Vol. 4
「えぇ〜?」
「鍵も判んないしねぇ〜」
長田と春川が不平を言う。
「入ってみますか?」
「うん……」
気の無い返事をする2人。3人は長田を先頭に職員室へと入って行った。長田の指示の下,1人1人が分かれて鍵を探して行く。しかし,どこを探しても鍵は見つからなかった。
「事務室とかは?」
3人が再びドアの前へと集結しながら長田が言った。
「誰かいますかねぇ」
小池。
「とりあえず行ってみよっか。咲ちゃんはバカ共を連れて来て。すぐ上にいると思うから」
春川はそのような台詞をぬけぬけと言う。これが彼女の本性なのだろうか?
「わかりましたぁ」
そう言う小池の顔には笑みがあった。
小池が西階段を1階分上り切った時,その階で青田を捜索していた藤本と,バッタリ遭遇してしまった。
「わぁッ!!」
「どしたの?」
「もう,びっくりさせないで下さいよ……」
「佑介知らない?」
「え?見てませんよ?」
「実は佑介とはぐれちゃってさ……」
「どうするんですか?」
「うん……。まぁ帰ったとは思えないしねぇ〜」
自分の仲間がはぐれてしまったというのに,藤本の表情はいつもとあまり変わらない。ペースは緩やかだった。3階での“粟田捜し”に小池も加わる。
藤本とはぐれてしまった粟田。彼は4階の西側にいた。
「光喜どこ行っちゃったんだよぉ〜……」
そう言うなり,粟田は猪のように一目散に走り出した。
西側から東側へ。
廊下の突き当たりにぶつかり,Uターンしたかと思うと,今度は90度右に折れ,さらにその先の突き当たりにぶつかった。粟田の勢力はそこで尽きた。正面の壁に右手を当て,荒れた呼吸を整える。すると,そこへ背後から鈴の音が。しかもその陰には赤い浴衣を着た少女が立っている。全てが恐ろしくなってしまった粟田は完全に挙動不審状態と化し,体を丸ごと後ろへと向ける。しかし,そこには誰もいない。
――幻聴か――
溜息を吐き,再び体を前へと向けた。その時,
「うわあぁあぁああ!!」
粟田の目の前には,その赤い浴衣を着た少女本人が立っていた。粟田の悲鳴は校舎中に響き渡った。
小池と別れて行動していた長田と春川は,それを事務室の前で耳にした。余談だが,事務室は去年9月に長田が西崎勝によって監禁されていた部屋でもあり,長田にとっては思い出の部屋である。
「何?今の」
長田が思わず発する。恐怖はみるみる増幅し,2人はパニック状態となってしまった。
「早く帰ろうよ!」
「でも鍵無いと……」
「どうする?ここも誰もいないし……。私達も上行く?」
「うん……」
春川の同意のもと,2人は小池の向かった西階段へと廊下を歩く。すると,その目の前で一瞬人影が通り抜けた。
「あ,バカ一匹発見!」
「何してんだろぉ〜」
そう言うが早いか,春川は人影の通り抜けた辺りへと早足で向かって行った。
しかし,そこにいたのは先を行った男子では決してなく,身体を黒い布で覆われた,謎の男(?)だったのだ。
2人の気配に気付いたのか,男は顔をゆっくりと2人の方へと向け,立ち上がる。
布の達していない顔には包帯が一面にぐるぐると巻かれており,人相や表情をうかがい知る事はできない。
凍り付く2人。
しかも男の右手には刀が。
その手にも包帯が巻かれている。
身長はそれ程高くない。
男が2人との距離を一気に詰め,刀を大きく振りかぶる。
そこで2人は我に返った。
反射的に身体を翻し,彼の手から逃れようとする。
しかし,身体が思うように動かない。必死で逃げる2人。追う男。無我夢中だった。スローモーションで展開される世界の中を,長田と春川が悲鳴を上げながら全速力で駆け抜ける。そしていつの間にか辿り着いていた東階段で藤本と小池と鉢合わせ,さらに事態は大混乱。4人はとにかく校舎内を爆走し,男を振り切って行った。