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輝いた季節へ  作者:
8/8

カレーは飲み物

こんな味のしない給食。

これがずっと続くかと思うとぞっとする。


班で向かい合わせにくっ付けた机。

さっきまで、それぞれのナフキンの色でカラフルだった机も、

私の赤色を除いて、茶色の木目に戻っている。


班長杉原の方針に従い、まるで飲み物のように、ほとんど噛まずにカレーを飲み込み、パンを口にいっぱい詰め込むと、牛乳のストローをくわえた。

これで食器の中身は空っぽになった。

牛乳パックが空になったら終わりだ。


メンバーはとっくに食器を片付けていて、私の終わるのを腰を浮かせて待っている。

私が片付け終わらないと、机を元に戻せないし、外に行く事もできない。

間の悪いことに、降り続いている雨も昼休みに一旦止んでしまった。

杉原の言うとおり10分以内に食べ終わらないと何を言われるか分からない。

彼らの視線が突き刺さる。

すぐに席を立って、食器を配膳台に返した。


ここから先は集中力が大事である。


いくらあだ名を連発されてからかわれても、動じてはいけないし、

それ以前に、会話に参加してもならない。

私が口を開けば、中身が出てきて大惨事になる。


元々、人より食べるのが遅いのに、ここまでよくやったと自分をほめてやりたい。


すると私の後ろからマイキの歌声が聞こえてきた。


「さらばー畑よ~ 旅立ーつ船は~」


ウンウン、ヤマトの歌だよな?


「~ 野菜戦艦トマトーー」


…へぇ、そう来るか。後で歌詞教えてもらお。


品子も歌いだした。

隣の班は食事中に替え歌大会らしい。


「あるーひんけつ~ 森のなかんちょー

熊さんにんにく~ 出会ーったんこぶ」


これは教えてもらったから知ってる。

花咲く森の道の先に、とんでもないものが待ってるんだ。


「赤い靴~履ーいて…」

別の班から飛び入り参加してきたモンキーの見事なビブラートに思わず振り返った。


「…たら、脱げた~死んだ~痛い~」


…がくっ。

死んだ後に痛いっていう辺りが、ほんとは死んでないよねっていうツッコミはおいといて。


何とか口を開けずに我慢して、前を向く。

すると、杉原が私の顔を見て嬉しそうに歌いだした。


「チャラリ~ 鼻から牛乳ー!!」


あわてて鼻の下を拭ったハンカチは、少しだけ白く汚れていた。


また悪い意味でクラス全員から笑われながら、何とか全部飲み込み、牛乳パックを畳んでゴミ箱に入れる。


「ほら、早く行くぞ!!」

「え、私も行くの!?」


杉原に言われて、私たちの班は校庭に出た。


また降りだしそうな真っ黒な雲の間からわずかに青空が見える。


でも朝礼台には赤い旗が立っている。

グラウンドは水が溜まっていて、降りてはいけないのだ。


私たちは石畳の端に5人で座って、

隣の木から葉っぱをちぎって、三角に畳んでいた。


笹のような細長い葉っぱを、いかに形を整えて正三角形に近づけるかを競ってみた。

わざわざ外でやることでもない、地味な作業である。


いつもなら、女子同士でしゃべったりオルガンやったりするはずだったんだけど…。

しかし、外の風は思いの外気持ち良かった。


さっきまで、杉原のせいで先生に怒られた事で心底腹が立っていたが、そんな事も忘れて葉っぱを折るのに夢中になった。


考えてみたら、こういう時以外に男子と普通に遊ぶ事はなかった。

杉原なんて家も近いのに、行った事がない。


男子と放課後に遊んだりしたら最後、変な噂を流されてしまう。


いつも、女の子たちと一緒に遊んでいた。


すごくすごく楽しい。

うちでは買ってもらえないテレビゲームをさせてもらえるのも貴重だし、一輪車やピアノを教えてもらえる。


全く不満はないのだが、男子とは距離を置かなきゃいけなくなっていくのは違和感があった。


低学年の時は普通に一緒に遊べたのにね。


…まあ、こんなうるさくて女子をからかう連中と、放課後まで一緒にはいたくない。


だけど…、今、杉原たちと一緒にいる時間は平和で…、悪くなかった。


校庭裏の線路を走る電車が、カタンカタンと心地よい音を立てていた。


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