Vol. 2
「………」
藤本はその内容に全神経を集中させていた。そしてそれが徐々に核心へと迫っていく。次の1枚をめくると心臓部だろう。そう思いながら核心のページを開く……。その瞬間だった。左肩を柔らかく叩くものがある。藤本の前かがみになっていた上体が反射的に跳び上がった。上体をひねらせるようにして振り返る。
「行きますよ」
視線の先には小池の姿があった。藤本は胸を撫で下ろし,2人は図書館を後とした。そこに1冊の古びた本を残して……。
15時。進路資料を両手に携えながら校舎2階を歩く1人の男子生徒がいた。ラバーの黄色い上履きを履いた1年生。青田公彦。高校生にしては小柄な体格,あどけない顔。一見して中学生を思わせる。放送室へと差し掛かった時,青田はその足を止めた。
「あ,乙原先生」
放送室には乙原と勉強道具を散乱させたまますやすやと眠っている長田と春川がいた。
「どうしたんですか?」
青田が室内に入り,乙原に訊ねる。青田も放送部の一員だ。
「うん,ちょっとねぇ〜。これ地学部の忘れ物らしいんだ。地学室開いてないからしばらくここに置いておくね」
乙原独特のねっとりとした喋り。出身が栃木県だからだろうか?青田は放送室の前方右隅の机に置かれている赤い年季の入った柄付きの鏡にさっと目を通すと,曖昧な返事をし,放送室を去って行った。
19時半。夏とはいえ,辺りはもう暗くなってきている。その後も放送室で眠りふけっていた2人はさすがに目を覚まし,帰宅しようと昇降口までやって来た。長田はA組,春川はH組。互いの下駄箱の間隔がかなり離れている。
「結花,もう真っ暗じゃない?」
「ねぇ〜。早く帰ろ〜」
靴を履き,春川がドアノブを押す。しかしドアはびくとしかしない。引いてもみたが,駄目だった。焦った春川は何度もドアを開けようとする。しかし鍵が掛かっているらしく,ドアは一向に開く気配を見せなかった。
「あれ?開かない……」
「えぇ〜?」
そこへやって来た長田。他の扉にもやはり鍵が掛かっていた。春川が開けようとしたドアは他のものと違い,大抵は開くようになっている。いざという時の頼みの綱なのだ。他の扉は押す所が平べったくなっているが,このドアだけはなぜかノブ型。しかも少し小さ目だ。
「鍵取りに行くの面倒臭くない?」
長田が脱力気味に言う。
「うん……」
「事務室の所は?」
「開いてない開いてない」
「どうしよう……」
困り果てる2人。そこへ青田が通り掛かった。
「あ,先輩達どうしたんですか?」
「あおちー!鍵が閉まっちゃったみたいなんだけど,職員室まで鍵取りに行ってくれる?」
渡りに船。春川は青田に懇願した。
「え?俺がですか?」
「早く行くッ!!」
痺れを切らした長田が怒鳴る。青田は長田に追い出されるようにして職員室へと駆け出して行った。
青田が職員室に着いた時,室内には誰一人として人影は見当たらなかった。しかしなぜか電気だけはついている。