ランドセルとスカートめくり
朝起きると、すでに雨が降っていた。
学校に着いた頃には、私の服はしっかりと濡れていた。
傘をさすにもランドセルをかばおうとするので、前が濡れるのだ。
だから以前1度だけ、雨に濡れないようランドセルにカバーを着けた事もあるんだけど、1年生かって思いきり笑われた。男子だけじゃなくて女子からも。
しかしあのカバー…何で黄色しかないんだろう。
雨の日に目立つようになんだろうけど、ちゃんと車に気をつけて登下校できる歳になったんだから、そんなに目立たなくて良い。
ただ純粋に雨から守るためだけの地味なカバーがあれば笑われないのにな。
私はランドセルを人一倍大切にしていた。
親がずば抜けて一番安いのを買っていたのを覚えているが、みんなのより型が崩れやすく、大切にしなきゃいけなかった。
それに、型が崩れるとランドセルの横側の、フタとの間にある隙間が大きくなる。
そこに雨が降りこむので、教科書やノートも濡れる。
自分が濡れてもランドセルをかばうのは、そういうわけだった。
タオルで体をふきながら、教室へ向かう廊下を歩く。
「よう、ゴトウンコ」
後ろから杉原が来て、私を抜かしていった。
そして私より5mくらい前に行ったところで振り返って、後ろ向きに歩きだした。
「お前また濡れてるやん。傘さすの下手やな〜」
「ん…」
私はうわの空だった。反発する気力もない。
それは体をふくのに必死になってるから…いや、それだけじゃない。昨日の席替えのせいだ。
あれはもうひどかった。ただの悪い夢だったと思いたい。
でも教室に入れば、それは現実となる。
それも冬休みになるまで続いていく長い悪夢の世界。
男子ばかりの班になって、しかも周りには[うるさいファイブ]のフルメンバー。
班がうるさくなるのは当たり前で、それを静める事なんてできるわけがない。その責任だけは負いたくなかった。
昨日、席替えの後で班長を決めるジャンケンをした。
結局、私は班長にはならなかった。
だがホッとしたのはつかの間。
今思えば、いっそのこと、私が班長になっておけば良かったとさえ思う。
私は、副班長になってしまった。しかも班長は杉原。
だから杉原にリーダー権があるわけで。
しかし[うるさいファイブ]の彼が班の授業態度を注意してくれるわけでもない。ますます手に負えなくなるだけなのだ。
そしてそのツケが回るのは、副班長の私というわけだ。
うんざりしながら、自分の席に着く。
「あ、ゴトウンコだ」
「おっすゴトウンコ」
「ゴトウンコずぶぬれや、かっこわるー」
いきなりフルメンバー達の攻撃を次々に受ける。
「…うるさいなー」
言い返したものの、かっこ悪いと言われただけに、さらに体をふくのに集中した、その時。
「ひゃっ!!」
タオルを持つ手の動きが止まった。
「パンツも少しぬれてるで」
不敵な笑みを浮かべて、そいつが言った。
ヒョーゴだ。
彼も[うるさいファイブ]の一人だが、クラスで一番小さくてかわいい顔してるくせに、クラスでたった一人スカートめくりを習慣としている大胆なヤツだ。
掃除のために机を全部後ろに下げている時間は、特に要注意。
広くなった空間をかけ回って、女子たちのスカートを次々とめくる。
しかしこう席が近いと、掃除の時間じゃなくてもねらわれやすいわけだ。
「おもらしやー」
「「おもらしおもらし〜」」
やっぱりメンバー達の格好のネタにされてしまい、1時間目が始まるまで、おもらしコールが続いた。