Vol. 5
4人は最終的に図書館へと避難した。図書館の鍵はなぜか施錠されていなかった。電気も点いている。藤本,長田,春川はドアを入ってすぐの背もたれの無い小さな正方形のソファーの4脚集まった所へと突っ込み,小池は入ってすぐ左側のカウンターの机に寄り掛かった。長田が藤本に言う。
「何なの?あれ……」
「俺が知るかよ……」
「……同じだ……」
「何が?」
春川の突然の告白に,藤本は反応した。
「今日ながたんと話してた話と……」
「どんな話なんですか?」
小池も耳を傾ける。
「夏の11日に学校に“出る”って話……」
話の言い出しっぺである長田は,背筋を凍らせている。
「黒い布で身を隠した,刀を持った幽霊が……」
「そっちも何か見たんですか?」
春川の力に乏しい声,図書館の重苦しい雰囲気を,聞き覚えのある少年の声が遮った。
「誰?!」
小池が機敏に反応する。
「俺です,俺」
声の主は青田だった。4人の許へと歩く青田。
「あおちー!もぅ,どこ行ってたのよ?!」
長田が嘆く。
「すいません。逃げてて……,隠れる為にここにいたんです……。佑介先輩もいますよ」
「光喜ぃ〜」
粟田が今にも泣き出しそうな声で近付いて来る。青田はこれまでの経緯を低く小さな声で藤本達に話している。
「で,その赤い浴衣の娘の話は?」
長田は粟田を無視し,青田の体験談を聴いている。
「職員室で背筋に寒気と視線を感じて振り向いたら……,腕を捕まれて……」
そう言って,青田は隠していた左腕を前に出した。そこには手の形をした青あざのようなものができていた。絶句する藤本達。
「……それで逃げて来たんです」
「佑介は?」
藤本は話題を切り返す。
「¥Å∞※?@〜☆♪ヶ*%……」
粟田は動転している。5人は粟田を放置した。
「もう帰りたいよ……」
長田が嘆く。と,そこで藤本は気が付いた。ソファーから立ち上がり,歩いて行く。その先にはあの本があった。改めてその本のページを繰っていく。どうやらこれは日記のようだ。それにはこう書かれている。
昭和61年9月11日
私は10才になった。今日から日記をつけようと思う。
その日以降,日記には毎日の事が丁寧につづられていた。しかし,ある日を境にその内容に変化が現れ始める。どうやらこの少女はいじめに遭っていたようだ。そして,その翌年の11日――。お気に入りの手鏡を隠された彼女は行き場を失い,ついにその手で自らの短い生涯を閉じてしまう……。
「何でこんなのがここにあるんだよ……」
しかも,この日記には彼女が自殺した事までもが克明に記されている。そして藤本はそのページを試しにめくり,さらに青ざめた。そこにはその後の出来事が年ごとに延々と追加されていたのだ。年こそ異なるものの,同じ日付,それも昭和の年号で。彼女は20年近くの歳月が経過した今も尚,あの日が来ると手鏡を探しにやって来る。今日の事も既に追加されていた。
鏡が近くにあると思うんだけど、まだ見つからないの……。知らない人が6人。いじめに来たの……?
「これ読んでみ」
藤本はこの日記を青田に手渡した。
「これって!!」