頭に,3人は生徒会室を後とした。
その瞬間,長田の携帯の着信音が鳴った。
携帯を開いてみる。
ディスプレイにはあの少女の画像が表示されていた。長田は驚きのあまり携帯を落としてしまった。その表情が強張っている。その瞬間,恐怖心に追い打ちを掛けるように階段の上の方から誰かの足音が聞こえてきた。見上げると,そこにはあの少女の姿。しかも階段を1段1段ゆっくりと降りて来る。